異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫

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45.船に乗り込む(5月12日)

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宿屋に戻った俺達は、ぐずるイザベルを何とか着替えさせ、ベッドへとダイブした。

しかし激動の一日だった。
午前中は楽しく海鮮バーベキューを楽しんでいたはずが、突然のアメフラシの群れの襲撃を受け、あれよあれよという間に街を救った英雄のような座に4人祭り上げられていた。

しかし、あのアメフラシの群れはいったい何を目的として上陸してきたのか、そして本当にこれ以上の襲撃はないのか。この辺りの謎は全く解けてはいない。
そういえばアリシアの父、ルイス ガルゼスは長年魔物の研究をしていると言っていた。
アリシアの父ならば、この謎を解けるのだろうか。

右脇のイザベル、左脇のアイダの髪を撫でながら、上に乗ったアリシアの心地よい重みの中で取り留めもなく考えているうちに、深い眠りについていた。


「お兄ちゃん!それにアリシアちゃんとアイダちゃんも!起きて!ねえ起きてったら!!」

頬を叩くペチペチとした手触りで目を覚ます。
え……イザベルが起きている。まさか寝過ごしたか!

「もう……もうすぐ夜が明けちゃうよ!夜明けに波止場に集合なんでしょ!?」

あ、それな。昨日イザベルが舟を漕いでいるのに気付いたエンリケスさんとサルダニャさんが、出航時刻を遅らせてくれていたのだ。最も乗船手続きも何もないVIP待遇だからこそなのかもしれない。

「えええええ!じゃあもっと寝てればよかった!教えてくれればよかったのに!!」

アリシアとアイダに説明を受けたイザベルがむくれている。

教えるも何も、その話が決まった時にはイザベルは俺の背中で熟睡していたからな。
という事は、アレマンさんから受け取った封蝋で厳重に封をされた巻物をアイダが受け取ったことも知らないのだろう。昨夜の会合の終盤でイザベルが居眠りからの熟睡の入ってしまったのは、この巻物も文面を皆で考えていたからだった。

「イザベル。ちゃんと起こしてくれてありがとう。だいぶ疲れていたから、危うく寝過ごすところだった。イザベルは偉いな」

そう言いながらイザベルの二つ結びにした頭を撫でる。昨日と違って帽子越しではない。

「えへへへ。お兄ちゃんに褒められたから許す」

ちょろいなんて言ってはいけない。この素直さもイザベルの良い所なのだ。


さて、出発の準備をするのだが、実はほとんど準備をすることがない。
アリシア達が余所行きの服に着替えている間に、夜中に蓄電池から充電していたバッテリーをテスターで当たり充電状態を確認してから、それぞれのエアガンにセットする。
アリシアのMP5Kとアイダが使っていたMP5A5のバレルを掃除し、マガジンにAT弾を装填する。
俺が使うG36Cも簡単にメンテナンスしてから、アリシア達の銀ダン鉄砲にKD弾を装填する。

机に向かい黙々と作業を行う俺の背後から、着替えを終えた娘達が声を掛けてきた。

「準備できました!」

「お腹空いた!」

「出航まではまだ時間があるようだし、朝食にしませんか?」

まったく、三者三様とは正しくこの事だろう。

昨日の教訓から、3人とも腰には短剣を下げている。

「そうだな。腹は減ったし、宿を引き払って朝食にするか」


女将さんに丁寧にお礼を言って宿を出た俺達は、北の街はずれで焼き芋と焼きトウモロコシを作り朝食にした。流石に昨日の騒ぎの翌朝から開いている店などなかった。

醤油を塗った焼きトウモロコシの香ばしい匂いや、焼き芋も甘い匂いが漂う。

波止場に散らばる巨大アメフラシの亡骸を見ながら、アリシアが呟く。

「そういえば、バボーサ達の身体縮んでない?」

「言われてみれば確かに。魔物の身体を構成する魔素が抜けたのでしょうか?」

アリシアの呟きに反応したアイダが、一つの可能性を示唆する。

「アチッ!やっぱり焼き芋美味しい……でも、魔物が死んだからって身体が縮むなんて話、聞いたことないよ?」

ここはイザベルが恐らく正しい。
アメフラシは軟体動物だ。陸に上がったナマコやイソギンチャクのように、要は干からびているのだろう。
ナマコか……中華食材に乾燥ナマコってあった気がするが、もしかして……

「お兄ちゃん。あれって食べられるかな?」

ほら。同じことを考えたのがいた。

「え……イザベルちゃんあれ食べたいの?食べ足りないのなら私のお芋あげるよ?」

どうやらアリシア達に余計な心配を掛けてしまったらしい。さすがに食べたいとは思わないよなイザベル。

「え~さすがに食べたいとは思わないけど、それよりお兄ちゃん!このお芋とか余分に焼いて収納しといてもいい?おやつとかにしたい!」

「それいいですね!ぜひそうしましょう!!」

イザベルのアイデアにアイダとアリシアも同調する。
まあ休憩の際にじっくり焼くのも難しいし、ちょうどいいだろう。時間があるうちに焼いてしまおう。



朝食兼お弁当作りを終えた俺達は、エンリケスさんの待つ船へと向かった。
大きな三角形の帆を二枚と小さな三角形の帆が一枚。
全長20メートルに全幅6メートルほどか。サイズは千葉にある某テーマパークの内海に停泊している帆船と同じくらいだ。
あまり詳しくはないが、キャラックとかキャラベルと呼ばれる沿岸輸送船だろう。

デッキの上からエンリケスさんが手を振っている。
木製の桟橋を渡り、乗船する。

「我が麗しのビクトリア号へようこそ!船内の案内は後ほどとして、早速出航いたします。ちょうど下げ潮に変るところですからな!隣の波止場からもサルダニャのパトリシア号が出航するところです」

確かに、隣の帆船も舫を解いている。

「舫綱を解け!錨を上げろ!」

真っ黒に日焼けした大柄な男の声が甲板に響く。

「彼はこの船を任せているアマンシオ デル カンポです。アマンシオとお呼びください。彼の他に20人の水夫が乗り込んでいます。波止場から沖合までは何艘かのバルコで曳航し、潮流と風を掴めば自走を始めます。パンっと膨らんだ帆と頬をくすぐる風は、それはそれは心地いいものです」

エンリケスさんの言うとおり、数隻の手漕ぎボートがビクトリア号とパトリシア号の周りに集まり、曳航し始めた。

「ねえねえエンリケスさん。どうしてバルコで引っ張ってるの?風向きが悪いなら風の魔法を使えばいいじゃない」

「イザベルさんでしたかな?本来ならばこの時間帯は海風が、ほら、海から陸に向かって風が吹くので出航には適していません。風向きだけを考えるなら陸風が吹く夕方が適してはいるのですが、夜間に沿岸沿いを行くのは危険が伴います。お嬢さんが仰るとおり魔石を使って帆走してもいいのですが、少々もったいないのでね。人手を掛ければ済むことなら、わざわざ魔法を使うまでもないでしょう」

「そっかあ。あ!ちょっと早くなった!」

イザベルが甲板の手摺から身を乗り出し海を見ている。

「引き潮を掴みましたな。これで一気に沖合に出ます。そろそろバルコが離れるはずです」

エンリケスさんの言うとおり、ビクトリア号を曳航していた手漕ぎボートが次々と航路を開ける。

「帆を張れ!出航だ!!」

アマンシオ船長の号令で水夫たちが一斉に動き、三角形の帆を張る。
風に膨らんだ帆は、確かに見ていて気持ちいいものだ。


こうして、俺達の船旅が始まった。
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