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103.カディス奪還作戦③(6月4日~6月5日)
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保存したはずという画像をアリシアが探している間に、テーブルの上を片付けて地図を書く準備をする。
当然そんな大きな紙の持ち合わせはないから、直接テーブルの天板に書くことにした。事が済めば弁償するしかないだろう。
チョークが欲しいところだが、カウンターにあった羽ペンとインクを借用する。
「画像ありました!」
アリシアが示した画像は、船着場と衛兵隊の詰所付近の上空写真だった。
映像として見た時はゴブリンやオーガの姿に釘付けになってしまったが、静止画で見ると違う情報も得られるものだ。
イザベルが画像をチラチラと見ながら、テーブルの天板に地図を書いていく。
「あ、その建物は倉庫だったはずです。そっちの路地は細いですけど、人が3人ぐらいは並んで歩けます」
実際に現地に行った事があるビビアナのアドバイスもあって、戦場となるであろうエリアの作戦地図がスムーズに書き上がる。
船着場の南側に建てられた長方形の建物が衛兵の詰所だ。俺達がいる宿屋からは3ブロック海側となる。
船着場を囲む大通りを挟んで反対側には倉庫が立ち並び、細い路地を挟んで商業地区があり、更に大通りを挟んで商業地区と居住地区がある。
ゴブリン達は倉庫の内の衛兵隊詰所に近い3つを根城にしているようだ。
「ノエさん。こういう倉庫って出入りした事ありますか?」
「護衛任務の時にそのまま荷下ろしも手伝った事はあるよ。だいたいは1階が荷捌き場で2階に休憩室や事務所があるね。屋上に上がる梯子は2階から伸びていることが多いかな」
「その荷捌き場の構造は?」
「板張りか石造りのだだっ広い空間だよ。もっと大きな港の倉庫なら、荷物を吊るして移動させるためのグロアを備えていることもあるけど、この街の荷揚げは人力みたいだから手積みじゃあないかな」
聞き慣れない単語が出てきたが、ノエさんの手付きを見るに起重機ないしはクレーンのことのようだ。
「それじゃあ倉庫の中には荷物がびっしりって事ですか?」
「いいやアリシアちゃん。たぶん倉庫の中身は少ないと思うよ。この写真?っていうの?この綺麗な絵を見て。ちょっと遠いけど、ここにある帆船の喫水が深いでしょ。だから荷揚げする前か荷を積んで出港待ちじゃないかと思う」
「ビビアナ。ここの3つの倉庫って裏口や通用口はあるのか?それとも正面の大扉だけか?」
「えっと……正直記憶にありませんが、だいたいは路地に面した側には扉はあります」
「わかった。では宿の裏口から近くの屋上に転移し、倉庫の近くまで順番に転移する。その後、路地に面しているであろう裏口を目指す。裏口をノエさんの固有魔法で開けて進入し、1階の小鬼を排除。その後に各窓と出入口を硬化魔法で固定して、外部からの侵入を防ぐ。これはアリシア、やってくれるな?」
「はい。任せてください」
「1階と2階を制圧後、屋上から隣の倉庫の裏口に転移して次の建物を攻略。この繰り返しだ」
「イトー君。倉庫内への進入はできても、内部の小鬼達が一斉に襲い掛かってきたら厄介だよ」
「そうですねノエさん……ビビアナ。鎮静魔法って広範囲に行使できるか?」
「え?鎮静魔法……ですか?それは可能ですが、広範囲と言われても限界はあります。元々は額や身体に触れて痛みを取り去る魔法ですから」
「イトー君は鎮静魔法を使って、倉庫内に潜む小鬼達を纏めて眠らせておこうってつもりだね。でも活動している小鬼や大鬼を一瞬で眠らせるような力は鎮静魔法にはないよ?」
「ええ。それでも寝ている魔物を寝ているままで倒せるなら、それに越したことはないでしょう」
「まあそれもそうか。どれだけの数に効果があるかは運次第だけど、ビビアナちゃん、やれる?」
「鎮静魔法にそんな使い方が……わかりました。やります!」
「よし。ではこの作戦でいく。全員エアガンの使用は禁止。武器は音が小さい銀ダンと剣、弓矢のみとする。屋内戦闘だから跳弾に注意しろ。炎系の魔法は使うなよ。貫通魔法も重ね掛けはするな。何か質問は?」
ランプに照らされた一同の顔は引き締まっているが、不安の色はない。
「それでは作戦開始!」
◇◇◇
宿屋の裏口から外に出た俺達は、月明かりに照らされながら近くの建物の屋上へと転移し、そこから屋上伝いに倉庫まで移動する。
月明かりに浮かび上がる3人娘とビビアナにコスプレでもさせればさぞかし映えるのだろうが、そんなお遊びをしている状況でもない。今から向かうのは殺るか殺られるかの狩場なのだ。
「いやあ……毎度ながら便利な魔法だね。イトー君、君、国軍に引き抜かれでもしたら間違いなく最前線で使い潰されるよ」
目的の倉庫の屋上まで到達した所で、ノエさんが囁いてくる。
「それは嫌ですね……せいぜい人前では使わないように気を付けます。イザベル。裏口の場所はわかるか?」
屋上から身を乗り出すようにして下を覗いていたイザベルに声を掛ける。
「こっちにそれっぽい扉があるよ。アリシアちゃん、表の扉が閉まってるなら、今のうちに硬化魔法使っちゃえば?この距離でも届くでしょ?」
身体を起こしたイザベルが、今度はアリシアに話しかけた。
「そりゃあカズヤさんの家ごと硬化できるんだから、距離的には大丈夫だけど。目で見ないと範囲が指定できないよ」
「外壁ごと固めちゃえばいいんじゃないか?それなら範囲も指定できるだろう?」
「確かに。アイダちゃん頭いい!カズヤさん、その方法でもいいですか?」
「ああ。任せる」
アリシアが大きく頷くと、正面側の外壁に屋上から手を当てる。
「よし!できました!」
アリシアが呟き立ち上がる姿を、ビビアナが呆然と見ている。
「作戦会議では何を言っているのかわからなかったけど……硬化魔法にそんな使い方があったの?」
「硬化魔法というのは、要は相対位置の固定だろう?だったら閉まっている扉や窓は閉まった固定される。土の壁や鎧を固くするだけの魔法としてだけ使うのは惜しいからな」
ビビアナの呟きに答える俺の言葉に、ビビアナは訝し気に頷くだけだ。まあいい。これから先が本番だ。
一気に倉庫の裏手に転移し、ノエさんが固有魔法を発動して裏口の閂を切り落とす。
「ビビアナ。扉を少し開くから、鎮静魔法の準備を」
「了解です。いつでもどうぞ」
ビビアナの持つ杖の先端がほんのり光るのを待って、ノエさんがゆっくりと扉を引く。
隙間から銀ダンの先端を突き入れ警戒するが、少なくとも真正面にゴブリンの姿はない。
「よし。ビビアナ、頼む」
「はい。光を直視しないでください!Sedación!」
扉の隙間にビビアナが杖を差し入れ、魔法の名を唱えた瞬間、杖の先端の光が強烈に輝いた。
◇◇◇
「もう大丈夫です。鎮静魔法が効いたと思います」
「わかった。ビビアナありがとう。皆、準備はいいか?」
イザベルは両腰の短剣を抜き放ち、アイダは右手で長剣、左手で銀ダンを構える。
アリシアは銀ダンをダブルハンドで握る。ノエさんは短剣のみ。ビビアナは魔法戦に特化するようだ。
「進入する。俺とアリシアは右、アイダとイザベルは左、ビビアナとノエさんは正面と2階からの侵入に備えてください。行くぞ!」
殿のノエさんが保持してくれた扉から、次々と倉庫の中へと入る。
月明かりのあった外とは違い、石造りの倉庫の中は真っ暗だ。
「アリシア、光魔法を前方に」
「了解。行きます!」
アリシアが放った光魔法の光球は倉庫の天井付近に留まり、周囲を照らす。
床にも荷物の上にも、うじゃうじゃとゴブリンが寝ている。鎮静魔法なしで倉庫に踏み入っていたらと思うとゾッとするような数だ。
寝ているゴブリン以外には効果が無いだろうという事だったが、とするとほとんどのゴブリンが寝入っていたということか。ところどころにある血だまりは犠牲者のものか、あるいは共食いか。
「よし。魔法が効いているうちに止めを刺せ!」
ここから先は描写する必要もない一方的な殺戮であった。
寝ているゴブリンの眉間にあるいは脳天に次々にKD弾を撃ち込んでいく。
2階の事務所らしきところでは起きているゴブリンもいたが、数匹のゴブリンなどアイダやイザベルの敵ではなかったのである。
当然そんな大きな紙の持ち合わせはないから、直接テーブルの天板に書くことにした。事が済めば弁償するしかないだろう。
チョークが欲しいところだが、カウンターにあった羽ペンとインクを借用する。
「画像ありました!」
アリシアが示した画像は、船着場と衛兵隊の詰所付近の上空写真だった。
映像として見た時はゴブリンやオーガの姿に釘付けになってしまったが、静止画で見ると違う情報も得られるものだ。
イザベルが画像をチラチラと見ながら、テーブルの天板に地図を書いていく。
「あ、その建物は倉庫だったはずです。そっちの路地は細いですけど、人が3人ぐらいは並んで歩けます」
実際に現地に行った事があるビビアナのアドバイスもあって、戦場となるであろうエリアの作戦地図がスムーズに書き上がる。
船着場の南側に建てられた長方形の建物が衛兵の詰所だ。俺達がいる宿屋からは3ブロック海側となる。
船着場を囲む大通りを挟んで反対側には倉庫が立ち並び、細い路地を挟んで商業地区があり、更に大通りを挟んで商業地区と居住地区がある。
ゴブリン達は倉庫の内の衛兵隊詰所に近い3つを根城にしているようだ。
「ノエさん。こういう倉庫って出入りした事ありますか?」
「護衛任務の時にそのまま荷下ろしも手伝った事はあるよ。だいたいは1階が荷捌き場で2階に休憩室や事務所があるね。屋上に上がる梯子は2階から伸びていることが多いかな」
「その荷捌き場の構造は?」
「板張りか石造りのだだっ広い空間だよ。もっと大きな港の倉庫なら、荷物を吊るして移動させるためのグロアを備えていることもあるけど、この街の荷揚げは人力みたいだから手積みじゃあないかな」
聞き慣れない単語が出てきたが、ノエさんの手付きを見るに起重機ないしはクレーンのことのようだ。
「それじゃあ倉庫の中には荷物がびっしりって事ですか?」
「いいやアリシアちゃん。たぶん倉庫の中身は少ないと思うよ。この写真?っていうの?この綺麗な絵を見て。ちょっと遠いけど、ここにある帆船の喫水が深いでしょ。だから荷揚げする前か荷を積んで出港待ちじゃないかと思う」
「ビビアナ。ここの3つの倉庫って裏口や通用口はあるのか?それとも正面の大扉だけか?」
「えっと……正直記憶にありませんが、だいたいは路地に面した側には扉はあります」
「わかった。では宿の裏口から近くの屋上に転移し、倉庫の近くまで順番に転移する。その後、路地に面しているであろう裏口を目指す。裏口をノエさんの固有魔法で開けて進入し、1階の小鬼を排除。その後に各窓と出入口を硬化魔法で固定して、外部からの侵入を防ぐ。これはアリシア、やってくれるな?」
「はい。任せてください」
「1階と2階を制圧後、屋上から隣の倉庫の裏口に転移して次の建物を攻略。この繰り返しだ」
「イトー君。倉庫内への進入はできても、内部の小鬼達が一斉に襲い掛かってきたら厄介だよ」
「そうですねノエさん……ビビアナ。鎮静魔法って広範囲に行使できるか?」
「え?鎮静魔法……ですか?それは可能ですが、広範囲と言われても限界はあります。元々は額や身体に触れて痛みを取り去る魔法ですから」
「イトー君は鎮静魔法を使って、倉庫内に潜む小鬼達を纏めて眠らせておこうってつもりだね。でも活動している小鬼や大鬼を一瞬で眠らせるような力は鎮静魔法にはないよ?」
「ええ。それでも寝ている魔物を寝ているままで倒せるなら、それに越したことはないでしょう」
「まあそれもそうか。どれだけの数に効果があるかは運次第だけど、ビビアナちゃん、やれる?」
「鎮静魔法にそんな使い方が……わかりました。やります!」
「よし。ではこの作戦でいく。全員エアガンの使用は禁止。武器は音が小さい銀ダンと剣、弓矢のみとする。屋内戦闘だから跳弾に注意しろ。炎系の魔法は使うなよ。貫通魔法も重ね掛けはするな。何か質問は?」
ランプに照らされた一同の顔は引き締まっているが、不安の色はない。
「それでは作戦開始!」
◇◇◇
宿屋の裏口から外に出た俺達は、月明かりに照らされながら近くの建物の屋上へと転移し、そこから屋上伝いに倉庫まで移動する。
月明かりに浮かび上がる3人娘とビビアナにコスプレでもさせればさぞかし映えるのだろうが、そんなお遊びをしている状況でもない。今から向かうのは殺るか殺られるかの狩場なのだ。
「いやあ……毎度ながら便利な魔法だね。イトー君、君、国軍に引き抜かれでもしたら間違いなく最前線で使い潰されるよ」
目的の倉庫の屋上まで到達した所で、ノエさんが囁いてくる。
「それは嫌ですね……せいぜい人前では使わないように気を付けます。イザベル。裏口の場所はわかるか?」
屋上から身を乗り出すようにして下を覗いていたイザベルに声を掛ける。
「こっちにそれっぽい扉があるよ。アリシアちゃん、表の扉が閉まってるなら、今のうちに硬化魔法使っちゃえば?この距離でも届くでしょ?」
身体を起こしたイザベルが、今度はアリシアに話しかけた。
「そりゃあカズヤさんの家ごと硬化できるんだから、距離的には大丈夫だけど。目で見ないと範囲が指定できないよ」
「外壁ごと固めちゃえばいいんじゃないか?それなら範囲も指定できるだろう?」
「確かに。アイダちゃん頭いい!カズヤさん、その方法でもいいですか?」
「ああ。任せる」
アリシアが大きく頷くと、正面側の外壁に屋上から手を当てる。
「よし!できました!」
アリシアが呟き立ち上がる姿を、ビビアナが呆然と見ている。
「作戦会議では何を言っているのかわからなかったけど……硬化魔法にそんな使い方があったの?」
「硬化魔法というのは、要は相対位置の固定だろう?だったら閉まっている扉や窓は閉まった固定される。土の壁や鎧を固くするだけの魔法としてだけ使うのは惜しいからな」
ビビアナの呟きに答える俺の言葉に、ビビアナは訝し気に頷くだけだ。まあいい。これから先が本番だ。
一気に倉庫の裏手に転移し、ノエさんが固有魔法を発動して裏口の閂を切り落とす。
「ビビアナ。扉を少し開くから、鎮静魔法の準備を」
「了解です。いつでもどうぞ」
ビビアナの持つ杖の先端がほんのり光るのを待って、ノエさんがゆっくりと扉を引く。
隙間から銀ダンの先端を突き入れ警戒するが、少なくとも真正面にゴブリンの姿はない。
「よし。ビビアナ、頼む」
「はい。光を直視しないでください!Sedación!」
扉の隙間にビビアナが杖を差し入れ、魔法の名を唱えた瞬間、杖の先端の光が強烈に輝いた。
◇◇◇
「もう大丈夫です。鎮静魔法が効いたと思います」
「わかった。ビビアナありがとう。皆、準備はいいか?」
イザベルは両腰の短剣を抜き放ち、アイダは右手で長剣、左手で銀ダンを構える。
アリシアは銀ダンをダブルハンドで握る。ノエさんは短剣のみ。ビビアナは魔法戦に特化するようだ。
「進入する。俺とアリシアは右、アイダとイザベルは左、ビビアナとノエさんは正面と2階からの侵入に備えてください。行くぞ!」
殿のノエさんが保持してくれた扉から、次々と倉庫の中へと入る。
月明かりのあった外とは違い、石造りの倉庫の中は真っ暗だ。
「アリシア、光魔法を前方に」
「了解。行きます!」
アリシアが放った光魔法の光球は倉庫の天井付近に留まり、周囲を照らす。
床にも荷物の上にも、うじゃうじゃとゴブリンが寝ている。鎮静魔法なしで倉庫に踏み入っていたらと思うとゾッとするような数だ。
寝ているゴブリン以外には効果が無いだろうという事だったが、とするとほとんどのゴブリンが寝入っていたということか。ところどころにある血だまりは犠牲者のものか、あるいは共食いか。
「よし。魔法が効いているうちに止めを刺せ!」
ここから先は描写する必要もない一方的な殺戮であった。
寝ているゴブリンの眉間にあるいは脳天に次々にKD弾を撃ち込んでいく。
2階の事務所らしきところでは起きているゴブリンもいたが、数匹のゴブリンなどアイダやイザベルの敵ではなかったのである。
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