異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫

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42.ナバテヘラ防衛戦①(5月11日)

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「ちょっと待って!着替えるからちょっと待って!!」

宿屋の部屋まで転移魔法で移動した俺達は、思わぬ所で足止めを喰らった。
まあ想定していなかった俺が甘かったのだが、アリシア達がBDUに着替えると言い出したのだ。

確かに、先ほどの戦いではアメフラシらしき魔物が紫色の体液を周囲にまき散らしていたし、一張羅に付いたりしたら一大事なのは理解できる。何より、体液がただの液体である保証はないのだから、多少でも生地が分厚く浸透性が低い服に着替えるのも一理あるだろう。
ここは“30秒で支度しな!”とでも言うべきところだったのかもしれないが、待っている間にできるだけのことはしよう。


この部屋は波止場に面した2階の角部屋。波止場側の窓からは波止場の北半分は視界に入る。
PSG-1を取り出し、マガジンに電撃魔法を付与したAT弾を装填する。

窓を開け、アメフラシを探す。
探すまでもなく、停泊している船の甲板や船体、波止場の石畳の上にわらわらとヤツラが取りついている。

スコープを覗きながら、次々と狙撃する。腰を抜かしたように倒れ込む人はいるが、幸いなことにおぞましい歯舌で齧られた人は視界の中にはいないようだ。


2個目のマガジンを空にしたところで、アリシア達の着替えが終わった。

「準備完了!何から始めましょう!」

そう言うアリシアは上下とも濃紺のBDUに作業帽、作業帽の後ろから赤い髪を一つに束ねて引き出している。
アイダは砂漠仕様のフレック迷彩にブーニーハット、イザベルはタイフォン迷彩のBDUに同系色のベースボールキャップ。長い真っ白な髪は2つに縛っている。

「海からの上陸は終わったようだ。接近戦は今回分が悪い。概ね5メートル以内には近づけないと思え。アイダはMP5A5を使ってくれ。使い方は銀ダン鉄砲とそう変わらない。イザベルは魔法の重ね掛けは可能か?」

「魔力消費が激しくなるけど、やってみる!」

「無理はするな。まずは連絡所に向かい、その後に衛兵隊の詰所に向かう。行くぞ!」

『了解!』


宿屋を出た俺達は、連絡所へと向かう。
角を曲がった所で、軽自動車ほどのアメフラシに一人の少女が襲われていた。
硬い石畳の上に引き倒され、足に噛り付かれている。

「いやあああああ!助けて!お父さん!!」

少女の声が路地にこだまする。

「うおおおお!娘を離せえええ!!」

銛を手に果敢にもアメフラシの後方から突っ込んでいった男性が、素早く伸びてきた触手に打たれる。
その瞬間に男性が硬直し転倒する。触手に打たれた顔面が紫色に変色している。
やはり毒か!

「イザベル!少女も感電するから電撃が使えない!奴の舌を狙えるか?」

「任せて!このナメクジが!!」

イザベルが放った矢は、アメフラシが伸ばした歯舌の付け根を射抜き、四散させた。
素早く飛び出したアイダが、倒れた娘を引きずって距離を取り、アリシアが止血に入る。

「よくやった!電撃を使うぞ!」

愛用のG36Cに装填したAT弾を放つ。
アメフラシの胴体中央に命中した電撃魔法を付与したAT弾は、狙い通りヤツを感電させた。

「魔力反応の消失を確認!アリシア!その子の容体は?」

「出血は止まったけど……この子のお父さんは!?」

「それは俺が対応する。ちょっと待て」

倒れた男性に治癒魔法を掛ける。解毒魔法も併用しなければならないのだろうが……
男性の顔から小さな針のようなものが押し出される。これは……刺胞細胞のような物だろうか。
一部の肉食性ウミウシは、イソギンチャクのような刺胞細胞を持つ生き物を襲って、その細胞を背中に植え付けるという。このアメフラシもそうやって毒性を持つようになっているのかもしれない。

「ううう……アナ……アナは……」

男性の意識が回復したようだ。あとは本格的な解毒と治癒を行えば、命に別条はないだろう。
次は少女のほうだが……

「こっちも傷口はほぼ塞がりました。あとは自然回復で大丈夫です」

アリシアの言葉にほっと胸を撫でおろす。その間にイザベルが近くの家の人に2人の救護を依頼してくれていた。

2人が家に担ぎ込まれるのを確認して、再び連絡所へと向かう。


道中に3体のアメフラシを撃破し、飛び込んだ連絡所はさながら野戦病院の様相を呈していた。
板張りの床には何人もの負傷者が運び込まれ、また一人、裏口から運び込まれている。

「誰か!誰か治癒魔法が使える人はいないの!?私だけじゃ手が回らない!」

ラウラさんが悲鳴を上げている。

「アリシア!ここで皆の治療を手伝ってくれ!イザベルは連絡所の護衛を頼む!」

「了解です!ラウラさん!手伝います!」

アリシアがラウラさんの下に向かう。

「ああ!昨日の学生さんね!助かるわ!じゃあ向こうの男性から様態を見て頂戴。ここは戦場と同じよ。一気に治癒しようとしなくていい。止血・解毒・痛みの緩和を心掛けて。無理はしないでね!」

「わかりました!」

「お兄ちゃん!私は屋根の上から連絡所に向かう人達に向かってくるナメクジを討つ!」

「ああ。任せた。俺とアイダは衛兵の詰所に向かう。ここで守勢に回っても被害が大きくなるだけだ。イザベルも無理するなよ!」

「大丈夫!その代わり魔力補給はお願いね!」

はいはい。イザベルだけではなく、アリシアも魔力を使い果たすまで頑張るだろうからな。

「よし。アイダ!行くぞ!」

「はい!!」


アイダの持つMP5A5のマガジンには、貫通魔法と火炎魔法を交互に付与した。これで先ほどイザベルが放った矢と同じ攻撃をアイダが行使することができる。
道すがらに追加で5体のアメフラシを撃破し、2名の男性を衛兵隊に運び込んだ。

詰所の前には太い矢が打ち込まれたアメフラシが6体転がっていた。
敷地の門の前に車輪付きの大型の弩が引き出されている。バリスタと言われる攻城兵器のようだ。

「イトー君!他の2人は!?」

横から声を掛けられた。ノエさんだ。

「連絡所で負傷者の救護に当たっています。ノエさんもよくご無事で!」

「まあこう見えても第一線のカサドールだからね!こんな所でバボーサごときにやられちゃたまんないよ。それで、街の様子は?」

「海から上陸してくる個体は、銀の錨亭から見える範囲では撃破しました。街の中に入り込んだ魔物の撃滅が必要かと。恐らく家の中までは侵入していないと思うので、さっさと家に閉じ籠った人達は無事かと思いますが」

ノエさんがポカンとした顔で交互に俺とアイダの顔を見ている。

「撃破したって?何体??」

「えっと……ざっと40体ですかね。体長4メートルから1.5メートルほどの物まで。3メートルぐらいの個体が多いようですが」

「40体!?君とアイダちゃんの2人で!?」

「いえ、イザベルとアリシアもいたので。それにイザベルが連絡所の屋根の上から狙撃しているはずなので、もう少しは増えているかもしれません」

「やれやれ……まったく君達は……チコさん!イトー君達がだいぶやっつけたみたいだよ!衛兵隊の状況は?」

詰所の奥からチコさんと輸送隊のメンバーが走ってくる。

「ダメだダメだ。指揮系統がぐちゃぐちゃで、軍としての体を成していない。非番の連中を除いて、50人は詰めているはずだが」

街が襲われているのだ。非番がどうのとか言わずに緊急招集が掛かりそうなものだが、そうでもないらしい。

「さっき聞いた話では、この街の衛兵隊は5個小隊ずつ3班に分かれて勤務しているらしい。非番の間は家の仕事をしているようだから、大方家族や家を守っているとは思うが……。そして肝心の衛兵隊長が今日は非番だと。それで小隊長が5人集まってどうするか揉めている」

「あらまあ。じゃあここは王国法に基づき、カサドールの指揮下に入ってもらおうかな。ちょうどここにカサドール3人が集まったことだし、以降はこのイトー君が指揮を執る。チコさんは小隊長さん達を集めてもらえるかな?」

はああああ?ノエさん何を言い出したんだ?
戸惑う俺にアイダが耳打ちした。

「王国法 第14条 第1項、外敵からの国土の防衛は王国軍によって行う。第2項、魔物からの地域防衛指揮は3人以上のカサドールから選抜された1名を指揮官の任に充て、王国軍がそれに協力するものとする。つまり魔物退治はまずカサドールの仕事ってことです」

なんとまあ、確かに専門家であるカサドールのほうが適任ということだろうが。
しかしそれなら年長で実績もあるノエさんが指揮を執ればいいのでは?

「だって、イトー君はここにいる誰よりも今回襲撃してきている魔物、バボーサって呼んでるけど、そのバボーサを撃破しているでしょ?それに今回ボクはダメだよ。なんてったって相手の魔物と相性が悪い。ボクの短剣じゃバボーサの懐に入り込めないしね」

それはそうかもしれないが……

「大丈夫!ボクだって弓には多少自信があるから、ちゃんと援護はしてあげる。お!小隊長達が集まってきたみたいだ」

「イトー殿!小隊長全員集合しました!」

どうやらチコさんが衛兵隊の纏め役になったらしい。
こうなれば乗りかかった船だ。50余人など指揮したことはないが、やるしかない。
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