異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫

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38.ナバテヘラにて①(5月10日)

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騎乗したままのノエさんと、荷台に座ったアイダやアリシアとの会話を聞きながら、一路ナバテヘラへと進む。

「じゃあノエさんもアルカンダラの養成所出身なんですか?」

「そうだよ。ちょうど君達が入学した年に卒業したかな。だから先生達もだいたい同じだと思うんだけど……ほら、魔法実技のモンロイ師とか!年々薄くなる髪の毛を気にして……」

「ときどき治癒魔法を掛けてるけど、その度に一気に抜けてるって話ですか!?」

「そうそう、まだモンロイ師の髪、残っているのかなあ?」

「この辺りをぐるっと囲むように残ってますよ!」

学校の同窓会が突然始まったようだ。
学校か……最後に立ち寄ったのは、OBによる母校訪問というかリクルーターとしてだったか。もう何年前になるだろう。

「魔法実技と言えば!イトー君のあの魔法って何?魔法そのものはフラッシュとパラリシスだったと思うんだけど、あの速射と連射!やっぱり魔道具のおかげ??」

ノエさんの矛先が突然こちらを向いた。できれはそっとして置いて欲しいのだが。

「ふっふっふ。説明しよう!カズヤさんの魔道具には、標的に当たると発現するような魔法が付与された小さな球体が仕込まれているのだ。あとは痛っ」

「アリシアちゃん!調子に乗らない!」

「ふえええ……イザベルちゃんが弓でぶったあ……」

イザベル……グッジョブだ。

「ええええ?あの魔道具のことは秘密なの?」

「秘密です。というか、お兄ちゃんは魔道具に頼らなくても十分魔法だけで戦えるんだから!」

イザベル……何かハードル上げてないか?

「魔法だけで……か……。いいかいイトー君。それに君達も。戦いを決するのは魔法ではなく、肉体だ。魔法は便利だし、生活にも戦闘にも欠かせないものだ。でも発現までに時間もかかるし、連発もできないし射程も短い。その魔道具は魔法の欠点を補っているようだけれど、その球体が無くなれば終わりでしょ。だから結局はその腰の剣を振るわなければならなくなる。魔法は万能じゃない。このことをよく覚えておいて」

「わかりました。ご忠告ありがとうございますノエさん」

ノエさんの言ったことは薄々気付いていた。アイダにしてもイザベルにしても、魔法に頼り切ってはいない。
そもそも魔法というものに初めて触れた感想は「なんだこんなものか」程度だったのだ。
これが例えば「隕石落としメテオフォール」とか、「大爆裂エクスプロージョン」のような派手な魔法に接していたら感じ方も変わったのかもしれない。
だが、アリシア達の話ではそんな魔法は聞いたことがないらしい。

要は、この世界の魔法は技術によって置き換えが可能なようにも思えるのだ。
現に、魔法があるせいなのか、この世界の技術水準はさほど高くないように思える。
いや、決めつけるのは時期尚早なのかもしれない。俺はこの世界の何を知っているというのだろう。

そんなことを取りとめもなく考えているうちに、馬車の前方に街並みが見えてきた。
急に潮の香りが漂ってくる。

「ああ。この匂いを嗅ぐと、海が近づいてきたって気がするよね!」

ノエさんの顔が更に生き生きとし始める。

「そうですなあ。他の街と違って、壁に囲まれていないのも開放的で良いですな!」

「壁はないけど、広くて深い水路で囲まれているけどね!」

チコさんとノエさんの言葉通り、ナバテヘラの街は波止場と海水を導いた濠を備えた港町だった。

ナバテヘラの市街地には、大きな跳ね上げ橋を通って入る。
その先には、漆喰が塗られた真っ白な壁の建物がぎっしりと立ち並らんでいた。
家々の屋根は平らで、壁に作られた階段で屋根の上に上がることができるようになっているようだ。
足元は石畳となり、尻に伝わる振動も明らかに減った。

馬車はそのまま市街地の大通りを進み、三角形の帆を二枚張った船が多数停泊している波止場の近くで停止した。波止場の前には石造りの倉庫がいくつも立ち並んでいる。
チコさん達の姿を見つけた衛兵達が駆け寄ってくる。

「アステドーラからの定期便だ。荷下ろしを頼む」

チコさんの指示で、駆け寄ってきた衛兵たちが馬車から荷物を下ろす。

「では皆さん方とはここでお別れです。またアステドーラにお立ち寄りの際は、是非詰め所まで顔を出してください」

「ええ。チコさん、それに衛兵の方々も。お世話になりました。必ず会いに行きます」


チコさん達と握手をして別れた俺達は、そのままノエさんの案内で連絡所に向かう。

「と思ったけど、まずは船を押さえないと。君達はこの先のオンダロアかアルマンソラまででいいのかな?ボクはオンダロアまでだけど、馬も連れて行かなきゃだから、もしかしたら別の船になるかもしれない」

「はい。オンダロアで乗り換えてもいいですし、川沿いにアルマンソラまで陸路でもいいですが。できれば一気にアルマンソラまで船で向かえると助かります」

アイダが答えてくれる。

「わかったよ!じゃあ連絡所で待ってて!場所はねえ……」

ノエさんとアイダが話している隙に、アリシアとイザベルからこの先の旅程を聞く。
ちょっとまだ地理が頭に入っていないのだが、ここナバテヘラとオンダロア、アルマンソラとアルカンダラは平行四辺形のような配置になっているようだ。東方のニーム山脈に発したニーム川が、アルカンダラの北方で二手に別れ、支流側がアンダルクス川となって海へと注ぐ。その流域に発展した街がアルカンダラとアルマンソラ。河口域の街がオンダロアらしい。
ノエさんの目的地であるベネヒレスは、オンダロアの位置を直角二等辺三角形の頂角Aとすれば、ナバテヘラを角B、アルマンソラを角Cとして、辺BCの中点に位置している。
更にアルマンソラの位置を直角二等辺三角形の頂角Aとすれば、アルカンダラの位置が角B、オンダロアの位置が角Cとなる。

と、文章にすればこうなるが、アリシアとイザベルの説明はもっと簡単だった。

「えっとね。ここがナバテヘラだとすると、このへんがオンダロアで、こっちがアルマンソラでしょ」

「それで、この辺りがアルカンダラで、こんな感じでアンダクルス川が流れてるんです」

ほら。指示代名詞ばっかりで何が何だか分からない。


そうこうしているうちに、アイダが戻ってきた。

「船の手配はノエさんにお任せして、一足先に連絡所で宿の手配をして待っていましょう」

「宿ってあの人も一緒に?」

イザベルが少し不機嫌そうに聞く。相変わらず警戒しているようだ。

「いや、何やら馴染みの宿があるらしく、ノエさんはそこに泊るそうだ」

「ふーん。顔は広そうだもんね。それで、連絡所の場所は聞いたの?」

「ああ。この通りから一本入った路地を真っすぐ北に向かうと見えてくるらしい」

えらく雑な案内だが、言うとおりに歩いているとすぐに連絡所らしき建物が見えてきた。
白い漆喰塗りの建物の中に佇む、重厚な石造りの二階建ての建物。正面には大きな両開きの木製の扉があり、その両側には窓が開いている。
扉を押して中に入ると、正面にカウンターがあり、その後方に階段がある。
エルレエラやアステドーラの連絡所と違って、あまり奥行きがない代わりに二階に事務室などがあるようだ。
カウンターにいたのは、まだ若い(といっても20代半ばだろうか)黒髪の女性だった。

「あら。珍しく若いお客さんね。まだ学生さんのように見えるけど、何かご用事かしら?」

「はい。私達は養成学校の学生です。アルカンダラに向かう途中なのですが、今夜の宿を紹介していただきたくて」

「あらそう!アルカンダラへは陸路?それとも船?」

受付のお姉さんは何やら台帳のような物を捲りながら続ける。

「船です。今、学校の先輩が手配してくれています」

「そう……だったら波止場の近くがいいでしょうね。ここなんか如何?銀の錨亭っていうんだけど、一泊で一人当たり銀貨6枚。オンダロア経由でアルマンソラに向かう船が泊まる波止場の近くで、夕食は当然魚料理が売りね。紹介状を持って行けば、4人で金貨2枚にしてくれるはずよ」

「じゃあそこにします。紹介状はいただけますか?」

「もちろんよ。この木札を持って行けば連絡所からの紹介だって分かるようになってる。万が一満室だったら、その二軒隣の三又銛亭にしなさいな。同じ木札が紹介状になるから」

「ありがとうございます。その銀の錨亭にはここからどうやって行くのでしょう?」

「あら?ナバテヘラは初めて?」

「はい。往路はベネヒレスからアステドーラまで真っすぐ向かったので」

「あらあら。ざっくり100キロメートルはあるじゃない。途中で野宿をしたの?」

「ええ。宿泊費が乏しかったものですから……」

「そうよねえ。宿代もバカにならないわよね。アステドーラからここまでも歩きで来たのかしら?」

「いえ、軍の定期便に便乗させてもらえたので、馬車に揺られて来ました」

「そうなのね!それは助かったでしょう。あ、銀の錨亭への道順よね。連絡所の前の道を……」

とそこへ扉が勢いよく開いた。

「はあい!みんな待たせたね!ってラウラ!?」

元気よく連絡所に入ってきたノエさんが固まる。
受付のお姉さんも一瞬固まった後で、カウンターに両手を叩きつけた。

「ノエ カレラス!あなたよく私の前に顔を出せたわね!!」

え……何?知り合いなの?
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