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173. 殲滅(7月30日)
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アルカンダラからバルバストロに向かう途中、通りがかった街道沿いの村に襲いかかろうとする一群に気付いた俺達は村に急行した。
アイダの固有魔法“譲渡”によって俺が脳内に描いたスキャン結果を得たイザベルとビビアナが、最大の脅威であるトローとモスカス、身の丈3mを越えるゴリラ型の魔物と、馬をも狩るサイズの昆虫型の魔物を倒した。
残りはゴブリンとオーガが数十匹である。
更に後方には黒いフードを被ったヒトらしき集団がいる。逃げた村人というわけでもないだろうが、警察風に言えば「何らかの事情を知っている」立場のはずだ。
魔物と先に対峙したのは、先頭に立つカミラとアイダであった。
数週間前まで養成所の魔導師教官であったイネス カミラは元軍人でもある。
軍人時代の通り名は“ エギダの黒薔薇”。薔薇と例えられた彼女の固有魔法は、“自身に害を為そうとする全ての攻撃を自動で迎撃する”というものだ。
その魔法は防御に特化したものではあるが、彼女自身は熟練した槍使いである。最近は専ら三八式歩兵銃を模した装填数25発のボルトアクションエアガンに着剣したものを愛用している。
その三八式歩兵銃で遠くのオーガの眉間に風穴を開け、近くのゴブリンの胸を突き刺し、筋収縮で銃剣が抜けなくなるとエアガンをぶっ放してその刺し傷を破壊し、まあ大層な暴れっぷりである。
ツートップを張るアイダも負けてはいない。
本来両手で使うはずの長剣を右手に構え、左手にはカットオフしたM870ショットガン。これがアイダの戦闘スタイルである。
イザベルもM870を使うが、イザベルがスラッグ弾を好むのに対してアイダは5号装弾を使用している。
ケース内に大量に詰まった直径3mmの散弾それぞれが貫通魔法を帯びており、距離10mで幅3mほどのキルゾーンを作り出す。
このポンプアクションのショットガンを棍棒のようにも使いながら、襲いかかるゴブリンを叩き潰し、斬り伏せ、引き裂き、アイダも暴れ回る。
「うわあ……アイダちゃんちょっと引くわぁ」
口ではそんな事を言いながらも、接近戦を好むのはイザベルも同じである。むしろ遠距離狙撃から近接戦闘までオールマイティに熟すのはイザベルだけだ。
今もバックステップで危なげなくゴブリンの攻撃を躱して後方に回り込みガラ空きの首筋に諸刃の刃を叩き込んで首を跳ね飛ばしたところである。その刃は止まることなく、背後から迫っていたゴブリンを逆袈裟に斬り払い、さっさと別のゴブリンと対峙している。
「無駄口を叩いてないで、さっさと倒しておしまいなさいな」
諭す口調のビビアナの頭上には、大量の氷の礫が浮き上がる。次の瞬間、空中を突き進んでいった氷の礫がオーガに襲い掛かり、その体を四方八方から貫く。
「あらあらぁ。みんな血だらけにならないでよねぇ」
妙に耳に残る抑揚で声を上げたのはソフィアだ。
彼女も元軍人であり、退役後は商人の妾を経てアルテミサ神殿に入っている。正確には“神官見習いのグロリアのお目付役としてグロリアの父親に雇われて神殿に入った”のではあるが、彼女自身の醸し出す雰囲気とグロリアの御転婆娘っぷりのせいで、どちらが神官見習いなのかはよくわからない時もある。
そんなソフィアであるが、流石は元軍人である。
迫ってくるゴブリンにも物怖じせずに睨み返す。するとゴブリンの方が視線を逸らし硬直するのだ。そこを難無くアリシアが銃撃して仕留める。
フェル、一角オオカミの幼体であり犬に偽装させたアイダの相棒も、馬車の前方に陣取りカミラの愛馬を守りつつアリシアの死角をカバーして活躍する。
「ソフィア。邪眼の力は自分より魔力が小さい奴にしか効かなかったんじゃないのか?」
俺からの問い掛けに彼女はにっこりと笑って答えた。
「もちろん。ですが小鬼如きには遅れは取りませんわ」
つまり“意のままに操るのは無理でも、動きを止めるぐらいはできる”と言いたいらしい。
娘達の活躍によって、あれよあれよという間に魔物達は数を減らしていった。
◇◇◇
「ふぅ……終わったかな?」
「ええ。探知魔法にも魔物の反応は無し。あとは向こうの黒ずくめの集団ですわね」
短剣から滴る赤黒い魔物の血を振り払うイザベルの言葉に、ビビアナが答える。
同じく戦いを終えたカミラとアイダも前方の黒ずくめの集団を見つめている。
「カズヤさん。いったい何者なんでしょう。カディスの街で小舟に乗ってたっていう黒ずくめの魔法師と同じでしょうか」
アリシアの言うカディスの街での一件が脳裏をよぎる。
ゴブリンとオーガの大群に包囲された港町カディスの衛兵隊を解放した直後、近くの屋上から海上を見たイザベルが怪しい小舟を見つけた。その小舟には確かに魔法師の反応があった。
その事を知ったアイダやノエさんは、身柄を押さえられなかった事をしばらく悔やんでいたのである。
今前方にいる黒ずくめの集団も反応は強弱あれど魔法師のそれである。
カディスの前に訪れたイリョラ村でも、魔物が襲ってくる直前に魔法師か魔導師の来訪があったらしい。
今回で3度目である。もはや偶然とは考えにくい。
「先入観は禁物だが、今回の襲撃に何か関わっているのは間違いないな」
「村を助けようともしませんでした。村に入るのは後回しですか?」
「もちろんだ。あいつらの出方が気になる」
背を向けた瞬間に襲い掛かられでもしたら目も当てられない。
アリシアがMP5A5のマガジンを交換しようとする。
そんなに撃ってはいないが、戦闘の合間にマガジンチェンジするのは当然である。俺もジャングルスタイルに差しているG36Cのマガジンを抜き、残弾数を確認してゼンマイを巻き上げる。
その作業の最中も意識は前方に向けている。
全員の意識が前方の黒ずくめの集団に集中した、その時だった。
キャッという小さく鋭い悲鳴が聞こえた。
振り返って声の主を探す。
荷台の端で上を見上げるルイサとグロリア。その視線の先には黒っぽい緑色の肌、大きな毛の無い頭部に長い耳、涎が滴る口からは鋭い牙が覗く……ゴブリンだ。いったいいつの間に村に侵入したというのだ。
反射的に銃口を向けながらマガジンを叩き込もうとするが上手く入らない。
アリシアも隣でガチャガチャやっているが同じ状況に陥っている。
ヒップホルスターからUSPハンドガンを抜く間に、イザベルが猛然とダッシュし始めた。
だがゴブリンの動きは早かった。
門の隣の見張り台から馬車の荷台目掛けて飛び降りてきた。
アイダの固有魔法“譲渡”によって俺が脳内に描いたスキャン結果を得たイザベルとビビアナが、最大の脅威であるトローとモスカス、身の丈3mを越えるゴリラ型の魔物と、馬をも狩るサイズの昆虫型の魔物を倒した。
残りはゴブリンとオーガが数十匹である。
更に後方には黒いフードを被ったヒトらしき集団がいる。逃げた村人というわけでもないだろうが、警察風に言えば「何らかの事情を知っている」立場のはずだ。
魔物と先に対峙したのは、先頭に立つカミラとアイダであった。
数週間前まで養成所の魔導師教官であったイネス カミラは元軍人でもある。
軍人時代の通り名は“ エギダの黒薔薇”。薔薇と例えられた彼女の固有魔法は、“自身に害を為そうとする全ての攻撃を自動で迎撃する”というものだ。
その魔法は防御に特化したものではあるが、彼女自身は熟練した槍使いである。最近は専ら三八式歩兵銃を模した装填数25発のボルトアクションエアガンに着剣したものを愛用している。
その三八式歩兵銃で遠くのオーガの眉間に風穴を開け、近くのゴブリンの胸を突き刺し、筋収縮で銃剣が抜けなくなるとエアガンをぶっ放してその刺し傷を破壊し、まあ大層な暴れっぷりである。
ツートップを張るアイダも負けてはいない。
本来両手で使うはずの長剣を右手に構え、左手にはカットオフしたM870ショットガン。これがアイダの戦闘スタイルである。
イザベルもM870を使うが、イザベルがスラッグ弾を好むのに対してアイダは5号装弾を使用している。
ケース内に大量に詰まった直径3mmの散弾それぞれが貫通魔法を帯びており、距離10mで幅3mほどのキルゾーンを作り出す。
このポンプアクションのショットガンを棍棒のようにも使いながら、襲いかかるゴブリンを叩き潰し、斬り伏せ、引き裂き、アイダも暴れ回る。
「うわあ……アイダちゃんちょっと引くわぁ」
口ではそんな事を言いながらも、接近戦を好むのはイザベルも同じである。むしろ遠距離狙撃から近接戦闘までオールマイティに熟すのはイザベルだけだ。
今もバックステップで危なげなくゴブリンの攻撃を躱して後方に回り込みガラ空きの首筋に諸刃の刃を叩き込んで首を跳ね飛ばしたところである。その刃は止まることなく、背後から迫っていたゴブリンを逆袈裟に斬り払い、さっさと別のゴブリンと対峙している。
「無駄口を叩いてないで、さっさと倒しておしまいなさいな」
諭す口調のビビアナの頭上には、大量の氷の礫が浮き上がる。次の瞬間、空中を突き進んでいった氷の礫がオーガに襲い掛かり、その体を四方八方から貫く。
「あらあらぁ。みんな血だらけにならないでよねぇ」
妙に耳に残る抑揚で声を上げたのはソフィアだ。
彼女も元軍人であり、退役後は商人の妾を経てアルテミサ神殿に入っている。正確には“神官見習いのグロリアのお目付役としてグロリアの父親に雇われて神殿に入った”のではあるが、彼女自身の醸し出す雰囲気とグロリアの御転婆娘っぷりのせいで、どちらが神官見習いなのかはよくわからない時もある。
そんなソフィアであるが、流石は元軍人である。
迫ってくるゴブリンにも物怖じせずに睨み返す。するとゴブリンの方が視線を逸らし硬直するのだ。そこを難無くアリシアが銃撃して仕留める。
フェル、一角オオカミの幼体であり犬に偽装させたアイダの相棒も、馬車の前方に陣取りカミラの愛馬を守りつつアリシアの死角をカバーして活躍する。
「ソフィア。邪眼の力は自分より魔力が小さい奴にしか効かなかったんじゃないのか?」
俺からの問い掛けに彼女はにっこりと笑って答えた。
「もちろん。ですが小鬼如きには遅れは取りませんわ」
つまり“意のままに操るのは無理でも、動きを止めるぐらいはできる”と言いたいらしい。
娘達の活躍によって、あれよあれよという間に魔物達は数を減らしていった。
◇◇◇
「ふぅ……終わったかな?」
「ええ。探知魔法にも魔物の反応は無し。あとは向こうの黒ずくめの集団ですわね」
短剣から滴る赤黒い魔物の血を振り払うイザベルの言葉に、ビビアナが答える。
同じく戦いを終えたカミラとアイダも前方の黒ずくめの集団を見つめている。
「カズヤさん。いったい何者なんでしょう。カディスの街で小舟に乗ってたっていう黒ずくめの魔法師と同じでしょうか」
アリシアの言うカディスの街での一件が脳裏をよぎる。
ゴブリンとオーガの大群に包囲された港町カディスの衛兵隊を解放した直後、近くの屋上から海上を見たイザベルが怪しい小舟を見つけた。その小舟には確かに魔法師の反応があった。
その事を知ったアイダやノエさんは、身柄を押さえられなかった事をしばらく悔やんでいたのである。
今前方にいる黒ずくめの集団も反応は強弱あれど魔法師のそれである。
カディスの前に訪れたイリョラ村でも、魔物が襲ってくる直前に魔法師か魔導師の来訪があったらしい。
今回で3度目である。もはや偶然とは考えにくい。
「先入観は禁物だが、今回の襲撃に何か関わっているのは間違いないな」
「村を助けようともしませんでした。村に入るのは後回しですか?」
「もちろんだ。あいつらの出方が気になる」
背を向けた瞬間に襲い掛かられでもしたら目も当てられない。
アリシアがMP5A5のマガジンを交換しようとする。
そんなに撃ってはいないが、戦闘の合間にマガジンチェンジするのは当然である。俺もジャングルスタイルに差しているG36Cのマガジンを抜き、残弾数を確認してゼンマイを巻き上げる。
その作業の最中も意識は前方に向けている。
全員の意識が前方の黒ずくめの集団に集中した、その時だった。
キャッという小さく鋭い悲鳴が聞こえた。
振り返って声の主を探す。
荷台の端で上を見上げるルイサとグロリア。その視線の先には黒っぽい緑色の肌、大きな毛の無い頭部に長い耳、涎が滴る口からは鋭い牙が覗く……ゴブリンだ。いったいいつの間に村に侵入したというのだ。
反射的に銃口を向けながらマガジンを叩き込もうとするが上手く入らない。
アリシアも隣でガチャガチャやっているが同じ状況に陥っている。
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