3 / 5
私めは皇帝の
しおりを挟む
「あの少女は…」
「は?」
その日、激務と苦手な女性陣に追い回されて疲労困憊していた我が君は城の奥まった位置に存在する洗い場で倒れられました。
我が君を皇帝だと知らずに知らせてくれた少女は洗い立ての石鹸の香りを漂わせて心配そうに介抱していました。
その場にはその少女しか居りません。おそらく少女とは彼女の事だろうと思いましたが、我が君から根掘り葉掘り聞き出し、確信に至りました。
侍従である私めは我が君を幼い頃から知っております。幼少の頃から整った容姿の我が君はたくさんの女性や少女から言い寄られ、女性と言うものに辟易しておりました。欲望に染まった濁った瞳、媚びる態度、主張する強い香水の匂い。そのどれもが我が君に嫌悪感を与え、程無く女性と言うものを拒絶しました。
そんな我が君が珍しく女性と言うには幼い少女に興味を持たれた。これは女性嫌悪を和らげる起爆剤になりはしないかと考え、次の日には少女達を我が君に謁見させました。
見事に私めの睨んだ通りにあの少女ーミル様だと分かりました。
ミル様は庶民であり、我が君が欲しても愛妾までにしかなれません。それでも我が君は彼女を手元に置く事に拘りました。我が君とミル様が恙無く過ごせるようにと不穏分子となる他の妃達を排除されるように我が君に促すと面白い程迅速に動かれ、瞬く間に全ての妃と離縁なされた。
それから直ぐに本懐を遂げられたのか仲睦まじい姿を見る事が出来るようになりました。大体がミル様の後をちょこちょこと着いていく我が君の姿です。親鳥を追う雛のようです。
たまに互いの手が触れてしまった時などは我が君が頬を染め、ミル様がそんな我が君の姿をキョトンと見ています。いつまでも初々しい恋人の様な関係に此方が癒されます。
今まで女性と関係を持とうとなされなかった我が君にはおそらく最初で最後の妻なのでしょう。愛妾にしかできないのが今の決まり事ならば、我が君とミル様の為に矮小なる私めも頑張る所存ですよ。
まずはミル様の身元をはっきりさせなくてはなりません。元々ミル様は孤児だと仰っていましたので孤児院に預けられた経緯から調べます。もし、貴族などの落胤ならばその家を調べなくてはなりません。これは皇帝に代々仕える影の一族を使います。
調べるのに多少苦労するでしょうが、我が君とミル様の為に頑張って欲しいですね。
次にミル様の身元が庶民だと証明された場合を考え、ミル様を養女にしていただける貴族を探します。
我が国には皇帝派と貴族派と中立派とに分かれています。下手な所ですと後々派閥争いが起こりますから最初から中立派を選びます。その中でも穏和な一族かつ高位の貴族をリストアップします。
私めが動いているのは気付かれていないようです。今日も我が君が真っ赤な顔を片手で覆ってミル様と手を繋いで中庭の庭園を散歩されています。仲睦まじいですね。
いつも恥じらい照れていらっしゃるのは我が君ばかりです。ミル様は我が君の事をどう思っているのでしょう。我が君からは何も聞かされていないのでもしかしたら片想いなのでしょうか。
我が君の片想いであってもミル様は我が君の事を大切に思っているのが見てとれます。公務で疲れた我が君に膝枕をされたり、執務室に籠ってばかりの我が君を部屋から連れ出したりと気遣っていらっしゃる。
「侍従長、調べて参りました」
「ご苦労様でした。これは私めからの労いです。また頼む事があるでしょうから暫く休んでいてください」
「はっ」
影が消え、影が調べた事柄を纏めた書類に目を通す。
「これは…」
影からの報告書片手に我が君に甘えるミル様とそれを愛しそうに抱き込む我が君。
我が君が権力を使ってミル様を籠に閉じ込めてしまえば、見られなかった光景です。あくまで我が君は緩い柵で囲い、いつでも逃げ出せるようにしていました。欲しくて欲しくて仕方ない彼女ですが、無理強いをして嫌われたくなかったのでしょう。
初恋を大切になさる我が君は平時の冷酷さが鳴りを潜め、ただ愛する人にベタ惚れのただの青年ですね。
「我が君の願いのためにも」
愛するミル様だけを娶って、永遠に愛し、ミル様との子をたくさん育てたい。それが我が君の願い。
私めの皇帝は我が君、お一人です。我が君の幸せは私めの幸せです。
「は?」
その日、激務と苦手な女性陣に追い回されて疲労困憊していた我が君は城の奥まった位置に存在する洗い場で倒れられました。
我が君を皇帝だと知らずに知らせてくれた少女は洗い立ての石鹸の香りを漂わせて心配そうに介抱していました。
その場にはその少女しか居りません。おそらく少女とは彼女の事だろうと思いましたが、我が君から根掘り葉掘り聞き出し、確信に至りました。
侍従である私めは我が君を幼い頃から知っております。幼少の頃から整った容姿の我が君はたくさんの女性や少女から言い寄られ、女性と言うものに辟易しておりました。欲望に染まった濁った瞳、媚びる態度、主張する強い香水の匂い。そのどれもが我が君に嫌悪感を与え、程無く女性と言うものを拒絶しました。
そんな我が君が珍しく女性と言うには幼い少女に興味を持たれた。これは女性嫌悪を和らげる起爆剤になりはしないかと考え、次の日には少女達を我が君に謁見させました。
見事に私めの睨んだ通りにあの少女ーミル様だと分かりました。
ミル様は庶民であり、我が君が欲しても愛妾までにしかなれません。それでも我が君は彼女を手元に置く事に拘りました。我が君とミル様が恙無く過ごせるようにと不穏分子となる他の妃達を排除されるように我が君に促すと面白い程迅速に動かれ、瞬く間に全ての妃と離縁なされた。
それから直ぐに本懐を遂げられたのか仲睦まじい姿を見る事が出来るようになりました。大体がミル様の後をちょこちょこと着いていく我が君の姿です。親鳥を追う雛のようです。
たまに互いの手が触れてしまった時などは我が君が頬を染め、ミル様がそんな我が君の姿をキョトンと見ています。いつまでも初々しい恋人の様な関係に此方が癒されます。
今まで女性と関係を持とうとなされなかった我が君にはおそらく最初で最後の妻なのでしょう。愛妾にしかできないのが今の決まり事ならば、我が君とミル様の為に矮小なる私めも頑張る所存ですよ。
まずはミル様の身元をはっきりさせなくてはなりません。元々ミル様は孤児だと仰っていましたので孤児院に預けられた経緯から調べます。もし、貴族などの落胤ならばその家を調べなくてはなりません。これは皇帝に代々仕える影の一族を使います。
調べるのに多少苦労するでしょうが、我が君とミル様の為に頑張って欲しいですね。
次にミル様の身元が庶民だと証明された場合を考え、ミル様を養女にしていただける貴族を探します。
我が国には皇帝派と貴族派と中立派とに分かれています。下手な所ですと後々派閥争いが起こりますから最初から中立派を選びます。その中でも穏和な一族かつ高位の貴族をリストアップします。
私めが動いているのは気付かれていないようです。今日も我が君が真っ赤な顔を片手で覆ってミル様と手を繋いで中庭の庭園を散歩されています。仲睦まじいですね。
いつも恥じらい照れていらっしゃるのは我が君ばかりです。ミル様は我が君の事をどう思っているのでしょう。我が君からは何も聞かされていないのでもしかしたら片想いなのでしょうか。
我が君の片想いであってもミル様は我が君の事を大切に思っているのが見てとれます。公務で疲れた我が君に膝枕をされたり、執務室に籠ってばかりの我が君を部屋から連れ出したりと気遣っていらっしゃる。
「侍従長、調べて参りました」
「ご苦労様でした。これは私めからの労いです。また頼む事があるでしょうから暫く休んでいてください」
「はっ」
影が消え、影が調べた事柄を纏めた書類に目を通す。
「これは…」
影からの報告書片手に我が君に甘えるミル様とそれを愛しそうに抱き込む我が君。
我が君が権力を使ってミル様を籠に閉じ込めてしまえば、見られなかった光景です。あくまで我が君は緩い柵で囲い、いつでも逃げ出せるようにしていました。欲しくて欲しくて仕方ない彼女ですが、無理強いをして嫌われたくなかったのでしょう。
初恋を大切になさる我が君は平時の冷酷さが鳴りを潜め、ただ愛する人にベタ惚れのただの青年ですね。
「我が君の願いのためにも」
愛するミル様だけを娶って、永遠に愛し、ミル様との子をたくさん育てたい。それが我が君の願い。
私めの皇帝は我が君、お一人です。我が君の幸せは私めの幸せです。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
コワモテの悪役令嬢に転生した ~ざまあ回避のため、今後は奉仕の精神で生きて参ります~
千堂みくま
恋愛
婚約を6回も断られ、侍女に八つ当たりしてからフテ寝した侯爵令嬢ルシーフェルは、不思議な夢で前世の自分が日本人だったと思い出す。ここ、ゲームの世界だ! しかもコワモテの悪役令嬢って最悪! 見た目の悪さゆえに性格が捻じ曲がったルシーはヒロインに嫌がらせをし、最後に処刑され侯爵家も没落してしまう運命で――よし、今から家族のためにいい子になろう。徳を積んで体から後光が溢れるまで、世のため人のために尽くす所存です! 目指すはざまあ回避。ヒロインと攻略対象は勝手に恋愛するがいい。私は知らん。しかしコワモテを改善しようとするうちに、現実は思わぬ方向へ進みだす。公爵家の次男と知り合いになったり、王太子にからまれたり。ルシーは果たして、平穏な学園生活を送れるのか!?――という、ほとんどギャグのお話です。
買い食いしてたら、あっというまにお兄様になりました
シンさん
恋愛
買い食いしてたら、お姫様に『お兄様』と間違われたてアクマノ城につれていかれたアリス。
その城主は男色だと噂される、ファビアン王。
これは身の危険を感じる…。
男色…。
生まれて17年…男の子に間違え続けられてるけど、私は女なのです!
男じゃないです!!
そこの所間違えないで下さい!
男の子だと間違われ続ける女の子アリスの恋愛ストーリー
平和的に婚約破棄したい悪役令嬢 vs 絶対に婚約破棄したくない攻略対象王子
深見アキ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢・シェリルに転生した主人公は平和的に婚約破棄しようと目論むものの、何故かお相手の王子はすんなり婚約破棄してくれそうになくて……?
タイトルそのままのお話。
(4/1おまけSS追加しました)
※小説家になろうにも掲載してます。
※表紙素材お借りしてます。
不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜
晴行
恋愛
乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。
見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。
これは主人公であるアリシアの物語。
わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。
窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。
「つまらないわ」
わたしはいつも不機嫌。
どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。
あーあ、もうやめた。
なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。
このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。
仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。
__それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。
頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。
の、はずだったのだけれど。
アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。
ストーリーがなかなか始まらない。
これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。
カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?
それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?
わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?
毎日つくれ? ふざけるな。
……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?
甘々でちょい変態の■許嫁■が俺を≪ダメ人間≫にする
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
高校生、セリカの家にある日突然、許嫁と名乗る少女が訪問する。
全てを失った彼女は、疲れ果てた様子で、このままにしておくと壊れてしまうんじゃないかと思えるほど儚い存在だった。
カラメル色でストレートの長い髪。
前髪は長めで少したれ目、涙袋が印象的な子だ。
どこかで美少女コンテストがあったら、ぶっちぎりで優勝できそうな整った顔。
主人公は、彼女の儚さと美しさに心を惹かれ、話を聞くことにする。
ところが、あれよあれよという具合に彼女は家に居つくことになってしまう。
心を許すのと比例して、少しずつ見えてくる彼女の変態性。
可愛いけれど変態。
変態だけど可愛い。
彼女の変態性を主人公は受け入れることが出来るのか!?
※概ね甘々なので、それなりに覚悟をして望まれてください。
時々青春、時々昼ドラ
ジョー
恋愛
恋の泥沼に溺れていく高校2年生、佐々木翔と親友の髙橋孝介と矢倉聡。
3人の視点で進んでいく、高校生ならではの青春ストーリー。。ではなく!
大人驚きの泥沼恋愛ストーリー!
【登場人物】
⚪佐々木翔
182cm.65kg
バスケットボール部
耳がでかく、猿顔
どちらかというとイジラれキャラ
⚪髙橋孝介
175cm.60kg
アーチェリー部
目鼻立ちがくっきりしていて、外人ぽい顔立ち。
俗に言うイケメン。
だが、奥手な一面がある。
⚪竹内みすず
150cm
茶道部
多少丸顔で可愛らしい
アホっぽい性格で
ボーッとしてるか、バタバタしてるか。
⚪矢倉聡
180cm.60kg
帰宅部
美容師風イケメン
竹内みすずの幼なじみ
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
悪役令嬢ってこれでよかったかしら?
砂山一座
恋愛
第二王子の婚約者、テレジアは、悪役令嬢役を任されたようだ。
場に合わせるのが得意な令嬢は、婚約者の王子に、場の流れに、ヒロインの要求に、流されまくっていく。
全11部 完結しました。
サクッと読める悪役令嬢(役)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる