異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫

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150.イネス カミラ(7月16日)

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「さて。カミラさんからの報告によると、イビッサ島からの入所希望者がいるようですね。カミラさんとあなたの連名での推薦とか」

校長先生自ら、脱線しかけた話を戻してくれた。
やはり今回の遠征の全貌は、報告書とカミラさん先生からの報告で既に掴んでいるのだ。
とすれば娘達の報告をニコニコと聞いていたのは、単に学習成果発表を見守る親や担任の先生のポジションだったのだろう。

「ええ。なかなか見どころのある若者でした」

「あなたも見た目は若者なんですけどね。その見た目のせいで苦労する事はなくって?」

少しいたずらっぽい表情を浮かべた校長先生の真意は読み取れない。本当に揶揄っているだけなのかもしれないが。

「特に思い当たりませんね。まあ交渉事のほとんどはアイダが済ませてくれますし、今回はカミラ先生もいてくれましたから」

「そう。あの子も役に立っているのね」

そう言った校長先生の目は、どこか遠くを見ているようだ。あの子とは誰の事だろう。アイダではなさそうだし、カミラ先生の事か。

「あの子を養成所に迎えた時は、それはもう荒みきった目をしていたものです。あの子の通り名、聞いたのではなくって?」

「エギダの黒薔薇……でしたっけ。戦場では向かう所敵なしだったとか」

「そのとおりです。対人戦闘に異常なまでに特化した兵士。彼女の短槍がどれだけの血を吸ってきたか、私にはわかりません。今でも彼女は悪夢を見るそうですが、旅の途中はどうでしたか?」

悪夢か。カミラ先生と同じ場所で寝たのはサビーナの料理屋の納屋とマルサの村の船小屋でぐらいだが、特段悪夢に魘されているような気配はなかったはずだ。
そもそも交代で見張りをしている時も、彼女はぐっすり寝ていたように思う。

「特に変わった様子はありませんでしたね。よく寝ているようでしたが」

「そうですか」

校長先生は大きく息を吐いた。

「カミラは当養成所の教官を辞めると言っています。その事について、何か聞かされていますか?」

ん?今何と言われた?
カミラ先生が養成所を去ると、そう校長先生は言ったのか?
確かに彼女からは“今後も俺達と行動を共にする”という宣言を受けたし、俺達もそれを了承している。
だが何も辞めなくてもいいのではないか。
俺も教官待遇のまま巡検師なる役職に就いているわけだし、娘達やノエさんも巡検師補の身分を得ている。もっとも巡検師補の給料は補佐する巡検師が払う事になっているから、別行動のノエさんにとっては実質的には名誉職のようなものだろうが。
それとも養成所教官と巡検師は兼務可能だが、養成所教官と巡検師と行動を共にする者の兼務は不可なのだろうか。
そもそも辞めると言ってすぐに辞められるものなのか?

目をパチクリしていたのだろう。校長先生は俺の顔をじっと見て軽く笑った。

「何も聞いていないようですね」

「いえ、今後も俺達の旅に同行するとは聞いていますが。それでも教官の職を辞する必要はないのではないかと」

「なるほど。あの子はカズヤ君にはそう言ったのね。それとも、あなた自身がそう受け取っただけなのかしら」

そう言って校長先生は手元のティーカップを口に運んだ。釣られて俺も、出されたお茶を一口飲む。

俺がカミラ先生の言葉を曲解していると、そう思われているのか。
確かにこの世界の言語を何故理解できるのかもわかっていない俺としては、聞こえている言葉がそのとおりの意味かどうか確かめる術はない。もしかしたら俺に都合が良いように聞いているかもしれないし、細かいニュアンスは端折っているのかもしれない。
言葉に詰まっている俺を見て、再び校長先生が笑い、今度はスッと真面目な表情になった。

「意地悪はこれぐらいにしておきましょう。いずれにせよ、イネス カミラは明日付けで当養成所を退官します。その代わり、あの子にも巡検師補の徽章を渡しました。今後もあの子の面倒を見てやってください」

やはり彼女も娘達と同様、巡検師補に任じられるらしい。それにしても“面倒を見る”か。どちらかと言えば、面倒を見てもらうのは俺の方だと思うのだが。

「退官というより卒業の方がしっくりくるのかもしれませんね。あの子には流した血よりも多くの人々を救うという目的があります。この養成所で多くの若者を育て送り出すことで、その目的が果たせると考えたのですが……私の元にいても、あの子を悪夢から解放することは叶いませんでした」

そうか。悪夢云々の下りはそういう背景だったのか。
カミラ先生、明後日には先生ではなくなるのかもしれないが、その彼女は軍人時代に流した血の罪滅ぼしをしたいのだ。

「それに“エギダの黒薔薇”が盗賊捕縛に活躍してしまった以上、彼女を雌伏させておく事は国のために、そして何より彼女自身のためにもなりません。どうかあの子をお願いします」

校長先生が俺に頭を下げる。その姿は上司と部下というよりは親と子のように見えた。俺が娘達を嫁に出す時も、こんな雰囲気になるのだろうか。

「わかりました。不肖の身ではありますが、お預かりします」

「そう言ってくれて嬉しいです。彼女の身の上は彼女自身の口から語るべきなのですが、私と出会ったきっかけぐらいはお話しておくべきなのでしょうね。ダナ。あなたにとっても思い入れのある子でしょう。一緒にいかが?」

お茶を配った後で校長先生の机の片付けなぞをやっていた寮母さんに声が掛かる。

「あら。いいのかしら。そりゃあ、あの子は孫みたいなものだしね。カズヤ君に託すっていうなら、私も口出しさせてもらおうかしら」

なんだかカミラ先生を嫁に貰うかのような言い草だが、きっと俺の気のせいだろう。そういう事にしておこう。

校長先生とダナさんの口から語られるカミラ先生との出会いとこれまでの話は、時折脱線しあるいは飛躍し、途中で昼食を挟んで夕方近くまで続いたのである。
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