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王都の武闘大会
チーム追放
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王都は今日開催される武闘大会を祝うかのような澄んだ朝を迎えました。
まるで嵐の前の静けさといった様相の穏やかな日差しが降り注いでいます。
私は窓から差し込む優しい光を浴びながらベッドから立ち上がり、水の精霊アクアに頼んで桶に貯めてもらった水で顔を洗い、風の精霊シルフィの優しい風で乾かしてもらい、さっぱりした気持ちで窓を開けました。
「う~ん、気持ちいい」
朝の涼やかな風が私の頬を撫でて流れていきます。
今日の大会ではこれまでに予選を勝ち抜いた4チームが優勝旗を巡って戦います。
私が所属するのは王都のギルド選抜チーム"鋼の意思"です。リーダーの戦士ゴレアスは好色で下品なのであまり好きではありませんが、メンバーの剣士フリード、魔術師サイクス、神官リオメル、精霊術師の私で、バランスの取れたチームです。補欠として騎士グレアムがいます。全員Aランクのギルドメンバーです。
戦い方は、魔術師と神官の支援魔法及び私の精霊術で防御を固め、相手を揺さぶりながら勝機を見出したら戦士、剣士、魔術師、私が攻撃をしていくという正統派のチーム戦を得意としています。不調なメンバーが出たとしても、支援魔法も回復魔法も使えて自ら盾役も攻撃役もこなせるグレアムが穴を埋めます。
窓から流れ込む風になびく髪を艶やかな紐で縛った私はこれから繰り広げられる戦いに向けて気持ちを整えていきます。少し癖のある私の髪ですが、今日は良い子でうまくまとまってくれて、気分爽快です。切ればいいのかもしれませんが、精霊たちが美しいと言ってくれるので伸ばしています。
他には騎士団と共によく国境防衛で活躍している傭兵団のチーム、王都の騎士学院の選抜チーム、それからそして直前まで勧誘してくれていた私の地元であるルーヴィア公爵領のチームが残っています。
ルーヴィア公爵領のチームは申し訳ないことに勧誘を断ってしまいましたが、リーダーのエルロッドは幼馴染で、断った私にも決勝で戦おうと言ってくれました。
ちなみに聖騎士団員たちは出てきません。あくまでも市井のものを対象とした戦いなのです。
今の世界では珍しい精霊術師である私は契約している光の精霊ルクシエラ様をはじめ様々な精霊様達の力を借りた精霊術を武器に戦います。
今まで誰にも手の内のすべてを見せたことはないのですが、今日の優勝賞品である"大精霊の指輪"を欲するルクシエラ様のために頑張るつもりです。
どうやら思い入れのある指輪のようで、誰かに渡したいようですので、お世話になっている恩返しのためなんとしても手に入れたいのです。
私は準備を整え、意気揚々と武闘会場へ向かいました。
しかし……
「今日の大会は俺と剣士フリード、魔法使いサイクス、神官リオメル、騎士グレアムで行く。補欠は騎士のオルネだ。リシュアナは残念ながら外す。悪いが」
「なっ……」
リシュアナは私の名前です。
つまり目の前の筋肉ゴリラ……失礼、リーダーであるゴレアスはあろうことか私をメンバーから外したのです。
確かに今日の戦いが始まるまではメンバー変更が認められています。しかし、予選を勝ち上がったメンバーを普通外したりしません。まるで踏み台にするような行為なのですから。
「なぜ?理由は説明してくれるのでしょうね」
私は怒りを込めてゴレアスに尋ねます。
「メンバーはリーダーである俺が選ぶ。そういう決まりだ。予選を勝ち上がったチームはいずれも高い攻撃力を持っている。それも剣や斧、槍などによる物理的な攻撃力だ。であれば、我々の戦術から行けば騎士グレアムを出して盾で防ぐのが効果的だ。仮に初戦でグレアムが大きなダメージを負う場合がありうるから、補欠も騎士を選んだということだ」
さも当然のように説明するゴレアスですが……
「(お前は俺の誘いを断ったしな……俺の女になるなら当然出していた。まぁもう遅いがな)」
なんのことはありません。この男はより自分がカッコよく活躍することがすべての男です。そして好色で下品です。欲望を隠しもせず小声で囁いたそれは最低な言葉でした。オルネはそういったことを気にしない豪快な性格ですから、きっと受けたのでしょう……。
「それに精霊術は不安だ。精霊の機嫌次第なのだろう? 自らの力で戦うものたちに失礼だと思わないか?」
割り込んできたのはフリードです。綺麗な名前とは裏腹に力至上主義者であり、精霊の力を借りて戦う私を認めないし、仕事で一緒になったとしても仕事だけの関係と割り切っていると面と向かって言われたことがありましたが、こんな時にその思いを発揮してきましたか……。
「武闘大会は厳しい戦いになると思うが、その中でどれだけ戦い続けられるのかは疑問だ」
グレアムもですか。大柄な騎士であり頼りがいがあると思っていましたが……。
「……」
リオネルは無言です。彼は常に神に祈っているような不思議な人なので仕方ありませんが、少しはこちらにも興味を示してくれてもいいのではないでしょうか?予選では私の精霊たちがフォローしていたと思うのですが。
そしてオルネはうっすらと笑みを浮かべてこちらを見ているだけです。
私にはゴレアスに寄り添って愛を囁くなど口が裂けてもできませんので、ある意味尊敬します。
「わかっただろ? だれもお前の擁護もしないんじゃ仕方ない。予選通過に協力してくれたのは確かだから観戦チケット位やるよ」
汚い顔で下劣な笑みを浮かべながら私に向かって1枚のチケットを投げてきました……。
私は周囲を見渡しますが、ギルド職員は申し訳なさそうに頭を下げる者もいましたが、誰も何も言えないようです。
もういいです。
ルくシエラ様には謝るとして、私は望まれてもいませんし、帰りましょう。
会場を出ると、相変わらずの良い天気です。
来る時と違って、その生暖かさが不快にも感じてしまうのが不思議です。
「ルクシエラ様、すみません。メンバーから外されてしまったので、"大精霊の指輪"は手に入れられそうにありません……」
まるで嵐の前の静けさといった様相の穏やかな日差しが降り注いでいます。
私は窓から差し込む優しい光を浴びながらベッドから立ち上がり、水の精霊アクアに頼んで桶に貯めてもらった水で顔を洗い、風の精霊シルフィの優しい風で乾かしてもらい、さっぱりした気持ちで窓を開けました。
「う~ん、気持ちいい」
朝の涼やかな風が私の頬を撫でて流れていきます。
今日の大会ではこれまでに予選を勝ち抜いた4チームが優勝旗を巡って戦います。
私が所属するのは王都のギルド選抜チーム"鋼の意思"です。リーダーの戦士ゴレアスは好色で下品なのであまり好きではありませんが、メンバーの剣士フリード、魔術師サイクス、神官リオメル、精霊術師の私で、バランスの取れたチームです。補欠として騎士グレアムがいます。全員Aランクのギルドメンバーです。
戦い方は、魔術師と神官の支援魔法及び私の精霊術で防御を固め、相手を揺さぶりながら勝機を見出したら戦士、剣士、魔術師、私が攻撃をしていくという正統派のチーム戦を得意としています。不調なメンバーが出たとしても、支援魔法も回復魔法も使えて自ら盾役も攻撃役もこなせるグレアムが穴を埋めます。
窓から流れ込む風になびく髪を艶やかな紐で縛った私はこれから繰り広げられる戦いに向けて気持ちを整えていきます。少し癖のある私の髪ですが、今日は良い子でうまくまとまってくれて、気分爽快です。切ればいいのかもしれませんが、精霊たちが美しいと言ってくれるので伸ばしています。
他には騎士団と共によく国境防衛で活躍している傭兵団のチーム、王都の騎士学院の選抜チーム、それからそして直前まで勧誘してくれていた私の地元であるルーヴィア公爵領のチームが残っています。
ルーヴィア公爵領のチームは申し訳ないことに勧誘を断ってしまいましたが、リーダーのエルロッドは幼馴染で、断った私にも決勝で戦おうと言ってくれました。
ちなみに聖騎士団員たちは出てきません。あくまでも市井のものを対象とした戦いなのです。
今の世界では珍しい精霊術師である私は契約している光の精霊ルクシエラ様をはじめ様々な精霊様達の力を借りた精霊術を武器に戦います。
今まで誰にも手の内のすべてを見せたことはないのですが、今日の優勝賞品である"大精霊の指輪"を欲するルクシエラ様のために頑張るつもりです。
どうやら思い入れのある指輪のようで、誰かに渡したいようですので、お世話になっている恩返しのためなんとしても手に入れたいのです。
私は準備を整え、意気揚々と武闘会場へ向かいました。
しかし……
「今日の大会は俺と剣士フリード、魔法使いサイクス、神官リオメル、騎士グレアムで行く。補欠は騎士のオルネだ。リシュアナは残念ながら外す。悪いが」
「なっ……」
リシュアナは私の名前です。
つまり目の前の筋肉ゴリラ……失礼、リーダーであるゴレアスはあろうことか私をメンバーから外したのです。
確かに今日の戦いが始まるまではメンバー変更が認められています。しかし、予選を勝ち上がったメンバーを普通外したりしません。まるで踏み台にするような行為なのですから。
「なぜ?理由は説明してくれるのでしょうね」
私は怒りを込めてゴレアスに尋ねます。
「メンバーはリーダーである俺が選ぶ。そういう決まりだ。予選を勝ち上がったチームはいずれも高い攻撃力を持っている。それも剣や斧、槍などによる物理的な攻撃力だ。であれば、我々の戦術から行けば騎士グレアムを出して盾で防ぐのが効果的だ。仮に初戦でグレアムが大きなダメージを負う場合がありうるから、補欠も騎士を選んだということだ」
さも当然のように説明するゴレアスですが……
「(お前は俺の誘いを断ったしな……俺の女になるなら当然出していた。まぁもう遅いがな)」
なんのことはありません。この男はより自分がカッコよく活躍することがすべての男です。そして好色で下品です。欲望を隠しもせず小声で囁いたそれは最低な言葉でした。オルネはそういったことを気にしない豪快な性格ですから、きっと受けたのでしょう……。
「それに精霊術は不安だ。精霊の機嫌次第なのだろう? 自らの力で戦うものたちに失礼だと思わないか?」
割り込んできたのはフリードです。綺麗な名前とは裏腹に力至上主義者であり、精霊の力を借りて戦う私を認めないし、仕事で一緒になったとしても仕事だけの関係と割り切っていると面と向かって言われたことがありましたが、こんな時にその思いを発揮してきましたか……。
「武闘大会は厳しい戦いになると思うが、その中でどれだけ戦い続けられるのかは疑問だ」
グレアムもですか。大柄な騎士であり頼りがいがあると思っていましたが……。
「……」
リオネルは無言です。彼は常に神に祈っているような不思議な人なので仕方ありませんが、少しはこちらにも興味を示してくれてもいいのではないでしょうか?予選では私の精霊たちがフォローしていたと思うのですが。
そしてオルネはうっすらと笑みを浮かべてこちらを見ているだけです。
私にはゴレアスに寄り添って愛を囁くなど口が裂けてもできませんので、ある意味尊敬します。
「わかっただろ? だれもお前の擁護もしないんじゃ仕方ない。予選通過に協力してくれたのは確かだから観戦チケット位やるよ」
汚い顔で下劣な笑みを浮かべながら私に向かって1枚のチケットを投げてきました……。
私は周囲を見渡しますが、ギルド職員は申し訳なさそうに頭を下げる者もいましたが、誰も何も言えないようです。
もういいです。
ルくシエラ様には謝るとして、私は望まれてもいませんし、帰りましょう。
会場を出ると、相変わらずの良い天気です。
来る時と違って、その生暖かさが不快にも感じてしまうのが不思議です。
「ルクシエラ様、すみません。メンバーから外されてしまったので、"大精霊の指輪"は手に入れられそうにありません……」
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