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こんな愛を向けられてみたくないですか?
次期伯爵決定の儀
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◆王国歴334年9月7日午前6時(次期伯爵決定当日)-???
「……ぶくぶく……」
水路に落ちたクレストでしたが、今はほんのりと青く光る場所にいた。
『……』
「なんだ……?」
彼にはここがどこかわからないようだ。
『時が来れば……必要な時が来れば覚えるでしょう……そう言ったのを覚えていますか?』
突如、中空に石像が現れ、クレストに語りかける。
「魔女か?3つ目の魔法は覚えていない……」
『そうでしょうね。では、まだ死んでもらっては困ります』
クレストとこの石像は初対面ではないようだ。
「……まだ生きているのか?」
『えぇ。まだ生きています。かろうじて……なので、まだこの生の使命を果たしてもらいますよ。次へ行くにはまだ早いのです』
「いまがその時?」
『そうでしょうね。だから私とつながったのでしょう……』
「助かる」
『助けてみせなさい。悔いを残さないように』
「ありがとう」
クレストの傷は癒え、彼は立ち上がり、そしてこの場から消えた。
◆王国歴334年9月7日午前10時(次期伯爵決定当日)ーリエフェンド家の屋敷の前の広場にて
「これより、次期伯爵決定の儀を執り行う!皆の者、静粛に!!」
リエフェンド家の家宰であるギルファードが、設置された碑石を横にして力強く宣言した。
長年リエフェンド家に仕えてきた彼は、しきたりに従ってこの儀式の進行を担っている。
メリオノーラは幼いころからギルファードに領内の政治について学んできた。
当然、ルディフィスもだ。
彼は、使命に忠実であり、中立の立場を守って伯爵位継承を見守ってきた。
しかし、今まさに次期伯爵を決定する儀式が始まろうとしているとき、彼の表情は無だった。
なぜならこの場には次期伯爵候補が1人しかいなかったからだ。
つまり、メリオノーラのみだ。
この儀式に候補者が参加しないなど、前代未聞だった。
もういっそのことこのままメリオノーラが次期伯爵だと宣言してしまいたい気持ちを嚙み殺しているかのようにきつく唇を嚙んでいる。
「では、候補者は"契約の碑石"の前へ。審判を受ける時だ!」
メリオノーラは不安な表情で碑石の前に歩み出る。
彼女の護衛達は張り詰めた雰囲気で周囲の警戒を行っている。何かしてくるならこのときのはずだ。全員がそう思っていた。
「"契約の秘石"よ。次期伯爵を指し示したまえ」
ギルファードが"契約の秘石"を起動すると、"契約の秘石"が青白く光りはじめた。
周囲のものはその様子を固唾を飲んで見守っている。
<起動……リエフェンド伯爵家の要求に従って相応しきものを選ぶ……>
メリオノールは1つ小さく息を吐くと目を閉じた。
彼女は運命に身を委ねたのだろうか。
<演算終了……因子確認完了……次期伯爵は……>
魔法騎士団が周囲を見渡す。
異変は……
<メリオノーラ•リエフェンド>
なかった……。
「おめでとう、メリオノーラ殿」
「マリウス様、ありがとうございます……」
なにかしらの事件の発生を予想していたメリオノーラは怪訝な表情をしながらも、マリウスの祝福に答える。
「みなのもの。"契約の碑石"が今ここで表明した通り、次の伯爵はメリオノーラ・リンフェルド様に決まった!祝福を」
パチ……パチパチ……パチパチパチパチパチパチパチパチパチ!
家宰のギルファードの宣言によって、この場に集まったものが拍手を始めた。
そこへ……
「おい……ちょっと……」
「!?!?」
手を叩きながら現れた人物にその場が騒然となった。
「おめでとうございます、姉上……」
パチパチパチパチ
その場の皆がいまだに拍手をしているその人物を視界に捕らえて唖然としている……。
「ルディフィス……」
「やあ姉上。祝意を伝えただけですが、どうされましたか?」
「……」
メリオノーラは答えられない。
見たこともないものたちを引き連れたルディフィスが何を考えているのか、頭を巡らしているのだろうか。
「ルディフィス殿か。はじめまして。マリウス・ク―ゼットだ。祝福に感謝する」
「これはこれは義兄上。どうぞよろしくお願いします」
違和感を覚えたような表情は見せず、マリウスがルディフィスと言葉を交わす。
「ルディフィス様。次期伯爵決定の儀を欠席なさるとはどういうおつもりか?」
家宰のギルファードが厳格に問いただす。
「すまない、ギルファード。私には準備があったのだ」
「準備ですと?」
「そう、次の次期伯爵決定の儀に向けたね……」
「「「!?!?」」」
誰もが意味がよく理解できないルディフィスの言葉に戸惑っている。
「どういうことですか?あなたは何を言っているのです?」
今度はメリオノーラがルディフィスに問う。
「甘い姉上にはお気づきではないでしょうか?お母上のことですが」
「ルディフィス!!!あなたは!!?」
「待て、メリオノーラ殿」
ルディフィスに詰め寄ろうとしたメリオノーラをマリウスが止めるが、ルディフィスはそんな姉の様子を眺めている。
楽しそうに……。
「私からの要求は簡単ですよ?お母上を返してほしければ、伯爵位をお譲りください……今、ここで……」
「「「なっ!?!?!?!?」」」
そして告げられた言葉は最低最悪だった。
「……ぶくぶく……」
水路に落ちたクレストでしたが、今はほんのりと青く光る場所にいた。
『……』
「なんだ……?」
彼にはここがどこかわからないようだ。
『時が来れば……必要な時が来れば覚えるでしょう……そう言ったのを覚えていますか?』
突如、中空に石像が現れ、クレストに語りかける。
「魔女か?3つ目の魔法は覚えていない……」
『そうでしょうね。では、まだ死んでもらっては困ります』
クレストとこの石像は初対面ではないようだ。
「……まだ生きているのか?」
『えぇ。まだ生きています。かろうじて……なので、まだこの生の使命を果たしてもらいますよ。次へ行くにはまだ早いのです』
「いまがその時?」
『そうでしょうね。だから私とつながったのでしょう……』
「助かる」
『助けてみせなさい。悔いを残さないように』
「ありがとう」
クレストの傷は癒え、彼は立ち上がり、そしてこの場から消えた。
◆王国歴334年9月7日午前10時(次期伯爵決定当日)ーリエフェンド家の屋敷の前の広場にて
「これより、次期伯爵決定の儀を執り行う!皆の者、静粛に!!」
リエフェンド家の家宰であるギルファードが、設置された碑石を横にして力強く宣言した。
長年リエフェンド家に仕えてきた彼は、しきたりに従ってこの儀式の進行を担っている。
メリオノーラは幼いころからギルファードに領内の政治について学んできた。
当然、ルディフィスもだ。
彼は、使命に忠実であり、中立の立場を守って伯爵位継承を見守ってきた。
しかし、今まさに次期伯爵を決定する儀式が始まろうとしているとき、彼の表情は無だった。
なぜならこの場には次期伯爵候補が1人しかいなかったからだ。
つまり、メリオノーラのみだ。
この儀式に候補者が参加しないなど、前代未聞だった。
もういっそのことこのままメリオノーラが次期伯爵だと宣言してしまいたい気持ちを嚙み殺しているかのようにきつく唇を嚙んでいる。
「では、候補者は"契約の碑石"の前へ。審判を受ける時だ!」
メリオノーラは不安な表情で碑石の前に歩み出る。
彼女の護衛達は張り詰めた雰囲気で周囲の警戒を行っている。何かしてくるならこのときのはずだ。全員がそう思っていた。
「"契約の秘石"よ。次期伯爵を指し示したまえ」
ギルファードが"契約の秘石"を起動すると、"契約の秘石"が青白く光りはじめた。
周囲のものはその様子を固唾を飲んで見守っている。
<起動……リエフェンド伯爵家の要求に従って相応しきものを選ぶ……>
メリオノールは1つ小さく息を吐くと目を閉じた。
彼女は運命に身を委ねたのだろうか。
<演算終了……因子確認完了……次期伯爵は……>
魔法騎士団が周囲を見渡す。
異変は……
<メリオノーラ•リエフェンド>
なかった……。
「おめでとう、メリオノーラ殿」
「マリウス様、ありがとうございます……」
なにかしらの事件の発生を予想していたメリオノーラは怪訝な表情をしながらも、マリウスの祝福に答える。
「みなのもの。"契約の碑石"が今ここで表明した通り、次の伯爵はメリオノーラ・リンフェルド様に決まった!祝福を」
パチ……パチパチ……パチパチパチパチパチパチパチパチパチ!
家宰のギルファードの宣言によって、この場に集まったものが拍手を始めた。
そこへ……
「おい……ちょっと……」
「!?!?」
手を叩きながら現れた人物にその場が騒然となった。
「おめでとうございます、姉上……」
パチパチパチパチ
その場の皆がいまだに拍手をしているその人物を視界に捕らえて唖然としている……。
「ルディフィス……」
「やあ姉上。祝意を伝えただけですが、どうされましたか?」
「……」
メリオノーラは答えられない。
見たこともないものたちを引き連れたルディフィスが何を考えているのか、頭を巡らしているのだろうか。
「ルディフィス殿か。はじめまして。マリウス・ク―ゼットだ。祝福に感謝する」
「これはこれは義兄上。どうぞよろしくお願いします」
違和感を覚えたような表情は見せず、マリウスがルディフィスと言葉を交わす。
「ルディフィス様。次期伯爵決定の儀を欠席なさるとはどういうおつもりか?」
家宰のギルファードが厳格に問いただす。
「すまない、ギルファード。私には準備があったのだ」
「準備ですと?」
「そう、次の次期伯爵決定の儀に向けたね……」
「「「!?!?」」」
誰もが意味がよく理解できないルディフィスの言葉に戸惑っている。
「どういうことですか?あなたは何を言っているのです?」
今度はメリオノーラがルディフィスに問う。
「甘い姉上にはお気づきではないでしょうか?お母上のことですが」
「ルディフィス!!!あなたは!!?」
「待て、メリオノーラ殿」
ルディフィスに詰め寄ろうとしたメリオノーラをマリウスが止めるが、ルディフィスはそんな姉の様子を眺めている。
楽しそうに……。
「私からの要求は簡単ですよ?お母上を返してほしければ、伯爵位をお譲りください……今、ここで……」
「「「なっ!?!?!?!?」」」
そして告げられた言葉は最低最悪だった。
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