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第2話 潜入調査
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「エリーゼ様、あちらをご覧ください」
ギーゼの街に到着した私とライラはさっそく目標の宗教団体との接触を図るべく街を歩いていたところで、宗教関係者と思われるものたちを発見した。
この宗教は全く地に隠れていると言った様子はなく、堂々と街に出ているようね。
どうやらこれから演説を開始するみたい。
私たちは周囲を確認すると、関係者と思われるものは合計15名。
なかなかの大所帯だ。
これから話をするために持ち込んできたと思われる台の上で通行人に声をかけている者。
その台のまわりで周囲を警戒している者が4名。
さらにまばらに散らばって、これから始める演説の勧誘をしている者たちが8名と、恐らく隠れているつもりで見張っている者が2名。
手慣れた様子から何度も繰り返し行っていることが伺える。
これはもう怪しい宗教という枠ではなく、堂々と布教活動をしている宗教ではないだろうか?
「とりあえず接点を探るためにも演説を聞きましょうか。一応周囲の警戒をお願いね、ライラ」
「はい」
ライラは短く答え、私の隣で怪しまれないように周囲を伺っている。
そこそこ通行人が多い通りで足を止めさせるための勧誘も放たれている状況なので、立ち止まって演説を聞こうとする人も多かった。
おかげで紛れやすい。
「みなさん、足を止めて頂き感謝します。
私たちはグラシウス教の信徒です。
この国ではラディフィウス神を信仰するものが多いと聞いております。
それはかつての戦乱の時代からと聞いております。
かれこれ1,000年です。
なぜ皆さんはラディフィウス神を信仰するのですか?
彼女は世界を生み出した神の1柱と言われています。
しかし、実態はグラシウス神の付き人のような立ち位置にすぎません。
愛されていたかもしれませんが、役割はそうです。
なぜラディフィウス神が落ちた後もグラシウス神は世界創造を続けられたのですか?
ほかならぬ、世界創造はグラシウス神の御技にほかならないためです。
にもかかわらず、グラシウス神を敬わず、ラディフィウス神を崇めることは道理から外れた行いです。
しかもラディフィウス神は既に落ちた神なのです。
だからこの国は苦しいのです。
一部の既に富める者、力のある者のみが栄え、力なき者は耐えるしかありません。
これは間違っています。
今こそ正しき神であるグラシウス神を崇め、理を取り戻し、幸福になるときなのです。
もし興味がある方はこの後しばらく私はここに残っておりますので、声をかけてください。
皆様に神のご加護がありますことを祈ります」
うん……思いのほか真っ当な内容だったけど、最後の発言だけは問題ね。
今は眠りについているグラシウス神だが、いつか復活するとされている。
その時に向けて、世界を安定に保つことこそが地上のものたちの使命なのよ?
私たちの教義とは少し差があるが……苦しい民を勧誘するにあたって、あれくらいの改変はあるものだろうか。あまり宗教に詳しいわけではないからそこはわからない……。
私は訝しく思いながらも、少し待って通行人が入れ替わった後、演説を行っていた信徒に声をかけた。
「興味があるんだけど、どうすればいいのかしら?」
「素晴らしいことです。あなたに神のご加護がありますように。それでは私について来てください。まだこの街では正式な神殿を建てるには至っておりませんが、修行を積み、新たなる教義の解釈を編纂された教主が対応させていただきます」
「それは素晴らしい」
私は大仰に喜びながら信徒の後に続く。
胸や尻に向けた不躾な視線は不快だが、今は堪えないといけないわね。
「(エリーゼ様?大丈夫なのですか?)」
「(問題ない。この街ではそこまで強い魔力は感じない)」
ライラは周囲を警戒しながらどこに行くのかを想像しているのだろう。少し困った表情で私に小声で話しかけてきた。
対する私は信徒たちの魔力の感じから目的地にも目星がついているし、この宗教の中で懸念するほどの強力な魔力を持ったものがいないことは探れていた。
この能力は私の特殊能力……というかユニークスキルだ。
少し目を凝らせば周りにいるものの魔力量や属性などがわかるし、意識を研ぎ澄ませばある程度の広さの大まかな調査ができる。
もちろん、相当高位の者に本気で隠されれば発見できない可能性はあるが、そんなことができるのはアッシュくらい。
あのレベルがこんな街をのんびり歩いていたら、それこそ驚きつつ全力で勧誘するわ。
「(しかしどこかに連れ込まれたりしたら……)」
「この方角に歩いていくということは、ホテルでしょうね」
「えっ」
小声での問いかけに普通に答えた私にライラが驚いたようだが、その声が聞こえた信徒も驚いていた。
さて、どう答えるかしら?隠すようなら……
「おっしゃる通りです。よく把握されておいでで……この街の1等級のホテルの離れを借りていまして、そこで布教を行っております」
ふむ。事前調査を行ってくれたセバスチャンが言っていたとおり。
今だに彼らがどこから来たのかはわかっていないけど、この街では聞いていたとおりの場所にいるようね。
ギーゼの街に到着した私とライラはさっそく目標の宗教団体との接触を図るべく街を歩いていたところで、宗教関係者と思われるものたちを発見した。
この宗教は全く地に隠れていると言った様子はなく、堂々と街に出ているようね。
どうやらこれから演説を開始するみたい。
私たちは周囲を確認すると、関係者と思われるものは合計15名。
なかなかの大所帯だ。
これから話をするために持ち込んできたと思われる台の上で通行人に声をかけている者。
その台のまわりで周囲を警戒している者が4名。
さらにまばらに散らばって、これから始める演説の勧誘をしている者たちが8名と、恐らく隠れているつもりで見張っている者が2名。
手慣れた様子から何度も繰り返し行っていることが伺える。
これはもう怪しい宗教という枠ではなく、堂々と布教活動をしている宗教ではないだろうか?
「とりあえず接点を探るためにも演説を聞きましょうか。一応周囲の警戒をお願いね、ライラ」
「はい」
ライラは短く答え、私の隣で怪しまれないように周囲を伺っている。
そこそこ通行人が多い通りで足を止めさせるための勧誘も放たれている状況なので、立ち止まって演説を聞こうとする人も多かった。
おかげで紛れやすい。
「みなさん、足を止めて頂き感謝します。
私たちはグラシウス教の信徒です。
この国ではラディフィウス神を信仰するものが多いと聞いております。
それはかつての戦乱の時代からと聞いております。
かれこれ1,000年です。
なぜ皆さんはラディフィウス神を信仰するのですか?
彼女は世界を生み出した神の1柱と言われています。
しかし、実態はグラシウス神の付き人のような立ち位置にすぎません。
愛されていたかもしれませんが、役割はそうです。
なぜラディフィウス神が落ちた後もグラシウス神は世界創造を続けられたのですか?
ほかならぬ、世界創造はグラシウス神の御技にほかならないためです。
にもかかわらず、グラシウス神を敬わず、ラディフィウス神を崇めることは道理から外れた行いです。
しかもラディフィウス神は既に落ちた神なのです。
だからこの国は苦しいのです。
一部の既に富める者、力のある者のみが栄え、力なき者は耐えるしかありません。
これは間違っています。
今こそ正しき神であるグラシウス神を崇め、理を取り戻し、幸福になるときなのです。
もし興味がある方はこの後しばらく私はここに残っておりますので、声をかけてください。
皆様に神のご加護がありますことを祈ります」
うん……思いのほか真っ当な内容だったけど、最後の発言だけは問題ね。
今は眠りについているグラシウス神だが、いつか復活するとされている。
その時に向けて、世界を安定に保つことこそが地上のものたちの使命なのよ?
私たちの教義とは少し差があるが……苦しい民を勧誘するにあたって、あれくらいの改変はあるものだろうか。あまり宗教に詳しいわけではないからそこはわからない……。
私は訝しく思いながらも、少し待って通行人が入れ替わった後、演説を行っていた信徒に声をかけた。
「興味があるんだけど、どうすればいいのかしら?」
「素晴らしいことです。あなたに神のご加護がありますように。それでは私について来てください。まだこの街では正式な神殿を建てるには至っておりませんが、修行を積み、新たなる教義の解釈を編纂された教主が対応させていただきます」
「それは素晴らしい」
私は大仰に喜びながら信徒の後に続く。
胸や尻に向けた不躾な視線は不快だが、今は堪えないといけないわね。
「(エリーゼ様?大丈夫なのですか?)」
「(問題ない。この街ではそこまで強い魔力は感じない)」
ライラは周囲を警戒しながらどこに行くのかを想像しているのだろう。少し困った表情で私に小声で話しかけてきた。
対する私は信徒たちの魔力の感じから目的地にも目星がついているし、この宗教の中で懸念するほどの強力な魔力を持ったものがいないことは探れていた。
この能力は私の特殊能力……というかユニークスキルだ。
少し目を凝らせば周りにいるものの魔力量や属性などがわかるし、意識を研ぎ澄ませばある程度の広さの大まかな調査ができる。
もちろん、相当高位の者に本気で隠されれば発見できない可能性はあるが、そんなことができるのはアッシュくらい。
あのレベルがこんな街をのんびり歩いていたら、それこそ驚きつつ全力で勧誘するわ。
「(しかしどこかに連れ込まれたりしたら……)」
「この方角に歩いていくということは、ホテルでしょうね」
「えっ」
小声での問いかけに普通に答えた私にライラが驚いたようだが、その声が聞こえた信徒も驚いていた。
さて、どう答えるかしら?隠すようなら……
「おっしゃる通りです。よく把握されておいでで……この街の1等級のホテルの離れを借りていまして、そこで布教を行っております」
ふむ。事前調査を行ってくれたセバスチャンが言っていたとおり。
今だに彼らがどこから来たのかはわかっていないけど、この街では聞いていたとおりの場所にいるようね。
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