上 下
233 / 241

232.御前試合(10月13日)

しおりを挟む
“どうしてこうなった”

そう書き出すのも久しぶりな気がする。
ロデリック王との謁見、そして任命式が順調に終わり、オリエンタリスの家名と東方の領地を下賜され引き上げる。ただそれだけのはずだったのに、何故か俺達は武装して王宮の中庭にいる。
それもこれもデブルーという男が原因だ。
俺達の前に手勢を率いて仁王立ちするあの男が強硬に試合を主張したのだ。
単なる腕試しなどではない。自分が勝てば今回の任命は撤回、負ければ自分の首と領地を差し出すという。
だがその条件をルツが一蹴した。当然である。領地というのは繋がっていてこそ意味がある。飛地を得たところで、例えば通行税や関税など掛けられては何の意味もない。
代わりに俺が欲したのは人材だった。デブルーの首と領地の代わりに、デブルーが属するセトゥバル公配下の子爵または男爵位以下の実務経験者を求めたのである。
何せ伯爵位など貰っても領地経営については所詮素人だ。傘下には幾つかの街や村があるが、騒乱を生き延びた者達の中には為政者側の者は殆どいなかったのだ。
デブルーの首の代わりに人材をよこせ。この提案はロデリック王も気に入ったらしく、二つ返事で決定された。
こうして直ちに御前試合の開催が決まったのである。

◇◇◇

俺達にとっては突然のことだったが、デブルーとセトゥバル公にとってはシナリオどおりだったようだ。王宮の中庭(中庭といっても小学校のグラウンドぐらいの広さはある)に場所を移すと直ちに屈強な男達が呼び寄せられた。その数30人。それぞれが武装しているが、全身をチェインメイルで覆い兜を被り大楯と槍を持つ重装歩兵が半数を占める。他は弓兵が6名、大剣を背負うものが同じく6名、プレートアーマーに身を包み騎乗している騎士が3名。

「ロデリック王よ!セトゥバル公配下の我がマイヨール家騎士団の精鋭を連れて参りました!たった30名では少々物足りないかもしれませんが、我が騎士団の勇猛さ、とくと御覧あれ!」

彼の配下の者達が一斉に雄叫びを上げる。中庭に面したテラスの上にいるロデリック王が拍手し、王の背後に控える四公爵もそれに続くと中庭の周囲に集まった武官と文官達も歓声を上げた。

「カズヤよ。あいつら賭けをしておるようだぞ」

たいして面白くもなさそうにルツが言う。

「ほう。一口乗っておくか?」

「何をバカな事を。あ、でもサラは儂等に賭けたようじゃ。せいぜい搾り取ってサラにいい思いをさせてやろうぞ」

校長は俺達に賭けたか。それにしても賭けの対象にもなるのだろうか。相手は屈強な男達、こっちは俺以外女子供だけだ。

「これより御前試合を執り行う!審判役は我、近衛魔法師団副団長プラードが務めさせていただくが、双方異存はござらぬな!」

中庭の中央で高らかに宣言したのはサラ校長が連絡役として王宮から招聘していたプラードだ。知らぬ顔でもないから任せてもいいだろう。

「では試合について説明する。マイヨール侯からは小隊規模での模擬戦の申し出があった。模擬戦とはいえ真剣を使用するが、オリエンタリス伯は如何か?」

「真剣を使用する以上は血が流れるのは御覚悟の上か?」

「おうおう、田舎の狩人は自分の血は流せねえってか?」

粗野なヤジが向こう側の男達から上がる。

「田舎の狩人ですって。あの男どうしてくれましょう」

「即死じゃなければお兄ちゃんが何とかするんじゃない?ねぇお兄ちゃん?」

「いいでしょう。私達は狩人です。よって魔法も魔道具も使用します。よろしいですね?」

「もちろんだ!全力でなければ意味はない!」

デブルーのその言葉に喜んだのは実はアイダとイザベルだったかもしれない。いそいそとM870にスラッグ弾を装填しているが、使わせていいのやら。

「承知した。では王と皆様の御安全のために周囲に結界を展開いたします。マイヨール侯もご観覧だけならばお席に移動ください」

「何をバカなことを!当然我も参戦する!」

ははん。流石はセトゥバル公配下の武闘派で知られる男だ。自分も戦うらしいが鎧兜も無しに大丈夫だろうか。
プラードに目配せしてから、アリシアと2人で結界を構築する。王宮の中庭は200mトラックが設定できるぐらいの広さはあるが、その観覧席と中庭の間に網状の結界を展開する。網目の一片は約2mm弱。炎や水、それに風は通すがAT弾の欠片は通さない程度に設定した。これで流れ弾を気にせずに住むだろう。観客席の一角がどよめいている。展開された結界がどのようなものか気付かれたか。

デブルー率いる一隊との距離は50m強。大楯を構える兵士15名が先頭に立ち、後方に6名の弓兵がいる。合図と同時に矢が射かけられるだろう。
対するこちらの射手はイザベルとルイサの2名のみ。ただし2人とも同時に3本の矢を射るから、矢の数では負けないはずだ。

「イザベル、ルイサ。初手は任せるぞ」

「了解。ルイサ、矢を届かせることだけ集中して。アイダちゃん、お兄ちゃんのスキャン結果の譲渡、お願い」

「わかった。一応ルイサとビビアナにも」

アイダの固有魔法を経て、探知魔法スキャンした敵の位置を射手達に共有する。イザベルもビビアナも同程度の探知魔法は使えるのだが、同じ結果を共有したほうが認識のズレが無くなるらしい。
皆の準備が整うのを待って、プラードに声を掛ける。

「プラード殿。結界の構築は完了しました。こちらはいつでも結構です」

「よろしい。マイヨール侯は如何か!」

「いつでもよい!」

「では試合を開始する。はじめ!」

開始の合図と共にデブルーが大楯の影に入る。
イザベルとルイサが矢を放つ。イザベルは一斉射3本、ルイサは次々と三斉射。合計12本の矢がイザベルに誘導されてデブルー達にトップアタックを掛ける。
対するデブルー達の矢は先に俺達目掛けて殺到してはいるのだが、全て結界魔法に阻まれている。

デブルー達の陣営から馬の嘶きと怒号が聞こえる。

「よし、成功。射手6人と騎士3名を始末したよ」

「お馬さんに悪いことしちゃいました」

イザベル達は弓兵と騎士の鎖骨を砕き、騎馬の尻に矢を刺していた。

「大丈夫だろう。騎手を振り落としてしまったら離れた場所で待機するよう訓練されている。馬の方がな」

自身も愛馬を有するカミラらしいフォローだ。

「自分の馬に踏み潰されるような間抜けがいないことを祈ろう。次だ。ビビアナ、面制圧を頼む」

「承知しましたわ」

そう言ってビビアナが愛用の短い杖を振るう。
次々と錬成された氷の矢が地を這うように飛んでいく。その光景はさながら水面直下を突き進む魚雷のようにも見える。

「目線より下から加えられる攻撃、大楯で防ぐとどうなるかしら」

ビビアナが呟いた直後に、大楯を構えた男達が吹き飛ばされ宙を舞う。トローやグランシアルボを一撃で屠るビビアナの魔法だ。吹き飛ばす程度に力は抑えたのだろう。

「カズヤさん、如何でしょう」

「ああ、十分だ」

大混乱に陥った相手方を見る。大楯兵が起き上がってくる気配は無い。いくら盾でガードしたとはいえ、宙を舞って地面に叩き付けられたのだ。直ぐには戦線復帰は難しいだろう。
残りは大剣装備の重装歩兵と落馬した騎兵だけか。

「アイダとカミラで前衛を任せる。無理はするな。だが殺すなよ。イザベルとルイサは遊撃、俺とアリシアで狙撃する。ビビアナとソフィアは適時援護を頼む」

「了解!魔物狩人カサドールを侮ったこと後悔させてやります!」

スラリと鞘走りの音を立てて長剣を抜いたアイダが、左手にM870の銃把を握り締めて駆け出す。着剣した三八式歩兵銃をローレディに構えたカミラが続く。
その後を二振りのダガーを逆手に構えたイザベルと、刃渡り30cmほどのマチェットを光らせるルイサが追う。2人はあっという間に先行するアイダとカミラを追い越し、敵陣の只中に飛び込んだ。

ここから先は一方的な戦闘となった。いや、最初から一方的だったのだ。デブルー達は攻撃らしい攻撃も出来ずに地に這いつくばり恐怖と痛みに喘ぐことになった。
しおりを挟む
感想 230

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...