1 / 100
これまでの私
しおりを挟む
「お姉ちゃん、それ頂戴」
二つ下の妹の常套句。この魔法の言葉で彼女は私からあらゆるものを奪ってきた。
それでも小さな頃は良かった。お気に入りの玩具や洋服を強請られるのは、やはり悲しかったが、言ってしまえば替えはきく。大事にしていた友達のウサギのぬいぐるみやお洒落用の洋服も既製品。
その為、両親は『お姉ちゃんなんだから』、『また買ってあげるから』と私のお気に入りを妹に譲るように諭す。
妹は外見は美人な母に似てとても綺麗で美少女だ。くりくりの大きな瞳に小振りな顔、愛くるしい表情と誰からも大切に愛され甘やかされた。その筆頭が両親なのが笑える。
対して私はどちらかというと父に似ている。外見は平均的だったが、官僚をしている父の要素を受け継いだのか、なかなかに学校での成績は優秀だった。
中学に上がる頃には、物ではなく人になっていった。中学で出来た友達も妹が入学してくると私の醜聞も吹き込み、少しでも私が親しくする同級生などをいつの間にか把握し、どうやったのか定かではないが、ある日同級生は蔑んだ瞳を向けるようになった。
更には異性関係でも妹は手を出してきた。恋人として紹介した途端に『頂戴』という常套句を放ち、数日後には恋人は元恋人になった。
徹底的に私からあらゆるものを奪う妹はその反面飽きやすい。私から奪ったウサギのぬいぐるみは無惨にも引き千切られて返ってきたり、洋服もどこで汚したのかどうやっても落ちない汚れにまみれて返ってきた。
そんなある日、私が中学三年、妹が一年の時に可愛がってくれていた祖母が亡くなった。私は祖母が大好きだった。
両親から与えられなかった愛情を祖母は与えてくれた。そんな祖母が亡くなり、私は周りを気にする事なく泣いた。
泣いて泣いて、涸れ果てるまで泣いた。そんな大切な祖母の遺品として生前祖母が大切にしていた簪を貰った。
なんの変哲もない赤い蜻蛉玉が着いたシンプルな簪。そんな簪を祖母はよく着けていた。数年前に亡くなった最愛だった祖父から貰ったプレゼントだったそうだ。
赤い蜻蛉玉の簪を大切に保管していたが、ある日保管していた所から無くなった。直ぐに妹だと察し、詰問すると素直に認め返してくれた。
無惨にも蜻蛉玉は真っ二つになった状態だった。
替えのきかない大切な祖母の簪。この時、私は人生で初めてキレた。今まではどんなに抗っても両親に周りに妹に譲るように我慢するように強要された。それでも今までは唯々諾々と従い、諦めていた。
だが、これは、これだけは駄目だ。大切な祖母の大切な簪、もう何処にも祖母はいない。そんな彼女の生きた証をこんな状態で妹は『壊れちゃったから返すね』と言ってへらっと笑った。
赦せる筈がない。これまでだって散々奪ってきて、唯一奪われてたまるかと思ったものさえ、尚も私の大切なものを奪った妹が憎くて、悲しくて、どうしようもない、やり場のない憎しみからーーー
ーーーーー妹を殴った。
殴られた妹は初めての衝撃に泣きわめいた。大騒ぎした妹の声に両親は驚いて駆け付け、妹に対して暴力を振るった私を今度は父が殴り飛ばした。
女の力で殴られた妹よりも男である父に殴られた私の方が重傷で殴られた勢いで壁に叩き付けられた。それでも両親は泣きわめく妹を心配し、私の事は放置された。
この瞬間、私の両親に対する敬意や元々薄かった愛情は霧散し、もう何かを期待する事をやめた。
高校に上がってからはアルバイトを始め、細やかな給料を貯金し、趣味の香水を少しづつ集めるのを楽しみしていた。
キラキラと綺麗な光を発する香水の瓶と可愛らしい容器が好きで収集する。それをまた妹は、無断で持っていく。
もう両親と妹に対しては無関心を貫き、三年間を過ごした。高校を卒業すると大学に進学する為、アルバイトをして貯めていたお金を使って独り暮しを始めた。
家を出る日、必要最低限の荷物を持った私に両親は仕送りをしたいので住所を教えるように言ってきたが、仕送りも住所を教える事すら拒否して、長く住んだ家を出た。
大学は今まで住んでいた県の隣の県にある国立大へと進学。授業と生活費を稼ぐ為のアルバイトに忙しい毎日を過ごしていたが、両親と妹に煩わされる事がなくなり、私は充実していた。
ある日、長引いた授業のせいでアルバイトに遅れそうになった。急いでアルバイト先へと走っている時に妹と出会ってしまった。
妹はたまたま遊びに隣の県へと来ていたようで、『大学はこの近くなの?』『どこに住んでるの?』と質問攻めを始めた。妹に取り合っている時間などなかった私は『今、急いでるの』と答え、その場を後にしようとしたが、妹は自分がぞんざいな扱いをされるのに慣れていないのか激昂し、私の腕を掴んだ。
激しく抵抗し、離すように言うが妹は意地になって放そうとしない。
「放して!」
「答えてくれるまで放さないから!」
押し問答していたが、非力な女性の力がいつまでも持つわけもなく、妹の力が緩んだ。これ幸いと振り払った瞬間、ーーーー
ーーーー信号無視してきたトラックによって牽かれた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※暗い話から始まるなぁ~、いや、自分で書いたんだけどね!
二つ下の妹の常套句。この魔法の言葉で彼女は私からあらゆるものを奪ってきた。
それでも小さな頃は良かった。お気に入りの玩具や洋服を強請られるのは、やはり悲しかったが、言ってしまえば替えはきく。大事にしていた友達のウサギのぬいぐるみやお洒落用の洋服も既製品。
その為、両親は『お姉ちゃんなんだから』、『また買ってあげるから』と私のお気に入りを妹に譲るように諭す。
妹は外見は美人な母に似てとても綺麗で美少女だ。くりくりの大きな瞳に小振りな顔、愛くるしい表情と誰からも大切に愛され甘やかされた。その筆頭が両親なのが笑える。
対して私はどちらかというと父に似ている。外見は平均的だったが、官僚をしている父の要素を受け継いだのか、なかなかに学校での成績は優秀だった。
中学に上がる頃には、物ではなく人になっていった。中学で出来た友達も妹が入学してくると私の醜聞も吹き込み、少しでも私が親しくする同級生などをいつの間にか把握し、どうやったのか定かではないが、ある日同級生は蔑んだ瞳を向けるようになった。
更には異性関係でも妹は手を出してきた。恋人として紹介した途端に『頂戴』という常套句を放ち、数日後には恋人は元恋人になった。
徹底的に私からあらゆるものを奪う妹はその反面飽きやすい。私から奪ったウサギのぬいぐるみは無惨にも引き千切られて返ってきたり、洋服もどこで汚したのかどうやっても落ちない汚れにまみれて返ってきた。
そんなある日、私が中学三年、妹が一年の時に可愛がってくれていた祖母が亡くなった。私は祖母が大好きだった。
両親から与えられなかった愛情を祖母は与えてくれた。そんな祖母が亡くなり、私は周りを気にする事なく泣いた。
泣いて泣いて、涸れ果てるまで泣いた。そんな大切な祖母の遺品として生前祖母が大切にしていた簪を貰った。
なんの変哲もない赤い蜻蛉玉が着いたシンプルな簪。そんな簪を祖母はよく着けていた。数年前に亡くなった最愛だった祖父から貰ったプレゼントだったそうだ。
赤い蜻蛉玉の簪を大切に保管していたが、ある日保管していた所から無くなった。直ぐに妹だと察し、詰問すると素直に認め返してくれた。
無惨にも蜻蛉玉は真っ二つになった状態だった。
替えのきかない大切な祖母の簪。この時、私は人生で初めてキレた。今まではどんなに抗っても両親に周りに妹に譲るように我慢するように強要された。それでも今までは唯々諾々と従い、諦めていた。
だが、これは、これだけは駄目だ。大切な祖母の大切な簪、もう何処にも祖母はいない。そんな彼女の生きた証をこんな状態で妹は『壊れちゃったから返すね』と言ってへらっと笑った。
赦せる筈がない。これまでだって散々奪ってきて、唯一奪われてたまるかと思ったものさえ、尚も私の大切なものを奪った妹が憎くて、悲しくて、どうしようもない、やり場のない憎しみからーーー
ーーーーー妹を殴った。
殴られた妹は初めての衝撃に泣きわめいた。大騒ぎした妹の声に両親は驚いて駆け付け、妹に対して暴力を振るった私を今度は父が殴り飛ばした。
女の力で殴られた妹よりも男である父に殴られた私の方が重傷で殴られた勢いで壁に叩き付けられた。それでも両親は泣きわめく妹を心配し、私の事は放置された。
この瞬間、私の両親に対する敬意や元々薄かった愛情は霧散し、もう何かを期待する事をやめた。
高校に上がってからはアルバイトを始め、細やかな給料を貯金し、趣味の香水を少しづつ集めるのを楽しみしていた。
キラキラと綺麗な光を発する香水の瓶と可愛らしい容器が好きで収集する。それをまた妹は、無断で持っていく。
もう両親と妹に対しては無関心を貫き、三年間を過ごした。高校を卒業すると大学に進学する為、アルバイトをして貯めていたお金を使って独り暮しを始めた。
家を出る日、必要最低限の荷物を持った私に両親は仕送りをしたいので住所を教えるように言ってきたが、仕送りも住所を教える事すら拒否して、長く住んだ家を出た。
大学は今まで住んでいた県の隣の県にある国立大へと進学。授業と生活費を稼ぐ為のアルバイトに忙しい毎日を過ごしていたが、両親と妹に煩わされる事がなくなり、私は充実していた。
ある日、長引いた授業のせいでアルバイトに遅れそうになった。急いでアルバイト先へと走っている時に妹と出会ってしまった。
妹はたまたま遊びに隣の県へと来ていたようで、『大学はこの近くなの?』『どこに住んでるの?』と質問攻めを始めた。妹に取り合っている時間などなかった私は『今、急いでるの』と答え、その場を後にしようとしたが、妹は自分がぞんざいな扱いをされるのに慣れていないのか激昂し、私の腕を掴んだ。
激しく抵抗し、離すように言うが妹は意地になって放そうとしない。
「放して!」
「答えてくれるまで放さないから!」
押し問答していたが、非力な女性の力がいつまでも持つわけもなく、妹の力が緩んだ。これ幸いと振り払った瞬間、ーーーー
ーーーー信号無視してきたトラックによって牽かれた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※暗い話から始まるなぁ~、いや、自分で書いたんだけどね!
90
お気に入りに追加
532
あなたにおすすめの小説

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

離婚したので冒険者に復帰しようと思います。
黒蜜きな粉
ファンタジー
元冒険者のアラサー女のライラが、離婚をして冒険者に復帰する話。
ライラはかつてはそれなりに高い評価を受けていた冒険者。
というのも、この世界ではレアな能力である精霊術を扱える精霊術師なのだ。
そんなものだから復職なんて余裕だと自信満々に思っていたら、休職期間が長すぎて冒険者登録試験を受けなおし。
周囲から過去の人、BBA扱いの前途多難なライラの新生活が始まる。
2022/10/31
第15回ファンタジー小説大賞、奨励賞をいただきました。
応援ありがとうございました!

迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜
青空ばらみ
ファンタジー
一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。
小説家になろう様でも投稿をしております。

モブっと異世界転生
月夜の庭
ファンタジー
会社の経理課に所属する地味系OL鳳来寺 桜姫(ほうらいじ さくらこ)は、ゲーム片手に宅飲みしながら、家猫のカメリア(黒猫)と戯れることが生き甲斐だった。
ところが台風の夜に強風に飛ばされたプレハブが窓に直撃してカメリアを庇いながら息を引き取った………筈だった。
目が覚めると小さな籠の中で、おそらく兄弟らしき子猫達と一緒に丸くなって寝ていました。
サクラと名付けられた私は、黒猫の獣人だと知って驚愕する。
死ぬ寸前に遊んでた乙女ゲームじゃね?!
しかもヒロイン(茶虎猫)の義理の妹…………ってモブかよ!
*誤字脱字は発見次第、修正しますので長い目でお願い致します。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

水しか操れない無能と言われて虐げられてきた令嬢に転生していたようです。ところで皆さん。人体の殆どが水分から出来ているって知ってました?
ラララキヲ
ファンタジー
わたくしは出来損ない。
誰もが5属性の魔力を持って生まれてくるこの世界で、水の魔力だけしか持っていなかった欠陥品。
それでも、そんなわたくしでも侯爵家の血と伯爵家の血を引いている『血だけは価値のある女』。
水の魔力しかないわたくしは皆から無能と呼ばれた。平民さえもわたくしの事を馬鹿にする。
そんなわたくしでも期待されている事がある。
それは『子を生むこと』。
血は良いのだから次はまともな者が生まれてくるだろう、と期待されている。わたくしにはそれしか価値がないから……
政略結婚で決められた婚約者。
そんな婚約者と親しくする御令嬢。二人が愛し合っているのならわたくしはむしろ邪魔だと思い、わたくしは父に相談した。
婚約者の為にもわたくしが身を引くべきではないかと……
しかし……──
そんなわたくしはある日突然……本当に突然、前世の記憶を思い出した。
前世の記憶、前世の知識……
わたくしの頭は霧が晴れたかのように世界が突然広がった……
水魔法しか使えない出来損ない……
でも水は使える……
水……水分……液体…………
あら? なんだかなんでもできる気がするわ……?
そしてわたくしは、前世の雑な知識でわたくしを虐げた人たちに仕返しを始める……──
【※女性蔑視な発言が多々出てきますので嫌な方は注意して下さい】
【※知識の無い者がフワッとした知識で書いてますので『これは違う!』が許せない人は読まない方が良いです】
【※ファンタジーに現実を引き合いに出してあれこれ考えてしまう人にも合わないと思います】
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるよ!
◇なろうにも上げてます。

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する
影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。
※残酷な描写は予告なく出てきます。
※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。
※106話完結。

精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた
アイイロモンペ
ファンタジー
2020.9.6.完結いたしました。
2020.9.28. 追補を入れました。
2021.4. 2. 追補を追加しました。
人が精霊と袂を分かった世界。
魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。
幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。
ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。
人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。
そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。
オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる