異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫

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136.イビッサ島にて④(7月6日)

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先頭のイザベルとビビアナは、相互の距離を横に10m程度開けて進んでいる。その後ろに位置するアイダとカミラ先生の距離は5m程度だ。そして先頭の2人との距離も5m程度を維持している。
つまり完全な2列縦隊ではなく、ラッパ状に広がった隊列を形成しているのだ。これはイザベルとビビアナの索敵範囲を広げると共に、接敵した際に1対1あるいは1対多数の状況を作らない工夫だった。
ちなみにラッパの付け根に位置する俺とアリシアは、互いに手を伸ばせば届く距離にいる。何せ攻撃力はともかく防御力が最も弱いのは俺とアリシアなのだから。
フェルはといえば、イザベルを追いかけたりアイダにくっ付いたりと忙しなく動いているが、特段吠えるわけでもない。意思表示は尻尾の上げ下げと視線で行えているようだ。

結界を形成しているらしいカラッパの殻を過ぎて、獣道を30分ほど進んだだろうか。距離で表せば500mも進んでいないだろう。小高い起伏の稜線を超える直前で、イザベルとビビアナが立ち止まり姿勢を低くした。
イザベルがビビアナを指差し、後退するよう指示を出している。イザベル自身はその場に留まるつもりのようだ。

音を立てないようビビアナが慎重に戻ってくる間に、前方にスキャンを掛ける。
反応がある。
前方約10mに位置するイザベルの向こう、ここからおよそ30mの地点に複数の魔物がいる。
2つの強い反応と小さな反応が10個ほど。小さな反応は重なったり離れたりしているから、おそらくゴブリンとオーガの混成だろう。
反応は大きく動くわけでもなく、何かを取り囲んでいるように思える。

ビビアナがアイダとカミラ先生を伴って戻ってきた。イザベルは未だ稜線の直前に伏せるように留まり、向こう側を監視している。

「大鬼が2、小鬼が11です。牙イノシシを狩って食べているようです。だいぶ大物なのでしばらく動く感じはないですが、迂回して進みますか?」

ビビアナが小声で報告する。
さて、迂回するのも一つの手だ。敢えて危険を冒す必要はない。
だが……

「それでは後方から襲われる可能性が生じるのではないか?叩ける時に叩いておくのは常道というものだろう」

「他の魔物を呼び寄せてしまうかもしれません。無用な狩りは避けるべきだと思います」

アイダの示した懸念は俺と同種のものだ。だがアリシアの意見も理解できる。
どんな魔物が潜んでいるかわからない状況で、盛大に狩りなどするべきではない。
なるべく音を出さないように狩ることができれば、あるいはリスクは減らせるだろうか。
エアガン、特に電動エアソフトガンはセミオートでも甲高い発射音を発してしまう。とすれば飛び道具は弓矢に銀ダン、エアーコッキングガンしか投入できないか。あとは剣と槍のみで挑む事になる。

数秒間の熟慮の後に下した結論は、“狩る”ほうだった。

◇◇◇

稜線上のイザベルは少々待ちくたびれた様子だった。

「遅い!何してたの!どうせビビアナが迂回しようとか言ってたんでしょうけど!」

イザベルの傍らに腹這いになって向こう側を覗く俺の耳元でイザベルが囁く。
稜線の向こう側は緩やかな下り勾配になっている。昔の河床か、あるいは雨季にのみ川になる地形なのかもしれない。そしてその先にはオーガとゴブリンの混成チームが大きなイノシシを囲んで貪っていた。
イノシシの背中や腹には槍が刺さったままだ。

「そのとおりだが、やっぱり狩る事にした。“必中”を掛けて同時に放てる矢は何本だ?」

「最近は4本は余裕。もしかしたら6本もイケるかもだけど、弓を引くのが難しくなっちゃう」

「標的2個に対して、それぞれ2本ずつ別の部位を狙う事は?」

「合計4本ってことね。それなら大丈夫」

「わかった。イザベルは大鬼を狙え。小鬼は俺達で引き受ける。1本は心臓、もう一本は頭頂部だ」

「“とっぷあたっく”ってやつ?」

「そう、それだ。任せたぞ。なるべく音を出したくない」

「了解。任せて」

「皆に伝えてくる。攻撃開始は暫く待て」

そう言い残してそっと離れる。
俺とイザベルが話している間に、娘達は左右への散開を済ませていた。
頭を稜線の上に出さないよう気を使いながら、娘達に攻撃目標を伝えて回る。
ゴブリンの数は11。イザベルを除いた俺達は5。1人2体+αを倒せば、俺達の勝ちだ。
彼我の距離は20mほど。銀ダンで狙うには少々厳しいが、カミラ先生の持つ三八式歩兵銃タイプのエアーコッキングガンならば余裕のはずだ。

「イザベル、いいぞ。お前のタイミングで放て」

「了解。いくよ!」

バッという音と共に放たれた4本の矢は、狙い過たずオーガの頭頂部と胸部へと吸い込まれた。
ほぼ同時にカミラ先生の三八式歩兵銃とビビアナのグロック26が軽い発射音を立て、ゴブリンの体に花を咲かせる。が、さすがに射程距離の短い銀ダンでは致命傷を負わせるのは難しいようだ。
止めとばかりにアイダとアリシアがM870から5号装弾を発射した。

ほんの数秒で狩りは終わった。森に静寂が戻る。
少し前まで囀っていた鳥の声も聞こえないほど、静かな時間が流れた。

◇◇◇

「あれ?終わった……よね?」

俺の隣で弓を構えたままのイザベルが呟く。その声にはいつになく緊張の色が滲む。

「ああ、終わった。だが……」

「何か気配がする……」

そうである。スキャン上には反応はないが、何か強力な魔物が潜んでいる気配が辺りを満たしている。
イザベルだけでなく、ビビアナとカミラ先生も周囲を見渡し警戒態勢に入っている。

「カズヤさん。嫌な臭いしません?」

イザベルと反対側に伏せているアリシアが聞いてくる。確かに斜面を登ってくる風には血の臭いとイノシシの臓物の臭いが混じっているが……

「ほんとだ。何か酸っぱい臭いする」

「それに何かが腐ったような臭いが混じって……」

なんだ?娘達は何を嗅ぎ分けている。

◇◇◇

「カズヤ殿!右から何か来ます!」

静寂を破ったのはアイダが発した警報だった。
川床に積もった落ち葉や石を吹き飛ばしながら、大型の何かがゴブリン達の死骸目掛けて突っ込んできた。

「ヒッ!!」

思わず漏れたのは誰の悲鳴だっただろうか。
地を割るかのような勢いで地上に現れたのは、黒光りする扁平な外骨格を持つ、超大型の節足動物だった。
前方に突き出した一対の触肢は俺の胴体ほどの太さはあるだろうか。先端は鋭利な刃物のように光を反射している。
そしてその触肢でゴブリン達の死骸を掻き寄せ、口元に運び始めた。

「あれは……サソリ!?」

「エスコルピオン……でもあれって砂漠の魔物じゃ……どうしてこんな島に……」

違う。サソリではない。
同じ陸上生節足動物であり、一対の鋏型の触肢を持つ共通点はあるが、大きな違いがある。
それは特殊な腹部の後半部、いわゆる尾の部分だ。
サソリは大きさの違いこそあれ、尾節には前方へと反り返る毒針を有する。サソリと聞いてイメージする、あれだ。
だが目の前にいる超大型節足動物の尾節は細く帯状に伸びている。
そしてこの独特の刺激臭。間違いない。

「これは……サソリモドキだ。あの尾の付け根から毒液を噴射するぞ。全員、十分距離を取れ!」
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