異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫

文字の大きさ
上 下
176 / 243

175. ルイサの覚醒②(7月31日)

しおりを挟む
端的に記せば“何がなんだかわからない”という一行で済む。
それぐらい直後の俺達は混乱していた。
初陣を果たしてゴブリンを倒したルイサが、緑色の瞳に青みがかった髪の少女が突然眩い光を発したかと思うとフワリと浮き上がったのだ。まるで重力など無いかのように。
そして再び強い光に襲われた俺達が目を開けると、そこには一対の白い翼の天使がいたのである。

ルイサの手を握っていたはずの俺の右手は、宙に浮かぶ天使の手を握っている。
つまり……

「ルイサ……か?」

目の前の天使は確かにルイサの顔をしている。青みがかった髪もルイサのものだ。目を閉じているから瞳の色は見えないが、違うのはその背中に生えた一対の翼。よく見れば両の足首からも小さな翼が生えている。
その天使がゆっくりと目を開いた。

「お兄さん?」

その声は紛れもなくルイサのものだ。
そして俺のことを“お兄さん”と呼ぶのはルイサしかいない。

「ルイサ!」

彼女を引き寄せ抱き締める。
と、背中に生えていた翼がみるみる小さくなっていく。
“生えて”という表現は適切ではないかもしれない。
翼の付け根は彼女が着ている服の僅かに外側にあるのだ。背中側の布地は破れることもなくきちんと続いている。
縮んだ翼は子供の手の平よりも小さくなり、それでもパタパタと羽ばたいている。それに比例するかのように腕に掛かる彼女の重みが戻ってきた。

「ルイサ!」

今度は娘達が一斉に集まってルイサを抱き締める。
俺はそっとその輪の中から離れた。あとは娘達に任せればいい。
それよりも、あの光と翼はいったい何だ。

◇◇◇

その夜はルイサを囲むようにテントに入っていった娘達に代わって、カミラとソフィアが不審番に就いてくれた。
グロリアは結局目が覚めなかったらしい。あの騒ぎでも起きないとなると単に意識を失っているのではないかと心配になるが、ソフィアに言わせれば“いつもの事”らしい。

焚き火を囲んでの話題は当然ルイサのことになった。

「有翼種」

「神使では?」

俺の問い掛けにカミラとソフィアが呟く。
“神使”か。
“天使”あるいは“御使い”の概念が固定化されたのはユダヤ教やキリスト教といった一神教によるものが大きい。
一方でソフィアが表現した“神使”とは多神教で言う神の眷属だろう。よく知られた神使は稲荷神社の狐や天満宮の牛だ。
ギリシャ神話ではヘルメスが使者として赴く姿が描かれている。

「カミラ、その有翼種とはなんだ?」

「神話というか御伽話に出てくる古の種族。Arpíaの親玉ね」

「そのアルピアとは?それが有翼種なのか?」

「いいや違う。アルピアは絶滅したとされる有翼の魔物だ。上半身は女の姿、下半身と腕は鷲。街道沿いの森や崖の上空から旅人を襲い、食糧を掠めとっていったらしい」

つまりギリシャ神話に出てくるハーピーか。
確かハーピーは虹の女神の眷属だったはずだ。
そしてルイサは虹の神イリスの加護を受けている。

「ルイサさんはイリス様の強い御加護を受けていると聞いております。とすれば、イリス様がルイサさんを神使にされたのかもしれませんわ。御自身のお姿を写されて」

「虹の女神イリスには翼が生えているのか?」

「あら。カズヤさんはご覧になったことがありませんの?大抵はどこの神殿にも絵画か彫像がありますのに」

「カズヤは南の出身だからな。アルカンダラでも神殿には近寄らせていない」

「そうですの。まあ力ある者が神意に頼るものでもないですわよね。そもそもカズヤさんは」

「ソフィア。俺のことはいい。それよりもだ」

ソフィアに任せると話が飛躍しそうだ。ここは話の腰を折らせてもらう。

「ルイサが女神イリスの神使になったとしてだ、その“神使になる”のはよくあることなのか?」

「神殿におりますと、それはそれは様々な話を耳にします。自称他称を問わなければ大勢おられますわ。石を投げれば神使に当たるほどではありませんけど」

そんなに大勢の神使がいるのか。仏教徒でも悟りの境地に至る者はごくごく少数だと思うのだが、この世界ではそうでもないのだろうか。

「ソフィア。カズヤを揶揄うのは止せ。カズヤもこんな女の言うことを真に受けるな。喰われるぞ」

そうだった。ソフィア メルクーリ。この亜麻色の髪の女の二つ名は“邪眼のソフィア”である。その温和な表情とは裏腹に、自分より魔力量が少ない相手であれば自分の意のままに操る固有魔法を使うらしい。
俺や娘達は並の魔法師や魔導師とは比べ物にならない魔力量だから支障はないはずだが、どうやら邪眼の力は魔力総量だけが発動条件でもないらしい。
事実、昼間の戦闘ではソフィアがひと睨みするだけでゴブリンやオーガの突進を止めている姿を目撃している。
もしかしたら魔力とは気功や発勁で言う“気の力”に近いのかもしれない。

「カミラ。さっきのアルピアというのは魔物だろう。ルイサは魔物だったと考えているのか?」

自分で口にするのも悍ましいことである。ほんの数週間とはいえルイサはパーティーの一員として寝食を共にした仲間である。妹のように可愛がっていた娘達はもとより、一角オオカミのフェルもルイサにはよく懐いていた。そんなルイサが魔物であったとは考えられない。

肩ポケットからタバコを取り出し火を点ける。
が、どうにも空気が湿っているのか手間取る。

「アルピアは低級の有翼種だ。魔物にもいろいろなクラスがあるからな」

「クラス?」

「ああ。大きさや魔力量、高位の魔物になれば魔法も使うようになる。例えば人型の魔物では小鬼が低級の魔物だ。最も数が多く魔力は弱い。大鬼、豚鬼トローと力が強くなり、最も上位種はDuendeだ。ここまでいけばもう神々と同格だ」

ドゥワンデという魔物の名は初めて聞く。

「ちょっと待ってくれ。今、魔物と神々を同列に扱わなかったか?」

少々虚を突かれた感がある。
俺が持っていた異世界ファンタジー物の定番といえば、神界と人間界以外に魔界があり、魔界の侵略を受ける人間達に対抗手段として神々が与えた力が魔法やチート能力というのが定番だ。
ところが今カミラが言ったのは、魔物と神々を同列に扱う言葉であった。

「あら。その通りですよカズヤさん。人に仇なす存在が魔物、人と共存し気まぐれに恩寵をもたらす存在が神。カズヤさんがもっと強大な魔力を扱うようになれば、いったいどちらになるのか楽しみですわ」

経緯はさておき、ソフィアは神殿から派遣された者だ。そのソフィアが発する言葉には重みがある。
そしてそんなことを楽しみに待たれても困る。
だが例えば娘達が、アリシアやアイダやイザベルやルイサがどこかの国家に謀殺されるようなことがあれば、間違いなく俺はその国に対して牙を剥く。どんな手を使ってでも復讐しようとするだろう。
そうなれば俺は魔物と、あるいは魔人や魔王と呼ばれるようになるのかもしれない。

「話を戻そう。結局ルイサの身に何が起きていると思うんだ?」

「有翼種は古の種族だ。ルイサの先祖が遠い西の島に住んでいたらしいとは聞いている。その島が有翼種終焉の地で、その血が混じっていて……」

「有翼種は虹の女神イリス様の眷属です。イリス様の強い御加護を得ているルイサさんがそのお姿を写すのは当然ですわ」

この2人の話は全く噛み合ってはいない。
いずれにせよ、貧民街出身で養成所では不遇を囲っていたルイサは、実は何やら特別な存在だったか存在になったかなのだ。
彼女がこの先、彼女の希望どおりの魔物狩人カサドールになれるのか、魔物狩人カサドールであり続けられるのか、俺達は見届けなくてはならないだろう。

ポツポツと冷たいものが頰を打つ。

「本降りになりそうね」

カミラが呟く。
静寂を突き破り、雨音が近づいてくる。
しおりを挟む
感想 230

あなたにおすすめの小説

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

筋トレ民が魔法だらけの異世界に転移した結果

kuron
ファンタジー
いつもの様にジムでトレーニングに励む主人公。 自身の記録を更新した直後に目の前が真っ白になる、そして気づいた時には異世界転移していた。 魔法の世界で魔力無しチート無し?己の身体(筋肉)を駆使して異世界を生き残れ!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

チートな嫁たちに囲まれて異世界で暮らしています

もぶぞう
ファンタジー
森でナギサを拾ってくれたのはダークエルフの女性だった。 使命が有る訳でも無い男が強い嫁を増やしながら異世界で暮らす話です(予定)。

処理中です...