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97.カディスにて①(5月26日~27日)
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「こちらの店はいかがですか?カディスと言えば海の幸!ここのビナグレ、それにカラマールやプルポのフリートは絶品ですよ!特にプルポのフリートは外はサクッとして中はコリっとして、噛むたびに旨味がじわっと出てくるんです!」
ビビアナが全力で推してきた一軒の店に入り、大きな丸いテーブルを囲む。
当然のようにアイダの隣はビビアナが座り、ビビアナの隣にはノエさんが座った。
円卓だし席次なんぞ関係ないだろうと思って適当に座ろうとすると、アイダががっしりと俺の手を掴んで離さない。どうやらビビアナとは逆の自分の隣に座って欲しいらしい。
イザベルは俺の隣に座り、アリシアはイザベルとノエさんの間に座る。
目で牽制したり実力行使に及んだりしながら全員の席が決まると、あとは常連らしいビビアナの仕切りで夕食がスタートした。
葡萄酒と一緒に運ばれてきたのは、パエリヤのように魚介類と米を鉄鍋で炊いた料理と何かのフライ、そしてこれは……魚のマリネだ。
「今日のビナグレはボケロネスを使ってるんですね。オリーバとアルホの風味がたまらないでしょう!」
「ほんと、美味しいです。ボケロネスってどんなお魚なんですか?」
「そうねえ。大きさは手のひらより少し大きいくらいかな。この季節は大きな群れでやってくるから、網で一網打尽にするらしいの。でも傷みやすいからアルカンダラでは食べられないわよね」
「そうだな。アルカンダラで食べる魚といえば、ペルカかカルパくらいか」
ビビアナとアリシア、それにアイダが談笑している。
ペルカはスズキのような魚、カルパは鯉、そしてテーブルの大皿に盛られたボケロネスは特徴から言っても食感からいってもイワシだな。せっかくだから玉ねぎと唐辛子、それに醤油が一指し欲しいところだ。
そうか。イワシがいるならイワシを食べる大型の魚類、例えばカツオやマグロがいるのは道理だろうし、もっと小型の、例えばカタクチイワシなども取れるのなら、乾物にして出汁を取ったりはできそうだな。
あとはやっぱり醤油が欲しい。家に戻ればストックはあるが、大豆に麹があれば製造できるだろうか。
「お兄ちゃん!こっちのフリートも美味しいよ!」
黙々とビナグレを突っついていた俺に、イザベルが揚げ物を勧めてくれた。
この味は……イカだ。肉は薄いが歯応えがあり濃厚な旨味は……スルメイカやアカイカの仲間か。
そしてもう一つの揚げ物はタコだな。
地中海沿岸を除けばヨーロッパ圏では忌み嫌われるとも言うが、この世界では食べる習慣があるようだ。
「ほんとだ。美味しい……このカラマールとプルポっていうのもお魚なんですか?」
「う~ん……海の生き物ではあるんだけどね。こう、太ももぐらいの大きさで、足が何本もある生き物……」
「それってクラケンではないですか!!いや、本で読んだのとは大きさがまるで違いますが、足が何本もある海の生き物といえば、北の海に潜んで船を沈めるという、あの魔物ですよね!」
アイダが言う魔物の描写はクラーケンそのものだ。やっぱりイカやタコと言えば、その発想に至るよな。
「ええ。そういう魔物もいるようです。ただそれは北の海でのこと。ここカディスの海は遥かに南に位置していますからクラケンも大型化しないのかもしれません。せいぜい1メートルほどだと聞いています」
1メートルのイカかあ。元の世界でも亜熱帯地域より南ではソデイカが獲れるし、深海には更に巨大なダイオウイカが潜んでいる。だがそれでも外洋に出るような大型船を海中に引きずり込むのは無理だろう。
クラーケンが実在するというのなら、やはり魔物化したイカやタコなのだろうか。
「んまあ、魔物でも美味しければいいじゃん。魔素の補給にもなるしね。んで、そのクラケンも美味しいの?」
あっけらかんとした顔で言い放ったイザベルの言葉に、一同が静まり返る。
一瞬の後にテーブルを笑い声が満たした。
こんな感じでその日の夕食を終えた俺達は、宿に戻り明日からの探索に備えて英気を養うことになった。
◇◇◇
カディスに来たからと言っても、俺達の日常はさほど変わらない。
早朝から宿の裏庭を借りてアイダと剣の修行をし、アリシアが作ってくれた朝食を食べる。
宿屋の食堂で食べてもいいのだろうが、“せっかく自宅まで転移できるのならば自炊した方が安上がり”というアリシアの主張を覆す理由は俺達には無かった。
ちなみにイザベルは朝食の支度が終わるまでは寝ている。野宿以外の常だから、これも普段通りだ。
思えば5月に入ってから丸一日オフの日だったのはアルカンダラで過ごした1日ぐらいだった気がする。俺は今のところ平気だが、娘達には疲れも溜まっていることだろう。疲れが表に出てくる前に、きちんと休ませなければ。
◇◇◇
「オンセン?何ですかそれは?」
朝食の話題の一つとして、温泉でのんびり過ごすといった話をした時の娘達の反応はこうだった。
“お風呂”は通じても“温泉”は理解できなかったようだ。
ちなみにノエさんとビビアナも俺達の部屋に集合して、ちゃっかりと朝食に加わっている。
「えっとな。地面からお湯が湧いて、そのお湯が池のように溜まっている場所だな」
「地面からお湯が……それってどんな魔法ですか?お湯を作るだけなら火魔法と水魔法を組み合わせれば出来ますけど、あとは土魔法と組み合わせて……?」
魔法師たるアリシアの興味は、どうやら地面からお湯を湧かせるほうに向かってしまった。
まずは温泉とは何かから説明しなければならないか。
「誰か、火を噴く山って見たり聞いたりしたことはないか?」
「火を噴く?山火事ってこと?」
イザベルが言っている山火事は、おそらく落雷や乾期の自然発火によるものだろう。火山やそれに類する自然現象は、ここルシタニアあるいはタルテトス王国においては馴染みがないようだ。
とすれば、カディスの地理条件はカルデラなどではなく隕石の落下によるものなのだろうか。
「そうじゃない。順を追って説明するぞ。まず俺達がいる地表は主成分が土と岩石だ。この地表から深く掘り進んでいくと仮定しよう。そうすると……」
「インフェルノに辿り着く」
アイダが神妙な面持ちで呟く。
「インフェルノ。死者と魔物が支配する人外の領域です。まさかインフェルノから炎が湧き上がってくるのですか?」
綴りにすればinfiernoか。冥界といい地獄と言う。言葉を変えれば魔界そのものだ。
さて、この先をどう説明したものか。
実際に地下にはアイダやビビアナが言う冥界が広がっているのだろうか。何せここは魔物が闊歩し魔法が使える世界だ。俺の持っている知識や常識では説明できないのかもしれない。
「そうだな。そのインフェルノの更に下、地下数キロメートルまでも掘り進めば、温度がどんどん上昇する。地圧、つまり大地の圧力によるものだ」
「圧力で温度が上昇する……それって針金を素早く折り曲げたり戻したりすると熱くなることと同じ?」
「イザベルちゃん何でそんな事してるの?」
「え?いやあ、昔ちょっとね」
イザベルが何をしようとしていたのかは知らないが、何やら納得するものがあったらしい。
「ちょっと待ってください。地下って夏でも涼しく冬でも温かい。なんというかその……一定の温度なのではないですか?」
「ビビアナさんの言うとおりです。ルシタニアでは無理ですが、北のバルバストロやノルトハウゼン大公国では、冬に凍った氷や雪を地下室に貯蔵していて、夏でも冷たい宮廷料理が振る舞われると聞いたことがあります」
氷室か。その仕組みは古代ギリシャやローマ時代には確立していたらしいが、同様の設備がこの世界にもあるようだ。
「そうだな。地下10メートルから15メートルほどは地下恒温層という。日照による変動、つまり太陽の熱が伝わらず、季節変動もない。だからビビアナのいう一定の温度に保たれる。今考えているのは、もっと地下深くだ。さっきも言ったとおり、地下深くの温度はものすごく高い。文字通り岩をも溶かす温度だ。そこでは岩石がドロドロに溶けて渦を巻いている。その溶けた岩石が大地の割れ目や通り道を通って地上へと吹き出してくる。これが噴火だ。そして吹き出した溶岩が地表で幾重にも重なって固まり形作られたのが火山だ」
「岩を溶かす温度……ドロドロに溶けた岩……そんなものが私達の足元にあるというのですか?」
「ああ。そのとおりだ。そして最初に話した温泉、つまり熱水が湧き出る場所だが、熱水はこの溶けた岩によって加熱されたり、あるいは地下深くに溜まった地下水が加熱されて吹きあがってくることで生じる。だから火山が無い場所で温泉を見つけるには、地下深くに井戸を掘って熱水を湧かせるしか方法がないな」
娘達の反応をみるに、どうやら天然温泉は望み薄だ。
だがそもそも日本の温泉の数が異常なのだ。
「そっかあ。温泉かあ。お風呂だって気持ちいいんだから、その温泉ってのも気持ちいいんだろうなあ。入ってみたいなあ……」
「あの!そのドロドロに溶けた岩石が地上で冷えるとどうなるのですか?もしかして色々な種類の岩があったり、崖が層になっていたりするのは溶けた岩が固まる時に何か違いがあるのでしょうか」
イザベルは温泉に興味があるようだが、ビビアナは地学そのものに興味があるようだ。
まさか朝食の席でそんな話をすることになろうとは思わなかったが、さてどうするか。
思うに科学の発展は魔法や超常現象に頼るライフスタイルを否定するところから始まった。このまま俺が持っている現代知識のようなものを娘達に伝えてもいいものだろうか。娘達の魔法の力を削ぐことになりはしないか。
そんな心配を他所に、ノエさんが軽く頭を振って笑う。
「今日は探索は止めにして、イトー君の講義の時間にしようか。アルカンダラに戻ればイトー教官殿も教鞭を執ることになるかもしれないしね。これも訓練だよ」
おいおいノエさん。無茶ぶりは止めてくれ。
ビビアナが全力で推してきた一軒の店に入り、大きな丸いテーブルを囲む。
当然のようにアイダの隣はビビアナが座り、ビビアナの隣にはノエさんが座った。
円卓だし席次なんぞ関係ないだろうと思って適当に座ろうとすると、アイダががっしりと俺の手を掴んで離さない。どうやらビビアナとは逆の自分の隣に座って欲しいらしい。
イザベルは俺の隣に座り、アリシアはイザベルとノエさんの間に座る。
目で牽制したり実力行使に及んだりしながら全員の席が決まると、あとは常連らしいビビアナの仕切りで夕食がスタートした。
葡萄酒と一緒に運ばれてきたのは、パエリヤのように魚介類と米を鉄鍋で炊いた料理と何かのフライ、そしてこれは……魚のマリネだ。
「今日のビナグレはボケロネスを使ってるんですね。オリーバとアルホの風味がたまらないでしょう!」
「ほんと、美味しいです。ボケロネスってどんなお魚なんですか?」
「そうねえ。大きさは手のひらより少し大きいくらいかな。この季節は大きな群れでやってくるから、網で一網打尽にするらしいの。でも傷みやすいからアルカンダラでは食べられないわよね」
「そうだな。アルカンダラで食べる魚といえば、ペルカかカルパくらいか」
ビビアナとアリシア、それにアイダが談笑している。
ペルカはスズキのような魚、カルパは鯉、そしてテーブルの大皿に盛られたボケロネスは特徴から言っても食感からいってもイワシだな。せっかくだから玉ねぎと唐辛子、それに醤油が一指し欲しいところだ。
そうか。イワシがいるならイワシを食べる大型の魚類、例えばカツオやマグロがいるのは道理だろうし、もっと小型の、例えばカタクチイワシなども取れるのなら、乾物にして出汁を取ったりはできそうだな。
あとはやっぱり醤油が欲しい。家に戻ればストックはあるが、大豆に麹があれば製造できるだろうか。
「お兄ちゃん!こっちのフリートも美味しいよ!」
黙々とビナグレを突っついていた俺に、イザベルが揚げ物を勧めてくれた。
この味は……イカだ。肉は薄いが歯応えがあり濃厚な旨味は……スルメイカやアカイカの仲間か。
そしてもう一つの揚げ物はタコだな。
地中海沿岸を除けばヨーロッパ圏では忌み嫌われるとも言うが、この世界では食べる習慣があるようだ。
「ほんとだ。美味しい……このカラマールとプルポっていうのもお魚なんですか?」
「う~ん……海の生き物ではあるんだけどね。こう、太ももぐらいの大きさで、足が何本もある生き物……」
「それってクラケンではないですか!!いや、本で読んだのとは大きさがまるで違いますが、足が何本もある海の生き物といえば、北の海に潜んで船を沈めるという、あの魔物ですよね!」
アイダが言う魔物の描写はクラーケンそのものだ。やっぱりイカやタコと言えば、その発想に至るよな。
「ええ。そういう魔物もいるようです。ただそれは北の海でのこと。ここカディスの海は遥かに南に位置していますからクラケンも大型化しないのかもしれません。せいぜい1メートルほどだと聞いています」
1メートルのイカかあ。元の世界でも亜熱帯地域より南ではソデイカが獲れるし、深海には更に巨大なダイオウイカが潜んでいる。だがそれでも外洋に出るような大型船を海中に引きずり込むのは無理だろう。
クラーケンが実在するというのなら、やはり魔物化したイカやタコなのだろうか。
「んまあ、魔物でも美味しければいいじゃん。魔素の補給にもなるしね。んで、そのクラケンも美味しいの?」
あっけらかんとした顔で言い放ったイザベルの言葉に、一同が静まり返る。
一瞬の後にテーブルを笑い声が満たした。
こんな感じでその日の夕食を終えた俺達は、宿に戻り明日からの探索に備えて英気を養うことになった。
◇◇◇
カディスに来たからと言っても、俺達の日常はさほど変わらない。
早朝から宿の裏庭を借りてアイダと剣の修行をし、アリシアが作ってくれた朝食を食べる。
宿屋の食堂で食べてもいいのだろうが、“せっかく自宅まで転移できるのならば自炊した方が安上がり”というアリシアの主張を覆す理由は俺達には無かった。
ちなみにイザベルは朝食の支度が終わるまでは寝ている。野宿以外の常だから、これも普段通りだ。
思えば5月に入ってから丸一日オフの日だったのはアルカンダラで過ごした1日ぐらいだった気がする。俺は今のところ平気だが、娘達には疲れも溜まっていることだろう。疲れが表に出てくる前に、きちんと休ませなければ。
◇◇◇
「オンセン?何ですかそれは?」
朝食の話題の一つとして、温泉でのんびり過ごすといった話をした時の娘達の反応はこうだった。
“お風呂”は通じても“温泉”は理解できなかったようだ。
ちなみにノエさんとビビアナも俺達の部屋に集合して、ちゃっかりと朝食に加わっている。
「えっとな。地面からお湯が湧いて、そのお湯が池のように溜まっている場所だな」
「地面からお湯が……それってどんな魔法ですか?お湯を作るだけなら火魔法と水魔法を組み合わせれば出来ますけど、あとは土魔法と組み合わせて……?」
魔法師たるアリシアの興味は、どうやら地面からお湯を湧かせるほうに向かってしまった。
まずは温泉とは何かから説明しなければならないか。
「誰か、火を噴く山って見たり聞いたりしたことはないか?」
「火を噴く?山火事ってこと?」
イザベルが言っている山火事は、おそらく落雷や乾期の自然発火によるものだろう。火山やそれに類する自然現象は、ここルシタニアあるいはタルテトス王国においては馴染みがないようだ。
とすれば、カディスの地理条件はカルデラなどではなく隕石の落下によるものなのだろうか。
「そうじゃない。順を追って説明するぞ。まず俺達がいる地表は主成分が土と岩石だ。この地表から深く掘り進んでいくと仮定しよう。そうすると……」
「インフェルノに辿り着く」
アイダが神妙な面持ちで呟く。
「インフェルノ。死者と魔物が支配する人外の領域です。まさかインフェルノから炎が湧き上がってくるのですか?」
綴りにすればinfiernoか。冥界といい地獄と言う。言葉を変えれば魔界そのものだ。
さて、この先をどう説明したものか。
実際に地下にはアイダやビビアナが言う冥界が広がっているのだろうか。何せここは魔物が闊歩し魔法が使える世界だ。俺の持っている知識や常識では説明できないのかもしれない。
「そうだな。そのインフェルノの更に下、地下数キロメートルまでも掘り進めば、温度がどんどん上昇する。地圧、つまり大地の圧力によるものだ」
「圧力で温度が上昇する……それって針金を素早く折り曲げたり戻したりすると熱くなることと同じ?」
「イザベルちゃん何でそんな事してるの?」
「え?いやあ、昔ちょっとね」
イザベルが何をしようとしていたのかは知らないが、何やら納得するものがあったらしい。
「ちょっと待ってください。地下って夏でも涼しく冬でも温かい。なんというかその……一定の温度なのではないですか?」
「ビビアナさんの言うとおりです。ルシタニアでは無理ですが、北のバルバストロやノルトハウゼン大公国では、冬に凍った氷や雪を地下室に貯蔵していて、夏でも冷たい宮廷料理が振る舞われると聞いたことがあります」
氷室か。その仕組みは古代ギリシャやローマ時代には確立していたらしいが、同様の設備がこの世界にもあるようだ。
「そうだな。地下10メートルから15メートルほどは地下恒温層という。日照による変動、つまり太陽の熱が伝わらず、季節変動もない。だからビビアナのいう一定の温度に保たれる。今考えているのは、もっと地下深くだ。さっきも言ったとおり、地下深くの温度はものすごく高い。文字通り岩をも溶かす温度だ。そこでは岩石がドロドロに溶けて渦を巻いている。その溶けた岩石が大地の割れ目や通り道を通って地上へと吹き出してくる。これが噴火だ。そして吹き出した溶岩が地表で幾重にも重なって固まり形作られたのが火山だ」
「岩を溶かす温度……ドロドロに溶けた岩……そんなものが私達の足元にあるというのですか?」
「ああ。そのとおりだ。そして最初に話した温泉、つまり熱水が湧き出る場所だが、熱水はこの溶けた岩によって加熱されたり、あるいは地下深くに溜まった地下水が加熱されて吹きあがってくることで生じる。だから火山が無い場所で温泉を見つけるには、地下深くに井戸を掘って熱水を湧かせるしか方法がないな」
娘達の反応をみるに、どうやら天然温泉は望み薄だ。
だがそもそも日本の温泉の数が異常なのだ。
「そっかあ。温泉かあ。お風呂だって気持ちいいんだから、その温泉ってのも気持ちいいんだろうなあ。入ってみたいなあ……」
「あの!そのドロドロに溶けた岩石が地上で冷えるとどうなるのですか?もしかして色々な種類の岩があったり、崖が層になっていたりするのは溶けた岩が固まる時に何か違いがあるのでしょうか」
イザベルは温泉に興味があるようだが、ビビアナは地学そのものに興味があるようだ。
まさか朝食の席でそんな話をすることになろうとは思わなかったが、さてどうするか。
思うに科学の発展は魔法や超常現象に頼るライフスタイルを否定するところから始まった。このまま俺が持っている現代知識のようなものを娘達に伝えてもいいものだろうか。娘達の魔法の力を削ぐことになりはしないか。
そんな心配を他所に、ノエさんが軽く頭を振って笑う。
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