20 / 48
羊になる呪い
恋
しおりを挟む
「客人とは珍しい……」
西のエガルド山脈を越えて辿り着いた先には、だいぶ高齢の魔女が住んでいました。
「突然の訪問、失礼いたします。じつは……」
私は事情を話して協力をお願いします。
「はっはっは。まさか魔女を訪ねてきて居心地の良い牧場のありかを聞く人間がいるとは思わなかったよ。私の知る限り、この山脈の麓にあるオーリーの牧場は管理も行き届いているし、食事にも運動にも気を使って素晴らしい肉と毛皮を作っているが……」
「ありがとうございます、魔女様!私はそこへ行きます」
なんと最初から素晴らしい情報を貰いました。
そこへ行ってみましょう。
そこが良ければなにか仕事でも貰って居つけばいいし、ダメそうならまた別を探せばいいわ。
「嵐のような娘じゃの。肉と毛皮は最高じゃが、それが決して羊にとって居心地が良いかはわからぬと言おうと思ったのじゃが……。まぁ、羊になって人の心を忘れては困るだろうから、それだけは守ってやろう……」
*****
そうして3年の時が過ぎました……
どうやらあのバカは私が流した宝珠によって悪辣な所業が暴露され、今ではエレナの尻に敷かれているようです。
いい気味です。
なんでもアレに2度と外せない魔道具を付けられて、そのショックで寝込んで幽閉……やるわねエレナ。王子さえできてしまえば用無しよね。
「メェ~~~~~」
今日も良い日差し、良い空気、美味しい牧草、美味しい水……ステキな牧場の朝ですね。
私は紹介してもらったオーリーの牧場で放牧している羊をモンスターから守る仕事を貰い、自分の将来のために周辺のモンスターを殲滅してここに居場所を得ました。
ここはなにせ最高の牧場でした。
あぁ、これからは毎日お散歩に昼寝と食事だけの日々。
ぐーたらですわ~
押さえつけられて毛皮を剥がれたり、その……おっぱいを絞られるのはドキドキしますが、それ以外はフリーダム!
羊になったのでもう肉は欲しいと思いませんし、牧草は美味しいし、最高ですわ!
「まさか本当に羊になってしまわれるとは。なんとも不憫な……。一生、このオーリーが面倒を見ますから、どうか安らかに……」
またオーリーが私の方を向いて何か言っていますわね。
彼は私にかかった呪いには最初、半信半疑でしたが、牧場を荒らすモンスターを駆逐してあげたところ、とても喜んでくれました。
そして私を住まわせてくれたのです。
しかし、魔王を倒してちょうど3年後の運命の日……朝起きると私は羊になっていました。
それを見てオーリーは大泣きしたのです。
そして彼は決して私を粗末には扱わないこと、肉にして食うようなことはしないことを誓ってくれたのです。
私としても絞め殺されてステーキになるのはちょっと勇気が出ないというか、踏ん切りがまだつかないので、ありがたいことでした。
*****
そして、5年の時が経ちました。
突然、私の心の中にとある男性が居つきました。
いえ、その、比喩ですよ?
実際にいるわけではありません。
そう、これは恋なのです。
相手はどんな凛々しい羊なのかって?
えぇと、大変申し上げにくいのですが、相手は人間だったのです。
優しく、愛を持って接してくれる男の人。
視線はまるですべてを見通すかのようで、やさしい手つき。
私はいつも彼に転がされ、好きなように撫でまわされます。
鼻息荒く走って近寄っても、とても力のある方で簡単に取り押さえられて、優しく首周りを抱えられてしまいます。
そして、さらには丸裸にされてしまいます。
あっ、毛をかられるだけですよ?
はぁ?とか言わないでください。
なぜかはわからないのです。
そもそもなぜ羊になったのにこんな風に思考できるのかすらわかりませんが……。
どうしましょう。
3年間ぐーたらせずに魔女を探して人間に戻る方法を聞いておけばよかったと今さらながら後悔しています。
いや、後悔する必要はないですね。
これから行けばいいのです。
そうと決まれば私は寝床に牧草を並べて『旅に出ます。また戻ってきます』と書き残します。
これでよし。
牧場を抜け出しました。
西のエガルド山脈を越えて辿り着いた先には、だいぶ高齢の魔女が住んでいました。
「突然の訪問、失礼いたします。じつは……」
私は事情を話して協力をお願いします。
「はっはっは。まさか魔女を訪ねてきて居心地の良い牧場のありかを聞く人間がいるとは思わなかったよ。私の知る限り、この山脈の麓にあるオーリーの牧場は管理も行き届いているし、食事にも運動にも気を使って素晴らしい肉と毛皮を作っているが……」
「ありがとうございます、魔女様!私はそこへ行きます」
なんと最初から素晴らしい情報を貰いました。
そこへ行ってみましょう。
そこが良ければなにか仕事でも貰って居つけばいいし、ダメそうならまた別を探せばいいわ。
「嵐のような娘じゃの。肉と毛皮は最高じゃが、それが決して羊にとって居心地が良いかはわからぬと言おうと思ったのじゃが……。まぁ、羊になって人の心を忘れては困るだろうから、それだけは守ってやろう……」
*****
そうして3年の時が過ぎました……
どうやらあのバカは私が流した宝珠によって悪辣な所業が暴露され、今ではエレナの尻に敷かれているようです。
いい気味です。
なんでもアレに2度と外せない魔道具を付けられて、そのショックで寝込んで幽閉……やるわねエレナ。王子さえできてしまえば用無しよね。
「メェ~~~~~」
今日も良い日差し、良い空気、美味しい牧草、美味しい水……ステキな牧場の朝ですね。
私は紹介してもらったオーリーの牧場で放牧している羊をモンスターから守る仕事を貰い、自分の将来のために周辺のモンスターを殲滅してここに居場所を得ました。
ここはなにせ最高の牧場でした。
あぁ、これからは毎日お散歩に昼寝と食事だけの日々。
ぐーたらですわ~
押さえつけられて毛皮を剥がれたり、その……おっぱいを絞られるのはドキドキしますが、それ以外はフリーダム!
羊になったのでもう肉は欲しいと思いませんし、牧草は美味しいし、最高ですわ!
「まさか本当に羊になってしまわれるとは。なんとも不憫な……。一生、このオーリーが面倒を見ますから、どうか安らかに……」
またオーリーが私の方を向いて何か言っていますわね。
彼は私にかかった呪いには最初、半信半疑でしたが、牧場を荒らすモンスターを駆逐してあげたところ、とても喜んでくれました。
そして私を住まわせてくれたのです。
しかし、魔王を倒してちょうど3年後の運命の日……朝起きると私は羊になっていました。
それを見てオーリーは大泣きしたのです。
そして彼は決して私を粗末には扱わないこと、肉にして食うようなことはしないことを誓ってくれたのです。
私としても絞め殺されてステーキになるのはちょっと勇気が出ないというか、踏ん切りがまだつかないので、ありがたいことでした。
*****
そして、5年の時が経ちました。
突然、私の心の中にとある男性が居つきました。
いえ、その、比喩ですよ?
実際にいるわけではありません。
そう、これは恋なのです。
相手はどんな凛々しい羊なのかって?
えぇと、大変申し上げにくいのですが、相手は人間だったのです。
優しく、愛を持って接してくれる男の人。
視線はまるですべてを見通すかのようで、やさしい手つき。
私はいつも彼に転がされ、好きなように撫でまわされます。
鼻息荒く走って近寄っても、とても力のある方で簡単に取り押さえられて、優しく首周りを抱えられてしまいます。
そして、さらには丸裸にされてしまいます。
あっ、毛をかられるだけですよ?
はぁ?とか言わないでください。
なぜかはわからないのです。
そもそもなぜ羊になったのにこんな風に思考できるのかすらわかりませんが……。
どうしましょう。
3年間ぐーたらせずに魔女を探して人間に戻る方法を聞いておけばよかったと今さらながら後悔しています。
いや、後悔する必要はないですね。
これから行けばいいのです。
そうと決まれば私は寝床に牧草を並べて『旅に出ます。また戻ってきます』と書き残します。
これでよし。
牧場を抜け出しました。
3
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜
梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーロットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。
そんなシャーロットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。
実はシャーロットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーロットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーロットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。
悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。
しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーロットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーロットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーロットは図々しく居座る計画を立てる。
そんなある日、シャーロットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。


一年で死ぬなら
朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。
理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。
そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。
そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。
一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる