異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫

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185.先行出撃②(8月14日)

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偵察隊が引いていた荷馬車の轍を追い掛けて進む。
轍を追っているのはイザベルとビビアナの2人だ。
優秀なスカウトであるこの2人は、俺には判別できない足跡や轍の痕跡を見つけ、ほとんど迷うことなく先導していく。
昨夜の雨はもう上がっている。それでも偵察隊の痕跡など洗い流されているはずなのだが、まったく優秀な娘達である。

俺達のフォーメーションは前衛兼偵察がイザベルとビビアナ、その背後バックアップにアイダ、アリシアが駆る馬車が続き、殿はカミラが就いている。荷台にはルイサとグロリア、そのお守り役のソフィア。俺はフェルと共に馬車の横を歩いている。
必然的に俺の話し相手はアリシアとソフィアになった。

「未帰還者がどこで脱落したか聞いているか?」

「私は聞いてないです。街の門で、その……殺されたんじゃないですか?」

「精鋭中の精鋭よ。流石にそれはないと思うわ」

「じゃあ深傷を負って、連れて戻ろうとはしたけれど、途中で置き去りにした……?」

「それも考えたくはないけれど、でもきっとそうなのでしょうね。だからビビアナさんとイザベルさんは偵察隊の痕跡を辿っているのでしょう」

「へぇ。そんな意味があるんですね」

「一度通った道なら道は通じているはずってだけかもしれないけれど。逆に人間の気配や臭いに誘われた魔物が現れる可能性も高まるわ。その危険は承知の上なのですわよね」

最後の一言は俺に向けられたものだ。

「ん?ああ。あの2人なら遅れは取らないだろうし、アイダも駆け付けられるからな」

一時はどうなるかと危ぶんでいたが、イザベルとビビアナは良い相棒バディになった。多少の口論というか意見のぶつけ合いはあるが、それも切磋琢磨している証だろう。
今でも風に乗って彼女達の声が聞こえてくる。

「だ・か・ら!ルイサさんが伸ばすべきなのは速度ですわ!この私が追いつけないぐらい速いのですよ!ですからきっと、あ、そっちの草に轍が」

「わかってないなあビビアナは!いくら足が速くったって度胸がなきゃ近接戦闘には向いてないって。ルイサは狙撃からの一撃離脱を重点的に訓練すべきだよ。そのためにも、こっちに足跡発見。ねぇ、これって血痕?」

「どれですの?あら、血痕ですわ。触るのは止したほうがよろしくてよ」

「触んないよ!アイダちゃん!ちょっと来て!!」

イザベルが停止の合図を送りながらアイダを呼ぶ。
アリシアは手綱を引きながらソフィアと顔を見合わせて苦笑いした。

「あの子達、何を話してますの」

「何ってルイサちゃんの指導方針でしょ」

「本当に愛されてますわね」

そう言いながらソフィアは傍のルイサの頭に手を伸ばして撫でる。

「ルイサさんはどんな魔物狩人カサドールになりたいのですか?」

そう問われたルイサは、ソフィアの手を頭に乗せたまま小首を傾げ、ゆっくりと言葉を選ぶ。

「どんな……イザベル姉さんみたいに素早く動いてアイダ姉さんみたいに鋭く刺す……じゃなくて、たくさんお金を稼いで、いろんな人に感謝される魔物狩人カサドールになりたいです」

「そう。お金は大事よね。そのお金でルイサさんは何をするの?」

「えっと……私みたいな子にちゃんとした生活をさせてあげたい……です。私はその……孤児だったので」

そうである。軽くウェーブのかかった青みの強いアッシュグレーの髪に緑色の瞳の少女は、アルカンダラ魔物狩人養成所所長に見初められるまでは孤児院で暮らしていたらしい。
今はビビアナが後見人アユダンテとなる事で俺達と一緒に過ごしているが、この幼い少女には孤児院での暮らしが原体験として根付いているのだろう。

「そうね……いい事思い付いたのだけれど、聞きたい?」

ソフィアが優しい目でルイサを見つめる。

「何でしょうか」

「そこのお兄さんにお願いして、あなたと同じ境遇の子供達を引き取って鍛えてもらえばいいのよ」

この神官見習いの教育係は突然何を言い出すんだ。
あまりの事に言い返す言葉を選んでいるうちに、前方からイザベル達が駆け寄ってきた。

「あっちに人間の死体がある」

その報告に俺達は言葉を失った。

◇◇◇

荷馬車と年少組をその場に残し、イザベルの先導で駆け付けたのはカミラ、ソフィアと俺の年長組だ。ルイサ、グロリアの2名は当然荷馬車に残すとして、その護衛としてアイダ、アリシア、ビビアナを残したのは誰にとって甘過ぎる配慮だっただろうか。

荷馬車から50mほど先の木々の間には、確かに何かヒトのようなモノが転がっていた。
身に付けた防具からすると赤翼隊の兵士で間違いないようだ。だが赤い房飾りの付いた兜は、持ち主の頭部を包んだまま傍らに転がっている。

「首を落とされているな。こう、跪かされて背後から」

「斬首刑……」

カミラの言葉にソフィアもそれ以上の声を失う。

「何か身元を示す物は残っていないか?階級章とか認識票のような」

念頭にあるのは第一次世界大戦以降、各国の軍隊で採用された金属製のドックタグだ。この世界でも争いが絶えないようだから、似たような仕組みがあるのは当然だと考えたのだ。

「正規の兵士ならば首から下げているものだ。だが……見当たらないな」

鎖帷子の胸元を三八式歩兵銃の銃剣で器用に開いたカミラが言う。
この遺体が偵察隊の者であれば、殺されたのはいつだ。
偵察隊が戻って来たのは昨日の夕方だった。翌日の早朝に俺達は出発し、今は昼過ぎだ。負傷者を抱えた偵察隊の歩みが遅かったとしても、この場所で殺されたのだとすれば死後24時間といったところか。
この世界の夏がいくら涼しく、ここが木陰だとしても死後硬直は解けていて当然だ。しかしこの遺体は跪いた姿勢を崩してはいない。
もう一つ不思議なのは、当然ここに居るべき存在が見当たらないことだ。ハエである。
自然環境下に動物の死体を一昼夜も放置すれば、当然腐敗が始まり多くの虫達を引き寄せる。だがここにはそういった類いの虫が全く見当たらない。
だからこそ、この遺体はよく出来た蝋人形のようにも見えるのだ。
同じ疑問を元軍人であり多くの遺体を見てきたであろうカミラとソフィアも感じたらしい。
しばらく周囲を観察した彼女達が口を開いた。

「魔物化しているのかもしれないな」

「私もそう思います。腐敗臭もしないし虫も集まってきていない。魔物の死骸の特徴です」

そうなのか。倒した魔物はさっさと燃やすか回収していたから気付かなかった。蛋白質の構造が違うのだろうか。だとすれば“魔物の肉は食えない”のも当然である。

「魔物の死骸は腐ったりしないのか?では放置したらどうなる?」

俺がそう考えたのは当たり前だろう。
全ての魔物を解体したにせよ、いつかは何らかの形で“土に還る”はずだ。それにオンダロアに向かう船上で狩ったティボラーン、全長20mもある巨大なサメの大量の肉は当然何らかの形で消費されたはずだ。
俺が呈した疑問に、ソフィアが軽く眉を顰めるようにして答えた。

「体内の魔素が抜ければ普通に腐りますし虫も集ります。それが何か?」

「カズヤはそんな事を聞きたいんじゃない気もするが、差し当たっての問題はコレが魔物の死骸かどうかだと思う。確かめる方法はあるが、どうする?」

どうすると問われても何をするのかわからないのだが。
魔物にあって人間にはないもの。魔物にあって動物にはないもの。まさか魔石か?

「久しぶりにやるしかないようね。ここで解体するのかしら」

やっぱりそうだ。彼女達はこの遺体の解剖をしようとしている。
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