異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫

文字の大きさ
上 下
241 / 243

240.移住希望者を迎える(12月3日〜10日)

しおりを挟む
王都タルテトスで採用したレオン エンリケス男爵以下10名がマルチェナに到着したのは、秋の実りの採取と冬小麦の播種が何とか終わった12月始めのことであった。
彼等の到着が採用から1ヶ月以上も掛かったのは、移住希望者を引き連れて来たからである。
家令や執事の経験があるディマス ファリア、イシドロ マリアーノ両名の手配で王都タルテトス郊外に集結した移住希望者達は、さながら軍隊の行軍のように一路マルチェナを目指したのだ。行軍と大きく違ったのはその進行速度である。
移住希望者達は壮年の男女が多いとはいえ、老人も子供もいる。何より足枷となったのはその人数であった。使い魔の目を通して人数を数えていたルツが呆れたように嘆いたものだ。

「いったい何処からこんなに湧いてきたのじゃ。千人は下らんぞ……」

そうである。王都タルテトスだけでなくルシタニア州都アルカンダラやルシタニア各地の街や村、セトゥバルやカルタヘナからも移住希望者達が集まったのだ。その数は千数百人規模なのだが正確な人数は現時点でははっきりしない。名簿の作成が急務だが、名簿といっても転入届や住民台帳があるわけでもない。そう、無いのである。一体どうやって税制管理を行なっていたというのか、頭の痛い問題だ。

タルテトス領内ではテオドロ グスマンの図らいで近衛騎士団が護衛し、バルバストロ公領に入ったところでルツが使役するカラスとコウモリが護衛役を引き継いだ。フェルが指揮する一角オオカミの群れは彼等の隊列から付かず離れずの距離を保ち、必要に応じて食料や援助物資を運搬する役目を担う。カラス、コウモリ、それに一角オオカミは敵ではないと広く知れ渡っている様子で、荷馬車を引いたオオカミの姿にも彼等に動揺は無かった。

マルチェナ郊外に辿り着いた移住希望者達一組づつと面談し、名簿の作成と入植希望地を聴取する。マルチェナの住民のうち行政に携わった経験のある40人が手伝ってくれた結果、時間は要したが大きな混乱はなく彼等の全貌が明らかになった。
総数1,324名。成人男性862名、成人女性723名。残り261名のうち、男児が156名、女児が105名。子供の中には乳幼児も含まれる。人口性比で表せば123。フィッシャーの原理を持ち出すまでもなく、男女の比率が歪なのは厳しい生活を送ってきたからなのだろう。
それぞれが希望する職業や経験に基づいてそれぞれの居住地を割り振っていく。大半が農業経験者なのは想定どおりだが、鍛治職人や石工、大工といった専門職経験者も数十人はいる。それに衛兵や軍人、騎士家の出身者も少数含まれていた。彼等はアイダとカミラに預けて適性と実力を確認することにした。

それにしても、彼等の話には様々な悲哀が溢れている。
ある商人は野党に積荷を全て奪われ、抵当に入っていた店も失い一家離散した。ある小作農家は父親が足に怪我をして働けなくなり追い出された。飲んだくれで暴力を振るう夫から逃げるように子供の手を引いて参加した女性の話を聞いて、アイダやビビアナが本気で怒っていた。皆の体験を記せば、それぞれ一冊の本ができるだろう。

さて、ロンダの受け入れ可能人口は4,000人ほど。グラウスは農業主体のいわゆる開拓村が大きくなったような街で、受け入れ可能人口は1,000人弱。グラウスでは先の騒乱から23人が生き残ったが、彼等はマルチェナで新しい暮らしを始めている。住み慣れた街に戻りたいか尋ねた時には顔を青ざめさせて否定したそうだ。救出までのおよそ2ヶ月の経験はさぞかし辛い記憶なのだろう。

入植希望者のうち、家族帯同で来ている農業経験者で選抜した50組256名と、軍人として修練を積んだことのある12名とその家族6名をグラウスに向かわせる。指揮官兼代表者としてイシドロ マリアーノを、臨時の衛兵隊長としてサバス アルビンを同行させることにした。
残りの1,050名はロンダで受け入れる。

全員の赴任先が決まり送り出せたのは、彼等がマルチェナに辿り着いて5日後の12月7日のことだった。

◇◇◇

本拠地であるロンダに戻った俺達には更にやる事がある。
彼等の住まいを割り振らなければならないのだ。幸いにも住民たちが居なくなったとはいえ、家屋はほとんどそのまま残っている。前の住民達が大量死したのだから心理的瑕疵物件どころの話ではないはずなのだが、家令や執事としての経験があるフィリアやマリアーノに言わせれば大した問題ではないらしい。
作成した名簿に沿って、家族ごとに家々を割り振っていく。考慮しなければならないのは家族構成だけではない。農業希望者が街の中心部に居を構えても不便だし、商人が街の外周沿いに店を開いても繁盛するのは難しいだろう。細かな調整や転居は必要になるにせよ、一旦は落ち着いてもらう事を優先する。個々人の希望を聞こうかとも思ったのだが、収拾がつかなくなるとのカミラとビビアナの意見を聞いて見送った。

入植希望者達がロンダに着いたのは翌々日の9日になってからだった。そこからが戦場のような1日となった。街の入り口で名前と家族構成を照合し家に案内する。1,050名、およそ300組全員の案内を終えるのに丸一日掛かった。

翌10日にアルカンダラのサラ校長からの呼び出しが掛かる。アルカンダラ魔物狩人養成所の所長でありタルテトス国王の妹、つまり王妹殿下でもある彼女には、通信用の魔道具を渡してある。所長室(通称校長室)の据え置き型が1台と、娘達と同じ個人用のヘッドセットが1台だ。
呼び出しを受けたのはリビングに置いている通信機。ということは掛けてきたのは校長室の据え置き型の通信機からである。通信を受けたのは昼食後の団欒の際にたまたま近くにいたソフィアだ。

「はい、ソフィアです。あら、校長先生ですのね。どうされました?はい、そうですか。わかりました。少々お待ちくださいな」

そこまで言ってソフィアがこちらを振り返る。

「カズヤさん、孤児院の院長さんが御面会を希望されているそうです。子供達の支度ができたと。いかがいたしましょう」

「そうか。すぐに伺うと伝えてくれ。孤児院に伺えばいいのか?」

「それが養成所に連れて来られたようです。なので所長室にお越しくださいと」

「わかった。ではそのように。ルイサ、それにアリシア。一緒に来てくれ」

「あ!じゃあ私も行く!買いたいものもあるし!姐御はどうする?」

当然のようにイザベルが手を挙げる。だが話を向けられたルツは首を横に振る。

「儂は用はない。アイダとカミラも昨日着いた者達の相手で忙しいようじゃしな」

「そうですね。イザベル、干し肉が切れそうなんだ。どこかで調達してきてくれ」

「わかった。イーちゃんは?」

「私は特にないぞ。ビビアナはどうするんだ?」

「そうですね。私も残ります。昨日のうちに幾つか相談を受けていますので」

「あら。ビビアナさんが行かないのなら私がご一緒しますわ。どんな子達が集まっているのか気になりますし」

通信を終えたソフィアが近づいてくる。そういえばサラ校長はどうして直接俺にではなく据え置き型の通信機に掛けてきたのだろう。そんな事を考えているうちにソフィアの整った顔が真横に来ていた。

「どんな輩がこの国を、カズヤさんを狙ってくるか知れませんもの。私がきちんと監視しますわ」

その言葉は俺の耳元で囁かれた。
この亜麻色の髪の元軍人が何を考えているのか、正直言って未だに掴めない。孤児院の子供達にそんな大志を抱く者がいるとも思えないが、もしいたとすればそれはそれで心強いことじゃないか。もしその大志が人に仇なす野望となるなら止めればいいだけだ。それに子供達には自由な夢を見て欲しいじゃないか。
しおりを挟む
感想 230

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています

もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。 使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...