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212.尋問②(9月6日)

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確保した侵入者のうち、一人の女の胎内に植え付けられていたのはルツが言うには“淫魔”らしい。淫魔といえばインキュバスやサキュバスに代表される、見目麗しい魔物のはずだ。そういえばアリシアも淫魔はいると言っていたが、この芋虫がその淫魔だと言うのか。

「ふふ。カズヤったら淫魔と聞いてイヤラシイ想像をしたでしょう。残念でした。最下級の淫魔なんてこんなものよ」

ルツがわざわざ俺の耳元で悪戯っぽく笑う。どうやら見透かされているらしい。そしてフッと離れて自分の腰に手を当てながら続けた。

「こいつらは膣に潜んで子種を喰らっておる。おおかた男どもの誰かに仕込まれたんだろう」

「膣に潜むって……害はないのか?」

「それはもちろんある。胎内に魔物が巣食うのだ。無いわけがあるまい」

「だったらどうして取り出そうとしない?こんな大きな芋虫だぞ」

「ふむ。聞くところによると、男も女も大層具合が良くなるらしい。それはもう毎朝毎夜、寝食も忘れてまぐわうようになるほどにな。それに他の魔物が近づかなくなるとも言われている」

なるほど。寄生ではなく共生関係にあるということか。精液を喰らっているのならば、そういった益を宿主にもたらすのは理解できる。おそらく一種のホルモンを分泌しているのだろう。

「ん?ちょっと待て。子種が注がれなくなったらどうするんだ?こいつは飢えて死ぬのか?」

「その時は腹を食い破って出てくるらしいぞ。だから害があると言っている。そうそう頻繁にまぐわうなど、複数人の慰み者になる以外あるまい?」

慰み者か。もしかしたらこの女は自分の意思でマグスニージャルに加わっているのではないのかもしれない。

「それはそうとカズヤ、こいつらをどうするつもりだ?」

カミラが女を木から解き裾を直してやりながら聞いてくる。

「このままにはしておけないな。ソフィア、何か聞き出せたか?」

「ええ、もちろんです。ネクロファゴはマグスニージャルと名乗る一団が生み出してこの地に放ったのは間違いありません。それと、ルイサさんが覚醒したあの日に、魔物に村を襲わせたのもマグスニージャルですわ」

そうか。あの黒衣の集団とルツの住処に侵入した者達は同じ組織に属するのか。とすればカディスで見掛けた小舟に乗っていたのも、イリョラ村がグサーノに襲われる直前に訪れた者達も同じマグスニージャルと考えるべきだ。

「カズヤ」

カミラの声に促されるように俺は決断した。

「アルカンダラで養成所に引き渡す。俺達の目的は秩序の回復でも治安維持でもない。ネクロファゴが現れる元凶を断つことだからな」

「それがいいだろう。赤翼隊アラスロージャスへは?」

「ルツのことも含めて、少なくとも今は連絡する必要はない」

「わかった。奴らの任務は治安維持だ。ルツのことを知れば余計にややこしくなりそうだしな」

カミラの言葉にソフィアも頷く。

「養成所というのは、お前達のような魔物狩人カサドールを育てる場所か?アルカンダラの片隅にある石造りの大きな建物だった気がするぞ」

ルツがまるで見たことがあるかのような口振りで聞いてくる。

「そうだが、お前さん知っているのか?」

カミラの問いにルツは薄い胸を張って答える。何やら偉そうに見えるが、年功序列でいけば最上位のご老人なのだから当然か。

「うむ。少し前に世話をした奴らと一緒に行ったことがあるやもしれぬ。だが同じ場所かは自信はない」

「だったらカズヤの転移魔法で行くべきだな。幸いルツも転移魔法を使えるし、ルイサは誤魔化せるだろう」

「ルイサ?どうしてあの娘を誤魔化す必要があるのじゃ?」

「あん?カズヤ言ってなかったのか。ルイサは転移魔法を使えるようになることを目標に頑張ってるんだ。カズヤがあっさりその魔法を使って、しかも人には教えられないときたら、ルイサはこれから何を目標にすればいい」

「なるほど。無駄に優しいのう」

無駄とは何だ無駄とは。だがあらぬ方向に話が向かうのは良くない。

「わかった。養成所のいつもの控室に転移する。ソフィア、奴らを連れてきてくれ。カミラは娘達を頼む」

「承知した。夕方には戻れよ。明日あたりにはガスパールの奴がそろそろテハーレスに進出してくる頃合いだ」

「もちろん私も行ってよいのだな?」

俺の服の裾をしっかりと握るルツの言葉に一瞬躊躇する。齢七百余歳の“人ならざる者”をアルカンダラに連れて行っても良いものか。
いや、ここは連れて行くべきだ。ルツが本当に吸血鬼バンピローなのだとすれば、今回の騒動の中心人物だ。

「ああ。よろしく頼む」

「うむ。まあそう気負うな。何か起きてもカズヤとカズヤの仲間は守ってやる」

“守ってやる”か。頼もしいことである。

◇◇◇

正直に記せば、実のところ不安がなかったわけではない。
娘達、アイダやアリシアやイザベル、ビビアナと別行動するのは初めてだったし、ソフィアも信頼はしているが信用出来てはいない。ましてやルツはついこの間出会ったばかりの“人ならざる者”だ。アルカンダラ郊外のログハウスには愛着があるとはいえ、養成所には数えるほどしか来ていないアウェイである。これまでは娘達のいわば身内として訪れていた所にソフィア、ルツ、そして確保したマグスニージャルの5名と転移するのだ。嫁の実家に一人で赴くとか、友達の友達の家に遊びに行くようなものだろうか。不安を覚えない訳がない。

だがそんな不安も目の前の光景で吹き飛んだ。
ルツとサラ校長がしっかりと抱き合ったのだ。

「えっと……」

思わず目を泳がせるがソフィアはマグスニージャルの5名と共に控室に残してあるし、校長室にいるのは俺とルツ、サラ校長を除けば寮母兼校長秘書というか良き話し相手というポジションらしきダナ アブレゴだけだ。そのダナさんも両手で口元を押さえて目を見開いている。

「まさか……東の森の大賢者様……」

大賢者だって?このちびっ子ロリ婆さんが?

「そうよダナ!あの寝坊助さんよ!」

「ダナ?あの大剣使いのダナか!すっかり変わったのう!」

ルツは今度はダナさんに飛び付いた。いよいよこの3人は知り合いらしい。それもかなり親しい、例えば同じパーティーだったかのような仲に思える。
サラ校長とダナさんは名のある狩人だったというし、現役時代を知る者は地方の街にもいた。ここアルカンダラだけでなく広い範囲で活動していたということだろう。だとすればダナさんが言う“東の森”にまで足を運んでいても不思議ではない。そしてここに来る前にルツは“少し前に世話をした奴らがいる”と言っていた。それがサラ校長達のパーティーだったのだろうか。

「あらあら。あなたは相変わらず甘えんぼさんなこと。それに本当に大きくならないのね」

「お前も胸だけは変わらないな!腹は随分と大きくなったのに。カズヤ知っておるか?このダナはな、剣を持たせればこの儂にも迫るほどの使い手だったのだぞ。まあアイダといい勝負だな!」

ダナさんから離れたルツがくるりと俺に向き直る。

「そうか。それは意外だ。それはそうと、皆さんはお知り合いだったのですか?」

俺が口にした疑問の形をした事実確認の問いに答えたのはサラ校長だった。

「ええ。私が昔組んでいたパーティード、ダナやバルトロメ達としばらく行動を共にしてくれた恩人です」

「あの頃はいかにも駆け出しって感じで、見てはおれんかったからな!あの図体だけ大きい泣き虫バルは元気なのか?」

どうやらそういうことらしいが、泣き虫バルって誰の事だ?
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