異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫

文字の大きさ
上 下
153 / 243

152.ルイサ(7月16日)

しおりを挟む

緑色の瞳に青みがかった髪の少女は、中庭のベンチに座った俺の右隣に腰掛けて話し始めた。
様子を伺うターンが過ぎれば、別に物怖じする性格ではないらしい。

少女の名前はルイサ。姓がないのは成人前に両親共に他界し、姓を受け継げなかったためらしい。
年齢はよくわからないが、恐らく10歳ぐらいだということだ。

「自分の年齢がわからないのか?」

「うん。お父さんとお母さんが死んだのは覚えてるんだけど、それが何歳の時だったのかがわかんないの」

「でも自分の祖先がどこかの島にいたって事は知っている」

「それは孤児院の院長先生が教えてくれたからね」

どうやら博学な人が院長をやっている孤児院だったようだ。
それにしても、ルイサの身の上話には幾つか疑問が生じる。
まず、養成所への入所金はどう融通したのだろう。イビッサ島のマルサの村の若者達は、養成所に納めるための金を稼ぐために、森に入り魔物を狩っていた。
そもそも養成所に入所できるのは13歳からではなかったか。年が入ってから入所する例はあるようだが、対象年齢に達していないのに入所する事もあるのだろうか。

「そうか。そういえば養成所に入るのにも金がいるんじゃないか?旅の途中で出会った若者は、養成所に入りたいからって、小物の魔物を狩りまくっていたぞ」

「ああ。それね。私は特別なの。見て」

そう言ってルイサが自分の両方の掌を差し出して俺に見せる。
あれか?特別な紋章が刻まれてるとかいうやつか?
いささか厨二チックな期待を込めて覗き込んだそこには、小さな掌しかなかった。

◇◇◇

はて。ここに何があるというのだろう。
見ていると紋様が浮かび上がってくる……というわけでもなさそうだ。

と、突然ルイサの掌がぼんやりと光った。
最初は赤く、次に黄色、緑、青の順は、あたかも虹のようである。

「凄いでしょう。Bendición del arco iris、虹の加護っていうの」

そう言ったルイサの緑色の瞳が、青みがかったグレーの長い前髪の下で笑っている。意外といたずら好きの側面もあるのだろうか。

「ああ、驚いた。それは神様の加護なのか?」

「そうよ。天空と虹の女神イリス。この光はイリスの加護を受けている証なの。だから私は養成所に入れた。入所金なし、年齢制限なしの特別扱いでね」

ほうほう。また知らない神様の名前が出てきた。
これまで聞いた神様は、何らかの魔法を司っていた。
女神イリスはどんな魔法を司る神なのだろう。

「その、イリスって女神様は、どんな御利益を与えてくれるんだ?」

「御利益?そうねえ……」

手を引っ込めたルイサは、そのまま自分の頬っぺたに人差し指を当てて考える様子を見せる。

「めっちゃ足が速くなる……かな?ほら、天空を駆ける女神だから。それに転移魔法ってあるでしょ?あの魔法を司るのが女神イリスじゃないかって言われてるの。だから私は養成所で修行するのを許されたのよ」

「女神イリスの加護を受けているから?」

「そうそう。お兄さんも知っているでしょう?転移魔法は“失われた魔法”なの。女神イリスの加護を受けた狩人は他にもいるらしいけど、私より足が速い人はいないんだって。だから転移魔法を発動できる可能性が1番高いのは私なんじゃないかって言われてるんだよ!」

なるほど。転移魔法は女神イリスからの“賜物”だったか。それは一度は拝んでおかねばならないだろう。

それはさておき、俺が転移魔法を使えると知ったら、この幼い少女はどういう反応をするだろうか。
いや、無闇に伝える必要はないだろう。
この少女にとっては、“転移魔法を使えるようになるかもしれない”という事はおそらく心の支えなのだ。俺の無用の一言で、その支えをへし折るような真似はすべきではない。
俺が口にしたのは、もっと別の事だった。

「なあルイサ。足が速いってのは、どれくらいなんだ?うちのパーティードにも足が速いのはいるが、どれぐらい違うんだろうな」

「えっ?神様の加護を疑うの?」

この罰当たりめが!そんな軽い怒りを緑色の瞳が纏う。

「いや、そんなつもりはないんだが、誰よりも足が速いと言われると気になってしまってな」

「ふ……まあいいわ。そうね……」

ルイサが辺りを見渡す。

「この中庭の端から端まで、5秒と掛からないわ。凄いでしょう!」

中庭の長辺の端を指差しながら、ルイサが胸を張る。
中庭の端から端まで、目測でおよそ30mか。
50mを5秒で走れば、相当に足が速い部類に入る。例えば一流のサッカー選手などが5秒台前半なのは有名な話だろう。
そう考えると“30mを5秒切る”というのは、例えば体育会系の大学生などならば、さほど足が速いほうではない。もちろん10歳そこそこの少女にしてはとんでもなく速い部類には入るのだろうが。
この距離、イザベルなら何秒で走るだろう。特に森の中などの不整地ならば、そこそこいい勝負になる気もする。

「そうか。それは凄いな。俺にはとても真似できない」

「そうでしょうそうでしょう。分かってくれればいいのよ」

ルイサが満足そうに笑った。
だが直後にその瞳が曇る。

「ただね。ちょっと欠点があるんだ……」

「欠点?」

「そう。欠点。狩人としては致命的な欠点だって言われたの」

狩人として致命的な欠点。
例えば俊敏なイザベルの例で考えてみる。彼女の欠点は何だろう。人見知りのくせに、慣れるとお調子者なところだろうか。いや、それは人格的な問題かもしれないが、狩人としての欠点ではない。彼女は立派に我がパーティードの斥候スカウトを務めている。
アリシアはどうだ。たまに口煩い事もあるが、いざ狩りとなると狩場の全域に目を配り、後衛の任を立派に果たしている。
アイダとビビアナの2人にも、特に欠点らしい欠点は思い浮かばない。

「なあルイサ。お前の欠点って何だ?」

そう問われたルイサは、伏せていた顔を上げて空を見上げた。中庭から見える夕暮れ時の空は、浮かんだ雲がオレンジ色に染まっている。

「それはねえ……」

しばらく沈黙が流れる。言いたくないのか、あるいは言葉を選んでいるのか。
いずれにせよ急かす必要もない。この子の欠点を聞いたところで、俺に何ができるでもないのだ。
養成所で孤立しているらしい幼い子供の愚痴を聞いてやるぐらいしか、俺にはできないだろう。

中庭の中央部からは、集まっていた学生達に解散を促す娘達とカミラ先生の声が聞こえる。
そうか。もうそんな時間か。すっかりルイサと話し込んでしまった。

「なあルイサ。話したくないことは誰にでもある。言いたくないのなら、無理に教えてくれなくてもいいさ」

思わずルイサの綺麗な青みがかった髪に包まれた小さな頭をを撫でたい衝動に駆られて手を伸ばす。
ルイサは一瞬首をすくめるが、危害を加えられるわけではないと悟ったのか大人しくしている。
俺の手がルイサの髪に触れる寸前。

「あ!お兄ちゃんが他の女の子に手を出してる!」

イザベルである。
すっ飛んできたイザベルが、俺の正面から飛び付いてきた。ベンチに座っていた俺は、ダイブしてきたイザベルに小柄な体を正面から受け止めることになった。まったく、さっきまで学生達の前で見せていたクールビューティーの姿が台無しである。

「こらイザベル!学校だぞ!カズヤ殿から離れなさい!」

追いついたアイダが、俺の膝の上に跨がったイザベルを背後から引き剥がす。

「お兄ちゃん??」

今度こそ本気で首をすくめていたルイサが、恐る恐るその縮めていた首を伸ばして、更には小首を傾げる仕草を見せる。その視線の先には羽交い締めにされたままのイザベルがいた。アリシアとビビアナ、それにカミラ先生もいる。

「そうよ!私のお兄ちゃんよ!邪魔しないでよね!」

邪魔したのはイザベルのほうな気もするが。

「お兄ちゃん??」

ルイサの発した問いかけは、今度は俺に向けて発せられたものだ。

「まあ、そう呼ばれている。紹介しよう。うちのパーティードの面々だ」

「あ、知ってます。ビビアナさん、アイダさん、アリシアさん。カミラ先生も同じパーティードなのは知りませんでした」

ルイサの声は僅かに震えている。緊張しているのか、あるいは……

「いやあ、有名人って辛いわね!下級生にまで名前が知れ渡っているなんて……あれ?」

ようやくアイダの腕から解放されたイザベルが腕を組んで高笑い仕掛けてピタッと止まる。

「ちょっとあんた!何で私の事は呼んでないのよ!」

“あんた”と呼ばれたルイサは、今度はさっきとは反対側に首を傾げた。

「さっきから変な声が聞こえませんか?ねえ、“カズヤ兄様”?」

わかった。このあざとい仕草は演技だ。しかもただ一人に向けられた小芝居なのだ。

「なんだか私はお邪魔みたいですね。そろそろ宿舎の門限ですし、また明日お会いしましょう。約束ですよ。カズヤ兄様!」

最後の部分だけ、俺の耳元で囁くように言ったルイサは、脱兎のごとく駆け出していった。
その姿を呆気に取られて一同が見送る。

「カズヤ君。顔、赤いわよ」

カミラ先生の言葉で我に帰るまでの数秒間の間に、ルイサの姿は見えなくなっていた。
しおりを挟む
感想 230

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...