異世界恋愛作品集  "真実の愛" ダメ、ゼッタイ!

蒼井星空

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羊になる呪い

婚約破棄と旅立ち

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「キミとの婚約は破棄させてもらう!いずれ羊になるような女を王妃にするわけにはいかないからな!」
 
 魔王の最後っ屁みたいな呪いで3年後には羊になってしまう私に対して嫌そうな表情じ言い放ったこの男がこの国の王太子で勇者のバカ……すみません、ついつい辛らつな表現をしてしまいました。
 バルカン……略してバカです。

 魔王の呪いからお前を庇ってやったのに、なんという言い草なのでしょうか。
 そもそも、魔王の攻撃からも、手下の攻撃からも、魔王城の罠からも、もっと言えば、その辺のモンスターからも庇ってやっていたというのに。
 あれ?なんでこの人が勇者なんでしたっけ?
 
 まぁ、魔王亡き今、そんなことはどうでもいいことですね。
 魔王を討伐して帰国したのちに全ての事象を報告していた国王陛下も、なんならお前が娶りたい魔導士すらも申し訳なさそうな顔をしてこちらを見つめています。
 いまは魔王討伐を讃えるパーティーの真っただ中で、パーティーの中心たる勇者バルカンが、聖女である私、ラムに婚約破棄を言いだしたのですから、当然ながら場は騒然としています。
 空気を読まない鈍感力を盛大に発揮しているのは勇者のバカだけです。
 
 あぁ、もう一人気にしていない人がいました。

 私です。
 
 私も気にしていませんので、国王陛下と魔導士のエレナに手を振って気にしないでと伝えます。

 私にはやるべきことがあるので、さっさとこのパーティーを追えて旅に出たいのです。
 えっ?なにをするかですって?

 それを話すには私の呪いのことを話さないといけないですね。
 この呪いは死にゆく魔王が最後の力を振り絞って放ったもので、それを受けた私は3年後には羊になってしまいます。
 だから……えっ?それだけかって?

 それだけとはなんですか!
 うら若き美しい私が羊になってしまうのですよ?
 世界の損失です。

 だからなんとしても止めようと、国王陛下は伝手を使って方々の魔導士に尋ねてくださったのですが、誰も解呪はできないとのこと。

 であれば、それはもう確定事項としてどうしていくかを考えなければならないのです。

 
 だから、私はこれから旅をして、世界で最も居心地が良い牧場を探さないといけないのです!

 きっと羊になるのですから、羊に対して恋もできると思うので、それはもういいのです。
 居心地の良い牧場であれば、きっとハンサムで優しくて力強いステキな雄の羊がいるはずです。

 なので、そこは置いておいて……って、なんですか?
 人間に戻る方法を探さないのか?ですか?

 あぁ、え~と、牧場を探すついでくらいには探すつもりですが、可能性が低そうなんですよね。


「行ってしまうのですか……?」

 パーティーを終え、出待ちしていたゴシップ記事を扱う3流新聞紙の記者に私が魔王の呪いから勇者を救ったこと、その勇者から呪いのせいで婚約破棄を言い渡されたことについて記録した宝珠を渡した私に声をかけてきたのは仲間の武闘家のカイルです。
 目に涙を貯めてくれています。可愛いですね……。

 私たちは勇者バルカン、聖女ラム、魔導士エレナ、武闘家カイル、騎士フィリアの5人のパーティーだったのです。
 
 役目を果たしたフィリアはさっさと神殿に帰ってしまいましたが、あれはどうやらバカに色目でも使われたので気持ち悪さに鳥肌を浮かべて逃げたのでしょうね。

 エレナは大丈夫でしょうか?
 きっとバカの首にひもでも巻き付けた上で、掌で転がして自分は楽しく生きていくつもりなのでしょう。

 バカのことは記憶から削除完了です。

「この国の西方、エガルド山脈のさらに西に力ある魔女が住んでいるらしい。高齢のため出てこないが、辿り着ければ呪いを解いてもらえるかもしれない」

 カイルは真面目で優しい10歳の男の子なので、彼が幸せになるといいなと思いながら、私は無言でこの場を後にしました。
 
 西の魔女……ご存命であることを祈りながらまずはそこを目指しましょうか。
 旅に出ると言っても、魔王を倒すために世界を旅していた私でも居心地の良い牧場のありかなど探したことがないので見当もつきませんから。
 
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