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43.ナバテヘラ防衛戦②(5月11日)
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集まってきた5名の小隊長、チコさん、ノエさんを見ながら話し始める。
「イトーと申します。今回のバボーサ襲撃に対して、皆さんのお力を借りて撃退したい。よろしくお願いします」
「堅いことはいいからさあ。まずはあの魔物の倒し方から教えてよ。どうやって倒したの?」
ノエさんが先を促す。
「はい。奴らは体長と同じぐらいの範囲までヒダを鞭のように伸ばせるようです。その鞭の先端には毒の詰まった針のような構造があって、体内に毒を撃ち込まれます。更に興奮させるか窮地に追い込むと、周囲に紫色の体液を噴出します。この体液も、もしかしたら有毒かもしれません」
「それはまた厄介だね……」
「そこで、奴らの近くまでは近寄らず、5から10メートルほど距離を取って魔法で攻撃しました」
「魔法か……私達衛兵は、あまり魔法を得意とはしとらんのですが……」
そう答えたのは顎髭を長く伸ばした壮年の男性だ。
「魔法で攻撃したのは、こちらに物理攻撃の手段がなかったからです。詰所の門の外に太い矢で倒されたバボーサがいましたが、あれはあの弩で攻撃を?」
門の所にある車輪付きの大きな弓を指す。
「バリスタのことか?訓練用に1基置いていたから、それで撃った」
次に答えたのは、頬に大きな傷がある男。こちらは30代前半か。
「バリスタを操作するのに1基毎に何名必要ですか?」
「射出に1名、方向を変えるのに2名、装填と照準補助に1名の4名だ」
「わかりました。ではバリスタは各小隊で1基ずつ運用します。バリスタは何基ありますか?他にも盾のようなものは?」
「バリスタは3基、大楯なら人数分あるぞ?」
そう答えたのは真っ黒に日焼けした、まさに海の男といった風貌の男だ。
「では、大楯に槍、弓矢を使える者は弓矢も装備して、バリスタと共に全員集合させてください。5分後に出撃します」
「あのう……」
ひょろっとした男が恐る恐る声を掛けてきた。
「うちの小隊は輜重隊なので、荒事はちょっと……」
「うちの隊も本業は飯炊きなんだ。出撃は勘弁してくれ」
今度は小太りのおじさんが言ってきた。確かに、衛兵と言うより食堂の親父さんの方が似合っている。
「つまり、実戦部隊は3個小隊のみということですか?」
「ああ……済まねえな。ただ、そういう役割分担で俺達はこの街を守ってきたんだ。そうがっかりしないでくれ。出撃できる連中はちゃんと頼りにしてくれていい」
頬に大きな傷のある男が、申し訳なさそうに頭を掻いている。
「いえ、後方部隊を軽視するつもりはありません。詰所に逃げ込んでくる人達もいるかもしれないので、この場所にも防衛戦力は必要です。出撃しない小隊は、その役目を担ってもらいます。それでいいですか?」
「はい。それなら喜んで」
「ちゃんと旨い飯準備してっから、無事に戻ってきな!」
そうか。それは期待しよう。
「ではそういう段取りでお願いします。今から5分後に」
「わかった。各小隊を集めろ!」
髭の男が号令を下す。
「カズヤ殿!正面の波止場にヤツが!バボーサが上がってきました!数は2体!いや……5体……まだ増えます!」
アイダが叫ぶ。
たった5分も待ってはくれないか。
「各小隊は準備を!あいつらは俺とアイダで倒す!」
各小隊長を準備に向かわせ、アイダと2人で詰所の門に向かう。
当然のような顔をしてノエさんとチコさん、そしてアステドーラからの輸送隊の4人が付いてきた。
「まあこれで変則的だけど小隊の数は満たすしね。それにイトー君の戦い方を知っておかないと!」
了解だ。と言っても、大したことをするわけではない。
門から波止場までは約30メートルほど。門まで来れば、特に障害物のような物もなく射線は通る。
「アイダ!住居に近い方は任せた!海に近いのは俺がやる!」
「了解!!」
アイダがMP5A5から貫通魔法と火炎魔法を交互に付与したAT弾を撃ち始める。
頬付けも射撃姿勢も惚れ惚れするほど様になっている。
ただし、流石に貫通と火炎だけでは一斉射では倒すには至らない。バボーサの体の一部を四散させるだけだ。アイダもそれを理解しているから、バボーサの背中側にうっすらと見える殻と首の付け根辺りに攻撃を集中させている。
いつまでも見とれているわけにはいかない。俺も海側の個体に狙いを付ける。
電撃魔法なら狙い所さえ良ければ一撃で仕留められるのは、今まで倒した経験から判明している。
狙うべきはアイダも攻撃している奴らの首の付け根だ。学生時代に行ったアメフラシの解剖では、この位置に神経節が集中していた。
バチッツ!!バチッツ!!
黄色っぽい放電光を発しながら、1体また1体と倒れていく。
「ボクも負けないよ!」
ノエさんが弓を引き絞り、何やら呟いてバボーサに向かって矢を放つ。
バボーサに突き刺さった矢が一瞬の後に火を噴くと、そのままバボーサが動きを止めた。
「よし!これなら行ける!ボクとチコさん達で侵入を水際で食い止める!イトー君は衛兵隊の指揮をお願い!」
ノエさんがいれば大丈夫か。そろそろ衛兵隊の準備も出来た頃だろう。
「ノエさん!チコさん!ここは任せます。アイダ!戻るぞ!」
「はい!そろそろAT弾の補充も必要です!」
弾の心配以上に、そろそろバッテリーも心配ではある。
一応ソーラーパネルにつないだ蓄電池には充電しているし、夜の間に充電しなければいけないだろう。
それにアイダとイザベルの魔力残量も限界が近いはずだ。
ここは衛兵隊のみんなに頑張ってもらおう。
「イトー殿!準備完了です。いつでも出られます!」
頬に大きな傷のある小隊長が真っ先に報告してくれた。
詰所の敷地内から俺達の戦いを見ていた衛兵隊の顔付きが変わっている。
それもそうだ。どこの馬の骨とも分からぬカサドールの小僧に、いくら法が定めているからといって従えるものではないのだ。だがそれも目の前で魔物を討ち倒されれば一変する。
「わかりました!ノエさん達が水際で侵入を食い止めている間に、皆さんには街の中に入り込んだ魔物を掃討してもらいます。各小隊の指揮は小隊長の皆さんにお任せしますが、索敵は俺が行います。いいですね?」
「承知した!お前達!ナバテヘラ衛兵隊の意地を見せやがれ!行くぞ!」
「おうっ!!」
各小隊は一基ずつのバリスタを中心として、左右に盾を配置して前進する。
俺とアイダはその隊列の先頭に立って、スキャンを展開しながら隊列を誘導する。
「最初の獲物はこの路地を曲がった先です」
「よし!俺の小隊で回り込む!セリオの旦那とラウルはこのまま前進して挟み撃ちってのはどうだ?」
「いや、この先の路地はバリスタ一基を展開したらいっぱいだ。俺の隊は屋根の上から弓で射かける!」
「わかった!気を付けろよ!」
「お前さんもな!向こうにお前さん達が見えたら儂も前進する!」
街を知り尽くした地元の衛兵達ならではの戦術だ。挟み撃ち、立体攻撃などを駆使して、市街地に散らばるバボーサを次々に討ち取っていった。
「カミロ隊の展開を確認!装填しろ!」
「装填完了!」
「照準合わせ!盾は体液の噴出に警戒!」
「照準よし!赤旗上げ!いつでも行けます!」
「カミロ隊の赤旗確認!放て!」
「発射!」
カミロというのは先ほどの頬に傷のある男のことのようだ。
俺がいるのはセリオ隊、顎鬚を伸ばした壮年の男が率いる小隊だ。
真っ黒に日焼けしたラウルが率いる小隊は、バリスタで攻撃したり建物の屋上から矢を放つなど、まさに立体的にバボーサを狩り出している。
衛兵隊の三分の二が非番で、残り三分の一の内でも2個小隊が非戦闘部隊だと聞いた時には、正直使い物にならないと思っていた。
しかし、それも考えてみれば当然のことなのだ。
他国の軍隊が攻めてくるというならば、必ず事前に兆候があるから備えることもできる。
だがここは国境から遠く離れた街だ。ここまで他国の侵攻を許すということは、国としては滅んでいるも当然だ。
あるいは海からの魔物の侵入は想定するべきだったのかもしれないが、日中の、それも人の往来が多くなる真昼間に突然海から上陸されたことを思えば、よく短時間で立て直したと褒めるべきなのだろう。
こうして、およそ1時間ほどで市街地の掃討を終えた俺達が衛兵隊の詰所に引き上げる頃には、すっかり日が傾いていた。
「イトーと申します。今回のバボーサ襲撃に対して、皆さんのお力を借りて撃退したい。よろしくお願いします」
「堅いことはいいからさあ。まずはあの魔物の倒し方から教えてよ。どうやって倒したの?」
ノエさんが先を促す。
「はい。奴らは体長と同じぐらいの範囲までヒダを鞭のように伸ばせるようです。その鞭の先端には毒の詰まった針のような構造があって、体内に毒を撃ち込まれます。更に興奮させるか窮地に追い込むと、周囲に紫色の体液を噴出します。この体液も、もしかしたら有毒かもしれません」
「それはまた厄介だね……」
「そこで、奴らの近くまでは近寄らず、5から10メートルほど距離を取って魔法で攻撃しました」
「魔法か……私達衛兵は、あまり魔法を得意とはしとらんのですが……」
そう答えたのは顎髭を長く伸ばした壮年の男性だ。
「魔法で攻撃したのは、こちらに物理攻撃の手段がなかったからです。詰所の門の外に太い矢で倒されたバボーサがいましたが、あれはあの弩で攻撃を?」
門の所にある車輪付きの大きな弓を指す。
「バリスタのことか?訓練用に1基置いていたから、それで撃った」
次に答えたのは、頬に大きな傷がある男。こちらは30代前半か。
「バリスタを操作するのに1基毎に何名必要ですか?」
「射出に1名、方向を変えるのに2名、装填と照準補助に1名の4名だ」
「わかりました。ではバリスタは各小隊で1基ずつ運用します。バリスタは何基ありますか?他にも盾のようなものは?」
「バリスタは3基、大楯なら人数分あるぞ?」
そう答えたのは真っ黒に日焼けした、まさに海の男といった風貌の男だ。
「では、大楯に槍、弓矢を使える者は弓矢も装備して、バリスタと共に全員集合させてください。5分後に出撃します」
「あのう……」
ひょろっとした男が恐る恐る声を掛けてきた。
「うちの小隊は輜重隊なので、荒事はちょっと……」
「うちの隊も本業は飯炊きなんだ。出撃は勘弁してくれ」
今度は小太りのおじさんが言ってきた。確かに、衛兵と言うより食堂の親父さんの方が似合っている。
「つまり、実戦部隊は3個小隊のみということですか?」
「ああ……済まねえな。ただ、そういう役割分担で俺達はこの街を守ってきたんだ。そうがっかりしないでくれ。出撃できる連中はちゃんと頼りにしてくれていい」
頬に大きな傷のある男が、申し訳なさそうに頭を掻いている。
「いえ、後方部隊を軽視するつもりはありません。詰所に逃げ込んでくる人達もいるかもしれないので、この場所にも防衛戦力は必要です。出撃しない小隊は、その役目を担ってもらいます。それでいいですか?」
「はい。それなら喜んで」
「ちゃんと旨い飯準備してっから、無事に戻ってきな!」
そうか。それは期待しよう。
「ではそういう段取りでお願いします。今から5分後に」
「わかった。各小隊を集めろ!」
髭の男が号令を下す。
「カズヤ殿!正面の波止場にヤツが!バボーサが上がってきました!数は2体!いや……5体……まだ増えます!」
アイダが叫ぶ。
たった5分も待ってはくれないか。
「各小隊は準備を!あいつらは俺とアイダで倒す!」
各小隊長を準備に向かわせ、アイダと2人で詰所の門に向かう。
当然のような顔をしてノエさんとチコさん、そしてアステドーラからの輸送隊の4人が付いてきた。
「まあこれで変則的だけど小隊の数は満たすしね。それにイトー君の戦い方を知っておかないと!」
了解だ。と言っても、大したことをするわけではない。
門から波止場までは約30メートルほど。門まで来れば、特に障害物のような物もなく射線は通る。
「アイダ!住居に近い方は任せた!海に近いのは俺がやる!」
「了解!!」
アイダがMP5A5から貫通魔法と火炎魔法を交互に付与したAT弾を撃ち始める。
頬付けも射撃姿勢も惚れ惚れするほど様になっている。
ただし、流石に貫通と火炎だけでは一斉射では倒すには至らない。バボーサの体の一部を四散させるだけだ。アイダもそれを理解しているから、バボーサの背中側にうっすらと見える殻と首の付け根辺りに攻撃を集中させている。
いつまでも見とれているわけにはいかない。俺も海側の個体に狙いを付ける。
電撃魔法なら狙い所さえ良ければ一撃で仕留められるのは、今まで倒した経験から判明している。
狙うべきはアイダも攻撃している奴らの首の付け根だ。学生時代に行ったアメフラシの解剖では、この位置に神経節が集中していた。
バチッツ!!バチッツ!!
黄色っぽい放電光を発しながら、1体また1体と倒れていく。
「ボクも負けないよ!」
ノエさんが弓を引き絞り、何やら呟いてバボーサに向かって矢を放つ。
バボーサに突き刺さった矢が一瞬の後に火を噴くと、そのままバボーサが動きを止めた。
「よし!これなら行ける!ボクとチコさん達で侵入を水際で食い止める!イトー君は衛兵隊の指揮をお願い!」
ノエさんがいれば大丈夫か。そろそろ衛兵隊の準備も出来た頃だろう。
「ノエさん!チコさん!ここは任せます。アイダ!戻るぞ!」
「はい!そろそろAT弾の補充も必要です!」
弾の心配以上に、そろそろバッテリーも心配ではある。
一応ソーラーパネルにつないだ蓄電池には充電しているし、夜の間に充電しなければいけないだろう。
それにアイダとイザベルの魔力残量も限界が近いはずだ。
ここは衛兵隊のみんなに頑張ってもらおう。
「イトー殿!準備完了です。いつでも出られます!」
頬に大きな傷のある小隊長が真っ先に報告してくれた。
詰所の敷地内から俺達の戦いを見ていた衛兵隊の顔付きが変わっている。
それもそうだ。どこの馬の骨とも分からぬカサドールの小僧に、いくら法が定めているからといって従えるものではないのだ。だがそれも目の前で魔物を討ち倒されれば一変する。
「わかりました!ノエさん達が水際で侵入を食い止めている間に、皆さんには街の中に入り込んだ魔物を掃討してもらいます。各小隊の指揮は小隊長の皆さんにお任せしますが、索敵は俺が行います。いいですね?」
「承知した!お前達!ナバテヘラ衛兵隊の意地を見せやがれ!行くぞ!」
「おうっ!!」
各小隊は一基ずつのバリスタを中心として、左右に盾を配置して前進する。
俺とアイダはその隊列の先頭に立って、スキャンを展開しながら隊列を誘導する。
「最初の獲物はこの路地を曲がった先です」
「よし!俺の小隊で回り込む!セリオの旦那とラウルはこのまま前進して挟み撃ちってのはどうだ?」
「いや、この先の路地はバリスタ一基を展開したらいっぱいだ。俺の隊は屋根の上から弓で射かける!」
「わかった!気を付けろよ!」
「お前さんもな!向こうにお前さん達が見えたら儂も前進する!」
街を知り尽くした地元の衛兵達ならではの戦術だ。挟み撃ち、立体攻撃などを駆使して、市街地に散らばるバボーサを次々に討ち取っていった。
「カミロ隊の展開を確認!装填しろ!」
「装填完了!」
「照準合わせ!盾は体液の噴出に警戒!」
「照準よし!赤旗上げ!いつでも行けます!」
「カミロ隊の赤旗確認!放て!」
「発射!」
カミロというのは先ほどの頬に傷のある男のことのようだ。
俺がいるのはセリオ隊、顎鬚を伸ばした壮年の男が率いる小隊だ。
真っ黒に日焼けしたラウルが率いる小隊は、バリスタで攻撃したり建物の屋上から矢を放つなど、まさに立体的にバボーサを狩り出している。
衛兵隊の三分の二が非番で、残り三分の一の内でも2個小隊が非戦闘部隊だと聞いた時には、正直使い物にならないと思っていた。
しかし、それも考えてみれば当然のことなのだ。
他国の軍隊が攻めてくるというならば、必ず事前に兆候があるから備えることもできる。
だがここは国境から遠く離れた街だ。ここまで他国の侵攻を許すということは、国としては滅んでいるも当然だ。
あるいは海からの魔物の侵入は想定するべきだったのかもしれないが、日中の、それも人の往来が多くなる真昼間に突然海から上陸されたことを思えば、よく短時間で立て直したと褒めるべきなのだろう。
こうして、およそ1時間ほどで市街地の掃討を終えた俺達が衛兵隊の詰所に引き上げる頃には、すっかり日が傾いていた。
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