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第5話 一方その頃ギード王子たちは①
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□婚約破棄翌日の王宮にて(国王)
「まさか勝手に婚約破棄を実行するとはな。それでアザレンカ家に借りを作ることになるとは。余が決めたことだぞ? それを覆して婚約破棄をするなら先に話を通せ」
「すみません」
まったく。余の前で跪いているのは余の息子であり王太子であるギード王子だ。
幼い頃は可愛げがあったが、成長してからは女癖の悪い男になってしまった。頭は回るようだが、まだまだ青い。
せっかく余が貴族間のバランスを今だけではなく、過去から未来にかけて熟考した上で決めた婚約だったのに。
この国の最大貴族であるエルダーウィズ公爵家の娘と婚約していたというのに、あろうことか学院の夜会で婚約破棄を突き付けて来たらしい。
まったく。
聞けば地味な娘だし、期待していた魔力は持ち合わせていなかったようじゃ。
一度だけ魔法戦をやらした時にはギードに勝っていた記憶があるが、それでも使ったのは初級魔法だけだった。
なるほど、魔法に秀でた公爵家の出身なだけあって、魔力の扱いは上手いようじゃ。
しかし成長しても魔力が伸びんかったのだろう。ギードに劣るどころか、学院で授業すら受けられなくなるとは予想外だった。
それでいて他の男を誘惑する悪女ときた。
ギードもどう見ても地味な顔立ちなのに初めて会ったときは可愛いと思ったと言っていたな。
もし"魅了"を持っているとしたら危ない。
ただ、婚約破棄自体に文句はないが、エルダーウィズ公爵家をどうするか考えているのかと問うたところ、弟であるロイドは味方につけているとのことだった。
それだけでは弱いが、ロイドは正妻の子であり、兄であるクラムは側室でかつ既に亡くなった母の子。
王子としてロイドを側近につけていれば問題は起きないだろうと言われて、それならなんとかなるだろうと不問にした。
エルダーウィズ公爵家は国内で唯一魔石を算出する魔鉱山を持つ国内最大の貴族だ。蔑ろにするわけにはいかない。
いかないが、現当主は日和見で優柔不断な軟弱者だ。なぜ公爵家をアレが継げたのか?と思うくらいだが、周囲は優秀なのだろう。領地運営は安定しているし、魔石供給も特に制約を設けずとも安定させてくれている。
王城の地下には巨大な守護結界がある。
かつて王国の災厄と言われた魔物を封印しているからだ。
その魔物は突然現れ、当時の王城を崩壊させた。
騎士団も魔法師団も歯が立たず、唯一、魔女とも、大魔導士とも言われた強大な魔法使いだけが対抗することができたという。
そしてなんとか魔物に勝ったが止めを刺すことはできず、封印したと言われている。
その魔物を封じている守護結界の魔道具には定期的に魔石を入れる必要がある。
結界が弱まれば魔物が目覚め、出てくると言われている。
我が王国内には魔石鉱山が1つしかない。
それを掘る権利はエルダーウィズ公爵家にしかない。
そんな権利、取り上げてしまえと何度思ったことか。
しかしできない。
なぜなら魔石を掘りだすのには特殊な技術が必要で、それはエルダーウィズ公爵家の専売特許だからだ。
彼らを蔑ろにするわけにはいかないわけだ。業腹ものだが、仕方ない。
それに対してギード王子は新たな婚約者としてオルフェ・ハーティスを考えていると言ってきた。
ハーティス家は新興の子爵家ではあるが、類まれなる魔石加工技術を持っている。近年一気に勢力を拡大し、国内で広く魔道具に関連する仕事をしていて金を持っている。
それならよく考えていると評価してもいい判断だ。
「公爵家をつなぎとめたまま、ハーティス子爵家を遇するとは。さすが王太子殿ですな」
大臣が隣にいるオルフェという娘を見ながら手放しでギード王子を褒める。
確かに美しい娘だ。
余ですら味わいたくなる雰囲気を持っている。
「ギード王子と私のことをお認め頂けるのであれば、今後王家に献上する加工魔石の量は当然増やさせていただきます。王家は古代の魔物を封じており、その封印の維持のために多量の魔石を使われているとか。我が家の技術を持ってすれば、魔石から取り出せる魔力量をさらに増やすことも可能です」
「それは素晴らしいな。期待しているよ、オルフェ」
加工魔石とはその名の通り魔石に加工を施したもののことだ。
魔石とはそのまま使って魔力を取り出すこともできるが、その場合、魔石に込められている魔力は半分も利用できない。
取り出す過程で喪失してしまうからだ。
しかしハーティス家が開発した技術で加工を施せば、魔力の8割は利用可能になる。夢の技術だった。
その加工魔石の量が増えるのは素晴らしいことだ。
「むしろ王家から魔石を提供するから、それを加工するのじゃ」
「わかりました。あとで家のものを向かわせ、調製させていただきます」
「うむ、大臣。よきにはからえ」
「はっ」
ふむ。そろそろ余も後継を考えても良いのかもしれぬな。
もし魔石にかけている予算が減らせるなら、それは良いことじゃ。
浮いた予算で離宮でも作ってみるのも一興よな。
「まさか勝手に婚約破棄を実行するとはな。それでアザレンカ家に借りを作ることになるとは。余が決めたことだぞ? それを覆して婚約破棄をするなら先に話を通せ」
「すみません」
まったく。余の前で跪いているのは余の息子であり王太子であるギード王子だ。
幼い頃は可愛げがあったが、成長してからは女癖の悪い男になってしまった。頭は回るようだが、まだまだ青い。
せっかく余が貴族間のバランスを今だけではなく、過去から未来にかけて熟考した上で決めた婚約だったのに。
この国の最大貴族であるエルダーウィズ公爵家の娘と婚約していたというのに、あろうことか学院の夜会で婚約破棄を突き付けて来たらしい。
まったく。
聞けば地味な娘だし、期待していた魔力は持ち合わせていなかったようじゃ。
一度だけ魔法戦をやらした時にはギードに勝っていた記憶があるが、それでも使ったのは初級魔法だけだった。
なるほど、魔法に秀でた公爵家の出身なだけあって、魔力の扱いは上手いようじゃ。
しかし成長しても魔力が伸びんかったのだろう。ギードに劣るどころか、学院で授業すら受けられなくなるとは予想外だった。
それでいて他の男を誘惑する悪女ときた。
ギードもどう見ても地味な顔立ちなのに初めて会ったときは可愛いと思ったと言っていたな。
もし"魅了"を持っているとしたら危ない。
ただ、婚約破棄自体に文句はないが、エルダーウィズ公爵家をどうするか考えているのかと問うたところ、弟であるロイドは味方につけているとのことだった。
それだけでは弱いが、ロイドは正妻の子であり、兄であるクラムは側室でかつ既に亡くなった母の子。
王子としてロイドを側近につけていれば問題は起きないだろうと言われて、それならなんとかなるだろうと不問にした。
エルダーウィズ公爵家は国内で唯一魔石を算出する魔鉱山を持つ国内最大の貴族だ。蔑ろにするわけにはいかない。
いかないが、現当主は日和見で優柔不断な軟弱者だ。なぜ公爵家をアレが継げたのか?と思うくらいだが、周囲は優秀なのだろう。領地運営は安定しているし、魔石供給も特に制約を設けずとも安定させてくれている。
王城の地下には巨大な守護結界がある。
かつて王国の災厄と言われた魔物を封印しているからだ。
その魔物は突然現れ、当時の王城を崩壊させた。
騎士団も魔法師団も歯が立たず、唯一、魔女とも、大魔導士とも言われた強大な魔法使いだけが対抗することができたという。
そしてなんとか魔物に勝ったが止めを刺すことはできず、封印したと言われている。
その魔物を封じている守護結界の魔道具には定期的に魔石を入れる必要がある。
結界が弱まれば魔物が目覚め、出てくると言われている。
我が王国内には魔石鉱山が1つしかない。
それを掘る権利はエルダーウィズ公爵家にしかない。
そんな権利、取り上げてしまえと何度思ったことか。
しかしできない。
なぜなら魔石を掘りだすのには特殊な技術が必要で、それはエルダーウィズ公爵家の専売特許だからだ。
彼らを蔑ろにするわけにはいかないわけだ。業腹ものだが、仕方ない。
それに対してギード王子は新たな婚約者としてオルフェ・ハーティスを考えていると言ってきた。
ハーティス家は新興の子爵家ではあるが、類まれなる魔石加工技術を持っている。近年一気に勢力を拡大し、国内で広く魔道具に関連する仕事をしていて金を持っている。
それならよく考えていると評価してもいい判断だ。
「公爵家をつなぎとめたまま、ハーティス子爵家を遇するとは。さすが王太子殿ですな」
大臣が隣にいるオルフェという娘を見ながら手放しでギード王子を褒める。
確かに美しい娘だ。
余ですら味わいたくなる雰囲気を持っている。
「ギード王子と私のことをお認め頂けるのであれば、今後王家に献上する加工魔石の量は当然増やさせていただきます。王家は古代の魔物を封じており、その封印の維持のために多量の魔石を使われているとか。我が家の技術を持ってすれば、魔石から取り出せる魔力量をさらに増やすことも可能です」
「それは素晴らしいな。期待しているよ、オルフェ」
加工魔石とはその名の通り魔石に加工を施したもののことだ。
魔石とはそのまま使って魔力を取り出すこともできるが、その場合、魔石に込められている魔力は半分も利用できない。
取り出す過程で喪失してしまうからだ。
しかしハーティス家が開発した技術で加工を施せば、魔力の8割は利用可能になる。夢の技術だった。
その加工魔石の量が増えるのは素晴らしいことだ。
「むしろ王家から魔石を提供するから、それを加工するのじゃ」
「わかりました。あとで家のものを向かわせ、調製させていただきます」
「うむ、大臣。よきにはからえ」
「はっ」
ふむ。そろそろ余も後継を考えても良いのかもしれぬな。
もし魔石にかけている予算が減らせるなら、それは良いことじゃ。
浮いた予算で離宮でも作ってみるのも一興よな。
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