異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫

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211.尋問①(9月6日)

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黒い塊に見えたのは黒いローブを纏った者達だった。その数5名。ある者は部屋の中心部で、またある者は部屋の隅で、硬直したかのように動かない。

「よし。上手く掛かった。前より掛かりが弱い気がするけど」

ルツさんや。それはお前さんが手加減したからじゃないのか。

「ルツ殿、これはいったい……」

「ああ。精神魔法の一つよ。魔法を使える者を自身の魔法力で縛り上げて拘束する。対象の魔力が弱いとか全然魔力を持ってない相手には効果がないけど、そこそこ強い魔法力を持った相手には効果絶大。あなた達の言葉では、確か……あぉぅほぅ?」

「魔眼……ですね。ソフィアさんの固有魔法のはずですが、ソフィアさんは自分より魔力が弱い相手にしか効果がないと言っていました。同じ魔法だとして、どうして効果が逆なんでしょう」

俺には阿呆としか聞こえなかったが、アイダにはきちんと意味が通じたようだ。

「ふむ。時を経るにつれて魔法の効果が変わってしまうことはよくある。お前達が固有魔法と呼ぶ魔法は、エラム帝国最後の悪足掻きの残渣、副産物のようなものだし。それよりもカズヤ、手を貸してほしい。こいつら、このままでは鼓動すら止めかねない」

ルツが何やら気になる事を言ったが、とりあえずは目先の事を片付けよう。

「どうするんだ?」

「気絶させて物理的に拘束する。猿轡を忘れないで。喚かれると面倒」

本当にめんどくさそうにルツが軽く頭を振る。どうやらルツは“物理的な拘束”にはさほど興味もやる気もないらしい。さっさとこの異物を自分の領域から排除したい、そう思っているように俺には思えた。

兎にも角にも、こうして俺達はマグスニージャルと名乗る黒衣を纏った者達をあっさりと確保した。彼等を縛り上げて転移魔法でアリシア達の元に戻る頃には、外はぼんやりと明るくなっていた。

◇◇◇

「あらあら、さてさて、早速尋問といきましょうか」

拘束された黒衣の者達を見て嬉々とした声を上げたのはソフィアだ。まだ日も登らぬ早朝から起きていたのは不寝番をしてくれていたからだろう。妙にテンションが高い。

「ああ、あなたも邪眼の使い手だと聞いた。それも相手を意のままに操るとか。だから尋問は任せる。私は眠い。キャルパはこれね」

ルツが大きく欠伸をして、張られているテントに潜り込もうとする。

「ちょ、ちょっと待ちなさいな。任されるのはいいけど、こいつらに掛けた魔法を解いてからにしてよね。私の魔眼が掛からないじゃない」

「そっか。うっかりしていた」

ルツが手を一振りする。それで拘束の効果が切れたのだろう。黒衣の者達が縛られて転がされたまま激しく動き始めた。

「あらあら。まるで芋虫か陸に上がったローチェですわね。今に楽にしてあげますわ」

今度はソフィアの目が怪しく光る。“邪眼”と言い“魔眼”と言う。敵からすれば正しく邪眼だろうし、味方からすればその効果は人智を超えたもの、正しく魔眼なのだ。
こうして、ようやくルツの拘束魔法から解放されたマグスニージャルの5名は、今度はソフィアの精神支配を受けることになったのである。

◇◇◇

尋問はソフィアとビビアナに任せて、深夜活動を行った俺達は昼過ぎまで寝た。兵士ならば不眠不休で行軍し戦うこともあるらしいが、俺達は兵士ではない。安全を確保した上で休める時には休むのだ。

テントを這い出した俺を迎えたのは地面に這い蹲る半裸の物体を踏みつけて高笑いしているソフィアだった。そういう性癖の持ち主ならばたまらないシチュエーションだろうが、残念ながら俺はノーマルだ。

「ソフィア、何も服を脱がせなくてもいいんじゃないか?」

「あらカズヤさん、お言葉を返すようですが、これは様式美というものですわ。精神と肉体に苦痛を与えてこそ、真実を話すのです」

いや、そうではなくて。ソフィアの固有魔法を使えば、苦痛を与えずとも喜んで真実を語ると思うのだが、どうやらソフィアは与えられた、というか降って湧いた“尋問”というミッションに酔っているらしい。

「そういえば一人足りないようだが?」

ルツの住処から連れてきたのは確かに5人だった。だがソフィアの前で蹲っているのは4人だけだ。逃したとも思えないが、別の場所に移動させたのか。

「ああ。残念ながら女が一人混じっておりましたの。さすがに男の前で女に手荒な真似はできませんから、カミラさんにお任せしましたわ。向こうの木の影にいると思います」

「そうか。ビビアナ達はどうした?」

「ビビアナさんはルイサさんとグロリアを連れて散策に行かれました。子供に見せていいものではありませんので」

そう言いながらソフィアは蹲った一人を足先で軽く突く。
子供に見せていいものではないか。それはそのとおりだ。それぐらいの配慮ができる程度の理性が保てているのなら、よもや殺しはしないだろう。

「ソフィア、そいつらは今回の屍食鬼ネクロファゴ騒動の元凶かもしれない。アルカンダラに連れて帰るからそのつもりでな」

「承知いたしましたわ。ロバのように従順になるよう調教しておきます」

あまり調教されても真実が覆い隠されるような気もするが……いずれにせよ俺に尋問スキルはないのだし、ここは元軍人のカミラとソフィアに任せるしかない。

ソフィアと4人の虜囚の前を離れてカミラの元に向かう。養成所の元教官でもあるカミラなら、虜囚に対してもソフィアほど手酷い扱いはしていないはずだ。
だがそんな俺の淡い期待は儚くも打ち砕かれたのである。

◇◇◇

目の前に飛び込んできたのは、裸に剥かれ猿轡を噛まされ木を抱くように縛りつけられた女と、その女の股間に手を突っ込んでいるカミラの姿だった。

「カミラ、何をしている!」

俺の声が震えているのは怒りというよりも恐怖のほうが強いかもしれない。これまで信頼していた相手が、目の前で全く理解できない行動を取っている。これが男女ならばまだわかる。或いはカミラには女色の傾向があったのだろうか。

「カズヤか。ちょっと待ってくれ。今取り出すところだ」

カミラが女の尻の向こうから顔を覗かせて返事をする。
取り出す?取り出すと言ったのか?何を?どこから?

目の前で起きている光景に頭の整理が追いつかないまま、カミラが何かを引き摺り出すのを見守るしかできない。

「カズヤ!治癒魔法を頼む!」

カミラの声に我に返る。立ち上がった彼女の右手が赤く染まっている。

「怪我を!?」

「私じゃない。この女の止血を」

「わかった。あとで説明してもらうぞ」

何はともあれ止血である。本来なら圧迫止血や止血帯を使うなどしてきちんと止血を行ってから治癒魔法を掛けるべきだが、素性もわからぬ者の血に無闇に触れるのは避けたい。木に縛られた女の下半身を中心に治癒魔法を掛ける。

「落ち着いたらこっちも頼む。やっぱり植え付けられていた」

カミラが血塗れの右手を開いて見せる。その掌には同じく血塗れの芋虫のようなモノが蠢きながら噛みついていた。大きさはちょうどカブトムシの幼虫ぐらいか。

「無理に剥がすと喰い千切られそうだな。ちょっと我慢しろ」

そう言ってペットボトルの水をぶっ掛ける。アルカンダラで研究が進められているが、俺が水魔法で生み出す水は魔力を回復させるだけでなく魔物そのものを倒す効果も傷を癒す効果もあるらしい。この蠢く虫が魔物かどうかわからないが、少なくともカミラの手から離れる効果はあるだろう。

「ほう、これはこれは。また面白いものを仕込まれていたな」

「やっぱりそうですか。妙に下腹部に魔力が集まっているような気がしたんです。カミラさんに任せて正解でしたね」

背後からルツとソフィアの声がする。

「ルツ、これが何か知っているのか?」

カミラの掌から虫を摘み上げ、ルツに見せる。

「これは淫魔の一種。その中でも最下級の淫魔」

淫魔だって?淫魔といえば、もっとこう、セクシーな格好をした蠱惑的な魔物じゃないのか。
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