異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫

文字の大きさ
上 下
84 / 243

83.グサーノ殲滅戦⑤(5月22日)

しおりを挟む
上空で点にしか見えなかった大剣が、ぐんぐんと落ちてくる。
きっかり5秒後に奴の背中に着弾した。

ドーン!!!

雷が落ちたかのような地響きが辺りを包み、土煙がもうもうと立った。
背後の屋上で倒れ込む気配がしたのはルシアだろうか。

「ルシアさんしっかり!これ飲んで!!」

倒れ込んだルシアにアンナが水筒から水を飲ませているようだ。
傍らのアイダも肩で息をしている。

「アイダ。大丈夫か?」

「は…い…魔力はまだ残っています。倒したのでしょうか……」

土煙の中を透かし見るように3Dスキャンをかける。
前後で分断された巨大ミルワームの影以外は魔力反応はない。

「アンナ!魔物の反応は!?」

「えっと……地下の反応はありません!」

イザベルが北風を吹かせて舞い上がった土煙を飛ばす。
アリシアの放った光魔法に照らされたのは、長い身体を前後に真っ二つにされた巨大なミルワームの姿だった。

終わったのか……いや、スキャンの結果だけでは判断できない。

「アイダ。行くぞ。油断するな」

「了解です」

G36Cを構えて巨大ミルワームに近づく。
MP5Kを構えたアイダが一歩遅れて
続く。

ルシアが空高くから落下させたダミアンの大剣は、1メートルを超える刀身を8割以上地面にめり込ませて突き刺さっていた。
巨大ミルワームは3対の脚がある胸部とそれより下の腹部の間で両断され、さらに大剣落下の衝撃で数メートルは吹き飛ばされたようだ。
切断面からは茶褐色の体液が流れ出て、地面に血溜まりのようなものを作っている。

「動きませんね……」

「ああ。こいつが最後だと思うか?」

「それはわかりません……ですが最後であって欲しいとは思います」

全く同感だ。

辺りはまだアリシアの打ち上げた光魔法に照らされている。
食糧庫へ振り返り、手にしたG36Cを突き上げて戦闘終結を皆に知らせる。

「やったああああ!終わったあ!」

この距離でもはっきりと聞こえるイザベルの声量が、彼女達の心情を表しているというものだ。

◇◇◇

とりあえず食糧庫に引き揚げる。
夜明けまであと数時間はある。中途半端なタイミングで起こしてしまったアンナとアイダ、まだ眠いだろうイザベルとルシアを寝かせ、アリシアと2人で見張りを行うことにした。

「ティオさんは無事にリナレスの街に帰り着いたのかな……」

「そうだな。今頃は援軍を率いてやってくる手筈でも整えてるんじゃないか」

「そうだといいけどなあ。援軍も必要だけど、村の復興までには凄い人手と時間が必要そうですよね」

復興か。

生き残った村人は最初に保護した子供達5人の他、食糧庫に避難していた10名と途中で救助した7名、合わせて22名しかいない。
普通に考えれば村を放棄してリナレスかアルカンダラに移住するべきだろう。
ただそれは生き残った村人達が決めることだ。
残念なことに子供達の肉親は誰も助からなかったようだ。あの子達の身の振り方は気になるところだが、仮にも俺が引き取るなどとは言えない。
確かに部屋には余裕があるし、金銭的な意味でも困ってはいない。
だが、俺や3人娘は駆け出しのカサドールだ。基本的に家は留守にするし、明日も知れない身の上だ。まだ幼い子供達を引き取るなど出来ないのだ。

食糧庫の屋上の手摺りにもたれ掛かり、周辺にレーダーを放ちながらそんな事を考える。

ようやく雲が去って月明かりに照らされるグサーノを見ていたアリシアが、突然蹲み込んだ。

泣いているようだ。

「アリシア……」

「ごめんなさい。ちゃんと見張ってなきゃいけないのに……でもちょっとだけ、ちょっとだけ時間をください」

無理もない。大勢の人死を目撃し、多数の魔物と戦ったのだ。ストレスが最高潮に達してもおかしくない。

「もっと……もっと早く来ていれば……アルカンダラでのんびりお買い物なんかしてたから……」

「それは違うぞアリシア。確かに俺達がもっと早く到着していれば救えた命もあったかもしれない。だが俺達はこうなると知っていてわざと遅れて来たわけじゃない。少なくとも俺は知らなかった。アリシアはどうだ?」

「それは……そうですけど……」

「いいか。事が起きた後でもっと出来た事があったんじゃないかと反省するのはいい。だが度を超すと単なる思い上がりだ。俺達が世の中の全ての不幸を解消できるわけじゃない。イリョラ村に1日早く到着していれば、もしかしたらリナレスの街が襲われたかもしれない。結果だけを元に過去の自分を責めるのは良くない」

「はい……でも……」

そんな事はアリシアだってわかっているのだろう。
頭では分かっていても、今必要な言葉は正論ではないのかもしれない。
手を伸ばしてアリシアの髪を撫でながら続ける。

「そうだな。次、もし同じような事があったら、もっと早く駆け付けよう。そうすればもっと多くの人達を助けられるかもしれない。それにアリシアは怪我をした大勢の村人を治癒しただろう?胸を張っていいことだと思うぞ」

「はい……そうします!でも……もうちょっとだけ、もうちょっとだけ泣きます」

泣く事はストレスの発散になるらしいからな。
気長に待とう。

◇◇◇

結局、東の空が白み始めるまでアリシアが頭を上げることはなかった。
ただこれだけで狩人失格だなどと言うことはとてもできない。むしろグサーノの残骸を見下ろして平然としている俺自身にちょっと驚いている。

「ごめんなさい。もう大丈夫です」

「ああ。酷い顔になっている。ちょっとこっちへ」

泣き腫らしたアリシアの目に周りに治癒魔法を掛ける。

「ありがとうございます。ちょっと泣き疲れました……」

「そうだろうな。俺も反省点がある。聞いてくれるか?」

「はい!聞きますよ~」

「実はな……」

俺の反省点は、今回の巨大ミルワームのような硬い装甲を貫くには、エアガン+AT弾+貫通魔法では威力が足りなかった事だ。

一般的に、砲弾や弾丸の運動エネルギーは質量と速度に比例する。つまり、次の不等式が成立する場合に弾丸は装甲を貫通する。

1/2×質量×速度×速度>断面積×抵抗力×侵徹長

貫通魔法が弾丸の速度や質量を上げているわけではなさそうだから、貫通魔法とは物体の抵抗力を下げる効果を発現するのだろう。

ではどうするか。
単純にはエアガンから射出する弾丸の質量と速度を上げればいいのだが、それには現状の6mmAT弾では小さすぎる。
風魔法で加速しようにも、対象が小さすぎて限界があるのだ。

ここまでの説明というか俺の独り言を、アリシアは傍で首を傾げながら聞いている。

「つまり、カズヤさんが必要とするエアガンを作ればいいのでは?」

「作る?どうやって?」

アリシアは事もなげに“作る”と言ってくれたが、いくら遊戯銃とはいえ無から有は生まれないのが道理だ。

「錬成魔法で。だってAT弾だって作ってるじゃないですか。きっとエアガンだって作れますよ」

「錬成魔法?それはどういう魔法だ?」

「えっと……最初は針や糸を錬成するところから始めます。ほら、服が破れちゃったりした時に便利でしょ?それで慣れてきたら釣針とか短剣、弓使いなら矢を錬成したりしますね。ただあまり大きな物や複雑な物を錬成しちゃうと魔力を一気に消費するから、普段は鍛えた物を買ったほうがいいです。あくまで緊急用って感じですね!」

「それは何もないところから作るのか?剣なら金属を使ったりするんじゃないのか?」

「素材のことですか?確かに精錬された鉄を素材にしたほうが上質の剣が錬成できるそうですが、土からでも錬成できますよ?」

土……土か。
確かに土にはおよそ自然界に存在するあらゆる物質の構成元素が含まれてはいるが。

まあ悩むぐらいなら試してみるか。
しおりを挟む
感想 230

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...