異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫

文字の大きさ
上 下
96 / 243

95.ノエさんからの依頼(5月26日)

しおりを挟む
ノエさんの口から“ビビアナは妹”という発言が飛び出した。幼馴染の異性を姉や妹、兄や弟と表現することはこの世界でもあるのだろうか。イザベルは俺を“お兄ちゃん”と呼ぶしな。

「えっと……ボクの父がアステドーラにいるのは知ってるよね。レナト カレラスだ」

「ええ。アベル君の救出の時に、皆を率いていた方ですよね。確か以前は軍人だったとか」

「そう。衛兵隊の小隊長だった頃にマンティコレを狩っちゃってね。それから狩人に転向した変な人なんだ。それで、その頃の中隊長さんがガルシエ オリバレス殿。ビビアナの親父さんだ。この親父さんも騎士を引退して衛兵隊に来たって変わり者でね。変わり者同士気が合ったんだろう。ボクの父とは仲良しだったのさ」

「つまり、ノエさんとビビアナは幼馴染ということですか?」

「まあそうだね。あ、でもそれ以上の関係ではないからね」

それは今追求する事ではないだろう。そして追求するような事でもない。

「ボクがカサドールになる道を選んだのは、ある意味当然だった。両親がカサドールだし、さっさと固有魔法が発現していたしね。カサドールでもなきゃ盗賊にでもならない限り有効活用できそうにない魔法だ」

確かにな。非常時発動の万物を切り裂く刃など、職業軍人か法執行官ぐらいにしかニーズはなさそうだ。

「そんなボクを追いかけるように、あの子まで養成所に来てしまった。だからボクは知らんぷりはできないんだよ」

「それならノエさんがしっかり指導して経験を積ませればいいんじゃないですか?彼女をカサドールの道に引き込んだのが自分だというなら、そこまで責任取るのが筋でしょう」

「それを言われると返す言葉もない。言い訳をすると、あの子はまだ学生だ。とうに卒業してしまったボクでは、ちゃんと見てあげられないんだよ」

あ。ノエさんが言わんとしている事に察しがついた。
ビビアナは学生なのだ。
そして俺の立場は……

「そこでだ。ビビアナの幼馴染みとして、教官であるイトー君にお願いだ。お勉強だけが取り柄のビビアナに、どうか経験を積ませてやってほしい」

ほらね。やっぱりそうきたか。
まあアリシア達が一足飛びに卒業できたのも、俺が彼女達の身柄を預かる(或いは俺の身柄を彼女等が預かる)ことになっていたからだろう。ここで1人増えたところで、大した影響はないのかもしれない。
ただ本人を含めて彼女等が納得するかどうか……

「具体的には?」

「まずは狩りの経験を積ませること。魔物の知識はあるし、魔物の痕跡を見つけて種類を特定し、その進行方向、数や位置を特定するところまでは完璧だ。あとはちゃんと狩れるかどうかだけなんだ」

なるほど。フィールドワークというか、斥候スカウトまではマスターしているんだな。
とすれば、あとは最前線で魔物を相手にできるかどうかだけだ。
3人娘と旅を始めた直後の事を思い出す。最初に出くわしたオーガとゴブリンを前にして立ちすくむ娘達の恐怖に歪んだ顔は忘れられそうにない。
ただあの時は襲われ捕らわれたトラウマを克服すればよかった。あとになって思えば荒療法だったが、同じやり方が箱入り娘のビビアナに通じるだろうか。

「それとね。今話した事はくれぐれも内密にお願いしたい。この話が知られる事は、ビビアナにとっても他の人達にとっても良い影響を与えるとは思えない」

それはそうだろう。皆の尊敬を集め指導する立場の監察生殿が、実は仲間の成果に乗っかっただけの未熟者でしたなど、養成所で一騒動起きるに違いないからな。

「わかりました。乗りかかった船みたいなものです。協力しましょう」

ノエさんはあははと笑って答えた。

「面白い言い方をするね。その通り。船が沖に出てしまったら、後は進むしかないんだよ。漕ぐなり帆を張るなりしてね。すまないが宜しく頼む」

◇◇◇

ノエさんが部屋を出て行くのを見計らったように、部屋の片隅のクローゼットの扉が開いた。
自宅からの帰りの扉は、クローゼットの奥に設置してあったのだ。理由は簡単。物理的な扉に設定したほうが、仕掛けるのが簡単だからだ。
ちなみにクローゼットの中身は空っぽだったから、小柄な娘3人ぐらいは潜んでいられただろう。

「ノエさんは戻られましたか?」

「ったく、湯上りの姿は、お兄ちゃんにしか見せないっつーの」

「さっぱりしました。カズヤ殿もいかがですか?」

3人娘がほんのりとシャンプーの香りを漂わせて出てきた。旅の間着たきりだった服は、仕立て直したBDUに着替えている。

「ノエさんの話、聞こえていたか?」

どういう事だと食って掛かるかと思いきや、娘達は平然としている。どう説明するかと構えていたのが、いささか拍子抜けした気分だ。

「はい。別に盗み聞きをしようとしたわけじゃないんですが、聞こえてしまいました」

「いい機会じゃない。最前線を引き摺り回して、きちんと教育してあげるわ!」

アリシアとイザベルは、全てを把握した上で協力してくれるようだ。アイダはどうだろう。

「旅路の途中、小鬼の襲撃を受けた時の彼女の雰囲気に、危げなものを感じはしたのですが……そういう事だったのかと納得しました。仲間の成果に乗っかっていただけというのは許せる事ではないですが、たぶんビビアナさん本人に悪気はないのでしょう。カズヤ殿は具体的にどうされるのですか?」

「そうだなあ。まずは仲直りしよう。あの話を聞いてビビアナを放り出せるほど、俺は人でなしではないようだ。とりあえずアイダと組ませて偵察でもしてもらうか。大人数なら安全な場所で待機するって選択肢もあるだろうが、2人でなら付いて回るだろう」

「わかりました。では当面は私が彼女の面倒を見ます。ただカズヤ殿の護衛の任は譲れません」

アイダがビビアナの面倒を見てくれるのは助かる。ビビアナもアイダには御執心のようだしな。

「わかった。よろしく頼む。ところでお前達、服はどうした?」

「ん?洗濯してるよ?そろそろ干しに戻らなきゃ。って、お兄ちゃんの服も洗えばよかった!!」

やっぱりそうか。
じゃあ俺も風呂に入ってくるか。

◇◇◇

のんびり静かに湯船に浸かる……というわけにはいかなかった。
洗濯が終わったのを見計らって、娘達が干しに来ている。ついでに俺のフレック迷彩のBDUや下着などを洗ってくれている。俺のフレック迷彩に洗い替えはないから、風呂上りはアルペンカモ或いはスウェットの上下でも着るか。
洗濯機は脱衣所、つまり浴室の隣に置かれている。
当然、娘達の会話は筒抜けだ。

「しっかし、孤高のヒラソルだっけ?カッコいいじゃん」

「そうか?孤高って付く時点で褒め言葉とも思えないけどな」

「私はヒラソルの花って好きだよ。おっきくて、まるで太陽みたいじゃん」

「ねえねえ。私達にも仇名っていうか通り名みたいなの無いの?無いなら付けちゃう?」

「え?イザベルちゃん知らないの?イザベルちゃんには仇名付いてるよ?」

「ふえ?ほんと?なになに!?」

「アリシアあれか?教えていいのか?」

「アイダちゃん何その言い方?さては白百合とか清楚で凛とした感じだな。うんうん。私にピッタリだ」

清楚で凛とした感じ。イザベルの中での自己評価はそうなのか。まあ側から見ていればそうなのかもしれないが、近寄ってみれば全く違う側面を覗かせる。

「鋭い棘の純白のローサ」

「は?アイダちゃん今何て言った?」

「ローサだよローサ。知ってるだろ?」

「知ってるよ!嫌いな花じゃないよ。むしろ好きだよ。じゃなくて、その前になんか言ったでしょ!」

「いやほらね。ただ美しいだけじゃなくって、チクッと痛い棘があるっていう意味だからたぶん!」

アリシアがフォローしているがフォローになっていない。その異名は文字通り刺々しいという意味だろう。
養成所でのイザベルはツンツンキャラで通っていたらしいしな。この3人の前ではデレているだけなのだ。

「まあいいけどね。つまんない男が寄ってきそうにないし。それで、アリシアちゃんとアイダちゃんの仇名は?」

「えっと……アイダちゃん知ってる?」

「いや、聞いた事ないな。イザベルに比べて私達は目立ってなかったから」

「それじゃあ私が悪目立ちしてたみたいじゃん!」

「悪いかどうかは別にして、目立ってはいたよね」

「そうそう。去年だったか、告白してきた上級生にさあ」

「ちょっと2人とも止めて!お兄ちゃんが隣にいるんだからね!聞こえちゃう!」

ああ……そういうガールズトークは俺がいない所でやってくれ。
何にせよ3人娘は現状を受け入れてくれたようだ。
カディスに戻ったらビビアナを夕食にでも誘うか。
飯を喰うにしても彼女の案内があった方がいいだろうしな。
しおりを挟む
感想 230

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

処理中です...