上 下
26 / 43
第一章

第26話 vs フロストウッドガーディアン

しおりを挟む
 よくわからないスキルが使えるようになった俺は、自信満々なミルティアと一緒にフロストウッドガーディアンの討伐……いや、街のギルド長は防衛って言ってたけども……に向かった。

 偶然ギルドに居合わせたが、特にギルドカードを提出して依頼を受けたわけではなかった俺のことに気付いているギルド職員はいないから逃げても問題なさそうだ……。

「まさか逃げないよね?」
「まっ、まさかだよな……はは」

 やる気なさげに後をついて歩く俺を見ながら牽制してきやがった。
 くそぅ。


 
 そんな俺は今フロストウッドガーディアンを遠目から眺めている。

 でかすぎるだろ……。
 俺達とフロストウッドガーディアンの間にはまだかなりの距離があるはずなのにその雪をかぶった巨体が良く見える。

 あんなのにどうやって攻撃をあてろと?
 あと、当てたとしてダメージが通る気がしないんだが。
 解放して貰ったのはあんなでっかいモンスターすら切り裂けるようなもの凄いスキルなのか?

「とりあえず遠目から攻撃を当ててみようよ。物は試しだよ」
 隣でフロストウッドガーディアンを眺めていたミルティアが事もなさげに提案してくる。
 
「確かにそうだな。なんか雪を周りに投げてるように見えるけど、さすがにここまでは飛んでこないよな」
 この距離で判別できる雪の塊……一個一個が俺より大きいと思うんだ。
 
「じゃあとりあえず飛んでいこう」
「はぁ?どうやって?」
 浮かび上がったミルティアに呆れる俺。
 何を言い出すんだこいつは。
 俺に飛行スキルなんてない。そんなのは高位の魔導士しか無理だろう。

「ん?」
「???」
 『ん?』じゃね~よ。飛べるスキルなんて解放されてね~よ!
 なんども言うようだが俺ができるのはせいぜい剣が振れて支援魔法と回復魔法が使えて、いくつか魔法剣が使えるくらいだぞ?
 

 さっき凄そうなのが3つ解放されたけど、飛行スキルなんて持ってない。


「あぁ、知らないのか」
 飛び上がったところから俺の方を見てなにやら納得している様子のミルティア。
 なにを?えっ?俺知らないうちになにかされてたの?えっ?まさか夜中になにかしてたのか?
 あと、もうちょい上に行け!あと少しだから……。

 
「夜の帝王のスキルで飛べるでしょ?」
「は?」
 とまどう俺に意味不明なミルティアの言葉。


 どういうこと~~~~~~!!!!


 

 
 なんと俺は今、空を飛んでいる。
 俺にはこのスキルの意味がわからない。
 
「夜の帝王っていうから、てっきり絶倫とかそっち系のスキルなのかと思ってたよ」
「それであってるよ?ムカつくことに……(怒)」
「は?」
 相手のところまで飛んでいくとかそういうことなのか?相手からしたら怖すぎないか?
 あとなんでそんなに怒り心頭なのかな?
 お前がスキル本投げてきたんだろ?
 
「もう、ボクになにを言わせるんだよアナト!」
「ぎゃぁ~~」
 やめろ!空中は、空中はまずいって!!!電撃をやめろ~~~!!!

「あっ。もうアナトってば。ヒーリング!戻っておいで」
 落ちていく俺に回復魔法をかけてくれるミルティア。
 完全な自作自演じゃねぇか!

 
「それにしても、こんなに普通に飛べるんだな」
 俺は上下にふわふわ動きながら感触を確かめる。
 
「そりゃあね。なかなか珍しいスキルではあるよ?」
 嫌そうな顔をしながらも説明してくれる。

「スキル本があれば、俺でも世界最強になれるんじゃないか?」
「それはどうだろう。アナトのスキル群はボクでも見たことがないくらいの数だし、全部を使いこなせたら相当強いのは確かだと思うけど」
 なん……だと?
 冗談で言ったんだが、横を飛んでいるミルティアの表情は真面目な感じだし、帰ってきた言葉も予想外の者だった。

 

 そんなことをしていると結構フロストウッドガーディアンの近くまで来た。
 
 あらためてでけぇな。


「じゃあアナト!行ってみよう!!」
「軽いな!?」
 空中で手を掲げてクルクルしてる……器用な奴だな。
 
「だって、とりあえず攻撃しないとね。アイツの視界にアナトは入ってないからチャンスっぽいしね」
 ミルティアは右掌をおでこにあてて様子を伺っているが、俺からも同じように見える……。
 
 まあいっか。たしかに問題ないよな。
 仮に攻撃を当ててフロストウッドガーディアンが追ってきても飛んで逃げれそうだ。
 上手くヘイトを集めて温泉街から離せるならそれもありなのかな?

「じゃあいくぞ!」
「おぉ!一応、3つとも使うのをお勧めするよ。ヴァルキリープロテクトからね」
 なんだろう?
 また太っちょ大モグラの時みたいな攻撃を食らったら嫌だから大人しく従うけど、わざわざそんなことを言うなんて意味深じゃないか?
 まぁ、断る理由もないが。


「わかった!ヴァルキリープロテクト!!」
 俺とミルティアの周囲を淡いピンク色の光が包み込む。名前の通りプロテクト系の魔法なんだろうな。
 夜の帝王にはある意味似合う色だ。

「あとはフロストウッドガーディアンの下部はちゃんと残してね!ファイト♡」
 見た目女の子に応援されて、しかもウィンクを貰うって言うのはなかなか悪くないな……。
 やめろ"夜の帝王"!
 
「じゃあ、今度こそ攻撃だ!バーニングスラッシュ!!」
 そう言って俺は剣を振るう。
 軽く振った俺の剣から放たれたのは凄まじい熱量の炎をまとった斬撃だった。
 えっ?大丈夫だよな?ちゃんと上側に向かってるよな?

 
「エターナルブレイク」
 続いて3つ目のスキル名を呟きながらもう一度剣を振った……。



 ……スパン……


 

 フロストウッドガーディアンが真っ二つに斬れた……。






「は?」


 ズゴ~~~~ン!!!!
 
 上下に真っ二つになったフロストウッドガーディアンの上部に炎の剣撃が到達する。
 暴虐なまでの一撃はフロストウッドガーディアンだったものを押しつぶしていく。
 そしてさらに凄まじい炎が燃え上がり、全体を燃やしていく。

 うぉお!火がこっちまで飛んできやがった。
 このためにヴァルキリープロテクトをかけさせたのかよ。


 それにしてもオーバーキルにも限度ってものがあるのではないだろうか……。
 


「いえぇぇえええぇえぇぇぇぇええええええい!!!!」
 右手の人差し指を天にかざしてクルクルと宙を回るミルティア……。
 
「なんだ?どうしたんだ?」
 この俺のかっこよさに脳が溶けたのか?

「見て!あれ!あそこ!!!」
「ん?」
 ミルティアが指さしたそこにはフロストウッドガーディアンの下部が……。
 
 その太い幹の中心部になにやら豪華な箱が見える。
 
 あれが宝箱か!

 
「よかった!さも当然出てくるかのように言ったけど、実際は10回に1回くらいなんだよね|」
「おい!」
 これで出なかったらフロストウッドガーディアンが可哀そうすぎるだろ!?
 俺?俺はとんでもないスキルを3つも使えるようになったし、むしろラッキー?


「まぁまぁ、出たんだからいいじゃないか!」

 確かにあの豪華な装飾は嫌でも期待感を煽ってくる。

 これでエロキノコが入ってたらミルティアは発狂しそうだな。
 ギルドに貼ってあった依頼の主は喜ぶかもしれないが。


 俺とミルティアは宝箱があるフロストウッドガーディアンの下部……もうでっかい切り株にしか見えないな……に降り立つ。

「これは期待できるね、アナト!!」
「なにが出るかな?」
「楽しみだね♪さぁ開けてみて!」
 うっ……嫌な記憶が浮かび上がってきた。
 俺が開けてもいいんだろうか?

 ダンジョンで出た宝箱から良いものを貰えたためしがないんだが……。


「ミルティアが開けてくれよ」
「えぇ、それはダメだよ!ボクにはダンジョンの宝箱を開けることはできないのさ!」
 なんだよその設定は。

「もしそれができたらやりたい放題じゃないか!」
「今でもそうだろう?」
「なんでだよ!!!」
 痛い痛い。ポカポカ叩くな!

「じゃあ、俺が開けるしかないのか……ゴクリ」
「なんで?こんな宝箱からそんなに悪いものがでるわけないよ??」
 そういう設定なんだろうな。でも……。
 頼むから仕事をするなよ?"夜の帝王"よ!

「ねっ、早くしようよ!欲しがってるものが出てくるんだからアレしか出ないよきっと!」
 夜の帝王の前でそんな危ないセリフを吐くんじゃない!

「ね~」
 くそっ。俺を覗き込みながら催促するな。

 わかった、行くぞ!

「えい!!!」

 宝箱を開けたそこにあったものは……





 見覚えのある羅針盤が……っておい!

「やったねアナト!"境界の羅針盤"だよ!!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

処理中です...