異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫

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187.先行出撃④(8月15日)

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その夜の事である。

精神的に疲弊したかショックを受けたのだろう。カミラとソフィアの口数が少ない事を気にしたアイダとビビアナが早めの野営を提案し、俺達は目的地であるマルチェナの街まで半日という地点で野営することにした。
元兵士の亡骸から回収した心臓型の魔石については誰も口にしなかった。唯、屍食鬼と呼ばれる魔物になったのは間違いないし、それだけは娘達にも伝えた。

元兵士の亡骸を解剖したカミラとソフィアは自主的に少し離れた場所で眠っている。浄化魔法を掛けてはいたが、何か思うところがあるのだろう。
離れた場所といっても目が届く範囲だし、ソフィアはともかくカミラは優秀な狩人だ。問題が起きても自分で対処できるはずだ。

ルイサとグロリアを寝かし付けた娘達が、焚き火の周りに集まってきた。

「お兄ちゃん寝たら?」

「カズヤ殿。お休みになられたほうがいい。見張りなら私が交代しましょう」

「ありがとうイザベル、アイダ。でもお前達が先導してくれたおかげで、ここまで順調だったからな。お前達こそ先に休め」

「でもカズヤ殿こそ慣れない魔法をお使いになってお疲れなのでは?何でもノエさんの固有魔法をお使いになったとか?」

「そう、それ!私もそれが知りたかったんです。固有魔法って、他の誰かが使えるものなんですか?だったら私も!」

アリシアは自身の打撃力の低さを気にしている。エアガンを手にするまで、彼女は魔物に有効な打撃を与えることのできない“生活魔法が上手な女の子”だった。数種類のエアガンを使い分けることで彼女の打撃力はオーガやトローを一撃で倒すほどになっているが、それは本来彼女自身の力ではない。だから俺もアリシアを後衛に回すことが多い。最も俺自身もエアガン無しの打撃力など無いに等しいから、前衛を張る力などないのだが。
だからこそアリシアは自分で剣を振るい身を守れる力を欲している。

「固有魔法とは“魔法辞典に収録されていない発現をする魔法”だったよな?」

俺からの反問は、娘達に出会った頃に教わった知識に基づくものだが誰に宛てたものでもない。反応したのはビビアナだった。

「そのとおりです。厳密にはその発現に至る詠唱が体系化されておらず、口頭伝承でしか残せないものも含みますわ。まぁ殆どの固有魔法が無詠唱なのも原因の一つですけど」

「そうか。俺が使った魔法、とりあえず高周波ブレードと呼ぶが、あれがノエさんの固有魔法と同じかどうかはわからない。“効果が同じなら同じ魔法”とは限らないだろう」

「それはそうですわね」

「こうしゅうはぶれーど……意味はわかんないけど、その魔法って私にも使える?」

「どうだろう……さっきビビアナが言った“体系化されていない”という意味では高周波ブレードも同じだ。だが……」

そう前置きして、グランシアルボの角をグリップにしたナイフをイザベルに渡す。もし同じ魔法が使えるとすればイザベルが最も可能性が高いように思う。

「これが……?」

「ああ。魔力を込めて……刃の周りを前後に素早く動かす……最初はゆっくりでいいぞ」

「ん……こう……かな?」

イザベルが持つナイフのエッジがぼんやりと白っぽく光る。
魔力の流れを読み取ることなど出来ないが、そろそろ十分だろう。
手首ほどの薪をナイフにそっと押し当てる。
何の抵抗も無く薪は両断された。

「ふぇっ!?なに!?私がやったの!?」

「イザベルちゃん凄い!どうやったの!?」

「えっと……魔力を練る要領で……えっと……」

当の本人も上手く説明出来ないでいる。

「まったく、呆れましたわ。大概の事では呆れたりしないと申しておりましたのに、撤回しますわ。ナーサごと魔力を練っただけで……なんてナーサを作りましたの」

イザベルを囲んでキャッキャし始めた3人を眺めながら、ビビアナが呟く。

「なあ。俺からもお前達に質問、いいか?」

「何ですの改まって」

「今回の任務で立ちはだかる魔物は人間だ。正確には人間だった頃の姿を留めた“元人間”だ。そんな魔物を討つ事に躊躇いはないか?」

赤翼隊と共に行動している際に、赤翼隊指揮官であるガスパールに問われた覚悟を、俺はもう一度娘達にぶつけた。
兵士の亡骸を、確かに人間だったソレを目の当たりにした後ならば答えが変わっているかもしれないと思ったからだ。

しばらくの沈黙の後で最初に声を上げたのはアイダだった。

「私は仲間とカズヤ殿を守るために剣を振るいます。その相手が何であろうと、誰であろうと関係ありません」

「私も。魔物になってしまったら殺すしかないと思う。もちろん治癒魔法とか浄化魔法が効くならそのほうがいいけど」

「私はまず治癒魔法を使ってみようと思います。でもそのためには前衛に出ないと……どうしよう……」

「あら。アリシアさんがその気なら、私が守って差し上げますわ。でも見通しさえよければ後方から狙撃できるのではなくって?効果が無ければ私の氷の槍で貫きますわ」

「ありがとうビビアナさん!でも感染?って言うんだっけ、その、何で屍食鬼ネクロファゴになっちゃうか分かってないんだよね。近づいて大丈夫かな」

「お兄ちゃんが言ってたじゃん。風の障壁を張ってれば大丈夫だって。それにビビアナが浄化魔法使えるよね」

「それはもちろんですわ。でもソフィアさんはお上手でしたわね。さすが神殿にお仕えされるだけのことはありますわ」

「あれって“仕えてる”って言うのかな。利用してるだけって感じじゃない?」

「いやいや、それはソフィアさんに悪いと思うよ?」

直ぐに話が逸れていくのは娘達の常だが、俺はその“いつものこと”に救われっぱなしだ。

「カズヤさん。深く考えすぎですわ。私達はもう何年も前から魔物を狩ることを仕事に選んでおりますの。その姿形が人間と同じであっても、例えソレが昨日まで人間であったとしても、その存在が人に仇為すものであれば容赦はしませんわ」

考え過ぎか……一番覚悟が出来ていないのは俺みたいだ。
ツッとビビアナが俺の耳に唇を寄せる。

「もっともアイダ様とイザベルさんは、貴方の前に立ちはだかるなら人間相手でも容赦しなさそうですけど」

ギョッとして顔を向ける。
至近距離にビビアナの顔がある。
焚き火の炎に照らされて紅潮した頬、炎を反射して輝く豪奢な金髪。そして濡れた唇が吊り上がっていく。

「もちろん、アイダ様を害する者は私も容赦しませんわ」
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