異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫

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102.カディス奪還作戦②(6月4日)

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宿に借りていた部屋に転移魔法で小さな窓を開けて、室内を確認する。
イザベルが“自分が覗く!”と申し出てくれたが、言い出しっぺの責任感によるものだと思いたい。
だが残念ながら身長が足りない。ここは頭一つ背が高い俺の役目だろう。

「どうですかカズヤさん?」

「ああ。薄暗いが誰もいないし悲鳴や物音も聞こえない。大丈夫だ。このまま拡げるぞ」

そのまま転移魔法による入口を拡張して、室内に侵入する。借りていた部屋とはいえ、昨夜の時点で一週間が経過しているはずだし、そもそもフロントを通さずにホテルの室内に入るのは厳密に言わずとも不法侵入だろう。だがそんな事を言っている場合ではない。
俺を先頭に次々と宿の部屋に入る。

窓は鎧戸でぴったりと締められているから外の様子はわからないが、階下から物音は聞こえない。
窓の上の換気用の小窓が開けられているので、室内は真っ暗ではない。

「他の部屋には魔物がいるかもしれない。物音を立てるなよ」

小声で皆に注意を促す。

「ねえねえ。静かすぎると思わない?私の耳にも何にも聞こえないよ。お兄ちゃんの探知魔法は?」

「こう壁が多くてはな。探知できる範囲が極端に狭くなっているが、とりあえずこの建物は大丈夫そうだ」

俺の言葉を聞いて、ノエさんが話しかけてくる。

「イトー君の探知魔法に引っかからないってことは、生存者もいないってことだよね」

「倒れた人の姿もないので大丈夫でしょう。ビビアナ。この宿に地下室は?」

「わかりません。でも大抵の建物には地下に貯蔵庫があるはずです。たぶん厨房の奥、女将さん達の居住区域に入口があるかと」

地下室か。ごく普通の日本人の感覚では、一般住宅に地下室があるのは珍しいほうだと思ってしまうが、ここタルテトス王国では一般的なことらしい。
地下室の探索になるというのなら、ヘッドライトとフラッシュライトは必要か。

「わかった。俺とノエさんで探しに行く。アイダ。俺がいない間、皆を頼む」

ミリタリーリュックからヘルメットとヘッドライト、フラッシュライトを取り出して装着しながら話を続ける。ここ最近はさすがにヘルメットでは暑くて、フレック迷彩のキャップを被っていた。ヘルメットを被るのは洞窟の探索以来だ。

「承知しました。私達はここで待機を?」

「私は行かなくてもいいの?近接戦闘なら自信はあるよ」

「イザベルは鎧戸をそっと開けて周辺監視をしてくれ。早まって撃つなよ。アイダは皆の護衛だ。正面が破られても階段さえ昇らせなければいい。跳弾と貫通弾には注意しろ。他に質問は?」

皆の顔を見渡すが、特に異論はないようだ。ビビアナが何か言いたげな顔をしているが、連れて行く気は毛頭ない。

「よし。それでは行動開始!」

◇◇◇

1階のロビーのような場所に下りたが、やはりそこは無人だった。
昼間なのに室内が暗いのは、壁に穴が開いていない証拠だ。
ヘッドライトの光に映し出される食堂区域の机や椅子は乱雑にはなっているが、入口の重厚な板戸と窓にはしっかりと閂が掛けられ、破られた形跡はない。食べ掛けの夕食らしきものが異臭を放っているところをみると、ゴブリン達が雪崩れ込んできてから数日は経っていることだろう。
壁のランプの油は切れているようだ。とすればやはり侵入は夜だったか。

そして1階まで下りてくるとスキャン上に反応が出た。ビビアナの言うとおり、厨房の奥に地下室があるようだ。
反応は狩人の多くよりも弱い。いわゆる普通の人ってやつの反応だ。

「1階に異常はないようです。奥へ行きましょう」

「地下室の当ては付いたのかい?」

「ええ。屋内では上下に1階層分ぐらしか探知できないようですが、1階でなら地下は覗けます。弱い反応が幾つかあるので、たぶん女将さん達でしょう。あっちです」

「いやあ。便利だねえ」

ノエさんに冷やかされながらも、すんなりと地下室への入口を探し当てることができた。
板張りの床に1メートル四方ぐらいの切り込みがあり、取っ手状の凹みがある。

「確認だけど、弱い反応ってのは小鬼とかじゃあないよね」

「おそらくは。ただ用心するに越したことはありません」

「了解だ。じゃあボクが扉を持ち上げるから、イトー君が中を確認してくれ。そのエアガン?に付けた小道具は、暗い場所で使う魔道具なんでしょ?」

「わかりました。いつでもどうぞ」

ノエさんが覚悟を決めたような顔で慎重に扉を持ち上げる。
僅かに開いた隙間から見た感じでは、ブービートラップの類はないようだ。あたりまえか。誰が自分が逃げ込むかもしれない部屋にトラップを仕掛けるだろうか。

「地下へは梯子のようですね。誰かいますか?いたら返事してください!」

そのままノエさんに扉を引き上げてもらい、中に声を掛ける。数日間は地下室に閉じ込められていたのだろう。糞尿の臭いが上がってくる。
数秒後に女性の声で返事があった。

「助けが来てくれたのかい?灯りが消えてもうだいぶ経つんだ。何も見えやしないよ」

「わかりました。灯りを下ろすので待ってください。怪我人はいますか?」

「ああ。お客さんが逃げ込む時に梯子から落ちてしまってね。どうやら足を折ったようだ」

怪我人か。足を折っているのなら、自力で這い出してくるのは無理だろう。そのまま地下で治療しなければならないか。

「ノエさん。上の4人を呼びます。ここをお願いできますか?ヘッドライトを置いていきます」

「わかった。扉を固定しておくよ」

「お願いします」

俺はヘルメットごとヘッドライトをノエさんに渡し、2階へと引き返した。

◇◇◇

1階に下りてきた娘達は、アイダとイザベルが壁のランプに油を補給して点灯させる一方で、アリシアとビビアナは地下室へと直行した。

「女将さん!大丈夫ですか!?」

「その声はビビアナちゃん?無事だったのね!?全然戻ってこないから心配してたよ!」

「森での狩りに夢中になってしまいました。今灯りを下ろしますね。油はありますか?」

「何処かにあるんだけど、こう暗くちゃ探せなくてね」

その間に拡散光にセットしたヘッドライトをパラコードに吊るし、地下室へと下ろす。

「灯りです。光源を直視しないように」

「女将さん。その灯りで油を探してください。お客さんの足の治療に、私達が下ります」

「ああ。助かるよ。何日ぶりの光だろう。眩しいねえ」

ヘッドライトを受け取った女将さんが壁の棚をゴソゴソと探しはじめた。

「アリシアさん。治癒魔法は得意よね。一緒に下りてくださるかしら?」

「もちろんです。任せてください」

女将さんが探し当てた油でランタンに火を灯すのを待って、ビビアナとアリシアが梯子を下りた。

こうして、およそ1時間後には地下室から宿屋の夫婦と客人3人を救助したのである。

◇◇◇

「さて。これからどうする?まさか女将さん達を連れて行くなんて言わないよね」

治療を終えた怪我人を地下室から引き上げ、身体を拭き清めてから2階の部屋に運ぶと、女将さん達も疲れたのか眠ってしまった。
今は1階のランプの灯りに照らされながら、俺達だけで改めて作戦会議中だ。

「まさか。むしろここに置いておいた方が安全でしょう。小鬼達の狙いが何なのかはわかりませんが、少なくとも家々を回って襲うつもりはないようです」

「今のところは……ですよね」

ビビアナの言葉が重い。何せ奴らが何の目的で衛兵達を包囲しているのか不明な以上、突然標的を変更する可能性も無いわけではない。
だが、住み慣れた家を離れて衛兵隊の詰所に逃げ込んだところで、待っているのは戦場だ。

「それでも、わざわざ隠れている人を連れ出して魔物の大軍を突っ切っる必要はないと思います。安否は気になりますが、やはり魔物の殲滅を優先するべきではないでしょうか」

「私もアイダちゃんに賛成。街の人達には悪いけど、皆を守り切るには絶対数が足りないのよ」

「そうですね。まずは脅威を取り除かないと、ただ逃げ回るだけしかできなくなっちゃいます」

アイダ、イザベル、アリシアの意見が俺の背中を押してくれた。

「方針に変更はない。イザベル。外の様子はどうだ?」

「小鬼が5匹ぐらいの群れで時折巡回してるけど、静かなもんよ。数時間しか監視してないから周期まではわかんない」

「そうか。なあビビアナ。小鬼の習性からして、やっぱり夜間の方が活動が活発になるのか?」

「え?いえ……そんなことはない……と思います」

そうなのか?まあ確かにゴブリンとの遭遇戦はその全てが日中の時間帯だった。俺達自身が夜間は動かないという事と、夜間に襲撃されるのを嫌がって日中のうちに積極的に狩っていた側面もあるが、奴らの大きな耳と目は夜行性の生物の特徴だと思っていたのだが。

「カズヤさん。お父さんの研究結果をチラッと聞いたことがあるんですが、小鬼や大鬼は夜でも昼間と同じように行動できるようです。それと、奴らはよく寝るとも言っていました。まるで子供のようにどこででも……あの?どうかしましたか?」

アリシアが心配そうな顔で俺を見る。どうやら怖い顔になっていたらしい。

「奴らはどこで寝ているんだ……まさか……」

「そうか。港近くの建物を襲って根城にしているのか……」

ノエさんの言葉にアリシアが青ざめる。

「そんな……じゃあ中の人達は……」

「イトー君、これは厄介だよ。根城があるなら奴らは無限に湧いてくるかもしれない」

「ええ。作戦を一部変更しましょう。まずは奴らの根城を急襲して潰します。その過程で衛兵隊の包囲網が少しでも薄くなればそれで良し。衛兵隊との合流はその後でとします」

「わかった。それで奴らの根城に目星は付いているのかい?」

「そうですね。朝になるのを待ってもう一度ドローンを……」

「あ!そういえば!」

呆然としていたアリシアが突然大声を出した。

「アリシアちゃん!しーっ!!」

「あっ。ごめんなさい。さっきドローンを飛ばした時、船着き場近くの画像を撮影?って言うんでしたっけ、保存?できていると思うんですけど」

でかしたぞアリシア。これで奴らの根城が絞り込めるかもしれない。
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