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第一次対馬防衛戦
160.蒙古襲来に備える
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対馬を襲った少数の敵は撃退したが、どうやら本隊の侵攻は間近に迫っているようだ。
とはいえ筑豊国そのものには戦乱の兆しはなく、のどかな田園風景が広がっている。
この風景にホッとするのは、たった数日間ではあるが戦さ場に身を置いてきたからなのだろう。
この地に住まう者達の笑顔は、何としてでも護らなければならない。
この日の夕食後、年長組が集まる居間では、専ら蒙古軍率いる敵勢に如何に備えるかが話題となった。
「だからよ、高麗軍の一人ひとりの強さは大したことないんだって。問題は数だ。あの数で押し込まれちゃあ多勢に無勢の味方勢に勝機はないってことよ」
青が入れてくれたお茶を啜りながらクダを巻くのは紅だ。そこに白が参加する。
「そりゃ紅姉とか私達からすれば大したことないかもしれないけど、実際に最前線で戦うのは、桜姉の旦那とか名越のおじさん達なんだよ?」
「そうなんだよなあ。里の連中で参戦できるのは、名越勢を入れても三百にも満たない。一人十殺しても三千人までしか倒せないな」
「それは机上の空論。実際には一人に対して四方八方から敵が押し寄せる。その状況から切り抜けられるのは私達ぐらい」
「わかってるよそんな事は!だからちゃんと作戦立てなきゃいけないんだろ」
作戦か。紅は基本的に突っ込んでいくような気がするが。
「あの……素朴な疑問なんですが……」
そっと手を上げたのは、最近緑茶の味を覚えたエステルだ。
「んあ?どうしたエステル?疑問を持つってのは良いことだ。何でも聞け」
「うわあ紅姉偉そう……」
「えっと……どうして紅姉さんが仕切ってるのですか?じゃなくて、そのモウコグン?コウライグン?という敵勢はどうして攻めてくるのでしょう」
「そこに敵がいるからだろ」
「何でも紅姉基準で決めつけない!」
あたかも“そこに山があるからだ”とでも言わんばかりに平然と答えた紅に、容赦なく白がつっこむ。
「紅姉の言うことは置いておいて、何で攻めてくるの?タケル知ってる?」
おう。梅のおかげで出番が回ってきた。
嫁に行った桜のポジションを埋めるように、梅は最近他所行きの顔が出来る様になってきた。だがこういった場では素が出る。
「これは三善の爺さんや弥太郎から聞いた話からの推測だが、おそらく原因は博多からの輸出品だ。梅、宋との貿易の主要な取引品は何か知っているか?」
「えっと……輸入品は宋銭、陶磁器、絹織物。輸出品は砂金、硫黄、木材、刀剣」
「最近は里が納める絹糸も輸出されていると聞いている」
黒の言うとおり、作れば作るだけ売れていく絹糸の大半は輸出に回されているらしい。
だがここで重要なのはもっと別の品だ。
「その輸出品の硫黄は、いったい何に使われていると思う?」
「えっと……何だっけ?あのドカーンってなるやつ」
「黒色火薬」
「そうそれ!!」
「その通りだ。蒙古と相対している南宋に、火薬の原料つまり戦略物資を輸出している。硫黄は主に火山帯で産出するから、大陸では産出量が少ない」
「でもこの地でなら、阿蘇や別府に行けば容易に手に入る」
「そうだな。つまりだ。蒙古軍は敵対する南宋への戦略物資の輸出を止めるために、この地に攻めてくる。もっとも南宋の征服は時間の問題だろうから、今となっては面子の問題かもしれないがな」
「面子の問題……じゃあ無条件で降伏すれば、戦いは回避できる?」
「戦さとしては回避できるだろう。だが奴らは敵対した相手に容赦はしない。結局は戦禍に見舞われるのと同じぐらい、この地は破壊されるだろうな」
「だったら戦ったほうがマシじゃねえか」
「おそらく朝廷や幕府も紅と同じように考えている」
「ではやはり戦いは避けられないということか点々。奴らはいつ頃攻めてくるんだろう。生け捕った奴が言うとおり、秋頃かな。収穫の時期と被るのは嫌だなあ」
小夜が天井を仰ぎ見ながらぼやく。
「この地も奴らの地も収穫の季節は同じだ。常識的に考えて収穫期は避けるだろう。攻め込んだはいいが帰る場所が飢饉に見舞われていたりすれば目も当てられない。奴らの目的は支配と富の吸い上げだ。この地に移住したいわけではないだろうからな」
「でも、奴らの中にも陰陽師のような人達がいれば、黒ちゃんみたいに船や装備、食料を複製して、そんなに時間をかけずに攻めてくるかも?」
「小夜の懸念は正しい。だが奴らとて人や馬は複製できない。一度失った兵馬を補充して戦さ場に投入できるようになるまでに、最低でも半年はかかるだろう。それに蒙古軍の先兵となる高麗軍も数を減らしている。どれほど人を搔き集めたところで、一万人を上回ることはないと思う」
俺の言葉に黒が頷きながら同意する。
「タケルの予測は正しいと思われる。ずっと大陸の様子を監視しているけど、まだ目だった人員の動きは無い。一万もの兵と糧食が動けば必ず変化が出る。引き続き監視する」
「ああ。よろしく頼む」
「それと皆に報告がある。対馬で鹵獲した武具甲冑のうち、青銅製の筒があったの覚えてる?」
「あのやたら重い奴だろ?黒達が使う迫撃砲ってやつに似てたけど」
「あれは恐らく砲の原型になったもの。私達も最初に開発したのは導火線に火を付けて筒の中に投入し、点火薬に火を付けて飛ばす方式だった。基本的な構成はそれと同じ。陶器製の砲弾の内部には黒色火薬と金属片が詰め込まれていた。殺傷能力は十分にあると思われる」
「飛距離はどれくらいだ?」
「せいぜい30mから50m程度。弓の飛距離にも及ばない」
「それなら俺が全力でぶん投げたほうが飛ぶんじゃね?」
「砲弾はおよそ4Kgあった。紅姉なら投げても飛ぶと思うけど、普通の人間では無理」
紅が茶化しているのだが、黒は真面目に答えている。いや、真面目に答えているのだろうか?
しかし4Kgといえば9ポンドのボーリングボールと同じだ。転がすのならばともかく、人の力で投げるには限界がある。
「それぐらいの飛距離しかないのなら、一体何に使うんだ。砲の用途といえば城攻めだが、城壁から50mの距離に近づけば弓矢のいい的でしかないぞ」
「そう。奴らの戦いっぷりを見ないと何とも言えないけど、手榴弾のように使うのかも。例えば大盾を構える戦列を抉じ開けたり、敗走時に敵の追撃を足止めするのに使ったり」
なるほど。佐伯軍との戦いで、大盾を構えて矢を防ぐ佐伯軍の戦列を突き崩したのは猟銃弾だった。
もしそこに手榴弾があれば、迷うことなく使っただろう。
敗走時に足元に転がしておき、導火線が燃え尽きるのと同時に敵軍の只中で炸裂させれば効果は絶大だろう。そういった用途なら確かに重量があっても問題はない。
ん?今さっき黒は「手榴弾」と言ったか。
里の防衛兵器開発の過程では、手榴弾は製造していないはずだ。
「その発想に基づいて、手で投げられる大きなの榴弾を製造してみた。タケルの蔵書にあった、柄付き手榴弾を参考にした」
そう言いながら黒が長さ30㎝ほどの物体をいくつか取り出す。
「木製の柄の先端に、火薬を収めた金属缶を取り付けてある。この紐を引き抜いて7秒後に爆発する。殺傷範囲はおよそ10m。佐助と清彦で投擲試験を行った結果、優に30mは投擲可能」
黒姉さんがいつの間にやら恐ろしい兵器を開発しておられた。
「更にこの考え方を発展させて、地中に埋め込むものも作ってみた。人馬が上を通ると爆発する」
地雷か。確かに海岸線に埋めれば一定の効果を出すだろう。そこが地雷原だと分かってもなお突撃命令を出せる指揮官ならば、最優先で狙撃してやる。
だが……
「へえ。こりゃいいな。黒達が扱う迫撃砲ってやつは扱い方が難しいからよ。これなら雑兵でも使えるじゃんか」
手榴弾の柄を握り、まるでジャグリングのように放り上げながら紅が言う。
「そう。そしてそれは問題かもしれない。そうだよねタケル」
「そうだな。誰でも使えるということは、誰が誰に対してでも使えるということだ。間違っても博多の街に流通などさせてはならないし、筑豊国外に持ち出すのも慎重に行うべきだな」
「でも、これがあれば先日の対馬でももう少し楽に戦えたと思う。有効活用するべきだ」
「ああ。梅の言うとおりだ。基本戦略が水際での上陸阻止または上陸後の逐次殲滅である以上、こういう一撃で多数の敵を討てる兵器は必要だ。配備する部隊を限定して運用しよう」
「里の連中は使うとして、名越勢は?訓練すれば問題ねえよな」
「ああ。黒、訓練を頼めるか?」
「了解。量産体制に入る。他に蒙古軍に備えるべきことは?」
「領内の海岸線には防塁を築く。可能なら湾内全域に築きたいところだが、他の領地には難しいだろう。せめて筑豊国の海岸線への上陸を阻止できれば、俺達が他の場所へ救援に行けるからな」
「あの!要所の高台に迫撃砲を据える場所を整備しておいたほうがいいと思うの。白ちゃんと場所の選定と用地確保、敷地の整備をしたいけどいい?」
珍しくこういう場での小夜が積極的になっている。
「ああ。任せた。他に人員はいらないか?椿や定六・定七を連れて行けば作業は早く進むぞ」
「わかりました。定六兄弟を連れて行きます」
「俺は名越と佐伯、その他の連中を徹底的にしごいてくるわ。奴らの戦い方を知ってるのと知らないとじゃ大違いだからな」
「紅姉、しごき過ぎておじさん達を殺しちゃ駄目だかんね」
「わかってらい!」
「あの……私にも何か出来ることは無いでしょうか?」
「ああ。エステルと子供達は、青と協力して食料の増産と備蓄に励んでくれ。戦さ場に赴く者達にたらふく喰わせてやらなければ、勝てる戦さも勝てなくなるからな」
「わかりました!」
古来より飢えた軍が戦さに勝った例はない。
水と食料の備蓄と兵站ルートの確保は絶対条件だし、せっかく集積した食料を敵に奪われるようなことがあってはならない。
こんな感じで蒙古襲来までにやるべきことは決まった。
季節はようやく初夏になろうかというところ。秋の収穫が終わるまでにはまだ先のようにも感じるが、暑い夏を過ぎれば恐らくあっという間なのだろう。
とはいえ筑豊国そのものには戦乱の兆しはなく、のどかな田園風景が広がっている。
この風景にホッとするのは、たった数日間ではあるが戦さ場に身を置いてきたからなのだろう。
この地に住まう者達の笑顔は、何としてでも護らなければならない。
この日の夕食後、年長組が集まる居間では、専ら蒙古軍率いる敵勢に如何に備えるかが話題となった。
「だからよ、高麗軍の一人ひとりの強さは大したことないんだって。問題は数だ。あの数で押し込まれちゃあ多勢に無勢の味方勢に勝機はないってことよ」
青が入れてくれたお茶を啜りながらクダを巻くのは紅だ。そこに白が参加する。
「そりゃ紅姉とか私達からすれば大したことないかもしれないけど、実際に最前線で戦うのは、桜姉の旦那とか名越のおじさん達なんだよ?」
「そうなんだよなあ。里の連中で参戦できるのは、名越勢を入れても三百にも満たない。一人十殺しても三千人までしか倒せないな」
「それは机上の空論。実際には一人に対して四方八方から敵が押し寄せる。その状況から切り抜けられるのは私達ぐらい」
「わかってるよそんな事は!だからちゃんと作戦立てなきゃいけないんだろ」
作戦か。紅は基本的に突っ込んでいくような気がするが。
「あの……素朴な疑問なんですが……」
そっと手を上げたのは、最近緑茶の味を覚えたエステルだ。
「んあ?どうしたエステル?疑問を持つってのは良いことだ。何でも聞け」
「うわあ紅姉偉そう……」
「えっと……どうして紅姉さんが仕切ってるのですか?じゃなくて、そのモウコグン?コウライグン?という敵勢はどうして攻めてくるのでしょう」
「そこに敵がいるからだろ」
「何でも紅姉基準で決めつけない!」
あたかも“そこに山があるからだ”とでも言わんばかりに平然と答えた紅に、容赦なく白がつっこむ。
「紅姉の言うことは置いておいて、何で攻めてくるの?タケル知ってる?」
おう。梅のおかげで出番が回ってきた。
嫁に行った桜のポジションを埋めるように、梅は最近他所行きの顔が出来る様になってきた。だがこういった場では素が出る。
「これは三善の爺さんや弥太郎から聞いた話からの推測だが、おそらく原因は博多からの輸出品だ。梅、宋との貿易の主要な取引品は何か知っているか?」
「えっと……輸入品は宋銭、陶磁器、絹織物。輸出品は砂金、硫黄、木材、刀剣」
「最近は里が納める絹糸も輸出されていると聞いている」
黒の言うとおり、作れば作るだけ売れていく絹糸の大半は輸出に回されているらしい。
だがここで重要なのはもっと別の品だ。
「その輸出品の硫黄は、いったい何に使われていると思う?」
「えっと……何だっけ?あのドカーンってなるやつ」
「黒色火薬」
「そうそれ!!」
「その通りだ。蒙古と相対している南宋に、火薬の原料つまり戦略物資を輸出している。硫黄は主に火山帯で産出するから、大陸では産出量が少ない」
「でもこの地でなら、阿蘇や別府に行けば容易に手に入る」
「そうだな。つまりだ。蒙古軍は敵対する南宋への戦略物資の輸出を止めるために、この地に攻めてくる。もっとも南宋の征服は時間の問題だろうから、今となっては面子の問題かもしれないがな」
「面子の問題……じゃあ無条件で降伏すれば、戦いは回避できる?」
「戦さとしては回避できるだろう。だが奴らは敵対した相手に容赦はしない。結局は戦禍に見舞われるのと同じぐらい、この地は破壊されるだろうな」
「だったら戦ったほうがマシじゃねえか」
「おそらく朝廷や幕府も紅と同じように考えている」
「ではやはり戦いは避けられないということか点々。奴らはいつ頃攻めてくるんだろう。生け捕った奴が言うとおり、秋頃かな。収穫の時期と被るのは嫌だなあ」
小夜が天井を仰ぎ見ながらぼやく。
「この地も奴らの地も収穫の季節は同じだ。常識的に考えて収穫期は避けるだろう。攻め込んだはいいが帰る場所が飢饉に見舞われていたりすれば目も当てられない。奴らの目的は支配と富の吸い上げだ。この地に移住したいわけではないだろうからな」
「でも、奴らの中にも陰陽師のような人達がいれば、黒ちゃんみたいに船や装備、食料を複製して、そんなに時間をかけずに攻めてくるかも?」
「小夜の懸念は正しい。だが奴らとて人や馬は複製できない。一度失った兵馬を補充して戦さ場に投入できるようになるまでに、最低でも半年はかかるだろう。それに蒙古軍の先兵となる高麗軍も数を減らしている。どれほど人を搔き集めたところで、一万人を上回ることはないと思う」
俺の言葉に黒が頷きながら同意する。
「タケルの予測は正しいと思われる。ずっと大陸の様子を監視しているけど、まだ目だった人員の動きは無い。一万もの兵と糧食が動けば必ず変化が出る。引き続き監視する」
「ああ。よろしく頼む」
「それと皆に報告がある。対馬で鹵獲した武具甲冑のうち、青銅製の筒があったの覚えてる?」
「あのやたら重い奴だろ?黒達が使う迫撃砲ってやつに似てたけど」
「あれは恐らく砲の原型になったもの。私達も最初に開発したのは導火線に火を付けて筒の中に投入し、点火薬に火を付けて飛ばす方式だった。基本的な構成はそれと同じ。陶器製の砲弾の内部には黒色火薬と金属片が詰め込まれていた。殺傷能力は十分にあると思われる」
「飛距離はどれくらいだ?」
「せいぜい30mから50m程度。弓の飛距離にも及ばない」
「それなら俺が全力でぶん投げたほうが飛ぶんじゃね?」
「砲弾はおよそ4Kgあった。紅姉なら投げても飛ぶと思うけど、普通の人間では無理」
紅が茶化しているのだが、黒は真面目に答えている。いや、真面目に答えているのだろうか?
しかし4Kgといえば9ポンドのボーリングボールと同じだ。転がすのならばともかく、人の力で投げるには限界がある。
「それぐらいの飛距離しかないのなら、一体何に使うんだ。砲の用途といえば城攻めだが、城壁から50mの距離に近づけば弓矢のいい的でしかないぞ」
「そう。奴らの戦いっぷりを見ないと何とも言えないけど、手榴弾のように使うのかも。例えば大盾を構える戦列を抉じ開けたり、敗走時に敵の追撃を足止めするのに使ったり」
なるほど。佐伯軍との戦いで、大盾を構えて矢を防ぐ佐伯軍の戦列を突き崩したのは猟銃弾だった。
もしそこに手榴弾があれば、迷うことなく使っただろう。
敗走時に足元に転がしておき、導火線が燃え尽きるのと同時に敵軍の只中で炸裂させれば効果は絶大だろう。そういった用途なら確かに重量があっても問題はない。
ん?今さっき黒は「手榴弾」と言ったか。
里の防衛兵器開発の過程では、手榴弾は製造していないはずだ。
「その発想に基づいて、手で投げられる大きなの榴弾を製造してみた。タケルの蔵書にあった、柄付き手榴弾を参考にした」
そう言いながら黒が長さ30㎝ほどの物体をいくつか取り出す。
「木製の柄の先端に、火薬を収めた金属缶を取り付けてある。この紐を引き抜いて7秒後に爆発する。殺傷範囲はおよそ10m。佐助と清彦で投擲試験を行った結果、優に30mは投擲可能」
黒姉さんがいつの間にやら恐ろしい兵器を開発しておられた。
「更にこの考え方を発展させて、地中に埋め込むものも作ってみた。人馬が上を通ると爆発する」
地雷か。確かに海岸線に埋めれば一定の効果を出すだろう。そこが地雷原だと分かってもなお突撃命令を出せる指揮官ならば、最優先で狙撃してやる。
だが……
「へえ。こりゃいいな。黒達が扱う迫撃砲ってやつは扱い方が難しいからよ。これなら雑兵でも使えるじゃんか」
手榴弾の柄を握り、まるでジャグリングのように放り上げながら紅が言う。
「そう。そしてそれは問題かもしれない。そうだよねタケル」
「そうだな。誰でも使えるということは、誰が誰に対してでも使えるということだ。間違っても博多の街に流通などさせてはならないし、筑豊国外に持ち出すのも慎重に行うべきだな」
「でも、これがあれば先日の対馬でももう少し楽に戦えたと思う。有効活用するべきだ」
「ああ。梅の言うとおりだ。基本戦略が水際での上陸阻止または上陸後の逐次殲滅である以上、こういう一撃で多数の敵を討てる兵器は必要だ。配備する部隊を限定して運用しよう」
「里の連中は使うとして、名越勢は?訓練すれば問題ねえよな」
「ああ。黒、訓練を頼めるか?」
「了解。量産体制に入る。他に蒙古軍に備えるべきことは?」
「領内の海岸線には防塁を築く。可能なら湾内全域に築きたいところだが、他の領地には難しいだろう。せめて筑豊国の海岸線への上陸を阻止できれば、俺達が他の場所へ救援に行けるからな」
「あの!要所の高台に迫撃砲を据える場所を整備しておいたほうがいいと思うの。白ちゃんと場所の選定と用地確保、敷地の整備をしたいけどいい?」
珍しくこういう場での小夜が積極的になっている。
「ああ。任せた。他に人員はいらないか?椿や定六・定七を連れて行けば作業は早く進むぞ」
「わかりました。定六兄弟を連れて行きます」
「俺は名越と佐伯、その他の連中を徹底的にしごいてくるわ。奴らの戦い方を知ってるのと知らないとじゃ大違いだからな」
「紅姉、しごき過ぎておじさん達を殺しちゃ駄目だかんね」
「わかってらい!」
「あの……私にも何か出来ることは無いでしょうか?」
「ああ。エステルと子供達は、青と協力して食料の増産と備蓄に励んでくれ。戦さ場に赴く者達にたらふく喰わせてやらなければ、勝てる戦さも勝てなくなるからな」
「わかりました!」
古来より飢えた軍が戦さに勝った例はない。
水と食料の備蓄と兵站ルートの確保は絶対条件だし、せっかく集積した食料を敵に奪われるようなことがあってはならない。
こんな感じで蒙古襲来までにやるべきことは決まった。
季節はようやく初夏になろうかというところ。秋の収穫が終わるまでにはまだ先のようにも感じるが、暑い夏を過ぎれば恐らくあっという間なのだろう。
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