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いざ安住の地へ

<フィン> 協力者

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「どうかお願いします。ミカエル様を……助けてください」
「えっ?」
 とつぜん頭を下げられて僕は混乱する。
 彼女は……?

「申し訳ありません、はしたない真似を」
「いや……エルメリアさんは兄上を心配してくれるのか?」
 僕は正直にそう言った。
 もしこれで彼女が敵だったら仕方ない。心に決めた。

「はい。フィン様はわたくしのことをご存じでしたでしょうか?」
「お名前は。ハザウェイ公爵家の方だったと記憶している」
 間違っていたらとても失礼だが……。
 
「覚えて頂いていて光栄です」
 ほっ……あってた。

「わたくしはミカエル様とは幼馴染でして、小さいころから親しくさせて頂いておりました」
「そうだったのか」
 驚いた。
 僕の中で兄上はずっと臥せっているから。
 本当に小さいころにお菓子を貰ったことがある気がするくらいだ。
 それくらい兄上との関わりは記憶にない。

「もしお許しいただけるのであれば、わたくしにも手伝わせていただけないでしょうか?」
「いいのか?」
「はい。お望みなら一晩中ここをあけておくこともできます」
 とても助かる。
 まだまだ調べたかった。
 しかもここには当然だが防御結界が張ってある。
 大事な古書を焼失したりしたら大事だからだ。
 襲撃者を気にせず調べられるのはありがたい。
 この結界は魔導騎士団の仕事だ。
 いつか彼らと肩を並べて議論できたらいいなと思う。

 そのためにはまず僕が結果を出すことだ。
 彼らに認められるくらいのものを出せば、話くらい聞いてくれるかもしれない。
 まずはそれを信じて兄上の魔力病を治す魔道具を作ろう。

「では、エルメリアさん、お願いする。私がわかっていることを伝えるので」
「よろしくお願いします」
 エルメリアさんに魔力病が身体の不調が原因で起こる病気であること、溜まった魔力を取り除き、回復させれば治るはずであることを伝える。
 彼女は驚きながらも理解してくれる。詮索はしてこない。

「教えていただいたことを順番に実施する魔道具を作ればいいわけですね」
「そうだと思う」 
「溜まった魔力を放出し、異常部位を治す。間で体力回復なども行った方がいいのではないでしょうか?」
「そうかもしれない。魔力病のせいで病床に伏せて長いから」
 僕らは資料を漁り、メモをして、たまに議論しながら整理していく。
 兄上のことを考えれば切羽詰まった状況なのだが、この時間は楽しかった。

「異常部位を治すというのがやはりネックになりそうだね」
「そうですね。どうやって治すか?ですが」
「兄上の病状をもっと掘り下げた方がいいのかもしれない。それでわからないかな?」
 僕には兄上が不調となったころの記憶はない。
 まだ6歳とかだったから……。

「ミカエル様が最初に体調を崩されたとき、私はご一緒させていただいていたのです。あの時ミカエル様は突然ティーカップを落として胸を押さえられていました」
「胸を……」
「はい。とても怖くて……だからよく覚えています」
「すまない、辛い記憶を」
「気になさらないでください。ミカエル様が治るかもしれないのですから」
 申し訳ない。必ずや兄上を治して彼女の心意気に報いたい。

「そうなると、肺か心臓か……そうなる前に何かおかしいことはなかったかな?」
「倒れられる前ですか?」
「そうです。この資料によると人体の不調はあるとき大きな症状となって現れますが、多くの病気にその前段階があると書いてあります。これでどこが不調なのか特定できるのではないかと思ったのです」
「思い出します。少し待ってもらえますか?」
 そう言うと彼女は目を閉じる。
 ……とても綺麗な人で、不意に心が慌てる。
 いや、もしかしたら兄上の婚約者とかだったかもしれない人だから。
今からでも敬語にしておくか……。
 落ち着け自分。
 家さん、カーム唱えてくれないかな。

 バカなことを考えてると、エルメリアさんが目を開く。
「思い出したことを整理しましたので聞いてください」
「はい」
 真面目に真面目に……。

「まずミカエル様はもともと運動神経の良い方でした。小さい頃なので比較は難しいですが。
 でも、ある頃から急に体力がなくなったように思います。
 私では当然ながら追いかけっこをしても追いつけませんが、友達との遊びの中で急に勝てなくなりました。
 あの頃はその友人の体も大きくなったのでそのせいかと思っていましたが、思い返してみるとちょっと変です」
「なるほど」
 やっぱりこの資料に書いてある通りだ。
 身体の不調が先に起きてたんだろう。

「あとは、兄上は咳込んだりといったことはあったかな?」
「いえ、それはなかったと思います。走った時にむせるようなことはありましたが……」
 これはほぼ間違いないんじゃないか?

「心臓だ……僕はこの後兄上を見舞いに行ってくる」
「お願いします。私は友人の魔道具職人にも訪ねてもよろしいでしょうか?」
 良いと思うけど派閥とかはどうだろうか……。

「もちろん信頼できる人です。私がミカエル様と親しかったことも知っていますし、私がミカエル様を治したいと言って学院で研究機関に足を運んでいたのも知っています」
 そうだったのか。
 そんなにも兄上のことを。
 恥ずかしながら全く知らなかった。
 もっと早く調べに来ていたら話もできたのかな。

「エルメリアさん、お願いするよ。もし兄上に会って心臓病だと確認出来たら使いを送る。その後、僕はお祖父さまに聞いてみようと思う。なにかわかるか、と」
「わかりました。よろしくお願いいたします、フィン様。ではまた来週くらいにここでお話しませんか?」
「ぜひお願いしたい」
 そう言って僕らは約束をして図書室を後にした。
 もう完全に夜が明けてる。
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