異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫

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111.トロー殲滅戦③(6月19日)

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スキャン上で確認できる最後のカーブの直前、奥から漏れる光の陰になった部分で一旦立ち止まる。
その奥にあるのはかなり大きなスペースだ。コートが2面取れる体育館よりは小さいが、バスケットボールやフットサルぐらいはできるぐらいの広さはあるだろう。武道場ぐらいの広さと言ったほうが適切か。
その入口付近に反応が2つ。最も奥に反応が3つ。合計5つの反応がある。
もしかしたら奥に小部屋状の穴があったりするかもしれないが、今の場所からは確認できない。

「どうする?突っ込むかい?」

3対5なら勝ち目もあるだろうが、ノエさんが盛大にフラグを立てた後だ。ここは慎重に行こう。
噛んでいたガムで銃剣に鏡を張り付けてそっと差し出す……なんてこともできない。コーナーの頂点に近寄り、ヘッドランプを消して半身で前方を確認する。
幸いにも洞窟の奥の方が明るいから、俺の姿は見えないはずだ。

視界に映ったのは、大きな棍棒を持って室内をのし歩く2頭のトローと、奥にどっしりと座っている大物が1頭。そいつに侍っているトローが2頭。とすると大物がこの群れのボスでうろうろしているのは門番か。
ボスをM870で狙うには少々遠すぎる。洞窟の外で起きた事に気付いていないのだろうか。

M870を頬に引きつけ、左手でゆっくりとコッキングする。
照星も照門もないM870では、銃口の向きに沿って弾丸が飛び出す。引き金に指を掛けたまま、じっと門番が通るのを待つ。彼我の距離は10メートルほど。加速と貫通魔法を掛けたスラッグ弾なら必殺の距離だ。

その機会はすぐに訪れた。右から横切って行くトローの動きに合わせて、引き金を引く。

頬に強い衝撃を残して放たれたスラッグ弾はトローの左胸部に吸い込まれ、後方に血飛沫を撒き散らした。
撃たれたトローは奥に向かってタタラを踏むように倒れる。

「ノエさん!アリシア!行くぞ!」

洞窟側に潜んでいた2人に声をかけ、最後の直線に躍り出た。

◇◇◇

血の海に沈むトローの亡骸を避けるように室内へと進入する。
もう1頭の門番トローが咆哮を上げながら棍棒を振りかざし突進してきた。
M870を構える俺の横を一陣の風のようにノエさんが通り抜ける。

「こっちは任せて!イトー君は大物を頼む!」

門番トローが振り下ろす棍棒をひらりと交わしながらノエさんが叫ぶ。アイダやイザベルもそうだが、あの至近距離で魔物と対峙する胆力はいったい何処から来るのだろう。俺には到底真似できそうにない。

「わかりました!アリシア!」

「はい!足止めします!」

胡座をかくように座っていたトローが縋る2頭のトローを押し除け咆哮と共に立ち上がる。
頭頂部から背中にかけて生えた銀色の毛が、まるで獅子舞の獅子頭のようにも見える。
間違いない。こいつがこの洞窟の主人だ。

アリシアがリュックサックと背中の隙間からMP5Kを抜き出し、腰だめに構える。

タタタタタタタタッ!

MP5Kの軽い発射音とともに飛び出したAT弾が、威嚇する3頭のトローの後脚に満遍なく着弾して血飛沫を撒き散らす。

一際大きな咆哮を上げながらボストローが四つん這いで突進してくる。その中心部を狙ってスラッグ弾を撃ち込む。
だがボストローが僅かに身を屈めて弾を避ける。
俺が放ったスラッグ弾はボストローの後方から追い掛けていた2頭のトローの片割れの肩口に命中し、肩を半ば吹き飛ばしてその場に倒れ込ませた。

避けたのか。考えてみれば当然か。奴らはイザベルが放つへカートⅡのAT弾、秒速500メートルにも達する弾丸を素手で叩き落とそうとしたのだ。正面から向かってくる秒速90メートル強の1円玉ほどの物体など、止まって見えるのかもしれない。

だがボストローともう1頭の突進は止まり、傷ついた仲間を引き摺って後方へと下がらせる効果はあった。
この間に態勢を整えなければ。

◇◇◇

後方でも地響きと共に門番トローが倒れ込んでいた。
ノエさんが執拗に門番トローの手首や太腿に斬り付け、最後に首筋を切り裂いたのだ。

「こっちの1頭は片付けたよ。あと2頭か。正面からだと厄介そうだね」

「ええ。何とか動きを止めないと。アリシア!」

「はい!どうしましょう?」

「俺が5号装弾で奴らの動きを封じる。アリシアはスラッグ弾でけりをつけてくれ」

「わかりました!」

「イトー君。ボクが目眩しを使うよ。銀ダン?ってやつ貸してくれない?」

「フラッシュですね。お願いします」

ミリタリーリュックの外ポケットに収納していたグロッグ26をノエさんに渡す。
ボストローともう1頭がこちらに向かってきた。目測で20メートル。

「アリシア!閃光に注意!」

「いっくよ~!」

ノエさんが掛け声と共に銀ダン鉄砲から閃光魔法を付与したKD弾を発射する。
目を閉じていてもはっきりとわかるぐらいに、周囲が明るくなる。夜目が効くらしいトローの大きな瞳には大層キツい一撃のはずだ。

グオオオオオッ!

一際大きな咆哮を発して、2頭のトローが大きな身体を揺らしながら目を押さえている。

「アリシア!狙えるか!?」

「無理です!動きが大きすぎて!!イザベルちゃんの“必中”でもなきゃ!」

何発も撃ち込めば当たるだろうが、弾切れの隙に突入でもされたら俺とアリシアには身を守れるかどうかすら怪しい。ここは散弾の出番だ。

「わかった。5号装弾を撃ち込む。アリシアはその隙を狙え!」

ガシン!ガシン!

フォアエンドを左手でコッキングしながら、5号装弾を発射する。
10メートル先でケーシングから分離した直径3㎜の散弾が散布界3メートルに散らばりトローを包み込む。その1粒1粒に貫通魔法が付与されている。ゴブリンの頭部やオーガの腕ならば引き裂くほどの威力だ。

「アルテミーサ!お導きを!」

詠唱というよりも神頼みに近い掛け声と共にアリシアが放った2発のスラッグ弾が、ガラ空きになった2頭のトローの胸部へと吸い込まれた。
一際大きな咆哮と共に、2頭のトローが相次いで倒れた。
洞窟の部屋を照らす篝火だけがゆらゆらと揺れている。

◇◇◇

「終わった……かな?」

「ええ。洞窟の内部に魔力反応はありません」

ノエさんと俺の会話を聞いて、アリシアが座り込んだ。

「当たって良かったあ。外したらどうしようかと思った……」

「お疲れさん。よくこの距離で動き回るトローに命中させられたな」

「えへへ。イザベルちゃんにコツを教わったからですかね」

コツっていうのは神頼みではあるまいな。
とりあえず頑張ったアリシアにはご褒美の頭ワシワシをしてあげよう。

M870を抱えたまま、撫でられる猫のようにゴロゴロと言わんばかりの表情を見せるアリシアの横に、ノエさんが立つ。

「ボクも撫でて~なんて言わないから安心して。とりあえず奥のほうを確認してはどうだろう。トローが巣にするような洞窟なら、きっと何かあると思うんだよね」

「そうですね。アリシア、立てるか?」

「ふぁい!まだ頑張れます!」

アリシアの手を掴んで引き起こす。

◇◇◇

洞窟の最深部には、やはり黒く大きな杭状の魔石が半ば埋まるように突き刺さっていた。
ダンジョン系RPGに付き物の宝箱は見つからなかったが、大きな木箱に入った金や銀の食器類や燭台が無造作に打ち捨てられていた。それぞれにはどこかの家紋らしき刻印が刻まれている。

「ノエさん。どこの家紋かわかりますか?」

「いいや。ルシタニアでは見た事はないね。バルバストロの旧家か、あるいはノルトハウゼンのものか……」

「そんな場所の貴族の刻印入りの食器が、何でこんな場所に……」

「まあここで悩んでいても仕方ない。全て回収して養成所に持ち込もう。何か分かるかもしれない」

「了解です。トローの亡骸も回収して、さっさと出ましょう!」

こうして6月19日の昼頃には洞窟の探索を終え、太陽の下へと帰還した。
出迎えてくれたアイダとビビアナはアリシアと手を取り合って無事を祝ってくれた。
そして洞窟の外に築かれた簡易陣地の上では、イザベルが日向ぼっこをしながら寝ていたのである。
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