上 下
230 / 238

229.王との謁見(10月7日)

しおりを挟む
さて、戦勝記念祝賀会の日が近づいてきた。
その前に一度王と顔合わせというか謁見の機会を賜るらしい。
賜るといっても、少なくとも俺はこの国の臣民ではないし王の家臣でもない。サラ校長が任命した巡検師でありアルカンダラ魔物狩人養成所の教官である以上はこの国に籍を置いてはいる。だがどうやら気持ちというか内面が追いついていないようだ。

「それはそうじゃろうな。正直言って迷惑極まりないというのが儂の本心じゃが、まあ何事も形式というのは必要じゃて」

そう言うルツもどうやら同じ気持ちらしい。
一方でアイダやビビアナ、それにカミラとソフィアはいつに無く緊張した面持ちである。イザベルとルイサはいつもと変わらないが、こっちはいまいち状況をわかっていないのかもしれないし、もしかしたら彼女達にも“ただの人間ではない”という自覚があるのかもしれない。アリシアは王に会うことを緊張しているというよりも自身がデザインした服がどう評価されるかを気にしているようだ。

この日に備えて娘達が用意した服は、一言でいえば軍ロリと称される系統の服であった。どうやらイタリアの国家憲兵隊カラビニエリにインスパイアされたらしい。
黒を基調としたジャケットの袖周りと肩章、襟に赤いラインが走り、前合わせと4つある大きめのポケットのフラップには銀色のボタンが光る。左肩の肩章からは白いベルトが通され、背中側に収納魔法が付与された小さな箱型のポーチが掛けられている。
シャツは白でネクタイは黒。アリシアとビビアナ、ソフィア、ルツは同じく赤いラインの入ったロングスカート。ふわりとしているのはパニエでも着込んでいるのだろうか。アイダとカミラは乗馬ズボンのような太ももがゆったりして足首に向けて絞ったパンツ、イザベルとルイサは膝上丈のキュロットと白いタイツを選んでいた。足元は揃いの黒のロングブーツ。冬季用に裏地が赤いマントまで用意している。
そして各自の左肩と左胸には銀糸と金糸で燦然と輝くパッチが縫い付けられている。アリシアとアイダ、イザベルの左肩には二頭の黒い獅子が両側から銀色の盾を支える意匠、その他は2本の剣が盾を支える意匠。全員の左胸にあるのは大楯の上で組み合わされた二本の矢と一本の剣。獅子狩人と魔物狩人カサドールそして巡検師補の徽章エンブレマを模した物だ。
更に頭には小振りの黒いベレー帽に、これまた黒い羽飾りを付けている。ルツだけはベレー帽ではなくベールを被っているが、これも雰囲気に合って良い。

当然のように俺にも揃いの衣装が差し出された。パッチの意匠が皆とは少し異なり、銀ではなく金の盾になっている。どうやらドイツ連邦軍のレプリカ制服からは卒業させられるようだ。

「うん。似合ってる似合ってる。右肩には紋章が決まったら付けるから開けておいてね!」

紋章かあ。紋章ねえ。
伊藤家の家紋として代表的なのは藤か木瓜ボケか。珍しいものでは九曜もあったように思うが、さて実家は何を使っていたかすら定かではない。そもそも家紋とヨーロッパでいう紋章は全く別のものだし、その地域によっても制定にはルールがあるだろう。そのあたり詳しいのはビビアナだろうか。

兎にも角にも、謁見に望む準備は整った。
あとは養成所でサラ校長と合流するだけだ。

◇◇◇

ロデリック アラルコン マルティネス
これが現タルテトス国王の名である。歳は40歳を少し過ぎたぐらい。口髭と顎髭を短く整え、顔立ちはサラ校長にどことなく似ている。
その王が俺達が待つ部屋に来るなり、姿勢を正す俺達を制しながらルツの前で膝を折った。

「大賢者様におかれましてはご機嫌麗しゅう」

呆気に取られる俺達を尻目に、ルツがそっぽを向く。

「そういう世辞はよいと言うておろう。そもそも儂の主はカズヤじゃ。汝が頭を下げるべきはカズヤであろう」

いやいや、何を言い出すのだこの婆さんは。

「よいかカズヤ。此奴はこの国の王でありながら国の厄介事を全部お主に押し付けるつもりじゃ。せいぜいふんぞり返って鷹揚に構えよ」

そんなわけにはいかないだろう。相手は一国の王だぞ。

「王よ。そのようなご配慮は無用に願います。この者は私利私欲で私と行動を共にしているだけです」

俺の言葉にルツはニヤリと笑った。

「私利私欲とは良く言った。そのとおりじゃ」

間髪を開けずに合いの手を打つかのようなルツの返事に、ロデリック王は呆気に取られたように俺とルツを見上げた。

「私利私欲とは……どういうことでしょうか」

「儂も腹が減るでな。ああ、もちろんお主らと同じ食事の話をしておるのではないぞ。儂ほどのドゥワンデともなると生きているだけで大量の魔力を消費しておる。此奴は魔力の補給源じゃ。だから共に生きる事を選んだ」

「では魔力の供給源さえ整っていれば、我が国の招聘に応じていただけたのでしょうか」

「無理をするでない。毎日うら若き処女を生贄に捧げるわけにもいくまい?」

「おい、なんか聞き捨てならないが。やはり吸血鬼バンピローは処女の生き血を欲するのか?」

この婆さん、俺の知らぬ間に娘達に手を出していないだろうな。

「ふむ。まあ処女でなくてもよい。童貞の美男子というのも捨てがたいがの。そう考えるとお主はどちらでもないのに、どうして儂に選ばれたのじゃ?」

知らんがな。勝手についてきたのはお前だろうが。

「ちょっと姉様、さすがに!」

俺の後ろからアイダが小声でルツを叱る。
思わずといった様子で首を竦めるルツの姿に意外さを感じたのだろうか。ロデリック王が怪訝そうな顔をする。

「少々揶揄いが過ぎたの。まあつまりじゃ、儂の関心を買いたいなら、この者達を丁重に扱えと。そういうことじゃ。それでロデリックよ。いつまで客人の前で跪いておる気じゃ?」

ルツが右の掌を上に向けて、指先だけで立ち上がることを促す。その仕草を見てロデリック王が立ち上がった。

「ではお言葉に甘えまして……イトー カズヤ殿、そしてお仲間の皆さんも。この度はお越しいただきありがとうございます。タルテトス王国の国民に代わって、我が王家を挙げて歓迎いたします」

こうして王家主催の昼食会は和やかに?開催されたのである。

◇◇◇

王がことさらに謙ってみせたのは、ルツがその吸血鬼バンピローとしての能力の一部でも使って俺達を支配しているのではないかという懸念からだったらしい。サラ校長からも報告が上がっており、王自身もルツと何度も会っているはずなのだが、どうやら心配性なようだ。
だが考えてみれば慎重になるのも無理はない。4つの州からなるタルテトス王国から実質的に5番目の州を分割しようというのだ。その州が人外ドゥワンデに支配されることになれば、間違いなく王家は倒れる。場合によっては人類の敵扱いされるかもしれないのだ。
だとすれば、そもそも俺達に領地を与えるなどしなければいいとも思うのだが、それはそれで獅子身中の虫のようなものなのだろう。

ともかく、ロデリック王は俺を辺境伯として封じる覚悟が出来たらしい。終わり際に交わした握手は大層熱が籠っていた。
しおりを挟む
感想 230

あなたにおすすめの小説

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

修学旅行のはずが突然異世界に!?

中澤 亮
ファンタジー
高校2年生の才偽琉海(さいぎ るい)は修学旅行のため、学友たちと飛行機に乗っていた。 しかし、その飛行機は不運にも機体を損傷するほどの事故に巻き込まれてしまう。 修学旅行中の高校生たちを乗せた飛行機がとある海域で行方不明に!? 乗客たちはどこへ行ったのか? 主人公は森の中で一人の精霊と出会う。 主人公と精霊のエアリスが織りなす異世界譚。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜

ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。 社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。 せめて「男」になって死にたかった…… そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった! もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!

処理中です...