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私は魔王です。浮気して勇者様を捨てた聖女はほっといて優しい勇者様と愛し合うのです。
叶う想い
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気付いたとき、私は見知らぬ場所にいました。
森の奥、静かで心地よい魔力に満ちた広場。そこには素朴でありながらも温かみのある小さな家が建っていました。
この場所は、安らぎを感じさせる何か特別な力を持っているようでした。
木々はそよ風に揺れ、そのささやきが私を歓迎してくれるかのようです。
私の心は、生まれて初めて平和を感じていました。
私は助かったのですね。
聖女の魔法が私に命中する直前、勇者様が"次元の羽"を使ったのが見えました。その瞬間、私は彼の決意と、深い愛情を感じました
そして私のステータスを確認し、心の底から彼に感謝しました。
あぁ、愛おしい。すぐにでもその胸に飛び込みたいです。
なぜなら私の称号から"魔王"が消えていたのですから。
彼はただ私を救っただけではなく、私の全てを解放したのです。
頬を伝う涙を感じると、それが地面に落ち、小さな花に水を与えるように染み込んでいきました。その一滴に、過去の苦しみと新たな始まりが含まれているようでした。
少しの間、その静けさに浸っていると、家の扉が開いて声が聞こえました。
驚いた私は思わず杖を手に取りましたが、その声は温かく、安心感を与えるものでした。
『あなたは誰ですか?ここにはどうやってこられたのですか?』
正直に言うと、誰かが隠れていると思ったのです。
だってそうでしょう?
まさかこの落ち着いた渋みのある声を私に届けているのが目の前にあるお家だとは考えないと思うのです。
「どなたでしょうか?私は勇者様にここに送っていただいたのですが」
『あぁ、彼に。そうですか。では、歓迎しますよ。もうじき日が暮れて寒くなります。さぁ、どうぞ中へ』
その言葉に導かれ、私は家の中へと足を踏み入れました。灯りが一つ一つと灯り、暖かい光が私を迎え入れてくれました。
「よろしいのですか?私は……」
『魔王……いえ、"魔王"だった方とお見受けします。それが正しいなら主は望みを叶えたのでしょう。長年大変だったと思います。お疲れさまでした。しかし、もしあなた様がお風邪など召されましてはワタシは破壊されてしまいます』
それはまずいですわ。
こんなに暖かいお家が破壊されるのはしのびないことですから、私は誘われるままに中に入りました。
私が歩くと順番に灯がつきます。
その柔らかい光に案内されて私は大きなソファーのある部屋に辿り着きました。
『どうぞ、こちらに。お疲れでしょう。まずは何かお召し上がりください。お風呂も用意いたしますよ』
まるで噂に聞く童話の主人公にでもなった気分です。
こんなおとぎ話のようなお家が実在しているなんて、恥ずかしながら知りませんでした。
「勇者様は……?」
『あの方はじきにやってくるでしょう。あなた様がここにいらっしゃるということは彼は"魔王"を倒したことになっているでしょう。であれば、追放されてくると言っていました』
「あぁ……」
なんて人間は酷いのでしょう。
戦いの中に一人の若者を放り込み、いいように使い、用が済めば捨てるなんて。
『あなたのそのネックレス……。何か見れませんか?』
「えっ?」
そうでした。もしかしたら彼の様子がわかるかもしれません。
私は"配信の魔導具"を起動します。
「来ていますね」
『おぉ、ではともに見ませんか?ワタシはあれが好きなのです』
「……」
このお家に何か疑問を持っても仕方ない気がしたので、私は"配信の魔導具"を覗き込みます。
<"勇者"の冒険㊾聖女が本性を出してきた!>
私は笑ってしまいました。
こんな状況でもあの方が楽しんでいらっしゃるのはタイトルを見れば明らかです。
しれっと49番としているのも聖女への恨みつらみなのでしょうね。
46番が全く意味の分からないパーティーの料理特集でしたし。
そうしてしばらくの時間をこのお家で過ごしました。
彼のことを待っていました。
もうすぐやってきます。
会話をする手段はありませんが、"配信の魔道具"がずっと彼の様子を私に見せてくれます。
彼は他の視聴者から、なんというのでしょうか?……いじられる?……そう、弄られています。
私も嬉しくなってコメントなるものを入れてしまいました。
はしたないと思われなかったかが心配ですが、みなさんとても喜んでくださいました。
<"勇者"の冒険㊿聖女の自爆!圧政、腐敗、増税のトリプルコンボはやばいwww>
すみませんが、興味がわきませんでした。
どうせ魔王を倒したと浮かれて豪遊三昧の日々を過ごし、お金が無くなって国民から搾り取ろうとしてさらに遊興に使った結果、暴動でも起こされたのでしょう。
あんな聖女には興味がないのに勇者様が楽しんでいる様子だったことに嫉妬してついコメントに『(涙)』って入れたらその日は大荒れでした。
それにしてもこれは事実なのでしょうか?
魔道具の見せる夢とかではなく?
ずっと半信半疑で待つのは少しつらいのですよ?勇者様。
きっと何か理由があって時間つぶしをされているのだと思いますが……。
しかし、ついに歓喜の日が訪れました。
私は目覚めたときから彼の魔力を感じていました。
そしてついに彼がこの広場にやってきたとき、私もお家から出て彼を迎えました。
そんな私に彼は向かい合います。
彼はゆっくりと私の方へ歩いて来ます。
少し恥ずかしくなって杖を顔の前に出してしまったのは失敗だったかもしれません。
彼を不安にさせてしまったでしょうか。
でも、彼はすぐに腰につけた剣を放り出してくれました。
心配はないと言われているかのようです。
私も杖を置きます。
「無事でよかった」
彼のその一言に、私は心から安堵しました。
あの魔道具が伝えてくれることは本当だったんだと。
彼もまた、私の無事を喜んでくれているのだと感じました。
そして彼は私を抱きしめました。とても優しく。
あぁ……。
「ずっとこうしたかったんだ」
彼の穏やかな声を聞きながら、私は彼の胸に身を預けます。
「それは私もですわ」
これは夢ではないのです。これは真実の再会です。
彼は私の背中に手を回し、目を閉じ、静かに口を寄せてくれました。
私はもちろん受け入れました。
森の奥、静かで心地よい魔力に満ちた広場。そこには素朴でありながらも温かみのある小さな家が建っていました。
この場所は、安らぎを感じさせる何か特別な力を持っているようでした。
木々はそよ風に揺れ、そのささやきが私を歓迎してくれるかのようです。
私の心は、生まれて初めて平和を感じていました。
私は助かったのですね。
聖女の魔法が私に命中する直前、勇者様が"次元の羽"を使ったのが見えました。その瞬間、私は彼の決意と、深い愛情を感じました
そして私のステータスを確認し、心の底から彼に感謝しました。
あぁ、愛おしい。すぐにでもその胸に飛び込みたいです。
なぜなら私の称号から"魔王"が消えていたのですから。
彼はただ私を救っただけではなく、私の全てを解放したのです。
頬を伝う涙を感じると、それが地面に落ち、小さな花に水を与えるように染み込んでいきました。その一滴に、過去の苦しみと新たな始まりが含まれているようでした。
少しの間、その静けさに浸っていると、家の扉が開いて声が聞こえました。
驚いた私は思わず杖を手に取りましたが、その声は温かく、安心感を与えるものでした。
『あなたは誰ですか?ここにはどうやってこられたのですか?』
正直に言うと、誰かが隠れていると思ったのです。
だってそうでしょう?
まさかこの落ち着いた渋みのある声を私に届けているのが目の前にあるお家だとは考えないと思うのです。
「どなたでしょうか?私は勇者様にここに送っていただいたのですが」
『あぁ、彼に。そうですか。では、歓迎しますよ。もうじき日が暮れて寒くなります。さぁ、どうぞ中へ』
その言葉に導かれ、私は家の中へと足を踏み入れました。灯りが一つ一つと灯り、暖かい光が私を迎え入れてくれました。
「よろしいのですか?私は……」
『魔王……いえ、"魔王"だった方とお見受けします。それが正しいなら主は望みを叶えたのでしょう。長年大変だったと思います。お疲れさまでした。しかし、もしあなた様がお風邪など召されましてはワタシは破壊されてしまいます』
それはまずいですわ。
こんなに暖かいお家が破壊されるのはしのびないことですから、私は誘われるままに中に入りました。
私が歩くと順番に灯がつきます。
その柔らかい光に案内されて私は大きなソファーのある部屋に辿り着きました。
『どうぞ、こちらに。お疲れでしょう。まずは何かお召し上がりください。お風呂も用意いたしますよ』
まるで噂に聞く童話の主人公にでもなった気分です。
こんなおとぎ話のようなお家が実在しているなんて、恥ずかしながら知りませんでした。
「勇者様は……?」
『あの方はじきにやってくるでしょう。あなた様がここにいらっしゃるということは彼は"魔王"を倒したことになっているでしょう。であれば、追放されてくると言っていました』
「あぁ……」
なんて人間は酷いのでしょう。
戦いの中に一人の若者を放り込み、いいように使い、用が済めば捨てるなんて。
『あなたのそのネックレス……。何か見れませんか?』
「えっ?」
そうでした。もしかしたら彼の様子がわかるかもしれません。
私は"配信の魔導具"を起動します。
「来ていますね」
『おぉ、ではともに見ませんか?ワタシはあれが好きなのです』
「……」
このお家に何か疑問を持っても仕方ない気がしたので、私は"配信の魔導具"を覗き込みます。
<"勇者"の冒険㊾聖女が本性を出してきた!>
私は笑ってしまいました。
こんな状況でもあの方が楽しんでいらっしゃるのはタイトルを見れば明らかです。
しれっと49番としているのも聖女への恨みつらみなのでしょうね。
46番が全く意味の分からないパーティーの料理特集でしたし。
そうしてしばらくの時間をこのお家で過ごしました。
彼のことを待っていました。
もうすぐやってきます。
会話をする手段はありませんが、"配信の魔道具"がずっと彼の様子を私に見せてくれます。
彼は他の視聴者から、なんというのでしょうか?……いじられる?……そう、弄られています。
私も嬉しくなってコメントなるものを入れてしまいました。
はしたないと思われなかったかが心配ですが、みなさんとても喜んでくださいました。
<"勇者"の冒険㊿聖女の自爆!圧政、腐敗、増税のトリプルコンボはやばいwww>
すみませんが、興味がわきませんでした。
どうせ魔王を倒したと浮かれて豪遊三昧の日々を過ごし、お金が無くなって国民から搾り取ろうとしてさらに遊興に使った結果、暴動でも起こされたのでしょう。
あんな聖女には興味がないのに勇者様が楽しんでいる様子だったことに嫉妬してついコメントに『(涙)』って入れたらその日は大荒れでした。
それにしてもこれは事実なのでしょうか?
魔道具の見せる夢とかではなく?
ずっと半信半疑で待つのは少しつらいのですよ?勇者様。
きっと何か理由があって時間つぶしをされているのだと思いますが……。
しかし、ついに歓喜の日が訪れました。
私は目覚めたときから彼の魔力を感じていました。
そしてついに彼がこの広場にやってきたとき、私もお家から出て彼を迎えました。
そんな私に彼は向かい合います。
彼はゆっくりと私の方へ歩いて来ます。
少し恥ずかしくなって杖を顔の前に出してしまったのは失敗だったかもしれません。
彼を不安にさせてしまったでしょうか。
でも、彼はすぐに腰につけた剣を放り出してくれました。
心配はないと言われているかのようです。
私も杖を置きます。
「無事でよかった」
彼のその一言に、私は心から安堵しました。
あの魔道具が伝えてくれることは本当だったんだと。
彼もまた、私の無事を喜んでくれているのだと感じました。
そして彼は私を抱きしめました。とても優しく。
あぁ……。
「ずっとこうしたかったんだ」
彼の穏やかな声を聞きながら、私は彼の胸に身を預けます。
「それは私もですわ」
これは夢ではないのです。これは真実の再会です。
彼は私の背中に手を回し、目を閉じ、静かに口を寄せてくれました。
私はもちろん受け入れました。
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