異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫

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36.アベル君の救出(5月9日)

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G36Cのマガジンを確認する。
使用するのは昨夜錬成した赤土弾。便宜上AT弾と呼ぼう。珪藻土弾はKD弾か。
AT弾を選択した理由は3つある。

1つ目は、室内に残った残留物を拾われても、単なる土魔法だと言い訳が出来ること。

2つ目は、昨夜試した感じで魔力のノリが良かったこと。

3つ目は、万が一魔法が発現しなくても、0.22gのAT弾を至近距離から撃ち込まれれば十分に牽制になることだ。

セーフティを解除し、ノエさんと2人で扉の前まで進出する。扉は向かって右に取っ手があり左に蝶番がある内開きだ。

「ねえイトー君。それ見たこともない魔道具だけど、そんなんでホントに大丈夫なの?」

「たぶん大丈夫です。ノエさん、扉を少し開けたら目を閉じてください。フラッシュを使います」

ゴーグルを下ろしながらノエさんに伝える。

「了解。行くよ」

ノエさんが扉の前にしゃがみ込み、隙間に小刀を差し込む。
俺は扉の左側に立ち、後ろ手で扉の取っ手を押さえる。

「3、2、1、はい!」

ノエさんが小刀を振り上げ、閂を切断した。
軋む扉を3センチほど開け、開口部から閃光魔法を付与したAT弾を3発撃ち込み扉を閉める。

一瞬後に、扉の隙間からでもはっきり分かる閃光が室内を満たした。

扉を押し開け、室内に銃口を向ける。
室内では、マトモに閃光を見たらしい男達が目を抑えてのたうち回っていた。

「目があ!目がああ!!」

どこかで聞いた有名なフレーズを実際に聞くとは思わなかった。
室内に侵入し、のたうち回る男達に1発づつ麻痺魔法を付与したAT弾を撃ち込む。

30秒も掛からず、室内を制圧した。


「え?もう終わり?ボクの活躍する機会ないじゃん!?」

ノエさんが短刀を弄びながら不満を口にする。
ヒトを切り刻む所なんか見たくもない。

室内の安全確保の後、森の木陰に潜むレナトさんとアリシア達を呼ぶ。


地下室への入口は、部屋の片隅に落し蓋状に隠されていた。ちょうど床下収納のような感じだ。

「待って!もしかしたら罠ぐらい仕掛けてあるかも」

ノエさんの警告に従い、地下室に通じる落し蓋を開けてもらう。

暗い地下室をアリシアが光魔法で照らす。
白熱灯のような光に照らされたのは、鼻を突く異臭の中に転がる少年だった。
後ろ手に縛られ猿轡に目隠し、失禁の跡もある。

地下室は2メートル四方ぐらいだろうか。
梯子を降ろすのももどかしく、アリシアが地下室に飛び込んだ。

「アベル君?アベル君かな?」

少年を抱き起しながら目隠しを取り、猿轡を外す。

ゆっくりと目を開けた少年は、怯えきった表情でアリシアを見た。

「カサドールのアリシアだよ!ベルディ家のアベル君で間違いないかな?」

少年は頷くが一言も発しない。恐怖で声を忘れたか、賊どもに脅されているか。

「レナトさん。アベルという少年を見たことありますか?」

俺はレナトさんに確認する。
アベル君の情報は7歳の男の子というのみ。何せ顔写真があるわけでもなく、本人確認は知っている人に尋ねるより他にない。

「はっきりとは覚えていないが、本人で間違いないだろう。仮に違ったとしても、この状況で放置もできまい」

レナトさんの言うとおりだ。

少年の縄を解いて抱き上げ、一足先に梯子を上ったレナトさんに手渡す。

室内では衛兵達が7人の誘拐犯を拘束していた。

「こいつらの麻痺が解けるまでの間に、その少年を治療できるか?手隙の者は担架を作れ」

レナトさんの求めに応じて、アリシアが少年に治癒魔法を掛ける。
誘拐犯の拘束を終えた衛兵達が4人で担架の製作を始める。持ってきた槍を2本づつ並べ、チュニックの下の白いシャツを2枚重ねで並べて担架を作った。

担架作りの手際の良さに感心していると、レナトさんとノエさんが話しかけてきた。

「とりあえずこれで一件落着だな。しかし、さっきの攻撃は何だ?その魔道具から魔法を発射したように見えたが?」

「ホントだよ。無詠唱はまあ珍しくもないけど、あんな連射見たことがない」

2人とも俺が持つG36Cをしげしげと見てくる。

「もしかしてアリシアちゃん?が持っている魔道具も同じ機能があるのかな?あとみんなが腰に付けてる道具も同じ魔道具?」

今度は矛先がアリシア達に向かう。

「そう…ですけど、あんまり他人の魔道具を詮索するのはカサドールとして礼儀に反するのでは?」

アイダの抗議にレナトさんが我に返る。

「そうだ。そのとおりだな。悪かった。“相手の力量と能力は実戦を持って理解せよ 見た目や道具で判断するな”これは鉄則だな。ノエも気を付けろ」

「は~い。じゃあ力量を示したイトー君は詮索されても仕方ないよね!?」

「だから!そういうのが礼儀に反すると言っとるんだ!そろそろ準備が出来たか?」

拘束された誘拐犯をアリシアが治癒したらしい。
少年がされていたように猿轡を噛まされ、引きずり起こされている。
少年は担架に乗せられ、衛兵が4人で担架を保持していた。

「よし。では帰還する」



少年と誘拐犯を連れた帰路は、往路の倍ほども時間が掛かったが、日が陰る前にはアステドーラに到着した。

アステドーラが見える頃には少年はすっかり落ち着き、受け答えはもちろん、自分で立って歩けるほどに回復していた。

誘拐犯達を衛兵の詰所に残し、少年を連れてベルディ家へと向かう。ベルディ家への案内は衛兵隊長さんが買って出てくれた。

一足先に伝令として走った衛兵のおかげで、ベルディ家の前では両親と思しき2人と使用人達が待っていた。

「アベル!アベル!無事でよかった!」

母親らしき妙齢の女性が少年を抱きしめる。

少年はアベル君7歳で間違いなかったようだ。

「皆様が息子を救出していただけたのですか?」

壮年の男性が話し掛けてきた。

「申し遅れました。ベルディ家当主、ルチアーノ ベルディです。カサドールの皆様、そして衛兵隊の皆様、この度は何とお礼を言えばいいか……」

「いえ、皆様の安全と財産を守るのが、我ら衛兵隊の任務です。息子さんが無事で何よりでした」

衛兵隊長が胸を張って答える。

「俺達カサドールも魔物退治ばっかりしているわけじゃない。街で暮らす皆の安全で豊かな暮らしのために働いている。誘拐犯の取り調べはこれから行いますので、また色々とお聞きすることもあるやもしれませんが、その際は何卒ご協力願いたい」

「勿論です。このような仕打ちを受ける謂れは全く心当たりがありません。どうぞ存分にお調べください」

「それでは、今日はゆっくりお休みください。息子さんは少々汚れておりますので、湯浴みなどされたがよろしいかと。ではこれにて失礼致します」

ベルディ家の面々は、俺達が路地の角を曲がるまで手を振ってくれていた。


路地の角を曲がった先で衛兵隊と別れた俺達は、レナトさんに促され連絡所に到着した。
エルレエラの連絡所と同様、間口の広い明るい造りになっている。

奥のカウンターにはエレナさんが待機していた。

「お帰りなさい!聞いたわよ~。カズヤ君大活躍だったってね!それにひきかえノエ!!あんたまた粗相したらしいじゃない!罰として夕ご飯抜き!」

「そんなあ!ボクの夕ご飯があ!」

「まあそんな事はさておき、約束の報酬ね。一人当たり銀貨5枚に金貨1枚を加えたものを4袋。確認してください」

「ありがとうございます!でも、今回私とアイダちゃん何にもしてなくない??貰っちゃっていいのかなあ?」

「あら?イザベルさんといったかしら?あなた達はパーティードなのでしょう?だったら誰が活躍したとか関係無しに、同じ報酬を受ける権利があるわ。じゃないと功績を上げるために無茶をする仲間が増えてしまうでしょう?」

「じゃあボクにも報酬を受ける権利があるよね!」

萎れていたノエさんが急に復活した。

「あんたはカズヤ君のパーティードじゃないでしょ!あんたに渡す報酬なんて無いわ!」

エレナさんがキッパリと断る。

「そ…そんなあ…くたびれ儲けの骨折り損だよう…」

また萎れていくノエさんを見かねたのか、レナトさんが助け船を出した。

「まあノエも反省しているみたいだし、銀貨5枚は渡してもいいんじゃないか?正当な日当だ」

「そうねえ……じゃあこれを上げるから、酒場で飲んでらっしゃい」

「やったあ!ありがとう!じゃあ行ってくるね!!イトー君達もまたどこかで!!」

ノエさんはカウンターに置かれた小さな麻袋を掴むと、脱兎の如く外に出て行った。気が変わらぬうちにと思ったか、なんだかお小遣いを貰った子供のようだ。

「ごめんなさいねえ。あの子ったらちっとも成長しなくって」

「見苦しいところを見せてしまったな。すまん」

エレナさんとレナトさんが揃って頭を下げる。

「いえいえ、何だか楽しい人でしたね」

お世辞に聞こえただろうか。
楽しい人だったのは間違いない。往復14キロメートルを超える救出行の間も、ずっと軽いトークで和ませてくれた。
アリシア達も苦笑いしている。

「それはそうと、今夜の宿は決まっているの?」

エレナさんが話を変えてくれた。

「いえ、アステドーラに着くなり騒動に巻き込まれたので」

「そう。だったらいい宿屋を紹介してあげる。前の道を真っ直ぐ行ってね……」

こんな感じでアベル君の救出劇は幕を降ろした。
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