異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫

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165.ルイサの訓練(7月20〜26日)

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翌朝からルイサの基礎訓練が始まった。
養成所でのルイサの年次(学年)は1回生である。
3回生であったビビアナと2回生だったアリシア達の直系の後輩だが、入所基準年齢に満たないまま入所したルイサは1回生の訓練にもついて行くことができず、別メニューで訓練していたらしい。
まあ中学生の部活動に小学校中学年の児童が混ざっているようなものなのだ。ついて行く事自体が無理だろう。

と思ってはいたのだが、ルイサの基礎訓練は苛烈を極めた。
夜明けと共に起床し柔軟体操と筋力トレーニング。これはビビアナの担当。
朝食後には森の中のランニングと弓矢の訓練。これはイザベル。
昼食後には素振りと基本的な剣の型の練習。これはアイダが熱心に指導した。“将来的に短剣や槍を選ぶかもしれないし、他の武器をメインとするかもしれないが、片手長剣が全ての基本である”というのがアイダの持論だった。
しばしの休憩の後に魔力操作と読み書きをカミラが指導して1日が終わる。
アリシアは食事の支度やら日常生活を送る上で必要な事を指導してくれている。
俺か?俺は激しい訓練でルイサが脱水症状や魔力切れを起こさないよう、ひたすら水を錬成しペットボトルで冷やす係であった。いわゆるウォーターサーバー的なやつである。
何せ俺自身はこの世界の教育を全く受けてはいない。
一応教官の身分は与えられはしたが、これはいわゆる名誉職的な意味合いが強いと思っている。これからも養成所で教鞭を執ることはないだろう。
故に、俺がルイサの基礎訓練を指導することはできないのである。

◇◇◇

ルイサの基礎訓練開始から1週間、彼女はメキメキと成長していた。
出会った当初は“走るのが他の子より少し速いだけ”と評されていたルイサであったが、3日目には森で迷うことがなくなり、5日目にはイザベルに置いて行かれないぐらいの速さで森を進めるようになった。
最初は引くことすらできなかった弓を使い飛ぶ鳥を射落とすことができたのも5日目だ。
剣では到底アイダやビビアナには敵わないが、アリシアとならば一応押されっぱなしということはなくなった。だがどうにも剣に振り回されている感は否めない。
肝心の魔法であるが、今のところ“虹の加護”以外の加護が得られた兆候はない。しかし休憩時間にフェルと戯れる姿を見るに、“虹の加護”の御利益である素早さは十分に得られたらしい。
ちなみにカミラが熱心に指導していた読み書きだが、とりあえず街で普通に過ごすには困らないレベルに達したようだ。俺よりも吸収が早いのは若さゆえのことか。

◇◇◇

「疲れた~!お兄ちゃん冷たいのちょうだい」

「私もお水欲しいです、兄さん」

午前の訓練を終えたのかログハウスに戻ってきたイザベルとルイサは、デッキに半ば倒れ込みながら水を欲する。7月半ばとは思えないほど快適な陽気ではあるが、森の中とはいえ全力疾走を続けていたのだろう。2人とも頬が紅潮し息遣いも荒い。

差し出したペットボトルの水を一気に飲み干した2人は、再び勢いよく立ち上がる。

「っしゃ回復!ルイサ!もう一回行くか!」

「はい!お願いします!」

そう、ルイサが極めて短期間で成長しているのは、おそらく水の効果である。
場所によっては“聖水”と評されるかもしれないこの水は、疲労回復効果のみならず魔力回復効果まであるのだ。この水を一日に何度も一気飲みすることで、通常では考えられないほどのスピードで成長しているのだ。

「あら?あの子達また行ったの?」

2人を見送る俺の後ろから、カミラが声を掛けてきた。

「ああ。若いっていいな」

「何言ってるの。あなただって十分若いでしょう。少なくとも見た目はね」

俺の頭を軽く小突きながら言うカミラも、俺の実年齢からすれば十分若いのだが。

「ルイサはどんな感じだ?連れて行けそうか?」

「そうね……」

カミラは顎に指を軽く当ててしばらく考える。

「養成所を卒業したての雛といったところかしら。南に遣わされた時のあなた達よりも、よっぽど物の役に立つわ。そう思わない?」

カミラが話を振ったのは、窓辺に集まっていた娘達に対してだった。

「イーさんそれはちょっと盛り過ぎではないですか?剣技はまだまだですよ」

「でも旅には同行できるんじゃないでしょうか。魔法は使えませんけど、パーティードの一員としては立派に活躍できると思います」

「ビビアナの意見は?後見人のお前から見て、あの子はどうだ?」

「みなさんの支えがあれば大丈夫ですわ。それにフェルがあの子を気に入っているみたいです。フェルが守ってくれますわ」

ビビアナが言うのなら問題ないのだろう。
そもそもルイサが猛特訓をしているのは、バルバストロ領の南東域、ニーム山脈の裾野にあるグラウス近傍の村に吸血鬼バンピローが出たためである。その討伐に俺達が遣わされる可能性がある。
時を同じくして孤児のルイサがビビアナに引き取られる事が決まった。俺達が討伐に向かう間、幼いルイサを一人お留守番させるわけにもいかず、最低限の事は短期間で教え込まなければならなくなったのだ。

「なあ。ルイサは長剣よりも短剣の方が上達するんじゃないか?アイダ、どう思う?」

「ええ。私もそう思います。それで……ビビアナ」

「そうですわね。バルシャドを送ったついでに買ったものがありますの。ちょっと待っててくださいな」

そう言ってビビアナが一度引っ込む。
次に出てきた時には、片手で何かの包みを持っていた。

「これをあの子に渡そうかと。カズヤさん、お願いできます?」

俺の包みを渡しながらビビアナが言う。
プレゼントなら自分で渡せばいいと思うのだが。

「これは?」

「どうぞ開けてくださいな」

ビビアナに促されるまま、包んでいる布を外す。
中から出てきたのは、一振りの短剣であった。
短剣と一括りにするが、その姿形は様々である。
アイダやビビアナ、カミラのように主武器が別にある物が持つ道具としての短剣は、刃渡り20cmほどの片刃のナイフだ。
一方、短剣を主武器とするイザベルが持つのは、両刃で刃渡り40cmほどのいわゆるダガーである。
包みの中から出てきたのは、刃渡り30cmほどのマチェットナイフのような短剣のブレードであった。
ストレートブレードや直剣が多いこの世界の短剣の中では珍しく、エッジが弧を描くドロップポイントの錆びついたブレードである。

「ん?刀身ブレードだけか?グリップや鞘はどうした?」

「骨董屋の掘り出し物だったので、見当たりませんでしたの。でも、なかなか見ない形でしょう?」

「ちょうどルイサの雰囲気に合うと思って、思わず買い求めてしまったのです。ですがこのまま渡すわけにもいかず……」

「あ!革の鞘でよければ、私作りますよ!」

革細工の得意なアリシアであれば、ピッタリの鞘は作ってくれるだろう。とすればあとはフルタングのブレードに合うグリップか。

「それで、カズヤさんにお願いなのですが。ルイサに合うように仕上げていただけないでしょうか。知恵と工芸の神ミナーヴァ様の強いご加護をお持ちのカズヤさんに仕上げていただければ、必ずや良いナーサになるかと」

ふむ……確かに今のルイサが使うには少々大きいような気もするが、湾曲した刀身はルイサのどこかエキゾチックな雰囲気に似合うかもしれない。
それに、魔力はあるが魔法が使えない彼女が狩人として活動するには、何らかの補助具が必要だ。

「わかった。一晩預かっていいか?」

「もちろんですわ。急いで渡さねばならない物でもありませんし」

「でも、そろそろ養成所からの使いが来そうよ。もう1週間でしょ。如何に“万事が遅い神殿”でも、流石に1週間もあれば大義名分を立ててくるでしょう」

カミラの言葉に皆が頷く。
相変わらず神殿に対して手厳しい印象を持っているようだが、具体的に何かされたわけでもないらしい。
反目し合うのが伝統ということもないだろうが、バンピロー討伐に一緒に行くのならば上手くやって欲しいものである。
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