異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫

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74.イリョラ村に辿り着く(5月21日)

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「イザベル!煙が見えたのは確かなんだな?」

「もちろん!目と耳には自信ある!」

イザベルの索敵能力は馬鹿にはできない。それは俺達3人はよくわかっている。

「ティオ。あの方角にイリョラ村があるのも間違いないな?あとどれぐらいで到着する?」

「えっと……オオクスの木を過ぎたから…あと20分ぐらい!」

馬車はだいたい人がジョギングするぐらいの速度で走っている。それで20分ということは、あと3キロメートルほどか。ギリギリでドローンの作戦行動範囲外だ。

「あと10分もすれば森を抜けて視界が開ける。そうすりゃ村の様子も見えると思うけど……」

「わかった。なるべく急いでくれ。各自戦闘準備!森を抜けた直後にドローンによる偵察を行う」

「了解!カズヤ殿。私にもエアガンを貸してください」

「ああ。アイダはアリシアのMP5Kを使ってくれ。アリシアはPSG-1を使って狙撃だ。イザベルはG36Cな。モスカスの時と一緒だ」

3人は受け取ったエアガンのマガジンを引き抜き、残弾を確認してからゼンマイを巻き上げる。

「もうさ、弓矢とか剣とか出番ないのかなあ」

イザベルがボソッと呟く。

「そんなことない。近接戦闘や咄嗟の時は、アイダやイザベルの剣技が必要だ。アリシアだって毎日槍を振るって訓練している。万が一の時は俺を守ってくれよ。格闘戦などやったこともないからな」

「にゃは。了解!お兄ちゃんの背中は私が守ってあげよう!」

「もうイザベルちゃんったら。なにあたりまえの事言ってるの!」

「まったくだ。そろそろ森を抜ける。私が右、アリシアは左、イザベルは前方の警戒を」

アリシアとアイダがそれぞれ荷台の左右に分かれる。
その間に俺はミリタリーリュックからドローンを取り出しスタンバイする。この世界に来て2日目に周囲の偵察を行った際に使用した大型の機体の2000万画素のカメラが、煙の出所で何が起きているか見せてくれるだろう。
娘達はこの機体より小型の、手のひらより少し大きなドローンは自分達でも飛ばした事がある。だがプロペラまで含めれば優に50センチメートルを超えるこの機体が飛ぶのをみるのは初めてのはずだ。

森を抜けると、確かに前方11時の方向に煙が立ち上っている。それもかなり広範囲に渡ってだ。

馬車の荷台からドローンを離陸させる。その光景をポカンと口を開けてティオが見つめている。

「あれはカズヤさんの魔道具です。今から魔道具を通してイリョラ村の様子を確認します」

「魔物じゃないんだな?魔道具って……あれがただの道具なのか?動いてるぞ!?浮いてるぞ!?」

「道具です。まあ見ていてください」

進行方向に向かってビーム状に探知魔法を放ち、そのビームに沿ってドローンを飛行させる。本来ならばGPSを使った誘導や出発点に戻ってくる機能も付いているのだが、この世界に人工衛星など存在しないから常に操縦する必要がある。
人工衛星か……衛星軌道上とは言わないまでも、気球のような物で上空から定点監視できれば、探知魔法の効果範囲は飛躍的に高まるのかもしれない。
気球のガスといえばヘリウムだが、天然ガスに含まれる僅かなヘリウムを分離精製するなど現実的ではない。使えるとすれば水素ガスか。

そんな事を考えているうちに、ドローンのカメラに村の様子が映る。

「これは……塀が燃えている……」

「大変!家が何軒も燃えてるよ!」

「待って!ここの黒い影に見えるのって…人間?」

「人だよ!イリョラ村が襲われたんだ!」

娘達とディスプレイを見ながら、村の周りをドローンで一周するが、逃げ惑うような或いは消火活動を行うような人々の姿は映らない。
村の中心部に大きな建物があり、入り口は石の階段になっている。もしかしたらこの場所に避難しているかもしれない。

「ティオ!全速力でイリョラ村へ!イザベルは前方警戒を!アリシアとアイダは左右と後方の警戒を継続!ドローンは回収する」

「わかった!しっかり捕まってろ!」

ティオが手にした鞭を一振りすると、馬車のスピードが一気に上がる。

「カズヤさん!荷台に硬化魔法を掛けます!」

「いや、この速度なら追い付かれることはないだろうし、下から突き上げられる事の方が心配だ。地表の僅かな変化も見逃すな」

「わかりました!」

例えば分厚い装甲に守られた戦車や装甲車を例にとっても弱点はキャタピラかハッチなどがある上部だ。疾走する馬車も側面や底部を硬化させても、車輪を破壊されるか荷台ごと持ち上げられたらひとたまりも無い。
これが地表を滑るように移動しているのなら、地表と荷台の相対位置を固定すればびくともしなくなるのかもしれないが、生憎と馬車は車輪で走行している。
優先すべきは攻撃を受けない事だ。

「後方!何か出ます!」

「左も土が!」

ほらお出でなすった。
後方と左側の土が直径1メートルほど盛り上がり、グサーノの頭部が飛び出してくる。
昨日見たムカデ型に混じって、濃いカーキ色の芋虫のような魔物も頭を出してくる。

俺はこの生き物の正体に心当たりがある。
チャイロコメノゴミムシダマシとかツヤケシオオゴミムシダマシと呼ばれる昆虫の幼虫。爬虫類や昆虫食の大型魚を飼育している人なら一度は目にしているであろう餌昆虫、ミルワームだ。
そういえば最近、ミルワームが発泡スチロールを食べて分解できるという研究が行われているらしいが、たぶんそんな事はミルワームをストックしているマニアックな飼育者なら気付いていた事だろう。

そんな事はともかく、俺達まで分解されては敵わない。
幸いな事にミルワームの魔物の大きさは小さい。頭部だけなら大きめのビーチボールぐらいか。目のような物は無く、口吻の先端にある一対の牙がカチカチと威嚇するような音を立てている。

「イザベル!前方に出たやつには容赦なく撃ち込め!」

「了解!」

「側方と後方は!?」

「そっちは無視する!イリョラ村に入る事を優先!」

「わかりました!」

ようやくドローンを回収した俺も、G36Vを携えて荷台の前方に移動する。

「お兄ちゃん!貫通魔法を重ね掛けすれば、地中のグサーノも倒せるっぽい!」

「それだと地上に出たグサーノは向こう側に貫通しちゃうんじゃないか?」

「だから発現する効果は混ぜてるよ!貫通-貫通-火炎-貫通!」

イザベルは航空機関砲弾のように徹甲弾と焼夷弾を混ぜて撃ち込んでいる。これに榴弾効果をもたらすようなAT弾が開発できれば応用範囲は広がるだろうが、いかんせん直径6ミリメートルのAT弾から飛び散る破片などたかが知れている。エアガンから撃ち出せる榴弾の開発は、何か別の魔法によってでない限り難しいだろう。

ともかく、魔物とはいえ生き物である。
事前情報では火に弱いとか水に弱いとの事だったが、例えば火の魔法を操るような魔物でもない限り、生き物に火は有効だろう。
まさか先輩狩人達は板塀を燃やしてグサーノを追い払おうとしたのか?それにしては被害が大きすぎやしないか?

そんな事を考えながら、イザベルと手分けして5頭は撃退しただろうか。何せ地中を攻撃しているから、撃破確認が出来ていない。

「村に突入するぞ!跳ね橋を通るから捕まれ!」

ティオの叫びに、俺達4人は荷台の手摺りに掴まり直す。

ドン!という突き上げるような衝撃を感じながら、塀の周りを囲っている深さ2メートルほどの空壕に掛かる橋を通過する。
板塀は燃えているが、橋のたもとが石造りだったおかげで跳ね橋は延焼が避けられているようだ。

「ティオ!このまま中央の大きな建物の前まで進んでくれ!あそこは石畳がある!」

「わかった!もうすぐだぜ!」

「あそこに倒れてるのは子供!?でも肌の色が……」

アリシアが指差す先には、確かに半裸の人らしき姿ががあるが、肌の色が赤褐色というか青紫色だ。何らかの病変或いは毒液でも浴びせられたか。ちょうどアメフラシの魔物、バボーサが撒き散らしていた体液が同じような色をしていた。
上空からの遠影では分からなかったが、赤褐色の液溜まりはそこかしこにある。そして燃え盛る家の影に倒れた人達が何人もいる。想定していた以上の被害だ。

「確認するのは後だ!まずは自分の身を守れ!」

「イトー!ここでいいか!?」

ティオが懸命に手綱を引き、馬車を停止させる。

「ああ!ティオ!この建物が何か知っているか?」

「教会だ!緊急時には避難場所にもなっている筈だ!」

「わかった!アイダ!建物の内部に入るぞ。アリシアは周囲の石畳に硬化魔法を。イザベルは周囲の警戒監視。アイダは付いてきてくれ」

目の前の建物は、5段の石の基礎の上に木と石板を組み合わせた構造で、多数の窓が開いた壁に三角屋根。正面は幅10メートルほど。奥行きはその3倍弱といったところか。確かに教会と言われれば教会に見えてくる。
馬車の荷台から飛び降りると、アリシアが早速詠唱に入る。
周囲300メートルの半球状にスキャンを掛けるが、今のところ魔物の気配はない。
地下を探るには……船上で行なったようなアクティブソナー状の探知魔法は、逆にこちらの位置を魔物に教える可能性が極めて高い。何せ地中では音の伝わる速度が大気中より早い。

そうか音か。

俺は地に伏せ、石畳の石の一つに左耳を当てる。

「んあ?カズヤさんどうしたんですか?」

「しっ!アリシアちゃん静かに!お兄ちゃんは地中の音を聞いて魔物の位置を探ってるの!」

俺の意図を悟ってくれたイザベルがフォローしてくれる。

「よし。とりあえず周囲にはいなさそうだ。アリシアとイザベルは周囲の警戒を続けながら、ティオと荷馬車を護衛してくれ。アイダ、行くぞ!」

「了解!」

教会と呼ばれた建物の石造りの階段を駆け上がり、重厚な木の扉の前で一旦立ち止まる。
扉は両側が内開きのようだ。
手に着けていたグローブを外し、手の甲で扉に触れる。特に熱さは感じない。もっとも木製の扉がどれだけ内部の熱を伝えているかは不明だが、少なくとも内側が火の海ということはないと思われる。
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