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169.ソフィアとグロリア① (7月29日)
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睨み合いというか舌戦らしきものを繰り広げる旧知の間柄らしいカミラとソフィアを制して、出立の準備をさせる。
とは言え、既に準備が終わっている娘達は馬車の荷台に乗り込むだけである。
ソフィアをグロリアが抱き上げて荷台に乗せ、自分は御者台に座るカミラの隣に乗り込んだ。てっきりグロリアにべったりの付き人かと思っていたのだが、そういう関係でもないようだ。
この2人の荷物は予め荷台の下に収められていた。木箱が2つ。何が入っているかは知らないが、少なくとも水だけは別管理することを娘達にも徹底させなければ。
校長先生と寮監達に簡単に挨拶を済ませ、最後に荷台に乗り込む。俺の座る位置は進行方向に向かって右手奥、カミラの背中を右側に見る位置だ。俺の正面にイザベル、その隣にルイサ、ビビアナ、俺の隣にはアリシア、更に隣にグロリア、アイダと続く。
フェルは俺達の足元に陣取った。
アイダの正面は空席だが、誰もがずっとお行儀良く座っていられるわけでもないから丁度いいだろう。特に乗り物酔いをするイザベルは、あまり窮屈に座らせておくわけにもいかない。
俺達が落ち着くのを待って、カミラが馬車を走らせはじめた。
◇◇◇
さて、これから向かう先はバルバストロの南東域、ニーム山脈の裾野にあるグラウス近傍の村だが、アリシアが広げた地図を使って地理のおさらいしておこう。
今いるアルカンダラはタルテトス王国の最も南、ルシタニア領という長い半島のほぼ中央である。
タルテトス王国は首都タルテトスの他に4つの地方が集まって構成されている。
バルバストロ、ルシタニア、セトゥバル、カルタヘナだ。
タルテトスは王国の首都で、王国のほぼ中心に位置し、周辺を大きな円形に直轄領としている。
首都タルテトスから見て北東がバルバストロ、南東がルシタニア、北西がカルタヘナ、南西がセトゥバルだ。
バルバストロの東と北には大きな山脈がある。
東の山脈をニーム山脈と言い、山脈の東には魔物の支配領域が広がる。
北の山脈はニーム山脈よりは標高がかなり低く、山脈というより山地といったほうが適切だろう。
この山地を二トラ山地という。
ニーム山脈沿いに南下すると、ここルシタニアの領内に入る。
ニーム山脈からは多くの川が端を発し、バルバストロとルシタニアの領内を潤し、タルテトスの近くでカルタヘナから流れてくる別の川と合流してニーム川となり、セトゥバルの脇を通って海へと注ぐ。
この枯れることのない川のおかげで、タルテトス王国は小麦や大麦といった穀物の他にも、温暖な気候を生かしたオリーブやオレンジ、ブドウやイチジクといった果樹とワインの栽培が盛んだ。
王国はニーム山脈を隔てて東を魔物の領域に接し、西をオスタン公国と、北を二トラ山地を挟んでノルトハウゼン大公国と接している。
このオスタン公国とノルトハウゼン大公国から見ると、タルテトス王国は魔物の領域との緩衝地帯である一方で、穀倉地帯を狙ってもいる。
特に二トラ山地を挟んでノルトハウゼン大公国軍と睨み合うのが、カミラがいた北方方面軍である。
◇◇◇
「確かアイダのおばあさんの出身地がバルバストロではなかったか?」
アリシアとグロリアの頭越しにアイダに話し掛ける。
「はい。正確な場所はわかりませんが、ルシタニアとバルバストロの境目あたりの街だと聞いています。タルテトスに住む母なら知っていると思いますが」
「そう言えばお前達は実家に顔を出したりしなくてよかったのか?アリシアの実家はアルカンダラなんだろう?」
「はい。でも養成所に入所から戻っていませんし、定期的に手紙のやり取りはしていました。最近はちょっとバタバタしてて、卒業した事も伝えていませんけど……」
それは俺も気が回らなかった。
落ち着いたら一度挨拶には行かねばならないだろう。
「イザベルはどうだ?確か6人兄妹だったな」
「そう。私が末っ子。まあ両親は仲が良いし、兄も姉も近くに住んでる。私が行かなくても平気だよ」
「イザベルちゃんはバルバストロ出身よね」
「バルバストロって言っても、タルテトスの近くだからバルバストロのことはほとんど知らないよ。イーちゃんは行ったことあるんでしょ?」
「行ったというか駐屯していたからな。一応の土地勘はあるつもりだが。ビビアナはアルカンダラ出身だな」
「ええ、北街区ですわ。えっと……自己紹介が未だでしたわね。ソフィアさんとお呼びすればよろしいですか?私はビビアナと申します」
娘達の誰もが話し掛けようとはしなかったが、とうとうビビアナが口火を切ってくれた。
御者台でカミラの左に座ったソフィアが振り返る。
「はい。ソフィア メルクーリでございます。ソフィアで結構ですわ、ビビアナ様」
「私の方こそビビアナでよろしくってよ。ソフィアさんは軍務にお就きになったご経験が?」
「ええ。3年ほど前までニトラ山地のほうに居りましたの。カミラとはその時に知り合いに」
「ソフィアは除隊後にどうして神殿に入ったんだ?そんな柄じゃなかったろう」
「それには深い訳があるのよ」
「だからその訳を聞いているのだが」
「女の秘密を掘り返すの?」
「私だって女だ!」
舌戦というよりも漫才である。
一方、荷台ではグロリアの餌付けが試みられている。
チャレンジャーはアリシアとアイダだ。その光景をルイサが興味津々といった趣きで眺めている。
「ほら、美味しいわよ。食べて」
「こっちは干し肉だ。美味いぞ」
両側から差し出された手の平に対して、グロリアはツンっと斜め上を向いた。
「どうして妾がお主等の施しを受けねばらなぬのじゃ」
「施しって、そんなつもりじゃないのよ。これから一緒に旅をする仲間じゃない。仲良くしましょう」
「仲間じゃと?お主等は妾に仕える者どもであろう。それを仲間などとは図々しいにもほ……っ痛いのじゃ!」
グロリアの発言は途中で遮られた。
向かいに座るビビアナが、その長い足を優雅に跳ね上げたのである。
「何をするか!この無礼者!」
涙を浮かべたグロリアの抗議に、ビビアナは悠然とした微笑みで返した。
「あら。お嬢様でも足が当たるとお痛いのですわね」
「当たり前じゃ!妾を誰だと思っておる!」
「じゃじゃ馬グロリアでしょう。街中が知っておりますわ」
オーホッホッホとでも効果音を付ければさぞかし似合うのだろう。
「違うわ!妾はグロリア エンリケス、エンリケス家の四女であるぞ!もっと敬意を払わんかこの平民共!」
「ほう……言うに事欠いて平民呼ばわりですか。では改めて自己紹介いたしますわ。我はビビアナ オリバレス。オリバレス家の娘です。以後お見知り置きを」
ビビアナが胸に手を当ててわざとらしく会釈する。
「オリバレス……オリバレス家の者が、どうして狩人などやっておるのじゃ!」
グロリアの声を無視して、ビビアナが娘達の紹介を続ける。
「そちらが王国騎士ローラン家のアイダ、タルテトス出身。あなたの右側はガルセス家のアリシア。アルカンダラ出身。こちらの端に座るのが……」
「待たぬか!妾の質問に答えよ!」
「オリバレスの名を持つ者が、どうしてポッと出の一代男爵ごときの、それもその娘の質問に答えなければいけませんの?せっかく好意でお教えしていると言いますのに」
ぐぬぬ……
グロリアの喉の辺りから発せられた音は確かにそう聞こえた。実際に音として聴くことになるとはな……
「つまりはそう言うことです。家柄を盾にしようとすれば、更に上位の立場の者に叩き潰されるだけです。今後は気をつけることですわ」
再びグロリアから発せられた音は歯軋りだろうか。
「なあアリシア。ビビアナの家柄ってそんなに凄いのか?」
隣のアリシアに小声で尋ねる。大層な身分だろうとは思っていたが、具体的にオリバレス家がどういう存在なのかはっきりとは聞いてはいない。
「ルシタニアでは序列3位、タルテトス王国全体でも序列8位の侯爵家です」
おい。ビビアナの実家は侯爵家なのか。
侯爵といえば宰相とか地方領主に封じられてもおかしくない爵位のはずだし、その娘は順調に行けば伯爵夫人ぐらいにはなるはずだ。そのビビアナが何で狩人なんかやっている。グロリアの疑問も尤もである。
「ふ~ん。あんたの家って一代貴族なんだ。じゃああんた自身は無位無冠っての?要は平民なんでしょ。よっぽど頑張らないと、この先辛いんじゃあない?」
グロリアとビビアナのやり取りをつまらなそうに眺めていたイザベルが口を挟んだ。
沈黙するグロリアの横顔は紅潮し、その目には涙が浮かぶ。
「そう……なのですわ……ですから!この度のバンピロー征伐は……えっと……渡に船?なのです!」
「だったら私達に協力することね。とりあえず、その偉そうな態度を改めなさい。この中ではあなたはいっちばん下の立場なんだからね!」
「そんな……こ、この子はどうなのじゃ!妾とそう歳も変わらぬであろう!」
「ルイサの後見には私が付いています。この子は私の庇護下にあり、その私の後見人がこちらのカズヤ殿ですわ」
今度こそグロリアは黙った。諦めたのか、あるいは抗弁する気力が失せたのか。
「ソフィアさん。あなたがグロリアと行動を共にしているのは、もしかして彼女の教育係だからではありませんか?」
荷台の様子をしげしげと見ていたソフィアは、俺を見てニンマリと笑った。
「そのとおりです。私自身はエンリケス家に雇われた身です。もちろん雇い主はエンリケス家現当主のレオン エンリケス。先ほどお話が出たとおり、一代男爵号をお持ちの方ですわ」
「んで、何であんたがエンリケス家に潜り込んでるのよ」
「人聞きが悪いわねぇイネス。ちゃんとした就職活動の結果です」
「あんたなら男侍らせて遊んで暮らせるでしょうに」
「あら。それは私の美貌のせいかしら」
「あんたの固有魔法のせいよ!軍人でも商人でも、普通の魔力量の人間なら思い通りにできるでしょ!」
「そうねえ……退役してしばらくはそうしていたわ。でもね、飽きたのよ。もうちょっと誰かの役に立ちたいというか、わかるでしょ?」
こうしてソフィアは自分の身の上話を始めたのである。
とは言え、既に準備が終わっている娘達は馬車の荷台に乗り込むだけである。
ソフィアをグロリアが抱き上げて荷台に乗せ、自分は御者台に座るカミラの隣に乗り込んだ。てっきりグロリアにべったりの付き人かと思っていたのだが、そういう関係でもないようだ。
この2人の荷物は予め荷台の下に収められていた。木箱が2つ。何が入っているかは知らないが、少なくとも水だけは別管理することを娘達にも徹底させなければ。
校長先生と寮監達に簡単に挨拶を済ませ、最後に荷台に乗り込む。俺の座る位置は進行方向に向かって右手奥、カミラの背中を右側に見る位置だ。俺の正面にイザベル、その隣にルイサ、ビビアナ、俺の隣にはアリシア、更に隣にグロリア、アイダと続く。
フェルは俺達の足元に陣取った。
アイダの正面は空席だが、誰もがずっとお行儀良く座っていられるわけでもないから丁度いいだろう。特に乗り物酔いをするイザベルは、あまり窮屈に座らせておくわけにもいかない。
俺達が落ち着くのを待って、カミラが馬車を走らせはじめた。
◇◇◇
さて、これから向かう先はバルバストロの南東域、ニーム山脈の裾野にあるグラウス近傍の村だが、アリシアが広げた地図を使って地理のおさらいしておこう。
今いるアルカンダラはタルテトス王国の最も南、ルシタニア領という長い半島のほぼ中央である。
タルテトス王国は首都タルテトスの他に4つの地方が集まって構成されている。
バルバストロ、ルシタニア、セトゥバル、カルタヘナだ。
タルテトスは王国の首都で、王国のほぼ中心に位置し、周辺を大きな円形に直轄領としている。
首都タルテトスから見て北東がバルバストロ、南東がルシタニア、北西がカルタヘナ、南西がセトゥバルだ。
バルバストロの東と北には大きな山脈がある。
東の山脈をニーム山脈と言い、山脈の東には魔物の支配領域が広がる。
北の山脈はニーム山脈よりは標高がかなり低く、山脈というより山地といったほうが適切だろう。
この山地を二トラ山地という。
ニーム山脈沿いに南下すると、ここルシタニアの領内に入る。
ニーム山脈からは多くの川が端を発し、バルバストロとルシタニアの領内を潤し、タルテトスの近くでカルタヘナから流れてくる別の川と合流してニーム川となり、セトゥバルの脇を通って海へと注ぐ。
この枯れることのない川のおかげで、タルテトス王国は小麦や大麦といった穀物の他にも、温暖な気候を生かしたオリーブやオレンジ、ブドウやイチジクといった果樹とワインの栽培が盛んだ。
王国はニーム山脈を隔てて東を魔物の領域に接し、西をオスタン公国と、北を二トラ山地を挟んでノルトハウゼン大公国と接している。
このオスタン公国とノルトハウゼン大公国から見ると、タルテトス王国は魔物の領域との緩衝地帯である一方で、穀倉地帯を狙ってもいる。
特に二トラ山地を挟んでノルトハウゼン大公国軍と睨み合うのが、カミラがいた北方方面軍である。
◇◇◇
「確かアイダのおばあさんの出身地がバルバストロではなかったか?」
アリシアとグロリアの頭越しにアイダに話し掛ける。
「はい。正確な場所はわかりませんが、ルシタニアとバルバストロの境目あたりの街だと聞いています。タルテトスに住む母なら知っていると思いますが」
「そう言えばお前達は実家に顔を出したりしなくてよかったのか?アリシアの実家はアルカンダラなんだろう?」
「はい。でも養成所に入所から戻っていませんし、定期的に手紙のやり取りはしていました。最近はちょっとバタバタしてて、卒業した事も伝えていませんけど……」
それは俺も気が回らなかった。
落ち着いたら一度挨拶には行かねばならないだろう。
「イザベルはどうだ?確か6人兄妹だったな」
「そう。私が末っ子。まあ両親は仲が良いし、兄も姉も近くに住んでる。私が行かなくても平気だよ」
「イザベルちゃんはバルバストロ出身よね」
「バルバストロって言っても、タルテトスの近くだからバルバストロのことはほとんど知らないよ。イーちゃんは行ったことあるんでしょ?」
「行ったというか駐屯していたからな。一応の土地勘はあるつもりだが。ビビアナはアルカンダラ出身だな」
「ええ、北街区ですわ。えっと……自己紹介が未だでしたわね。ソフィアさんとお呼びすればよろしいですか?私はビビアナと申します」
娘達の誰もが話し掛けようとはしなかったが、とうとうビビアナが口火を切ってくれた。
御者台でカミラの左に座ったソフィアが振り返る。
「はい。ソフィア メルクーリでございます。ソフィアで結構ですわ、ビビアナ様」
「私の方こそビビアナでよろしくってよ。ソフィアさんは軍務にお就きになったご経験が?」
「ええ。3年ほど前までニトラ山地のほうに居りましたの。カミラとはその時に知り合いに」
「ソフィアは除隊後にどうして神殿に入ったんだ?そんな柄じゃなかったろう」
「それには深い訳があるのよ」
「だからその訳を聞いているのだが」
「女の秘密を掘り返すの?」
「私だって女だ!」
舌戦というよりも漫才である。
一方、荷台ではグロリアの餌付けが試みられている。
チャレンジャーはアリシアとアイダだ。その光景をルイサが興味津々といった趣きで眺めている。
「ほら、美味しいわよ。食べて」
「こっちは干し肉だ。美味いぞ」
両側から差し出された手の平に対して、グロリアはツンっと斜め上を向いた。
「どうして妾がお主等の施しを受けねばらなぬのじゃ」
「施しって、そんなつもりじゃないのよ。これから一緒に旅をする仲間じゃない。仲良くしましょう」
「仲間じゃと?お主等は妾に仕える者どもであろう。それを仲間などとは図々しいにもほ……っ痛いのじゃ!」
グロリアの発言は途中で遮られた。
向かいに座るビビアナが、その長い足を優雅に跳ね上げたのである。
「何をするか!この無礼者!」
涙を浮かべたグロリアの抗議に、ビビアナは悠然とした微笑みで返した。
「あら。お嬢様でも足が当たるとお痛いのですわね」
「当たり前じゃ!妾を誰だと思っておる!」
「じゃじゃ馬グロリアでしょう。街中が知っておりますわ」
オーホッホッホとでも効果音を付ければさぞかし似合うのだろう。
「違うわ!妾はグロリア エンリケス、エンリケス家の四女であるぞ!もっと敬意を払わんかこの平民共!」
「ほう……言うに事欠いて平民呼ばわりですか。では改めて自己紹介いたしますわ。我はビビアナ オリバレス。オリバレス家の娘です。以後お見知り置きを」
ビビアナが胸に手を当ててわざとらしく会釈する。
「オリバレス……オリバレス家の者が、どうして狩人などやっておるのじゃ!」
グロリアの声を無視して、ビビアナが娘達の紹介を続ける。
「そちらが王国騎士ローラン家のアイダ、タルテトス出身。あなたの右側はガルセス家のアリシア。アルカンダラ出身。こちらの端に座るのが……」
「待たぬか!妾の質問に答えよ!」
「オリバレスの名を持つ者が、どうしてポッと出の一代男爵ごときの、それもその娘の質問に答えなければいけませんの?せっかく好意でお教えしていると言いますのに」
ぐぬぬ……
グロリアの喉の辺りから発せられた音は確かにそう聞こえた。実際に音として聴くことになるとはな……
「つまりはそう言うことです。家柄を盾にしようとすれば、更に上位の立場の者に叩き潰されるだけです。今後は気をつけることですわ」
再びグロリアから発せられた音は歯軋りだろうか。
「なあアリシア。ビビアナの家柄ってそんなに凄いのか?」
隣のアリシアに小声で尋ねる。大層な身分だろうとは思っていたが、具体的にオリバレス家がどういう存在なのかはっきりとは聞いてはいない。
「ルシタニアでは序列3位、タルテトス王国全体でも序列8位の侯爵家です」
おい。ビビアナの実家は侯爵家なのか。
侯爵といえば宰相とか地方領主に封じられてもおかしくない爵位のはずだし、その娘は順調に行けば伯爵夫人ぐらいにはなるはずだ。そのビビアナが何で狩人なんかやっている。グロリアの疑問も尤もである。
「ふ~ん。あんたの家って一代貴族なんだ。じゃああんた自身は無位無冠っての?要は平民なんでしょ。よっぽど頑張らないと、この先辛いんじゃあない?」
グロリアとビビアナのやり取りをつまらなそうに眺めていたイザベルが口を挟んだ。
沈黙するグロリアの横顔は紅潮し、その目には涙が浮かぶ。
「そう……なのですわ……ですから!この度のバンピロー征伐は……えっと……渡に船?なのです!」
「だったら私達に協力することね。とりあえず、その偉そうな態度を改めなさい。この中ではあなたはいっちばん下の立場なんだからね!」
「そんな……こ、この子はどうなのじゃ!妾とそう歳も変わらぬであろう!」
「ルイサの後見には私が付いています。この子は私の庇護下にあり、その私の後見人がこちらのカズヤ殿ですわ」
今度こそグロリアは黙った。諦めたのか、あるいは抗弁する気力が失せたのか。
「ソフィアさん。あなたがグロリアと行動を共にしているのは、もしかして彼女の教育係だからではありませんか?」
荷台の様子をしげしげと見ていたソフィアは、俺を見てニンマリと笑った。
「そのとおりです。私自身はエンリケス家に雇われた身です。もちろん雇い主はエンリケス家現当主のレオン エンリケス。先ほどお話が出たとおり、一代男爵号をお持ちの方ですわ」
「んで、何であんたがエンリケス家に潜り込んでるのよ」
「人聞きが悪いわねぇイネス。ちゃんとした就職活動の結果です」
「あんたなら男侍らせて遊んで暮らせるでしょうに」
「あら。それは私の美貌のせいかしら」
「あんたの固有魔法のせいよ!軍人でも商人でも、普通の魔力量の人間なら思い通りにできるでしょ!」
「そうねえ……退役してしばらくはそうしていたわ。でもね、飽きたのよ。もうちょっと誰かの役に立ちたいというか、わかるでしょ?」
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