異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫

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144.襲撃②(7月9日)

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山手側から注ぐ小川が村の周囲を流れる水路へと分岐する場所に駆け寄った俺は、土魔法を展開して土塁を二重に築いた。ただの土塁ならばカニの進行を阻む効果などない。だが土塁の間に炎を満たせばどうだ。

土塁の間に可燃性ガスを満たすイメージで火魔法を行使する。高さ3m、幅1mほどの青白い炎が、俺の左右にそれぞれ50m、合わせて100mほどの炎の壁を形成する。
この壁を奴らは本当に避けていくだろうか。
奴らの目的は海であってこの村を襲うことではない。そう判断した結果だが、その仮説が正しい保証はどこにもない。
炎の壁はギリギリ村の山側をカバーしてはいるが、ほぼ半円を描く村の左右は無防備な状態だ。
もし奴らの狙いがこの村で、無防備な側面に回り込まれたら。砂岩の石垣に囲まれただけの小さな村などひとたまりもなく赤い奔流に呑み込まれてしまうだろう。
或いは炎の壁をものともせずに直進してきたら。
俺が繰り出している火魔法の炎は2000℃程度。外骨格生物を絶命させるには十分な温度のはずだが、それでも奴らが止まらず、熱せられた甲羅のまま村に侵入したら。木と石を組み合わせた家々は燃え上がり、阿鼻叫喚の地獄絵図が描かれるかもしれない。

俺の背中を汗が伝う。
炎の輻射熱によるものではない。これは脂汗だ。
月明かりと炎に照らされた赤い奔流は刻一刻と近づいてくる。
目測10mほど。もう目の前といっていい距離だ。

目の前……しまった!!

◇◇◇

「カズヤ殿!正面!Lanza de fuego!」

「もう!前ががら空きじゃない!」

仁王立ちして左右に火魔法を展開する俺の脇の下を潜るように、アイダが炎の槍を突き出す。
到達距離を大幅に伸ばしたアイダの炎の槍が、前方20mほどの範囲のカニを掬い上げるように吹き飛ばす。
カミラ先生が俺の肩に三八式歩兵銃を預けて放ったAT弾がカニの脚の付け根に吸い込まれ擱坐させる。
一瞬遅れて、後方の船小屋からもM870とへカートⅡの重いバネの解放音が聞こえ始めた。
アリシアが曲射したスラッグ弾がカニの甲羅を破砕する間に、イザベルの放った対物徹甲弾が正面のカニを地面に叩きつける。

先頭集団を失った赤いカニの奔流は、地面を埋める仲間の遺骸を避けるように一斉に左右に分かれて進み始だした。

◇◇◇

とりあえず炎の壁はカニを避けさせる効果はあったらしい。
あとは側面から回り込まれて侵入されないかどうかだが、俺が確認しに行くわけにもいかない。火魔法による炎の壁が消えれば、奴らが再び直進を始めるかもしれないからだ。
土塁の間に油を満たして火を点ければ同じ効果があるだろうが、そんな蓄えもないだろう。
俺以外の人間でこの場を離れて周囲を確認しに行けるのは誰だ。
ウーゴ達は論外だ。ウーゴはともかく、跳ねっ返りの若者達が何をしでかすかわからない。
やっぱりアイダしかいないか。アイダも火魔法は得意だが、持続時間も到達距離も今の炎の壁には足りない。カミラ先生はそもそもが対人戦闘に特化した魔法師だから、対魔物戦であればアイダの方が優位かもしれない。
ついでにウーゴ達も案内役として連れていってもらおう。

「アイダ!イザベル達とビビアナに伝令!イザベルとアリシアは船小屋から周囲を監視。ビビアナとアイダは左右に分かれて側面から侵入するカニがいないか見張ってくれ。ウーゴ達も行け!」

「カズヤ殿は!?カズヤ殿がそのまま火魔法を使っていては、正面がまたがら空きに!」

「イトー君の事は任せて!私が守るわ!」

「こっちの心配は無用だ!このまま壁を維持していれば、正面から近づいてくる事はなさそうだ。奴らの動きを止めるだけならAT弾の貫通魔法でもいける。M870は5号装弾でもいいと伝えてくれ」

「了解しました。カミラ先生!あとはお願いします!」

「任されました。さっさと行きなさい!」

カミラ先生の声を背中に受けたアイダが、ウーゴ達を引き連れて走り出した。

◇◇◇

「さてと。ここが正念場よね」

カミラ先生が改めて俺の左肩の上に三八式歩兵銃の長い銃身を預けて、正面に狙いを付ける。
肩の後ろにいるせいで顔は見えないが、きっと汗だくのはずだ。だがその声は落ち着いているように思える。

「カミラ先生、誰がそんな撃ち方教えたんですか?」

「ん?別に?でもイトー君が持ってるぐらいの長さならいいけど、この槍で一点を狙うにはちょっと安定しないのよね。あなたピクリとも動かないし、ちょうどいいじゃない。ちょっと貸しなさい」

別に銃身が加熱されるわけではないから構わないが、バイポット付きのG36VやへカートⅡから発想したという事か。

「それよりも魔物の様子はどう?まだ来るんでしょ?」

「ええ。密度の高い群れがあと2つは来ます。それさえ乗り切れたら大丈夫そうです」

「私もイトー君の“すきゃん”ってやつ使えるようにしてもらえばよかったかしら。狙いが付けにくくって仕方ないわ。あの子達は見えてなくっても撃てるんでしょう?」

「イザベルとアリシアはできますね。アイダとビビアナも練習はしているみたいです」

「あなたといると、あの子達はどんどん強くなっていくわね。魔力って点ではアイダさんの成長が著しいかしら。学校にいた頃は剣筋はいいけど他はちょっとって感じだったのに」

その評価を聞けばアイダも喜ぶだろう。日々の鍛錬を欠かさず行い、機転も気も利く彼女は、間違いなく娘達のリーダーだ。

「アリシアやイザベル達はどうなんですか?」

「イザベルさんは元々能力には定評があったの。でも、むらっ気が強くて組む相手を選ぶ感じだったわ。アリシアさんは面倒見はいいけど、ただそれだけ。治癒魔法が使える普通の女の子だった。ビビアナは見てのとおりの優等生。優等生過ぎて私は本当は苦手だったのよ」

この話は本人達には聞かせないほうがよさそうだ。

「でもね。今回の旅で、あの子達への評価を変えなければいけないでしょうね。もちろんみんな卒業しているのだから、今さら私達があの子達を評価する事もないのだけれど」

「それで、どうして今その話を?」

「どうしてでしょうね。いつもはイトー君の近くにはあの子達の誰かが張り付いているから、ゆっくり話もできないからかしら」

それでも切迫した状況で話す内容でもない気がするが。何やら思い出話でもしているようで、要らぬフラグが立ちそうだ。

後方から散発的にエアガンの発射音が聞こえてくる。
塀を乗り越えたカニをイザベルが破砕したのがスキャン上で見て取れる。

「後ろのほうはどうなってるの?」

「ほとんどのカニは海に向かっています。石垣を乗り越えた数匹もイザベル達が対応できているようです。後方は大丈夫でしょう」

「そう。だったらこっちはこっちで集中できるってものね。イトー君、あなた魔力量は?」

全開で火魔法を行使しているが、魔力切れの初期症状である目眩や頭痛はまだ始まっていない。

「あと30分ぐらいは余裕です。1時間となると厳しいですね」

「それまでにこのカニの群れが途絶えなかったら、あなたの水を飲ませてあげるわ。魔力回復効果があるのでしょう?」

「それはそうですが、俺の両手は塞がっていますよ?」

カミラ先生は俺の耳元でふふっと笑う。

「大丈夫。その時は口移しで飲ませるわ。あの子達がいたら喧嘩になってしまうから、いい機会ね」

ああ。それは素敵な未来だ。魔力が尽きる前にカニの奔流が終わる事に全力で期待しよう。
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