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第27話 家族でもケジメは必要だと思って両頬を差し出したら後ろから妹に刺された件
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□エルダーウィズ公爵邸にて (クラム)
「父さん、ミトラ様、ロイドを救えなかったことは謝ります。すみません」
ようやく状況も、そして2人の感情も落ち着いてきたころ、俺はその言葉を吐いた。
我ながら酷い。ただただ許してほしいという逃避に近い行動だと思う。
もし僕が父さんだったら一発くらい殴ると思う。
もちろん、どうやったとしてもロイドは死んでいた。
その死に方の中では最もましなものになったはずだ。
まぁ、齧られて咀嚼されるというのはましな死に方ではないが、一瞬で死ねただろうから痛みや苦しみは少なかっただろう。
騙されて処刑されるとか、非合法の魔道具につながれて永久に魔力供給のタンクにされるとか、生きながらゆっくり削られていくとか、好きになった相手が俺に求愛するのを傍観させられるのよりはましなはずだ。
最後のは特に問題ないんじゃないかって?
えっ? 聞きたい?
エフィが死んだ世界線の話なんだけど、俺が怒って出国し、隣国で出世したらしいんだよ。
それで戦争でこの国を倒し、高位貴族を全員捕えてさ。
で、王女様をはじめ女の子達には散々な未来が待ってるわけだけど、女の子たちが助かりたい一心で俺に求愛するけど散々な行為が展開され、さらにその姿を縛り付けられて全部見せられた後、男どもも全員処刑するらしくてさ……これ以上はやめておこう。
まぁどの未来も酷いわけ。
呪われてるんじゃないかってくらいにな。
だからまぁ、そもそも本人の言動が気に入らないから助ける気もなかったけど、父さんとミトラ様のためにも何とかしようとはしてみたわけ。
でもダメだった。
それでも3発くらい殴られる覚悟はしてる。
どんなやつでも子供は子供。誰かに当たらないと気持ちも収まらないでしょ?
ならいっそ、諦めて一番手軽な隔離を選び、その間にロイドは死んでしまってました、なんて状況を作った俺に当たってくれ。
エフィに当たられるより何倍もましだよ。
そう思って両頬を差し出したんだが、張り手も、パンチも、魔法も、罵声も飛んでこなかった。
「クラム……」
「クラム殿、方々に気を使った立ち回りに感謝する。また、私たちを助けてくれてありがとう」
むしろお礼を言われた。
なんでだよ。
当たっていいんだよ?
当たってくれよ。
俺が……楽な選択肢を選んだ俺が後悔するだろ?
「あと、殴られるために顔を前に出すのはやめなさい。あなたが私たちのためにしてくれたことはもうわかっているのだから。さっき見せてくれた"人物史”の結果。あれだけじゃないんでしょ? まったく。魔力消費の激しい魔法なのに、何回使ったの? あんなに自然に見せてくれていたけど、それ以外にもいっぱいあるんでしょ?」
「……はい」
「それくらいわかるわよ。ロイドがどれだけ酷いことをしても、あなたはずっと見てくれていたのを知ってるの。もちろん、エフィと比べるべくもないけど、そんなの弟と妹では違うし、ましてやあなたのことを敵視していた弟よ。今の結果は私とハミルの責任であって、あなたのせいじゃないわ」
わかった……。
わかったからもうやめてくれ。
そんな優しさ。欲望にまみれた俺に向ける必要ないんだ。
「ごめんなさい。クラム殿。そしてありがとうございます。もうハミルなんか引退させるか、死ぬまでこき使っていいから、あなたの自由にしていいのよ」
俺はミトラ様に抱きしめられた。
理由は知らないけど、この方はずっと俺を子供として扱ってくれた。
泥棒猫の子供みたいなもんだと思うんだが、何かしら事情があるのかもしれないが……抱擁が優しく、暖かかったのは事実だ。
「お父様、お母様……って、どうしたの?」
「アリア……」
「なんでお兄様が泣いてるの? まさかロイドのこと? 二人ともやめてよね。ロイドが死んだことでお兄様を責めるなら筋違いもいいとこよ? あのクズ。何回言っても聞かないんだから」
いや、お前に諭されたり慰められるとかないから。
「なによその失礼な表情は。私だってお兄様の優しさと、ロイドがクズだったことくらいわかるわよ」
「アリア、私たちはクラムを責めていたわけではないぞ」
「そう。ならいいわ。でもそれでお兄様がそんな表情してるってことは、原因があるでしょ?」
「アリア。やめなさい」
「お兄様が言うならやめるわ。でも気にしないでね。お兄様はもっと好きなようにしたらいいと思うわ」
いいのか? 今でも十分好きにやってるつもりだが。
「なんで私を撫でるのよ!」
好きにしたらいいと言うから、一応こいつも可愛い妹だし撫でたら真っ赤になって怒られた。なんでだ?
「もう、何しに来たのか忘れたじゃない……あぁ、思い出した。お兄様、これ、お土産。重いものは馬車に乗せてたからお父様とお母様にもう渡したのか聞こうと思ったんだけど」
どういうことだ。これが本当にあのわがまま放題だった末の妹なのだろうか?
『お土産買ってきたわよ、代金頂戴。3倍ね』とか平気で言うあの生意気なメスガキはどこに行った???
「『お土産買ってきたわよ、代金頂戴。3倍ね』とか平気で言うあの生意気なメスガキはどこに行った???」
「ちょっとお兄様! それ心の声だと思うけど、全部出てるわよ!」
「えぇ???」
すまん、つい口に出すべきだとか思ってしまった。
「まったく。そんなんだからモテなくていつまでも独身なのよ」
「急に抉るのやめれ!」
「それにどうなったの? もうエフィに求婚した?」
「ばっ……」
なんでお前がそれを?
しかも父さんとミトラ様がいる前で言うか???
「クラム殿? もしかして知っているのか?」
「ナニヲデスカ?」
「父さん、ミトラ様、ロイドを救えなかったことは謝ります。すみません」
ようやく状況も、そして2人の感情も落ち着いてきたころ、俺はその言葉を吐いた。
我ながら酷い。ただただ許してほしいという逃避に近い行動だと思う。
もし僕が父さんだったら一発くらい殴ると思う。
もちろん、どうやったとしてもロイドは死んでいた。
その死に方の中では最もましなものになったはずだ。
まぁ、齧られて咀嚼されるというのはましな死に方ではないが、一瞬で死ねただろうから痛みや苦しみは少なかっただろう。
騙されて処刑されるとか、非合法の魔道具につながれて永久に魔力供給のタンクにされるとか、生きながらゆっくり削られていくとか、好きになった相手が俺に求愛するのを傍観させられるのよりはましなはずだ。
最後のは特に問題ないんじゃないかって?
えっ? 聞きたい?
エフィが死んだ世界線の話なんだけど、俺が怒って出国し、隣国で出世したらしいんだよ。
それで戦争でこの国を倒し、高位貴族を全員捕えてさ。
で、王女様をはじめ女の子達には散々な未来が待ってるわけだけど、女の子たちが助かりたい一心で俺に求愛するけど散々な行為が展開され、さらにその姿を縛り付けられて全部見せられた後、男どもも全員処刑するらしくてさ……これ以上はやめておこう。
まぁどの未来も酷いわけ。
呪われてるんじゃないかってくらいにな。
だからまぁ、そもそも本人の言動が気に入らないから助ける気もなかったけど、父さんとミトラ様のためにも何とかしようとはしてみたわけ。
でもダメだった。
それでも3発くらい殴られる覚悟はしてる。
どんなやつでも子供は子供。誰かに当たらないと気持ちも収まらないでしょ?
ならいっそ、諦めて一番手軽な隔離を選び、その間にロイドは死んでしまってました、なんて状況を作った俺に当たってくれ。
エフィに当たられるより何倍もましだよ。
そう思って両頬を差し出したんだが、張り手も、パンチも、魔法も、罵声も飛んでこなかった。
「クラム……」
「クラム殿、方々に気を使った立ち回りに感謝する。また、私たちを助けてくれてありがとう」
むしろお礼を言われた。
なんでだよ。
当たっていいんだよ?
当たってくれよ。
俺が……楽な選択肢を選んだ俺が後悔するだろ?
「あと、殴られるために顔を前に出すのはやめなさい。あなたが私たちのためにしてくれたことはもうわかっているのだから。さっき見せてくれた"人物史”の結果。あれだけじゃないんでしょ? まったく。魔力消費の激しい魔法なのに、何回使ったの? あんなに自然に見せてくれていたけど、それ以外にもいっぱいあるんでしょ?」
「……はい」
「それくらいわかるわよ。ロイドがどれだけ酷いことをしても、あなたはずっと見てくれていたのを知ってるの。もちろん、エフィと比べるべくもないけど、そんなの弟と妹では違うし、ましてやあなたのことを敵視していた弟よ。今の結果は私とハミルの責任であって、あなたのせいじゃないわ」
わかった……。
わかったからもうやめてくれ。
そんな優しさ。欲望にまみれた俺に向ける必要ないんだ。
「ごめんなさい。クラム殿。そしてありがとうございます。もうハミルなんか引退させるか、死ぬまでこき使っていいから、あなたの自由にしていいのよ」
俺はミトラ様に抱きしめられた。
理由は知らないけど、この方はずっと俺を子供として扱ってくれた。
泥棒猫の子供みたいなもんだと思うんだが、何かしら事情があるのかもしれないが……抱擁が優しく、暖かかったのは事実だ。
「お父様、お母様……って、どうしたの?」
「アリア……」
「なんでお兄様が泣いてるの? まさかロイドのこと? 二人ともやめてよね。ロイドが死んだことでお兄様を責めるなら筋違いもいいとこよ? あのクズ。何回言っても聞かないんだから」
いや、お前に諭されたり慰められるとかないから。
「なによその失礼な表情は。私だってお兄様の優しさと、ロイドがクズだったことくらいわかるわよ」
「アリア、私たちはクラムを責めていたわけではないぞ」
「そう。ならいいわ。でもそれでお兄様がそんな表情してるってことは、原因があるでしょ?」
「アリア。やめなさい」
「お兄様が言うならやめるわ。でも気にしないでね。お兄様はもっと好きなようにしたらいいと思うわ」
いいのか? 今でも十分好きにやってるつもりだが。
「なんで私を撫でるのよ!」
好きにしたらいいと言うから、一応こいつも可愛い妹だし撫でたら真っ赤になって怒られた。なんでだ?
「もう、何しに来たのか忘れたじゃない……あぁ、思い出した。お兄様、これ、お土産。重いものは馬車に乗せてたからお父様とお母様にもう渡したのか聞こうと思ったんだけど」
どういうことだ。これが本当にあのわがまま放題だった末の妹なのだろうか?
『お土産買ってきたわよ、代金頂戴。3倍ね』とか平気で言うあの生意気なメスガキはどこに行った???
「『お土産買ってきたわよ、代金頂戴。3倍ね』とか平気で言うあの生意気なメスガキはどこに行った???」
「ちょっとお兄様! それ心の声だと思うけど、全部出てるわよ!」
「えぇ???」
すまん、つい口に出すべきだとか思ってしまった。
「まったく。そんなんだからモテなくていつまでも独身なのよ」
「急に抉るのやめれ!」
「それにどうなったの? もうエフィに求婚した?」
「ばっ……」
なんでお前がそれを?
しかも父さんとミトラ様がいる前で言うか???
「クラム殿? もしかして知っているのか?」
「ナニヲデスカ?」
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