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66.初めての任務を受ける(5月17日〜18日)

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イザベルの思惑はともかく、教官待遇の狩人として養成所に就職した身としては、校長先生の口添えもあるこの話は無視できない。
未だ見ぬ魔物への恐怖は無くはないが、この4人でなら何とかなるかもしれない。

「わかりました。その話、お受けします。ただ、準備もあるので出立は準備が出来次第という事でよろしいですか?」

「はい。危急の危機というわけではありませんし、私もその……アルカンダラでゆっくりしようかと」

ビビアナ嬢が頬を赤らめながら隣を見る。
ん?隣に座るのはカミラさんだが、ビビアナ嬢の視線は更にその隣のノエさんを見ているような……

「ん?んんんん??この2人ってもしかして……」

「やっぱり?いくら学校でばったり会ったにしても、わざわざ一緒に来る事ないよね」

「だよね。なんか怪しい」

お前ら……俺を挟んでヒソヒソ話をするんじゃない。

「でもトロー相手に5人じゃちょっと不安かも。アイダちゃんは前衛、私とアリシアちゃんが遠距離攻撃に回っちゃうと、アイダちゃんが孤立しちゃうね」

イザベルが突然不安を口にする。

「ノエ殿は用事がおありとのことだから助力は頼めないし。オリバレス殿は魔法師でしたよね。とすれば前衛が私一人では確かに心許ない」

アイダも同調する。

「森なら私が前衛に回ってもいいけど、そうすると後衛が手薄になっちゃう」

「あの!私は確かに魔法師専攻ですが、剣には自信があります。前衛でも」

「監察生殿を前衛に出すわけにもいかないでしょう。前衛を任せられる人がもう一人は必要だよね」

「でもノエ先輩はダメなんだよね?」

イザベルがノエさんの顔をちらっと見る。
そのノエさんは相変わらずニコニコしてはいるが、顔は薄っすらと冷や汗をかいているようだ。

「そうね。未知の魔物と相対する時は、経験豊富な狩人は1人でも多い方がいいわ。ノエはアステドーラに帰るらしいけど、可愛い後輩を置いて行ったんじゃ心苦しいわよねえ」

ノエさんを見るカミラさんの目が怖い。

「いや、そのね?僕にも用事があるからね?可愛い後輩のために一肌脱ぎたいところだけど、でもね?」

「私は!ノエさんにも一緒に行っていただきたいです。どうしても外せないご用事がお有りなら諦めますが、カミラ先生の仰られたとおり、味方は1人でも多い方がいいと思います」

ビビアナ嬢が胸の前で両手の指を組み、少し潤んだ目でノエさんを見ている。間に座っていたはずのカミラさんは、少し身体を逸らしてあげて、ビビアナ嬢の視線をノエさんに浴びせている。空気を読める女性は凄い。もちろん自分が当事者の場合を除いてだ。

「わかった。そこまで言われて行かないんじゃ男じゃない。一緒に行くよ!アルカンダラのいつもの宿に泊まっているから、出立の日が決まれば教えてくれ」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

しばらく視線を浴び続けたノエさんがとうとう折れた。
俺だってビビアナ嬢ほどの美人さんから目を潤ませて頼まれたら、大概の事にはOKしてしまいそうだ。

「本当ですか!?でもご用事はいいんですか?ノエ先輩?」

ノエさんを追い込んだ本人が涼しい顔で言う。
イザベルよ。ちょっと性格悪くないか?

「いや、可愛い後輩のためだ!アステドーラに帰るのは、皆が無事にアルカンダラに戻ってきてからでも遅くない!」

ノエさんがカッコイイ。まじでカッコイイ。

あとは出立までの日程や装備品などを打ち合わせして、本日はお開きとなった。

◇◇◇

帰りがけにノエさんを捕まえる。

「ノエさん。先程はうちの子達が余計な事を言ったばっかりに巻き込んでしまいました。何か大事な用事があったのでは?」

「いや、それはいいんだ。不安に思う気持ちもわかるしね。用事ってのは爺さんの墓参りだったのさ。もう何年も行っていないから、そろそろ化けて出そうでさ」

そうだったのか。それは悪い事をした。

「お爺さんの墓というのは、アステドーラからは近いのですか?」

「ん?ああ。アステドーラ郊外にあるけど」

「だったらアステドーラまで転移魔法でお送りします。帰りも日時を合わせれば支障なく出立までには戻ってこられますが」

「転移魔法!?って、あの転移魔法だよね?ここからアステドーラまで転移できるのかい?」

「ええ。ただ、秘密にしておいてくださいね」

「もちろんだ。軍や騎士団、それに商人達にバレたら、それこそ門番にされてしまう。じゃあアステドーラの郊外の森まで頼めるかい?」

「了解です。明日はアルカンダラの服屋にあの子達の服を調達しに行きますから、その時に宿を訪ねます。どちらに泊まられるのですか?」

「南門近くの“明けの明星亭”だよ。大きな星の看板が出ているから、すぐに分かると思う」

「じゃあ、明日の朝にお迎えに上がります。アステドーラまで馬と一緒にお送りしますね」

「ああ、助かるよ」

ログハウスの陰でコソコソ話をしていると、ノエさんを呼ぶ声が聞こえてきた。

「ノエ!うら若き女性2人だけで森を抜けさせるつもりですか?」

「はーい!今行きます!じゃあイトー君。明日よろしくね!」

こうして、カミラさん達は来た時と同じように慌ただしく帰っていった。

◇◇◇

その夜は3人娘に説教をした。

ノエさんに同行をお願いしたこと自体は間違ってはいない。ビビアナ嬢は優秀な学生さんのようだし、3人娘もある程度の自信はつけている。しかし俺達は狩人としては駆け出しもいいところだ。ノエさんのように経験を積んだ狩人が参加してくれるのは心強い。
その面ではイザベル達の取った行動は正しかった。

だが、その手段が間違っている。
人の善意を引き出すために、その人が選ぶ選択肢を奪うような言動をしてはいけない。

今回はノエさんが大人だったから笑って許してくれたが、やはりどうしても参加できないとなれば双方に遺恨を残したかもしれない。
そもそも進んで参加したわけではないパーティードを組むことに何の意味があるだろう。
嫌々加わった人に、自分の背中を預ける気になるだろうか。

俺が3人娘に伝えたかったことはそういう事だが、殊勝な顔をして聞いていた娘達には果たしてきちんと伝わったのだろうか。

◇◇◇

翌朝は一番にアルカンダラの南門にある“明けの明星亭”に4人全員で赴き、まずはノエさんに昨日の非礼をお詫びすることになった。

旅装束で宿屋から出てきたノエさんに向かって、横一列に並んだ娘達が頭を下げる。

「せーの!昨日は失礼な事を言ってごめんなさい!」

掛け声さえなければ良いと思うのだが、ほぼ90°に頭を下げる3人を見てノエさんが目を白黒させる。

「え?君達どうしたの?」

「その…大事なご用事があったはずなのに、無理を言ってしまってごめんなさい」

「ああ。その事か。ちゃんとイトー君に責任取ってもらうから大丈夫だよ」

「責任って……どういう事ですか?」

「カズヤ殿。一体何を?」

「お兄ちゃん……まさかこの人とそういうコトを……」

ちょっと待て。イザベルは何を考えている。

「あれ?もしかしてイトー君、あのコトみんなに言ってないの?僕達だけの秘密?」

更にノエさんがいらぬ言い方をする。

「カズヤ殿!いったいどういう事ですか!?」

「カズヤさん……私達に興味がなさそうだと思ってたら、まさかそっち!?」

「それはそれで興味ある!」

3人の圧が更に強まる。

「お前らなあ……どこをどうしたら、そうなるんだ……」

「それ以外考えられないじゃないですか!私達の過ちの償いに……カズヤさんのお尻が……」

こいつら……デコピンの刑に処してやろうか。
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