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"真実の愛" ダメ、ゼッタイ!
私の婚約破棄
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「ヒルデガルド•エルフリーデン。お前との婚約を解消する!お前は……」
今日もまた、世界のとある場所で真実の愛を見つけた王子様に、ヒルデガルドという辺境伯令嬢が婚約破棄を言い渡されました。
あまり独創性がないセリフですから30点ということでしょうか。
なお、ヒルデガルドは私です。
私はお世辞にも絶世の美女ではないものの、そこそこに整った顔、艶のある銀の長髪を持ち、スタイルもそんなに悪くないと思います。さらに、美的センスには自信がありますし、王妃予定者にすぎないはずなのにこの無能な国の外交や財政にも一部関与しています。
しかし、目の前で顔を真っ赤にしているバカ王子は私のありもしない悪巧みを自信満々にあげつらって私を国外追放を画策していました。
きっとバカ王子の後ろにいるきれいな女性に対して"真実の愛"を見出されたのでしょう。
こんな話はよくある話ですわね。
◇
この国もあの国もその国も。
どこの国でも"真実の愛"に目覚めた王子様ばかりの世界ですから。
私は冷静にお父様に婚約破棄と国外追放を報告しました。
するとお父様はすぐに王城にあがって国王陛下にひとしきり文句を行ったあと、過去の契約を盾に王国からの離反を宣言し、顔を真っ赤にしているバカ王子を罵倒して帰ってきました。
我が辺境伯領は建国のときの多大な貢献によって身の振り方を自由に決められる唯一の貴族領ですし、それをよくよくご存じの国王陛下は我々をつなぎとめるために王子と政略結婚を組んだのに、全く理解していないバカ王子によって全て台無しになりました。
なぜバカ王子を教育しなかったのか理解できませんし、今さらチャンスを与える気もないので、お父様は隣国であるエアベルト王国と交渉し、今まで同様に辺境伯領として併合してもらいました。
なお、併合を邪魔しようとしてきたバカ王子の軍は壊滅させました。
もちろん、これだけでは終わりません。併合してもらったばかりの辺境伯領では権限が弱いので、婚約者を病気で失ったこの国の王子様に目を付け、国王陛下を新領地を加えた新たなる門出とかなんとか言いくるめて政略結婚し、今に至ります。
この国は弱小国ですので、広大な辺境伯領をそのまま保持して合流したお父様の発言を無視することはできません。
結果として、
『我がエアベルト王国では国を想い、国民を想い、未来を想う聡明な王子が決して絶世の美女ではないものの先見の明があり戦略的な大局観を持ち、"真実の愛"とやらのせいで婚約破棄及び国外追放をされてしまった辺境伯令嬢(辺境伯家およびその領地ごとエアベルト王国に併合済み)を妻としました』
という状況を作ることに成功しました。
これはそんな聡明なシオル王子がなんとなく世界制覇してしまう予定の物語なのです。
ちなみにシオル王子は小柄で可愛らしい方です。銀髪に、珍しい青い瞳のいわゆる弟キャラで、私よりも2つ年下ですが、それがいい……すみません取り乱しました。
今はチャンスなのです。
世界はバカばっかりですから。
私はこの覇気のないシオル王子に囁きます。
「世界はバカばっかりなので、手を回して手っ取り早く覇権を取っちゃいましょう。そうしないと"真実の愛"とやらに目が眩んで世界を相手に戦い始めそうなバカもいますし。これも国を守るためです」
「えっ? えぇ?」
大人しい彼は私の言葉に目が点になっていますが、大丈夫ですわ。私に任せてくれればいいのです、と言うと気楽に『任せた』と言ってくれました。
可愛いので撫で回したら真っ赤になっていましたが、可愛すぎて泥棒猫が出るとまずいので彼を剥いて(ピー)に朱のバッテンを書いておきました。
「なっ、なにこれ……」
「これで悪いお姉さんとなにかをしようとしても目立つコレの説明をしている間に我に帰れるでしょう?」
「へっ?」
浮気防止ですわ。側室にはちゃんと説明しておけばいいですし。
「そんなことしないよ~(涙)」
覇気のない王子様はそんな気はなくても、鼻息の荒い肉食の"真実の愛"探求者たちはどんなことをしでかすかわかりません。
この朱のバッテンは鎮静の効果の魔法陣にもなっていますので、これで安心です。
「よし、恥ずかしい閨のことはこれくらいにして、次はリージュ王国に向かいますわよ」
「恥ずかしい自覚はあるんだね。でもなんでリージュ王国にって、うわっ?」
「ちゅぅうぅぅぅ」
生意気なことを言う口はとりあえず塞いでと……。
今日もまた、世界のとある場所で真実の愛を見つけた王子様に、ヒルデガルドという辺境伯令嬢が婚約破棄を言い渡されました。
あまり独創性がないセリフですから30点ということでしょうか。
なお、ヒルデガルドは私です。
私はお世辞にも絶世の美女ではないものの、そこそこに整った顔、艶のある銀の長髪を持ち、スタイルもそんなに悪くないと思います。さらに、美的センスには自信がありますし、王妃予定者にすぎないはずなのにこの無能な国の外交や財政にも一部関与しています。
しかし、目の前で顔を真っ赤にしているバカ王子は私のありもしない悪巧みを自信満々にあげつらって私を国外追放を画策していました。
きっとバカ王子の後ろにいるきれいな女性に対して"真実の愛"を見出されたのでしょう。
こんな話はよくある話ですわね。
◇
この国もあの国もその国も。
どこの国でも"真実の愛"に目覚めた王子様ばかりの世界ですから。
私は冷静にお父様に婚約破棄と国外追放を報告しました。
するとお父様はすぐに王城にあがって国王陛下にひとしきり文句を行ったあと、過去の契約を盾に王国からの離反を宣言し、顔を真っ赤にしているバカ王子を罵倒して帰ってきました。
我が辺境伯領は建国のときの多大な貢献によって身の振り方を自由に決められる唯一の貴族領ですし、それをよくよくご存じの国王陛下は我々をつなぎとめるために王子と政略結婚を組んだのに、全く理解していないバカ王子によって全て台無しになりました。
なぜバカ王子を教育しなかったのか理解できませんし、今さらチャンスを与える気もないので、お父様は隣国であるエアベルト王国と交渉し、今まで同様に辺境伯領として併合してもらいました。
なお、併合を邪魔しようとしてきたバカ王子の軍は壊滅させました。
もちろん、これだけでは終わりません。併合してもらったばかりの辺境伯領では権限が弱いので、婚約者を病気で失ったこの国の王子様に目を付け、国王陛下を新領地を加えた新たなる門出とかなんとか言いくるめて政略結婚し、今に至ります。
この国は弱小国ですので、広大な辺境伯領をそのまま保持して合流したお父様の発言を無視することはできません。
結果として、
『我がエアベルト王国では国を想い、国民を想い、未来を想う聡明な王子が決して絶世の美女ではないものの先見の明があり戦略的な大局観を持ち、"真実の愛"とやらのせいで婚約破棄及び国外追放をされてしまった辺境伯令嬢(辺境伯家およびその領地ごとエアベルト王国に併合済み)を妻としました』
という状況を作ることに成功しました。
これはそんな聡明なシオル王子がなんとなく世界制覇してしまう予定の物語なのです。
ちなみにシオル王子は小柄で可愛らしい方です。銀髪に、珍しい青い瞳のいわゆる弟キャラで、私よりも2つ年下ですが、それがいい……すみません取り乱しました。
今はチャンスなのです。
世界はバカばっかりですから。
私はこの覇気のないシオル王子に囁きます。
「世界はバカばっかりなので、手を回して手っ取り早く覇権を取っちゃいましょう。そうしないと"真実の愛"とやらに目が眩んで世界を相手に戦い始めそうなバカもいますし。これも国を守るためです」
「えっ? えぇ?」
大人しい彼は私の言葉に目が点になっていますが、大丈夫ですわ。私に任せてくれればいいのです、と言うと気楽に『任せた』と言ってくれました。
可愛いので撫で回したら真っ赤になっていましたが、可愛すぎて泥棒猫が出るとまずいので彼を剥いて(ピー)に朱のバッテンを書いておきました。
「なっ、なにこれ……」
「これで悪いお姉さんとなにかをしようとしても目立つコレの説明をしている間に我に帰れるでしょう?」
「へっ?」
浮気防止ですわ。側室にはちゃんと説明しておけばいいですし。
「そんなことしないよ~(涙)」
覇気のない王子様はそんな気はなくても、鼻息の荒い肉食の"真実の愛"探求者たちはどんなことをしでかすかわかりません。
この朱のバッテンは鎮静の効果の魔法陣にもなっていますので、これで安心です。
「よし、恥ずかしい閨のことはこれくらいにして、次はリージュ王国に向かいますわよ」
「恥ずかしい自覚はあるんだね。でもなんでリージュ王国にって、うわっ?」
「ちゅぅうぅぅぅ」
生意気なことを言う口はとりあえず塞いでと……。
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