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67.BDUを仕立て直す(5月18日)
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「な~んだ。責任を取るって、ノエさんをアステドーラまで送るってことか。それならそうと言ってくれればいいのに」
赤くなった額をさすりながら、アリシアが言う。
「お兄ちゃんの転移魔法を使えばアステドーラまでも一瞬だし、用事を済ませて戻ってきてくれればカディスにも同行してもらえる。丸く収まってよかったね!」
お前達は特に何もしてないけどな。
とりあえず俺へのBL疑惑というか妄想が晴れたのなら良しとしよう。
今はノエさんをアステドーラに程近い森の縁に送り届けてから、アルカンダラの街中にある仕立て屋に向かっている最中だ。
俺は相変わらずのドイツ連邦軍の軍服を着ている。
俺の顔に似合うかどうかはさておき、石造りの街並みには似合っていると思う。
アリシアは白いシャツに茶色のゆったりとしたズボン。シャツの上から幅の広い革のベルトを締めている。
アイダは袖の拡がった白いシャツに焦げ茶色のサロペット。
イザベルはフロントが膝丈、バックが踝ぐらいまであるカーキ色のワンピースの上から、紺色のチュニックを合わせている。
3人ともエルレエラで買った服がお気に入りらしい。
カディスに向かう上で娘達が最も欲しがったのは、サイズの合った戦闘服だった。
「機能は全然問題ないんですけど……」
「裾とか曲げなきゃいけないから、ちょっとカッコ悪いんだよね!この服仕立て直していい?もしかしたら似たような生地もあるかもだし!」
「カズヤ殿や私が着ているような柄の生地は見たことがないが、アリシア着ているような紺色や、濃い緑色や黄土色の生地ならあるはずだ。このファスナー?というものはどうしようもないが、ボタンを使うなら仕立てられるのではないだろうか」
「まあ、仕立て屋のおじさんに聞いてみよう!」
とまあこんな感じで、3人は意気揚々と仕立て屋に消えていった。
仕立て屋と聞くとオーダーメイドを想像してしまうが、古着のサイズ直しや持ち込んだ生地を使っての縫製まで、およそ服についてのことなら何でもやっている。何せ既製品の服がずらりと並ぶ店は古着屋しかなく、手直しは自分でやるか仕立て屋にやってもらうしかない。
俺は特に仕立て直す服もないし、店内を一周してから店の外で待つ事にした。ちょうど御誂え向きにベンチなど置いてある。
俺もスーツのオーダーならした事があるが、採寸と仕様決定まで30分は掛かったはずだ。それが3人いるから、午前中いっぱいは掛かるだろう。
手持ち無沙汰に、脱いだ赤いベレー帽を人差し指でくるくる回しながら、道を歩く人々を眺める。
午前中のこの時間は門を出て行く人のほうが多いようだ。
男性のおよそ半数と女性の3割ほどは、何らかの剣を帯びている。
大剣を背負っている者が1割ほど。残りの半分はアイダと同じような長剣、残りはイザベルのような短剣だ。短剣すら帯びていない者は、既に剣を棄てた年寄りか、あるいは街の外に出る必要のない生活をしているのだろう。
大きなフォークや鍬を荷車や荷馬車に乗せて進む男達は農夫か。
門とは逆方向に進む者達の中には、アリシア達と同じ制服を着た若い男女の姿もある。
登校時間にしては少し遅い気もするが、あるいは課外活動のような課題を済ませた後なのかもしれない。
と、衛兵隊の揃いの鎖帷子を身に付けた数人が近づいてきた。
「おい!そこで何をしている?」
そう話しかけて来たのは先頭で肩を怒らせて歩いていた男だ。怒らせてはいるが偉そうな立場には見えない。さしずめ露払い的な立ち位置なのだろうか。
「俺か?ツレが用を済ませているからな。待っている」
「ツレだと?道化みたいな格好してるくせに気取りやがって。そのツレとやらはどこにいる!」
ん?今なんと言った?道化と言ったか?
由緒正しきドイツ連邦軍の制服を前にして、道化と言ったのか?
いや、所詮レプリカ擬きだし、俺自身はドイツ連邦軍でも何でもない。ただのコスプレでしかないが、それにしてもドイツ連邦軍将兵18万人に失礼だ。
「俺に何か用か?」
極力静かに尋ね返す。
まあ要件は分かっている。衛兵隊とは警察組織も兼ねているようだから、不審者へ職務質問のようなものだろう。
「いやあ、こいつちょっと気が短くてな。不快な思いをさせて悪かったな。兄ちゃんが見慣れない服を着てるもんだから、ちょっと気になっちまってよ」
代わって話し出したのは先ほどの偉そうな衛兵の横にいた、人の良さそうな中年のおっちゃんだ。
「見た感じ、どこぞの軍人さんみたいだけども、それにしては若い。よその地方の養成所の学生さんかね?」
若いか。実年齢は今ここにいる誰よりも年上だと思うのだが。
「これを見せればわかるか?」
左胸のポケットに入れておいた徽章を取り出し、表面を男達に見せる。
「あ?んだそれ……っておい!」
露払い男が怪訝そうな顔を一変させる。
「金の盾を支える獅子だと……兄ちゃん獅子狩人か!?」
人の良さそうな中年のおっちゃんの方が叫ぶ。
その声に街の人達が集まってきてしまった。
“獅子狩人だって?”
“あの若いのが?全然強そうに見えないけど”
“そもそもカサドールにも見えないよ。何かの間違いじゃない?”
“そういえば聞いたぜ。何でもマンティコレを狩って飛び級で養成所を卒業したのが最近いるらしい。アイツがそうなんじゃないか?”
“でもここいらじゃ見たことがない顔だよ?”
“しかも金の盾だぜ。教官って事か?”
“教官って事は、そこいらのカサドールより強いってこと?”
“きっと凄い固有魔法を使えるんじゃないか!?”
集まってきた街の人達に好き勝手言われているが、否定できる内容が無い。
「まさかこんなガキがマンティコレを狩ったっていうのか……」
「んでも、一昨日ぐらいに噂になってたよな。女の子3人と若い男1人のパーティードで、でっかいマンティコレを3頭狩って養成所に持ち込んだってよ」
「おい!お前がその若い男なのか?」
やれやれ。自己紹介ぐらいしなければ収まらないか。
「ああ。それは俺達だ。俺はイトー カズヤ。ここよりずっと南、エルレエラより更に南の小さな村の出身だ。このエンブレマのとおり、マンティコレを狩ったし、養成所の教官でもある」
“マジか!”
“若えのに凄えな!何年も狩人やってても、あの黒い巨体を前にすると怖気付くって言うよな!”
“すっげえ!でも剣士には見えねえよ?”
“ああ。杖も持っていないから魔法師でもなさそうだ”
“じゃあ魔導師か?”
“ねえねえ、まどーしって強いの?”
“おうよ。なんでも強え魔道具を使って魔物を薙ぎ払うらしいからな!”
子供まで混じって大騒ぎである。
「お兄ちゃん、どうしたの?ってなんの騒ぎ?」
どうやら仕立て屋の中まで聞こえたらしい。イザベル達が出てきた。
「お前さん達も獅子狩人なのかね?」
衛兵の1人がイザベルに尋ねる。
「そうだよ!最年少で獅子狩人になったイザベルとは私のことよ!もうラガルトでもアラーナでも掛かってこいってんだ!」
イザベルが腰に手を当て小さい胸を張って威張る。
「ちょっとイザベルちゃん!そういう事大声で言わないの!」
「すっげえ!お父さん!このお姉ちゃん達に頼んでみようよ!!」
ほら。厄介事が舞い込んでくる気配がする。
見れば6、7歳ぐらいの男の子が父親らしき男に手を引かれてこっちを見ている。
父親の服装は街の人々より少し古ぼけているように思える。街の住民ではないのだろうか。
「ん~?どうした坊や。お姉ちゃん達に何か用か?」
アイダが地面に膝を付き、男の子に目線を合わせて話しかける。
「おいら達の村にでっかいグサーノが出るんだ!」
赤くなった額をさすりながら、アリシアが言う。
「お兄ちゃんの転移魔法を使えばアステドーラまでも一瞬だし、用事を済ませて戻ってきてくれればカディスにも同行してもらえる。丸く収まってよかったね!」
お前達は特に何もしてないけどな。
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今はノエさんをアステドーラに程近い森の縁に送り届けてから、アルカンダラの街中にある仕立て屋に向かっている最中だ。
俺は相変わらずのドイツ連邦軍の軍服を着ている。
俺の顔に似合うかどうかはさておき、石造りの街並みには似合っていると思う。
アリシアは白いシャツに茶色のゆったりとしたズボン。シャツの上から幅の広い革のベルトを締めている。
アイダは袖の拡がった白いシャツに焦げ茶色のサロペット。
イザベルはフロントが膝丈、バックが踝ぐらいまであるカーキ色のワンピースの上から、紺色のチュニックを合わせている。
3人ともエルレエラで買った服がお気に入りらしい。
カディスに向かう上で娘達が最も欲しがったのは、サイズの合った戦闘服だった。
「機能は全然問題ないんですけど……」
「裾とか曲げなきゃいけないから、ちょっとカッコ悪いんだよね!この服仕立て直していい?もしかしたら似たような生地もあるかもだし!」
「カズヤ殿や私が着ているような柄の生地は見たことがないが、アリシア着ているような紺色や、濃い緑色や黄土色の生地ならあるはずだ。このファスナー?というものはどうしようもないが、ボタンを使うなら仕立てられるのではないだろうか」
「まあ、仕立て屋のおじさんに聞いてみよう!」
とまあこんな感じで、3人は意気揚々と仕立て屋に消えていった。
仕立て屋と聞くとオーダーメイドを想像してしまうが、古着のサイズ直しや持ち込んだ生地を使っての縫製まで、およそ服についてのことなら何でもやっている。何せ既製品の服がずらりと並ぶ店は古着屋しかなく、手直しは自分でやるか仕立て屋にやってもらうしかない。
俺は特に仕立て直す服もないし、店内を一周してから店の外で待つ事にした。ちょうど御誂え向きにベンチなど置いてある。
俺もスーツのオーダーならした事があるが、採寸と仕様決定まで30分は掛かったはずだ。それが3人いるから、午前中いっぱいは掛かるだろう。
手持ち無沙汰に、脱いだ赤いベレー帽を人差し指でくるくる回しながら、道を歩く人々を眺める。
午前中のこの時間は門を出て行く人のほうが多いようだ。
男性のおよそ半数と女性の3割ほどは、何らかの剣を帯びている。
大剣を背負っている者が1割ほど。残りの半分はアイダと同じような長剣、残りはイザベルのような短剣だ。短剣すら帯びていない者は、既に剣を棄てた年寄りか、あるいは街の外に出る必要のない生活をしているのだろう。
大きなフォークや鍬を荷車や荷馬車に乗せて進む男達は農夫か。
門とは逆方向に進む者達の中には、アリシア達と同じ制服を着た若い男女の姿もある。
登校時間にしては少し遅い気もするが、あるいは課外活動のような課題を済ませた後なのかもしれない。
と、衛兵隊の揃いの鎖帷子を身に付けた数人が近づいてきた。
「おい!そこで何をしている?」
そう話しかけて来たのは先頭で肩を怒らせて歩いていた男だ。怒らせてはいるが偉そうな立場には見えない。さしずめ露払い的な立ち位置なのだろうか。
「俺か?ツレが用を済ませているからな。待っている」
「ツレだと?道化みたいな格好してるくせに気取りやがって。そのツレとやらはどこにいる!」
ん?今なんと言った?道化と言ったか?
由緒正しきドイツ連邦軍の制服を前にして、道化と言ったのか?
いや、所詮レプリカ擬きだし、俺自身はドイツ連邦軍でも何でもない。ただのコスプレでしかないが、それにしてもドイツ連邦軍将兵18万人に失礼だ。
「俺に何か用か?」
極力静かに尋ね返す。
まあ要件は分かっている。衛兵隊とは警察組織も兼ねているようだから、不審者へ職務質問のようなものだろう。
「いやあ、こいつちょっと気が短くてな。不快な思いをさせて悪かったな。兄ちゃんが見慣れない服を着てるもんだから、ちょっと気になっちまってよ」
代わって話し出したのは先ほどの偉そうな衛兵の横にいた、人の良さそうな中年のおっちゃんだ。
「見た感じ、どこぞの軍人さんみたいだけども、それにしては若い。よその地方の養成所の学生さんかね?」
若いか。実年齢は今ここにいる誰よりも年上だと思うのだが。
「これを見せればわかるか?」
左胸のポケットに入れておいた徽章を取り出し、表面を男達に見せる。
「あ?んだそれ……っておい!」
露払い男が怪訝そうな顔を一変させる。
「金の盾を支える獅子だと……兄ちゃん獅子狩人か!?」
人の良さそうな中年のおっちゃんの方が叫ぶ。
その声に街の人達が集まってきてしまった。
“獅子狩人だって?”
“あの若いのが?全然強そうに見えないけど”
“そもそもカサドールにも見えないよ。何かの間違いじゃない?”
“そういえば聞いたぜ。何でもマンティコレを狩って飛び級で養成所を卒業したのが最近いるらしい。アイツがそうなんじゃないか?”
“でもここいらじゃ見たことがない顔だよ?”
“しかも金の盾だぜ。教官って事か?”
“教官って事は、そこいらのカサドールより強いってこと?”
“きっと凄い固有魔法を使えるんじゃないか!?”
集まってきた街の人達に好き勝手言われているが、否定できる内容が無い。
「まさかこんなガキがマンティコレを狩ったっていうのか……」
「んでも、一昨日ぐらいに噂になってたよな。女の子3人と若い男1人のパーティードで、でっかいマンティコレを3頭狩って養成所に持ち込んだってよ」
「おい!お前がその若い男なのか?」
やれやれ。自己紹介ぐらいしなければ収まらないか。
「ああ。それは俺達だ。俺はイトー カズヤ。ここよりずっと南、エルレエラより更に南の小さな村の出身だ。このエンブレマのとおり、マンティコレを狩ったし、養成所の教官でもある」
“マジか!”
“若えのに凄えな!何年も狩人やってても、あの黒い巨体を前にすると怖気付くって言うよな!”
“すっげえ!でも剣士には見えねえよ?”
“ああ。杖も持っていないから魔法師でもなさそうだ”
“じゃあ魔導師か?”
“ねえねえ、まどーしって強いの?”
“おうよ。なんでも強え魔道具を使って魔物を薙ぎ払うらしいからな!”
子供まで混じって大騒ぎである。
「お兄ちゃん、どうしたの?ってなんの騒ぎ?」
どうやら仕立て屋の中まで聞こえたらしい。イザベル達が出てきた。
「お前さん達も獅子狩人なのかね?」
衛兵の1人がイザベルに尋ねる。
「そうだよ!最年少で獅子狩人になったイザベルとは私のことよ!もうラガルトでもアラーナでも掛かってこいってんだ!」
イザベルが腰に手を当て小さい胸を張って威張る。
「ちょっとイザベルちゃん!そういう事大声で言わないの!」
「すっげえ!お父さん!このお姉ちゃん達に頼んでみようよ!!」
ほら。厄介事が舞い込んでくる気配がする。
見れば6、7歳ぐらいの男の子が父親らしき男に手を引かれてこっちを見ている。
父親の服装は街の人々より少し古ぼけているように思える。街の住民ではないのだろうか。
「ん~?どうした坊や。お姉ちゃん達に何か用か?」
アイダが地面に膝を付き、男の子に目線を合わせて話しかける。
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