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第4話 教祖の企み
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「帰りましたか……して、どうでしたか?」
エリーゼたちが帰った後、教主のまわりに怪しい影が集まっていた。
「ふふふ。実に良い人材でした。計画に従って既に魔法をかけております。ご安心ください」
そんな影の中で教主はお辞儀をしながら答える。
一切緊張のない様子から、教主が日常から影とやり取りしていることが伺える。
「それは僥倖。我が神もお喜びになるであろう。決して仕損じることのなきように」
影もまた仰々しく答え、そしてうっすらと消えていった。
「くっくっく。仕損じることなどない。我が神よ。誇り高き魔族の女を捧げましょう」
教主は消えていく影を見つめて舌なめずりしながら呟く。
彼は決してグラシウス神を崇める宗教団体の教祖などではない。
集まった者たちのうち、大半は何も知らない哀れな信徒たちだが、残りは邪悪な目的をもって集った者たち。
魔神ハドラスを崇め、彼の神の復活を目論む者たちだった。
魔神ハドラスとは創成以来、たびたび歴史に登場し、世界を負に傾ける存在だ。
彼の主張はグラシウスの目覚めなど待つことなく、世界を自らの力で支配し神に抗うというものだ。
力をつけ、グラシウスすら打倒すると宣っている。
全く御しがたい。
という報告を拠点に戻って聞いた私たちは改めて明日の作戦を確認する。
「迷うことのない怪しい人たちでしたね」
ライラは教主の気持ち悪い視線でも思い出したのか、両肩を自らの手で抱きしめながら呟く。
「大方、魔神の復活のために一定の魔力を持つ人間を見つけては生贄にしているようです。この街に彼らが来たのと時を同じくして何名かの女子供が行方不明になっていました」
調査したことを報告してくれるのは可愛らしい魔法使いであるカリナ。
聞いているだけでステキな眠りに落ちそうな優しくて可愛い声が鳴り響く。
彼女と一緒に行ったダリウスは陽気で親しみを持てる人だけど、説明とかが苦手だから彼女が報告してくれているのね。いつも通り。
「となれば、明日の接触で配下に引き入れられるかどうかを試して、ダメなら打破。これに決まりね」
「配下にできますか?ちょっと完全に気持ち悪いから、それこそ意識飛ばして無にするくらいの魔法が必要になりそうです」
そして、カリナは魔法使い。魔力に秀でる魔族の中でもさらに高度な魔法が行使できる魔法使いなの。
頼りにしてるわ!
「ただ、ナシな可能性がちょっと高いかな。そもそも伯爵となるにあたって毒物やまやかしの類への耐性は訓練させられるものなのよ。なのにあの程度の魔法が効くと本気で思ったのかしら?そこは減点ね」
「その耐性訓練ですが、最近は行われていませんからね。戦乱の世では必須でしたでしょうが……」
「えっ?」
てっきり彼らがダメダメなのかと思いきや、あの訓練自体が過去の遺物的な扱いになっているの?
私の苦労は?
そして翌日……。
私は再び教主たちが陣取っているホテルを訪れた。
「ようこそ、エリーゼ様」
「ごきげんよう、教祖様」
私たちは白々しい挨拶をかわし、お互いの陣容を眺める。
こちらはライラ、ダリウス、カリナと、あとは昨日の会議では周囲の警戒のために部屋を出ていたダリウスと私の5名。
一方、相手は50人くらいいるかしら。
テーブルやイスは全て部屋の隅に重ねられ、がらんとした空間に集められていて、ちょっとその……むさ苦しい。
見たところそこそこ魔力の多い人がいるけど……
「我らはルイン伯爵領へ赴くことを決めました。これは我らの誠意として、全てのメンバーをご紹介しようと思います」
仰々しく頭を垂れた後、自信満々の不敵な笑みを浮かべた顔をこちらに向けて教主が宣言した。
よく言うわね。私たちを捉えて生贄に捧げるためだと言えばいいのに。
「それは嬉しいですわ。我がルイン領はあなた方を歓迎します」
「えぇ、そうでしょうとも。我々はあなた様と協力してさらなる布教に勤め、必ずやエリーゼ様のお役にも立って見せましょう」
私の思いとは裏腹に、芝居がかった口調で教主が宣言した。
えぇ?演技の会話を続けるのですか?
「ありがとう。期待しているわ」
相手が本性を現さないものだから、私も付き合わなくてはならない。
面倒なのだけども……。
「ついては我々に協力の証など、いただけないでしょうか」
さらに面倒なことに、教主は急に真面目な顔をしてこんなことを言いだした。
なんでしょうか?
彼は私に魔法をかけられたと信じているようなので合わせるのが大変なのに。
「証ですか?それはどういったものを考えていらっしゃるのですか?」
「ふっふっふ」
なぜそこで笑うの?気持ち悪いんだけど。
しかし、嫌な感じではないので、対応は間違ってないようね。
「それは、私とエリーゼ様との結婚です」
「はっ?」
「……えっ?」
しまった……やってしまった。バレたわよね?
いえ、申し開きはしないけど……無理よ。
こんな醜悪なおじさんと結婚?
どんな地獄なのよ。
見た目は悪くないのかもしれないけど、頭がおかしいのよ?
無理無理無理無理。
そんなことは無理。
きっとアッシュもキレるわ。
「貴様……どういうことだ?私の魔法が効いていないというのか?」
やってしまったわね。
魔法がかかってないことがバレてしまったわね。
この場に集まった信徒たちが一斉に武器を構えた。
こちらもそもそも戦う予定だから問題ないけど、不意を突けなくなってしまったわね。
ごめんなさい。
「どういうカラクリか知らんが、騙していたというなら仕方がない。この場で倒して生贄に捧げてやろう。行け!」
教主がそう言うや否や、信徒たちが襲い掛かってきた。
エリーゼたちが帰った後、教主のまわりに怪しい影が集まっていた。
「ふふふ。実に良い人材でした。計画に従って既に魔法をかけております。ご安心ください」
そんな影の中で教主はお辞儀をしながら答える。
一切緊張のない様子から、教主が日常から影とやり取りしていることが伺える。
「それは僥倖。我が神もお喜びになるであろう。決して仕損じることのなきように」
影もまた仰々しく答え、そしてうっすらと消えていった。
「くっくっく。仕損じることなどない。我が神よ。誇り高き魔族の女を捧げましょう」
教主は消えていく影を見つめて舌なめずりしながら呟く。
彼は決してグラシウス神を崇める宗教団体の教祖などではない。
集まった者たちのうち、大半は何も知らない哀れな信徒たちだが、残りは邪悪な目的をもって集った者たち。
魔神ハドラスを崇め、彼の神の復活を目論む者たちだった。
魔神ハドラスとは創成以来、たびたび歴史に登場し、世界を負に傾ける存在だ。
彼の主張はグラシウスの目覚めなど待つことなく、世界を自らの力で支配し神に抗うというものだ。
力をつけ、グラシウスすら打倒すると宣っている。
全く御しがたい。
という報告を拠点に戻って聞いた私たちは改めて明日の作戦を確認する。
「迷うことのない怪しい人たちでしたね」
ライラは教主の気持ち悪い視線でも思い出したのか、両肩を自らの手で抱きしめながら呟く。
「大方、魔神の復活のために一定の魔力を持つ人間を見つけては生贄にしているようです。この街に彼らが来たのと時を同じくして何名かの女子供が行方不明になっていました」
調査したことを報告してくれるのは可愛らしい魔法使いであるカリナ。
聞いているだけでステキな眠りに落ちそうな優しくて可愛い声が鳴り響く。
彼女と一緒に行ったダリウスは陽気で親しみを持てる人だけど、説明とかが苦手だから彼女が報告してくれているのね。いつも通り。
「となれば、明日の接触で配下に引き入れられるかどうかを試して、ダメなら打破。これに決まりね」
「配下にできますか?ちょっと完全に気持ち悪いから、それこそ意識飛ばして無にするくらいの魔法が必要になりそうです」
そして、カリナは魔法使い。魔力に秀でる魔族の中でもさらに高度な魔法が行使できる魔法使いなの。
頼りにしてるわ!
「ただ、ナシな可能性がちょっと高いかな。そもそも伯爵となるにあたって毒物やまやかしの類への耐性は訓練させられるものなのよ。なのにあの程度の魔法が効くと本気で思ったのかしら?そこは減点ね」
「その耐性訓練ですが、最近は行われていませんからね。戦乱の世では必須でしたでしょうが……」
「えっ?」
てっきり彼らがダメダメなのかと思いきや、あの訓練自体が過去の遺物的な扱いになっているの?
私の苦労は?
そして翌日……。
私は再び教主たちが陣取っているホテルを訪れた。
「ようこそ、エリーゼ様」
「ごきげんよう、教祖様」
私たちは白々しい挨拶をかわし、お互いの陣容を眺める。
こちらはライラ、ダリウス、カリナと、あとは昨日の会議では周囲の警戒のために部屋を出ていたダリウスと私の5名。
一方、相手は50人くらいいるかしら。
テーブルやイスは全て部屋の隅に重ねられ、がらんとした空間に集められていて、ちょっとその……むさ苦しい。
見たところそこそこ魔力の多い人がいるけど……
「我らはルイン伯爵領へ赴くことを決めました。これは我らの誠意として、全てのメンバーをご紹介しようと思います」
仰々しく頭を垂れた後、自信満々の不敵な笑みを浮かべた顔をこちらに向けて教主が宣言した。
よく言うわね。私たちを捉えて生贄に捧げるためだと言えばいいのに。
「それは嬉しいですわ。我がルイン領はあなた方を歓迎します」
「えぇ、そうでしょうとも。我々はあなた様と協力してさらなる布教に勤め、必ずやエリーゼ様のお役にも立って見せましょう」
私の思いとは裏腹に、芝居がかった口調で教主が宣言した。
えぇ?演技の会話を続けるのですか?
「ありがとう。期待しているわ」
相手が本性を現さないものだから、私も付き合わなくてはならない。
面倒なのだけども……。
「ついては我々に協力の証など、いただけないでしょうか」
さらに面倒なことに、教主は急に真面目な顔をしてこんなことを言いだした。
なんでしょうか?
彼は私に魔法をかけられたと信じているようなので合わせるのが大変なのに。
「証ですか?それはどういったものを考えていらっしゃるのですか?」
「ふっふっふ」
なぜそこで笑うの?気持ち悪いんだけど。
しかし、嫌な感じではないので、対応は間違ってないようね。
「それは、私とエリーゼ様との結婚です」
「はっ?」
「……えっ?」
しまった……やってしまった。バレたわよね?
いえ、申し開きはしないけど……無理よ。
こんな醜悪なおじさんと結婚?
どんな地獄なのよ。
見た目は悪くないのかもしれないけど、頭がおかしいのよ?
無理無理無理無理。
そんなことは無理。
きっとアッシュもキレるわ。
「貴様……どういうことだ?私の魔法が効いていないというのか?」
やってしまったわね。
魔法がかかってないことがバレてしまったわね。
この場に集まった信徒たちが一斉に武器を構えた。
こちらもそもそも戦う予定だから問題ないけど、不意を突けなくなってしまったわね。
ごめんなさい。
「どういうカラクリか知らんが、騙していたというなら仕方がない。この場で倒して生贄に捧げてやろう。行け!」
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