異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫

文字の大きさ
上 下
116 / 243

115.巡検師に任命される(6月21日)

しおりを挟む
巡検師と聞いてもピンとこなかったのは、何も俺だけではなかったようだ。
アイダはビビアナと顔を見合わせているし、アリシアはキョトンとしている。もしかしたらイザベルはバッジが貰える事そのものを喜んでいるかもしれない。
受け取った徽章をまじまじと見つめるノエさんの唇の端っこがニヤリと笑っているから、ノエさんはこれがどういった物なのか理解しているようだ。

「校長先生。巡検師というのは、いったいどういう役回りなのでしょうか?」

「カズヤ君やアリシアさん達が知らないのは無理もありません。最後に巡検師が任命されたのは、今から30年ほど前になります。巡検師とは国内外を巡視し必要に応じて狩人や国軍に対して助言や指導を行う役回りです。その役目を果たすに必要な範囲において、巡検師には行動の自由が保障されます」

「騎士団にとっての監察官と同等のものだ。騎士団が王家や領主を護る為に戦う剣と盾ならば、衛兵隊は民を護る盾、狩人は民を護る剣だからな。騎士団と同じく監察官という名称にならなかったのは、少々呼び名に刺があるからという理由だと聞いておる。何しろ狩人というものは、とかく指示や命令を嫌うものなのでな」

校長先生とアロンソ寮監の説明で、何となくその役目が理解できる。要は地方を巡回してこいということだ。アリシアの父上の話も聞きたいし、アイダの母親の故郷にも行ってみたいと思っていたから、おおっぴらにうろうろできるのは好都合だ。

「巡検師の指揮系統はどのように?教官の身分がそのままであれば、やはり校長先生が直系の上司という事に変わりはないのでしょうか?」

何かの組織に属する以上、指揮系統は大事なことである。そして願わくば物分かりのいい上司の下で働きたいと願うのは当然の事だろう。

「ええ。先程“監察官と同等”という話がありましたが、監察官と同じように任命権者の直轄の部下という扱いになります。ただこの場合は私の直轄の部下はカズヤ君だけで、ノエさんやアイダさん達はカズヤ君の部下という扱いです。その点に何か不満はありますか?」

「私達には異存はありません。今までどおり、カズヤ殿について行きます」

校長先生の問い掛けに4人娘が頷き合うのとは対照的に、ノエさんが軽く手を上げた。

「ボクは明日にでもナバテヘラ経由でアステドーラに帰るつもりなんですけど、この場合どうなるのでしょう。例えば“イトー君から別行動を指示されている”という事でいいんでしょうか?」

それは既に皆で話し合った結論だった。
ノエさんに限らず、それぞれの道を行くとなれば引き留めることはできない。

「カズヤ君がそれでいいのなら、私が口を挟む事ではありません。もしノエさんが巡検師補の身分を返上し、その上でカサドールを続けるというのであれば、改めて養成所や各連絡所からの要請は受けていただく事になります」

校長先生の回答は、養成所や連絡所といった狩人にとっての指揮系統からの独立を意味している。
だがそれは任命権者の私兵になるという意味にも取れる。例えば軍人は国家と国民に忠誠を誓うのであって、上官に忠誠を誓うのではない。少なくとも建前上は。

「つまり、俺は校長先生からの指示にのみ従う義務がある……ということですか?」

「それは少し違います。先ほども言いましたが、巡検師には己の良心に沿った行動の自由が保障されます。例えば任命権者、今回の場合は私ですが、仮に私が養成所長として、或いはカサドールに指示を出す者として相応しくない行動を取っていたとしたら、その行いについて助言し指導することが巡検師には求められます。その指導を受け入れられないとなれば、私はカズヤ君を罷免しなければなりません」

「ちょっと待ってください。それは一介の魔導師には余りにも強大な権限なのではないでしょうか」

「そうですね。だからこそ30年もの間、誰一人としてその任に就いた者はいません。そもそも巡検師が任命されるのは、大襲撃グランイグルージオンの兆候を掴んだ時か、その復興に際して各地の協力が不可欠な場合です。30年前まで活動しておられた方々は各地で頻繁した大型の魔物を狩るために任命されたと聞いています。そういった非常事態に際して、独自に判断してより良い行動ができる者達が必要なのです」

つまりだ。グリーンベレーをやれと、そういう事らしい。
グリーンベレーや特殊部隊と聞くと、つい“精鋭部隊”とか“戦闘集団”を想像しがちだ。
確かに彼らは優秀な兵士の中から更に選抜された精鋭部隊であるし、武器や通信などの専門技能を持つ戦闘のプロフェッショナルだ。
だが彼らの役割は戦闘だけではない。
友好国の軍隊や軍事組織に戦闘訓練を行い、食料や医療を提供し、人心を獲得していくことを至上の任務としている。
その真似事をこの世界でやれということか。
そんなことが俺達にできるだろうか。

今までのところ、対魔物戦においては戦力不足という事態には陥ってはいない。
食料はともかく医療支援や生活支援についても、連絡所や養成所が協力的であれば問題はないだろう。
戦闘訓練は期待できない。この世界の戦闘スタイルは、俺がサバイバルゲームで体験したものとは明らかに違う、中世以前の身体と身体をぶつけ合う肉弾戦だ。
そんな衛兵隊に塹壕を掘らせても仕方ないし、ましてやエアガンを支給した所で物の役にも立たないだろう。

だが、このままでは衛兵隊なり騎士団に召集され、応じなければ逃げ出すしかないのだ。

俺一人だけならどうとでもなる。金はあるのだし、スー村の先の自宅で悠々自適な生活を送ればいい。
だがこの娘達はどうする。将来のある若い才能を、そんな場所に閉じ込めておくわけにはいかない。
4人娘を戦争から遠ざけるためには、この選択肢しかないのかもしれない。

◇◇◇

「わかりました。その話、お受けします」

俺が校長先生に告げると、校長先生を含めた皆がホッと安堵の顔を見せた。もしかしたら俺が拒否るかもしれないと思っていたらしい。

「よかったあ。カズヤさんが拒否ったら逃避行になっちゃうところでした」

「いや、それはそれで燃えるかも。悪い事は何もしていないのに国家権力に追われ、それでも人助けを続ける魔法師!かっこいい……」

「イザベルの戯言は置いておいて、私はカズヤ殿がどのような結論を出されてもついて行きますから」

3人娘のそれぞれの感想にビビアナが何かを言いたげではあるが、結局言えないまま校長先生が言葉を繋いだ。

「受けてくれますか。ではその徽章はあなた方の物です。早速ですがカズヤ君にお願いしたい最初の目的地をお伝えします。それは……」

校長先生が地図を広げる。

「オンダロアの先の海上に浮かぶ島、イビッサ島です」
しおりを挟む
感想 230

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

名無し
ファンタジー
回復術師ピッケルは、20歳の誕生日、パーティーリーダーの部屋に呼び出されると追放を言い渡された。みぐるみを剥がされ、泣く泣く部屋をあとにするピッケル。しかし、この時点では仲間はもちろん本人さえも知らなかった。ピッケルの回復術師としての能力は、想像を遥かに超えるものだと。

処理中です...