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217.救出作戦(9月7日)
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温泉でソフィア達と合流した俺達は、先行したビビアナ達を追ってグラウスへと転移した。グラウスの街はロンダの街よりも小さく、街を囲う壁も質素な物だった。だから板壁が各所で破られ、内側から破壊されたのか外側から侵入されたのかさえ既に分からなくなっている。
街の北西側には門の残骸が残っており、ビビアナ達はその横に拠点を構築していた。半径10mほどを高さ5m強の土塁で囲った拠点の内側に転移した俺達は、馬車を中心に寝床となるテントを2張設営した。
「さてと。こんなもんかな?」
ビビアナの光魔法と焚き火に照らされながらテキパキと働く娘達を眺めていたルツが呟く。
「そうだな。そろそろだろう」
役に立たないのは俺も同じだ。だがルツは不思議そうに俺の顔を覗き込んで笑った。
「カズヤ、さっきの魔法、わかるの?」
どうやらルツの独り言に反応してしまったらしい。
「いや、そろそろ出られそうだと思ってな。ルツは何か魔法を使っていたのか?」
照れ隠しに失敗した俺の顔は大層可笑しかったのだろう。ルツは柔かに笑った。こう言う時のルツからは“東の森の大賢者”としての威厳が消えて、見た目相応の女の子の顔になる。
「私がではなくって、使っていたのはアタレフ達。簡単な探知魔法と伝達はできるから」
使い魔のコウモリ達か。超音波で周囲の状況を察知し獲物を狩るコウモリならば、この世界で生きる全ての物が発しているという魔力を探知して行動することは容易いのだろう。伝達というのはコウモリ同士で行っているコミニュケーションだろうか。
「そうか。それで結果は?」
「人数まではわからないけど、人間の反応が2箇所にあるみたい。カズヤ達はそこに行って。私は近隣の村を回ってくる」
「誰を連れて行く?」
「あら。そんなことしたら角が立つんじゃないの?さっきのビビアナという娘、不満そうだったわ」
不満と言われてもなあ。ルツが心配というより、ルツの暴走を抑えるストッパー役が欲しいのだが。過ごした時間はほんの数日だが、どうやらルツはイザベルとよく似ている。目を離すと何をするかわからない。
「準備終わりました!」
敬礼でもしそうな勢いで一列に並んだ娘達が報告してくる。
「よし。全体を3つに分ける。アイダとイザベル、ビビアナ、ルイサは俺と一緒に街に入る」
「私もですか?」
意外とでも言わんばかりにルイサがビビアナの顔を見る。これまでお留守番が続いていたから当然か。本当はまだ幼いルイサに深夜の仕事をさせたくはないのだが、そうも言っていられない。お留守番を命じて突然来られても困る。
「ああ。そろそろ作戦に加わってもいいだろう。ビビアナから離れるなよ」
「わかりました」
ビビアナとルイサがぎゅっと手を握り合ったのを確認して続ける。
「続けるぞ。カミラはルツと一緒に近隣の村を回ってくれ。生存者を見つけたら一旦この場所に連れてるように。応急処置の後にマルチェナに移送する。拠点防衛と生存者の応急処置はアリシアとソフィアに任せる。フェルはグロリアの護衛だ。拠点に残れ。自分達の安全と生存者の救出を優先する。ネクロファゴへの対処は後回しだ。何か質問は?」
「大丈夫です」
「ほれ、カミラよ。手を取るがよい」
「いや、背中の剣帯を握ってるからいつでもいいぞ」
「まるで子供みたいではないか……」
なんやかんや言いながらもカミラとルツが転移するのを見届けて、俺とアイダ達もグラウスの街中へと転移した。
◇◇◇
ああ、ルツが言っていた魔法とはこのことか。
グラウスの街にも青白い光の柱が立っていた。その数2つ。
ロンダで見た光はルツの魔法、正確にはルツの使い魔コウモリが使った魔法だったのだ。
「不思議な光ですわね」
ルイサの手を握ったままのビビアナが呟く。
「あの光の下に生存者がいるのですか?」
「ああ。ロンダではそうだった。ルツが言うには生存者は2組、光の柱が2箇所。数は合う」
「じゃあさっそく行きますか」
街を囲う幕壁から家々の屋根に飛び移ろうとするイザベルの首根っこを掴む。
ふぎゃっと変な声を上げて座り込むイザベルの頭を撫でる。
「待て。こっちにはルイサもビビアナもいる。そうそう身軽に飛び移れるか」
「ふぁ~い。んで、どうするの?」
「ルイサ、俺がアイダとイザベルを連れて家伝いに転移する。俺の後をついて来れそうか?」
「大丈夫だと思います!」
「ビビアナ、ルイサを頼んだぞ」
「お任せくださいな」
「イザベルは自力で飛び移ってくるんだろう?」
ついさっきは屋根に飛び移ろうとしたイザベルであったが、今度は俺の右腕を掴んだ。
「え?やだよ。お兄ちゃん連れて行って?」
「ルイサに頼めばいいんじゃないか?カズヤ殿は私がご一緒する」
アイダが俺の左腕を掴みながら言う。直後に俺を挟んでじゃれあいが始まる。
「なんでよ!私もお兄ちゃんと一緒がいい!」
「さっき叱られたばかりだろう!自重しろ!」
俺の両手を奪い合うアイダとイザベルを、ビビアナが冷たい目で見ている。これはこれで仲が良いのだ。
◇◇◇
ルイサは俺の後方にしっかり転移してきた。正確には後方2mの位置にである。姿が見えていようが見えていまいが、必ず後方2mに転移してくる。どうやって俺の位置と俺が向いている方向を特定しているのか謎だ。ちなみに寝転んだ状態では足元に転移してくる。これが同一平面上ならばよいが、後方2mで屋根が無くなっているとそのまま下に落下してしまうこともわかった。例えば2m四方の部屋の中に俺がいた場合、ルイサの転移では部屋の外に転移してしまう。
「どうやってカズヤさんの位置を特定してるかがわかれば、いろいろ使えそうですわね」
というのが、一緒に転移していたビビアナの感想だ。
それはともかく、生存者の救出である。
グラウスの街はロンダより更に小さい。人口はおよそ1,000人程度だろう。グラウスの生存者は地下室ではなく、街外れのいわゆる高床式倉庫に潜んでいた。高さ2mは越えようかという石積みの上に建てられた、切妻屋根の木造建築物である。屋根の片方が伸びて、建物の隣に雨風を避けられるスペースを作っている。同じような建物が街外れに分散して何箇所かあり、その内の2箇所に合計23人の生存者がいた。
建物の内部も乾燥しており、衛生状態は悪くなかった。ここに逃げ込んだ住人は備蓄していた穀物を井戸水で調理し食べることができたのだ。その結果、健康状態は比較的良好だった。
近隣の村を回ってくれたルツとカミラの報告は、ある程度想定していたとおりだった。生存者ゼロ。屍食鬼も周囲の人間が死に絶えた結果、全て滅んでいるらしい。ルツが言っていた“吸血できなければ一月もせずに死に絶える”というのは事実だったのだ。
23人を一旦街の外の拠点に移動させ、そこからマルチェナに転移させる。住み慣れた街を離れることを嫌がる者が大半を占めたが、アリシアとビビアナが説得してくれた。もっとも、一番効果があったのはカミラとソフィアが言った“まもなく赤翼隊がやって来て焼き討ちする”という言葉だったかもしれない。赤翼隊。この部隊名を聞いた生存者達は震え上がり、既に安全が宣言されたマルチェナへの移動を受け入れたのである。
シドニア伯ガスパールよ。勇名をこんな用途で使わせてもらった。悪いな。
街の北西側には門の残骸が残っており、ビビアナ達はその横に拠点を構築していた。半径10mほどを高さ5m強の土塁で囲った拠点の内側に転移した俺達は、馬車を中心に寝床となるテントを2張設営した。
「さてと。こんなもんかな?」
ビビアナの光魔法と焚き火に照らされながらテキパキと働く娘達を眺めていたルツが呟く。
「そうだな。そろそろだろう」
役に立たないのは俺も同じだ。だがルツは不思議そうに俺の顔を覗き込んで笑った。
「カズヤ、さっきの魔法、わかるの?」
どうやらルツの独り言に反応してしまったらしい。
「いや、そろそろ出られそうだと思ってな。ルツは何か魔法を使っていたのか?」
照れ隠しに失敗した俺の顔は大層可笑しかったのだろう。ルツは柔かに笑った。こう言う時のルツからは“東の森の大賢者”としての威厳が消えて、見た目相応の女の子の顔になる。
「私がではなくって、使っていたのはアタレフ達。簡単な探知魔法と伝達はできるから」
使い魔のコウモリ達か。超音波で周囲の状況を察知し獲物を狩るコウモリならば、この世界で生きる全ての物が発しているという魔力を探知して行動することは容易いのだろう。伝達というのはコウモリ同士で行っているコミニュケーションだろうか。
「そうか。それで結果は?」
「人数まではわからないけど、人間の反応が2箇所にあるみたい。カズヤ達はそこに行って。私は近隣の村を回ってくる」
「誰を連れて行く?」
「あら。そんなことしたら角が立つんじゃないの?さっきのビビアナという娘、不満そうだったわ」
不満と言われてもなあ。ルツが心配というより、ルツの暴走を抑えるストッパー役が欲しいのだが。過ごした時間はほんの数日だが、どうやらルツはイザベルとよく似ている。目を離すと何をするかわからない。
「準備終わりました!」
敬礼でもしそうな勢いで一列に並んだ娘達が報告してくる。
「よし。全体を3つに分ける。アイダとイザベル、ビビアナ、ルイサは俺と一緒に街に入る」
「私もですか?」
意外とでも言わんばかりにルイサがビビアナの顔を見る。これまでお留守番が続いていたから当然か。本当はまだ幼いルイサに深夜の仕事をさせたくはないのだが、そうも言っていられない。お留守番を命じて突然来られても困る。
「ああ。そろそろ作戦に加わってもいいだろう。ビビアナから離れるなよ」
「わかりました」
ビビアナとルイサがぎゅっと手を握り合ったのを確認して続ける。
「続けるぞ。カミラはルツと一緒に近隣の村を回ってくれ。生存者を見つけたら一旦この場所に連れてるように。応急処置の後にマルチェナに移送する。拠点防衛と生存者の応急処置はアリシアとソフィアに任せる。フェルはグロリアの護衛だ。拠点に残れ。自分達の安全と生存者の救出を優先する。ネクロファゴへの対処は後回しだ。何か質問は?」
「大丈夫です」
「ほれ、カミラよ。手を取るがよい」
「いや、背中の剣帯を握ってるからいつでもいいぞ」
「まるで子供みたいではないか……」
なんやかんや言いながらもカミラとルツが転移するのを見届けて、俺とアイダ達もグラウスの街中へと転移した。
◇◇◇
ああ、ルツが言っていた魔法とはこのことか。
グラウスの街にも青白い光の柱が立っていた。その数2つ。
ロンダで見た光はルツの魔法、正確にはルツの使い魔コウモリが使った魔法だったのだ。
「不思議な光ですわね」
ルイサの手を握ったままのビビアナが呟く。
「あの光の下に生存者がいるのですか?」
「ああ。ロンダではそうだった。ルツが言うには生存者は2組、光の柱が2箇所。数は合う」
「じゃあさっそく行きますか」
街を囲う幕壁から家々の屋根に飛び移ろうとするイザベルの首根っこを掴む。
ふぎゃっと変な声を上げて座り込むイザベルの頭を撫でる。
「待て。こっちにはルイサもビビアナもいる。そうそう身軽に飛び移れるか」
「ふぁ~い。んで、どうするの?」
「ルイサ、俺がアイダとイザベルを連れて家伝いに転移する。俺の後をついて来れそうか?」
「大丈夫だと思います!」
「ビビアナ、ルイサを頼んだぞ」
「お任せくださいな」
「イザベルは自力で飛び移ってくるんだろう?」
ついさっきは屋根に飛び移ろうとしたイザベルであったが、今度は俺の右腕を掴んだ。
「え?やだよ。お兄ちゃん連れて行って?」
「ルイサに頼めばいいんじゃないか?カズヤ殿は私がご一緒する」
アイダが俺の左腕を掴みながら言う。直後に俺を挟んでじゃれあいが始まる。
「なんでよ!私もお兄ちゃんと一緒がいい!」
「さっき叱られたばかりだろう!自重しろ!」
俺の両手を奪い合うアイダとイザベルを、ビビアナが冷たい目で見ている。これはこれで仲が良いのだ。
◇◇◇
ルイサは俺の後方にしっかり転移してきた。正確には後方2mの位置にである。姿が見えていようが見えていまいが、必ず後方2mに転移してくる。どうやって俺の位置と俺が向いている方向を特定しているのか謎だ。ちなみに寝転んだ状態では足元に転移してくる。これが同一平面上ならばよいが、後方2mで屋根が無くなっているとそのまま下に落下してしまうこともわかった。例えば2m四方の部屋の中に俺がいた場合、ルイサの転移では部屋の外に転移してしまう。
「どうやってカズヤさんの位置を特定してるかがわかれば、いろいろ使えそうですわね」
というのが、一緒に転移していたビビアナの感想だ。
それはともかく、生存者の救出である。
グラウスの街はロンダより更に小さい。人口はおよそ1,000人程度だろう。グラウスの生存者は地下室ではなく、街外れのいわゆる高床式倉庫に潜んでいた。高さ2mは越えようかという石積みの上に建てられた、切妻屋根の木造建築物である。屋根の片方が伸びて、建物の隣に雨風を避けられるスペースを作っている。同じような建物が街外れに分散して何箇所かあり、その内の2箇所に合計23人の生存者がいた。
建物の内部も乾燥しており、衛生状態は悪くなかった。ここに逃げ込んだ住人は備蓄していた穀物を井戸水で調理し食べることができたのだ。その結果、健康状態は比較的良好だった。
近隣の村を回ってくれたルツとカミラの報告は、ある程度想定していたとおりだった。生存者ゼロ。屍食鬼も周囲の人間が死に絶えた結果、全て滅んでいるらしい。ルツが言っていた“吸血できなければ一月もせずに死に絶える”というのは事実だったのだ。
23人を一旦街の外の拠点に移動させ、そこからマルチェナに転移させる。住み慣れた街を離れることを嫌がる者が大半を占めたが、アリシアとビビアナが説得してくれた。もっとも、一番効果があったのはカミラとソフィアが言った“まもなく赤翼隊がやって来て焼き討ちする”という言葉だったかもしれない。赤翼隊。この部隊名を聞いた生存者達は震え上がり、既に安全が宣言されたマルチェナへの移動を受け入れたのである。
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