上 下
40 / 46

第40話 新国王の治世が明るい件

しおりを挟む
こうして一応、僕の治世が始まった。
一応と書いたのは、ほとんど全てを大臣たちが実行してくれるお陰で僕は聞くこと、頷くことくらいしかやることがないからだ。

こんなんでいいんだろうか? と思ってしまうくらいだけど、無事に王都は復興して行ってるし、国内に目立った問題はない。
たとえ問題が発生してもクラム様をはじめとする貴族の方々が『私が対処してきます』と言って率先して行動してくださり、問題を解決してくれています。

この前クラム様は『良い流れが作れたからそろそろ自分が前に出るのはやめる。これ以上やるとやっかまれるから』と仰っていた。
本当に彼には感謝しても感謝しきれない。

そして、エフィ様については申し訳ないけど諦めてほしいと言われた。
なにせ大臣のトップがエルダーウィズ公爵であり、僕を支えてくれる貴族の急先鋒がクラム様だ。
この上、王妃がエフィ様だと、完全にエルダーウィズ公爵家が囲っているようにしか見えないと。

とても残念な気持ちになったが、理由は理解できるものだった。
それでも諦めきれない想いはある。実は一度だけお目にかかったアリア様もお美しく……。

 
一方で、神妙な顔つきのクラム様から、私的な理由でもやめてほしいんだと言われた。

なんとエフィ様はエルダーウィズ公爵の実の娘ではなく、クラム様にとっては義妹だということだった。
だから、エフィ様はクラム様と結婚予定なんだとか。

焦った。
そしてエルダーウィズ公爵から聞かれたときにエフィ様と答えなくて良かったと思った。
もしそんなことをして公爵をはじめとする大臣の方々が僕とエフィ様を結婚させていたらクラム様の心を離すかもしれなかった。
いや、この話をしてくれるクラム様の顔を見ればわかる。

クラム様はエフィ様が好きなのだ。

僕は知らなかったこととはいえ、危ない橋を渡ったことを反省し、クラム様に謝ったところ、彼からも謝られた。
実は僕がエルダーウィズ公爵に返答しそうになった時に力づくで止めていたと言われ、良かった……という気持ちと、いつでも殺されるという恐怖を感じた。

だが、クラム様は優しいから、こうやって会話をしておけば大丈夫な気はする。
今後絶対に危うい話は先にしておこうと誓った。

そうして国は安定した。
国民は前より明るくなったように感じるし、王城を訪れる商人たちは僕を讃えてくれた。

もちろんその言葉を鵜呑みにすることはできないし、気を抜くわけにもいかない。

以前は王族も貴族も不正が多かったと聞いている。
そんな人たちの多くが魔狼の腹に収まってくれたおかげで、僕は即位したし、王国の未来を憂いていた人たちが政権や王城での職に就いてくれている。
とても心強い。

さらに叔母であるヴェルト教授と、その助手となったエフィ様が次々に新しい魔道具を発表している。
食べ物を一定の温度に保つとか、部屋を涼しく保ってくれるとか、遠くの人と会話できるとか、誰もが読める文字で報告書を書いてくれるとか、書類のチェックをしてくれるとか、浮気をチェックしてくれるとか、本当に次々に生み出される道具にびっくりする。

僕もあのまま国王にならなかったらこの研究を手伝えていたのかなと思うと惜しい気もするけど、2人からは僕が国を安定させてくれたから研究が続けられているんだと言われて嬉しい気持ちになったよ。

浮気チェックだけは多くの貴族たちが使用を拒んだのも面白かった。
側室を設けることもあるから、誰かを一途に思っているかどうかを判定するわけではなく、伴侶に秘密の恋をしていないかチェックするとかどうやってるんだろう。

そしてそれを向けられたクラム様が面白かった。
エフィ様にどうかそれだけは、と言ってしまったため位に、エフィ様が『お兄様は誰か良い方がいらっしゃるのですか?』と笑っていない眼で迫っていたから。
そしてそわそわしながらそれを見ている叔母……。いや、反応を見る限りクラム様は望みはないと思うんだよね。

結果、エフィ様はクラム様に魔道具を当てることに成功していた。
逃げ回るクラム様に対して『お兄様なんて嫌いです!』と涙を流されて崩れ落ちられてはクラム様も放ってはおけず、その隙に……。エフィ様、やりますね……。

結果は〇。クラム様は浮気なんかしておらず、一心にエフィ様を想っているとのことで、エフィ様は大満足しておられました。

「なぜ魔道具を避けたのですか? 本気で心配したのです」
と可愛らしく不満を伝えるエフィ様。

「なんかほら、恥ずかしかったからさ。俺は君だけを見ているよ。それに、あれ……」
クラム様は誠実に答えつつ、さっきまで叔母さんが立っていた方を指さします。

「あぁ……」
それを見てエフィ様は申し訳なさそうな顔になりました。

そう、叔母さんが崩れ落ちていました。

誰も支えませんでした。


 
こんな楽しい日々が来るとは予想外でした。
国王になると宣言した時には、もっとドロドロした大人達の汚い世界で、心を削りながら一生働くものと思っていた。

もちろん、気を抜けばそんなことになりかねない。
そうならないために、気を引き締め、一つ一つのことに間違わないように進んでいく必要がある。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

【完結】許婚の子爵令息から婚約破棄を宣言されましたが、それを知った公爵家の幼馴染から溺愛されるようになりました

八重
恋愛
「ソフィ・ルヴェリエ! 貴様とは婚約破棄する!」 子爵令息エミール・エストレが言うには、侯爵令嬢から好意を抱かれており、男としてそれに応えねばならないというのだ。 失意のどん底に突き落とされたソフィ。 しかし、婚約破棄をきっかけに幼馴染の公爵令息ジル・ルノアールから溺愛されることに! 一方、エミールの両親はソフィとの婚約破棄を知って大激怒。 エミールの両親の命令で『好意の証拠』を探すが、侯爵令嬢からの好意は彼の勘違いだった。 なんとかして侯爵令嬢を口説くが、婚約者のいる彼女がなびくはずもなく……。 焦ったエミールはソフィに復縁を求めるが、時すでに遅し──

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」 子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。 彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。 彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。 こんなこと、許されることではない。 そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。 完全に、シルビアの味方なのだ。 しかも……。 「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」 私はお父様から追放を宣言された。 必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。 「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」 お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。 その目は、娘を見る目ではなかった。 「惨めね、お姉さま……」 シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。 そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。 途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。 一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

<完結> 知らないことはお伝え出来ません

五十嵐
恋愛
主人公エミーリアの婚約破棄にまつわるあれこれ。

処理中です...