上 下
157 / 238

156.ビビアナ デレる!?(7月18日)

しおりを挟む
3人娘に加えてカミラ先生までもが二日酔いでダウンした。いや、3人娘の名誉のために敢えて書くが、あの子達は二日酔いではない……らしい。
一応様子を見に行こうとしたが、唯一元気なビビアナに固く禁じられた。むしろ邪魔だから外に出ていろと言う。

「私はこれから忙しいのですわ。皆さんのお世話をしなければなりませんし、フェルの朝食もまだでしょう。カズヤさんはどうぞ“外で”遊んできてくださいな」

とまあ、こんな感じである。
たまの休みに家でのんびりしようとしたら、妻と子供に邪魔者扱いされる父親とは、こんな気持ちになるのだろうか。

だが、ここでビビアナに逆らっても双方に何のメリットもない。ここは大人しく“外で遊んで”いよう。

◇◇◇

ログハウスの外に出たはいいものの、さて、何をしようか。
ログハウスの入口のテラスに腰掛け、思いを巡らせる。
転移魔法で自宅に帰ってもいいのだ。リビングの奥には転移魔法用の扉が常設してあるから、用事があれば誰かが呼びにくるだろう。
だが何故かログハウスから長い時間離れる気分にはならなかった。かといってイザベルのように屋根で昼寝という気分でもない。そもそも早朝の時間を外したら、遮る物の何も無い屋根など酷暑の極みになるに決まっている。
仕方ない。何か魔道具でも錬成するか。
一応俺の身分は魔導師教官であり、主な業務は魔道具の開発のはずだ。これも仕事の内である。

さて、この世界で錬成した魔道具は幾つかある。
イリョラ村やイビッサ島のマルサ村に置いてきた、魔物の接近を感知する装置もそうだし、カミラ先生が使う三八式歩兵銃や、ビビアナが装備するVz61通称スコーピオンもそうだ。ショットガンであるレミントンM870や対物狙撃銃PGMへカートⅡも錬成した。
ならば個人携行武器の極み、パンツァーファウスト3又の名を110mm個人携帯対戦車弾はどうだろう。
或いはいっそのこと擲弾発射器はどうだろう。
カディス奪還作戦の時に擲弾なり榴弾があったなら、相当楽に戦闘が進められたはずだ。

ダメだな。どうしても思考回路が火薬を使う武器に偏ってしまう。
この世界で俺が魔物を倒せているのは、あくまでも魔法の力によってだ。
魔物を倒すエアガンの仕組みを極端に言えば、辺りの石ころに貫通魔法を掛けて放り投げ、加速させているのと変わらない。これはエアガンでなくとも、例えば弓矢やスリングショットでも再現は可能だ。その射出サイクルを早めているに過ぎない。
例えばパンツァーファウストに似せた何かを錬成し、弾頭部に風魔法と火魔法を掛けてノイマン効果を再現したとしても、恐らく同等の戦果をヘカートⅡで得る事ができるはずだ。
とすると、現状の武器で切り抜けられないシチュエーションはどのようなものだろう。
ヘカートⅡやPSG-1では捉え切れないほどのスピードで動き、G36CやMP5Kの放つ弾幕を掻い潜る魔物が襲ってきたら……そんな場合には確かに対応できないだろう。

ならばいっそのこと広域魔法はどうだ。
この世界で見たことのある攻撃魔法は、水・火・土・氷・風の5種類である。
不思議だったのが、電撃や雷撃などのエフェクトが派手な魔法がないことだ。天空から轟音と共に大地を穿つ雷は、どんな神話でも大抵は神の怒りとして表現されるほどメジャーな範囲攻撃である。
その雷系統というか電気系統の魔法がないということもあるまい。
一つ試してみるか。

雷が発生する仕組みは単純である。
水蒸気を含んだ暖かい空気が上昇気流を生み、その上昇気流に引き寄せられた暖かい空気の中の水蒸気が冷えて雲を形成する。
雲の周辺大気が氷点下に達するほどに空高く雲が伸びると、小さな氷の粒が大量にできる。
氷の粒に働く重量が上昇気流に打ち勝つと、氷の粒は下降を始め、雲の内部で粒がぶつかり合い帯電していく。雲の上方にはプラスの電荷が、雲の下方にはマイナスの電荷が、更に地上にはプラスの電荷が集まる。
それぞれの電荷が強くなり、空気の絶縁破壊電圧を超えた時に起きる放電が雷であり、大地との間に起きる放電が落雷である。

そういえばこの世界での麻痺魔法パラリシスは、広義には電気系統の魔法のようだ。
本来のパラリシスの使い方は、杖や刀身に付与して相手に接触させることで発動するが、俺は麻痺魔法を込める対象をAT弾とし、弾着した先に発動させている。
ならばAT弾に込める魔法を更に強力にすれば……

◇◇◇

「カズヤさん!カズヤさんってば!!」

肩を揺すられて我に帰る。
振り返った先には、テラスの縁に座り込む俺を背後から覗き込むビビアナの姿があった。
彼女はいつも着ている活動服、丈の短いカーキ色のフード付きジャケットと茶色いタータンチェックの膝丈サロペットではなく、養成所の制服を着ている。
濃いえんじ色のジャケット、胸元にフリルのある白いシャツ、赤と紺のタータンチェックの膝丈ぐらいの巻きスカートに紺色のソックスという出立ちだ。

「どうですか?1ヶ月ぶりに袖を通してみましたが、やっぱり制服っていいですよね!」

立ち上がったビビアナがクルリと回ってポーズを決める。短めのスカートの裾がふわりと翻り、真っ白な足が露わになる。しかも俺は地面に近い場所にいる。だから……

「ちょっと!どこ見てるんですか!」

とまあ、スカートの裾を押さえるビビアナに、顔を真っ赤にして怒られることになる。
そのまま機嫌が悪くなるかと思いきや、そうでもなさそうだ。俺に向かって思いっきり舌を出したが、すぐに裾を押さえる手を離した。
ビビアナよ。その一連の仕草はツンツンキャラのお前には似つかわしくないぞ。とうとうアレか?デレたのか?ツンツンキャラからツンデレキャラに昇格したのか?
と、そんな事を思っても口に出してはいけない。
立ち上がりながら俺が口にしたのは、当たり障りなさそうな別の疑問だった。

「今日は制服で過ごすのか?」

魔物狩人である娘達が衣装持ちなわけではないのは知っている。ビビアナは器用に自分の活動服を仕立てたが、それ以外の服は俺のお古を仕立て直した寝巻きや部屋着ぐらいしか作ってはいなかったはずだ。イビッサ島に行ったりしていたから、そんな暇がなかっただけかもしれないが。

「何言ってるんですか?今日も養成所へ行くのでしょう?それならやっぱり制服ですわ!」

登校時は制服着用のこと。そんな規則でもあるのだろう。だが卒業したはずのビビアナにも、その規則が当てはまるのだろうか?
そんな疑問を口にする暇もなく、ビビアナが俺を急かしはじめた。

「カズヤさんも!私に見惚れてないで!早く着替えてくださいな。出発しますわよ!」

「出発って、もう行くのか?まだ昼にもなってないぞ」

そうである。俺が外で考え事をしていたとはいえ、感覚的にはまだ午前10時ぐらいのはずだ。ルイサとの約束は放課後であるから、早くても午後3時ぐらいだろう。

「私の行き付けの店に案内して差し上げますわ!どうせアリシアさん達はロクなお店に連れて行っていないのではありませんこと?」

ビビアナが俺の背中を押してログハウスに戻しながら、少々娘達に失礼なことを言う。
何を指して“ロクな店”かは知らないが、アイダはレアな干し肉が手に入る店を教えてくれたし、アリシアはドライフルーツが美味しい店に連れて行ってくれた。イザベルは武器屋を紹介してくれたし、カミラ先生は安くて美味い料理屋で奢ってくれた。
そもそもアルカンダラだけではなく、この世界の街の散策などほとんどしてはいないのだ。

「はぁ……そんなことだろうと思いましたわ!ほら!行きますわよ!って、ここで脱ぐのですか!あっち向いてますから、早く着替えてくださいな!」

早く早くと急かされながら、慌ただしくドイツ連邦軍の軍服に着替える。
白いガンベルトにはUSPハンドガンを装着するが、ハンドガンだけでは少々心許ない。ジャケットのポケットに収納魔法を掛けて、G36CとG36V、予備のマガジンを納めた。

「あっ!ちょっと待ってください。書き置きを残しますわ」

ビビアナが自身のジャケットの内ポケットからメモ帳とボールペンを取り出す。これは俺の家にあったのを与えた物だ。
彼女はサラサラと何かを書いたメモ帳の紙を1枚破り、テーブルの上に置く。

「これでよろしいですわ!では向かいますわよ!」

ビビアナが俺の左腕を取って、ログハウス正面の扉に向かう。
養成所やアルカンダラの街中に行くのなら、養成所で与えられた小部屋に転移してそこから向かうのが常だ。今日は森の中を歩くつもりなのだろうか。

「ビビアナ、いつもの控室に転移しないのか?」

「いいんですの!たまには歩いて向かいましょう!」

まあ、そういうことならば俺に異存はない。
ログハウスに残してくる娘達が気にはなるが、ビビアナが残した書き置きがあるし、番犬代わりのフェルもいる。
何より娘達は立派な魔物狩人カサドールだし、カミラ先生は対人戦闘のスペシャリストだ。心配はいらないだろう。

俺とビビアナは、街へと延びる森の小道を歩き出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

勇者がパーティーを追放されたので、冒険者の街で「助っ人冒険者」を始めたら……勇者だった頃よりも大忙しなのですが!?

シトラス=ライス
ファンタジー
 漆黒の勇者ノワールは、突然やってきた国の皇子ブランシュに力の証である聖剣を奪われ、追放を宣言される。 かなり不真面目なメンバーたちも、真面目なノワールが気に入らず、彼の追放に加担していたらしい。 結果ノワールは勇者にも関わらずパーティーを追い出されてしまう。 途方に暮れてたノワールは、放浪の最中にたまたまヨトンヘイム冒険者ギルドの受付嬢の「リゼ」を救出する。 すると彼女から……「とっても強いそこのあなた! 助っ人冒険者になりませんか!?」  特にやることも見つからなかったノワールは、名前を「ノルン」と変え、その誘いを受け、公僕の戦士である「助っ人冒険者」となった。  さすがは元勇者というべきか。 助っ人にも関わらず主役級の大活躍をしたり、久々に食事やお酒を楽しんだり、新人の冒険者の面倒を見たりなどなど…………あれ? 勇者だったころよりも、充実してないか?  一方その頃、勇者になりかわったブランシュは能力の代償と、その強大な力に振り回されているのだった…… *本作は以前連載をしておりました「勇者がパーティーをクビになったので、山に囲まれた田舎でスローライフを始めたら(かつて助けた村娘と共に)、最初は地元民となんやかんやとあったけど……今は、勇者だった頃よりもはるかに幸せなのですが?」のリブート作品になります。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...