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33.弾丸を補充する(5月8日〜9日)
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山を降る頃にはすっかり日が傾いていた。
山裾からアステドーラまでは平坦ではあるが、濃淡のある森が広がり、進める道は限られている。
このまま進めば日没過ぎにはアステドーラに辿り着くだろうが、日が落ちてから開門させるには、何やら面倒な手続きが必要らしい。
身分証明書など持たない(アリシア達は失くした)俺達は、開門されている日中にしか入れないのだ。
仕方ないので、早めに野営地を探す。
街道を少し離れた場所に平らな草地を見つけ、その場所を野営地とする。川などは流れていないが、まあそこは水魔法で何とでもなる。
さすがに何もない草地にぽつんとテントを張るのは、何か不安な気持ちになるものだ。
テントの周囲を半径5メートルほどにぐるりと囲む土塁を築き、一方向だけを間口2mほど開けてアリシアに結界を張ってもらう。
マンティコレのような重量級の魔物にはほぼ効果が無かった結界だが、ゴブリンのような小型の魔物であれば寄せつけないらしい。
そもそもマンティコレやオーガほど魔力を放っていれば、俺かイザベルが気付くだろう。
今夜の見張り番は前半が俺とアイダ、後半がアリシアとイザベルになった。
「ってか、今朝からずっとお兄ちゃんとアイダちゃん一緒じゃない?」
「っいや、そんな事はないぞ?ほら、剣術の修練をしているからな!」
「アイダちゃんのエアガンの練習のような気もするけど。カズヤさん、よくあの距離からのBB弾を避けますよね?」
「そりゃ避けないと命が危ない」
初速が遅い銀ダンなら銃口の向きと引き金を引くタイミングを見計らえば、狙いが正確なお陰でギリギリで回避できるものだ。
これが銀ダンではなく、アリシアが持っているMP5Kなどの初速85m/sを超えるようなBB弾になると、至近距離で躱すのはほぼ無理だろう。
まあイザベルの不満は置いておいて、アリシアとイザベルをさっさとテントへ追いやる。
その夜は何事もなく過ぎてい……ってはくれなかった。
アリシア達が寝静まった頃、周囲4キロメートルを監視していたレーダーに感があった。
野営地から見て北東側3キロメートルの地点に複数の魔力反応がある。強弱があるが反応は5個。
マンティコレや一角オオカミのような強い反応ではない。ゴブリンか……?いや、これは人か。
「なあアイダ。ここから北東側って何かあるか?山の上から見た感じでは、何もない林か森だったと思うけど」
アイダがごそごそと地図を取り出す。
「今いるのが、この峠道を下って1時間ほど歩いた辺りですから……ここから北東に、距離は?」
「だいたい3キロメートルだな。アステドーラの方角から移動してきたようだ」
「地図には何もありませんね。新しい開拓村か、遺棄された村跡があるのかもしれませんが……アステドーラより北西は拓けた土地ですから、わざわざ森を切り開いて村を作ることはしないでしょう。もしかしたら地元の猟師小屋のようなものがあるかもしれません。それか……」
アイダが言いにくそうにしている。
「それか??」
「それか、盗賊の根城のようなものかも。こんな夜中に街を出てくるなんて、旅人や商人、ましてや農民では考えにくいです。カサドールや軍が夜間に移動することはありますが……」
「盗賊か……まあ近寄ってはこないみたいだし、こちらから近寄らなければ問題ないだろう」
「そうですね。イザベルやアリシアだったら調べに行くぐらい言ったかもしれません」
「まったく……人の気も知らないで……」
「でも、イザベルはともかくアリシアは性格が変わりました」
「好戦的に、か?」
「いえ、まあそれもそうなのですが、すっかり積極的になりました。引っ込み思案というか、一歩引いたところがあるというか……まあそんな感じだったので」
そうか?最初からガツガツ来てた……わけではないか。聞きたいことも聞けず、こちらの質問に答えていた夜もあったな。
「イザベルは甘え症に磨きが掛かったような気もしますけどね。カズヤ殿?あんまり甘やかすと後が大変ですよ?」
後か。確かに今は一緒に旅をしてはいるが、目的地のアルカンダラに着いてしまえばそれまでの関係だ。必ず別れは来る。それも近いうちにだ。
イザベルが泣いて引き止めるような性格にも思えないが、いざそういった状況になったら、俺はどうするのだろう。
「なあアイダ。イザベルって、前からあんなに甘えっ子なのか?その……前のパーティードの時とか」
あの調子で年頃の男子に接していたとしたら、さぞかしイタイ子か、さもなくば勘違いされていると思うが。
「いえ。元々イザベルは知らない人には愛想がいいのですが、同世代の男の子達にはもっと冷たく接していました。“それが良い”なんて言っている男の子もいたらしいのですが。なので、カズヤ殿への態度は正直言って驚いています。もしかしたら1番変わったのはイザベルかもしれません」
“それが良い”か。よもやツン萌えがいるのか。
「あの……失礼を承知で言うのならば、カズヤ殿は年の離れた兄というか、年の近いお父さんというか……親戚のおじさんといった感じなのでしょうか」
おじさんねえ。まあアラフォーだから名実共にオジサンなのだがな。
それでもイザベルは“お兄ちゃん”と呼んでくれる。ありがたい事だ。
アリシアやイザベルが変わったとアイダは言うが、変わったと言えばアイダもアリシア達と居る時と、俺と2人だけの時では相当態度が違う。まず話し方が違うのだ。何か背伸びしているような……
そんな事を考えながら、山で拾っておいた拳大の石をリュックから取り出す。白っぽい面や 茶色の面を持つ、割れやすい石だ。
「あれ?カズヤ殿。それは何です?」
「これか?珪藻岩といって、大昔の小さな藻類が死んで堆積して岩になったものだ」
「よかった。突然何かされ始めたので、お気を悪くされたかと。土壁に使う土の原料のようにも見えますが……」
「ああ。そうだな。ちょっと試してみたいことがあって拾っておいた」
珪藻岩あるいは珪藻土ともいう。最近は焼成したものをバスマットやコースターで見かけることが多いが、これで何をするかというと……
「よし。できた」
手の平の上の物をアイダに見せる。
「これは……BB弾ですか?」
「ああ。アイダにもイザベルにも渡したエアガン用のBB弾の在庫が少々心許ないのでな。作ってみた」
銀ダンで使用するBB弾は重量0.12g。大量にストックしていたBB弾は重量0.2gのもので、0.12gのBB弾の在庫は800発入り一袋のみだった。
BB弾の素材はプラスチック、特に野外フィールドで使用するBB弾は生分解性プラスチックから出来ている。
一方で、オリジナルの銀ダン鉄砲の弾は珪藻土で出来ていたはずだ。だから原料さえあれば土魔法で錬成できないかと考えたのだ。
「あの、土から錬成できるのなら、どうしてわざわざ、その脆い岩を使ったんです?土ぐらいどこにでもあるのに……」
アイダも同じように近くの土を使って、直径6mmほどの球を作る。
「じゃあ、ちょっと試してみよう。アイダのエアガンを貸してくれ」
アイダが腰のホルスターからグロッグ26を抜いて手渡してくれる。
マガジンに入っていたBB弾を全て抜き、代わりに珪藻土で作ったBB弾を詰める。
強度が心配だったが、特に割れたり欠けたりすることもなく、きっちりと18発入った。
テントを囲むように作った土塁に狙いを付け、引き金を引く。
軽い音と共に発射された珪藻土弾は、真っ直ぐに飛翔して土塁に当たった。
そのまま引き金を引き、マガジン内の全弾を発射する。
特に違和感はない。連続して発射すると給弾不良が起きて空撃ちされたり2発ポロッと出ることもあるが、これは連発すればBB弾でも起きることだ。
とりあえず発射には問題なさそうだ。
あとは魔力がきちんと乗るかだが……
「アイダ。ちょっと撃ってみてくれ。火系統の魔法は使うなよ?テントに燃え移ったらアリシアとイザベルが丸焼けになる」
「わかりました。あまり得意ではないですが貫通魔法を付与してみます」
アイダがマガジンを受け取り、珪藻土弾に魔力を込めながら装填していく。
慣れた手つきで本体にマガジンを差し、土塁に狙いを付ける。
ポスン
軽い音で発射された珪藻土弾は、土塁に着弾して音もなく指が入るほどの穴を開けた。
近寄って確認すると、穴の向こうが見える。
成功だ。
というか、生分解性プラスチックのBB弾より破壊力が上がっていないか?
もう一度BB弾を装填し直して、再度アイダに撃ってもらう。
同じように込めた魔法でも、BB弾の貫通痕は直径1センチもないほどだった。だいたいBB弾の大きさだ。
とすると、珪藻土弾による貫通のほうが1.5倍ほど威力が高くなっているようだ。
この違いが分からないが、元々魔素を含む珪藻土のほうがプラスチックよりも親和性が高いのかもしれない。
次にアイダが作った、普通の土製のBB弾を装填する。珪藻土弾よりも赤っぽいのは、赤土の色がそのまま出ているからだ。
こちらも装填に違和感はない。
同じように撃ってみる。
ポスンと発射された球は、土塁に届く事は届くのだが弾速が明らかに低下している。
「え?なんで?」
アイダがキョトンとしている。
「何か私の錬成が悪かったのでしょうか?」
「いや、たぶん違うな。試しに俺も作ってみよう」
俺が錬成した赤土弾も、結果は同じだった。
「錬成する原料となる土の違い…ですか?カズヤ殿が持ってきた石は、見かけより軽いから……」
アイダが気付く。
「たぶんそうだろうな。ここの土は赤土が多い。赤土の比重は1立方センチメートル辺りだいたい1.3g、俺が持ってきた珪藻岩の比重は1立方センチメートル辺り0.6gぐらい。同じように圧縮すれば、単純に重さが半分になる。ちゃんと計算するとだな……」
焚き木の枯れ枝で簡単に数式を書く。
球の体積の公式……書くのはいつ以来だろう。
計算で導かれた赤土弾の重さは0.22g、珪藻土弾の重さは0.13gだった。たった0.09gの違いではあるが、飛距離には顕著に表れるのだ。
ふむ……赤土弾は電動エアガンには使えるか?明日にでも試射してみよう。
地面に書かれた数式を見て、アイダが頭を抱え込んでいる。
「カズヤ殿……そういう難しいコトはアリシアかイザベルに頼みます……私にはちょっと……」
どうやらアイダは数学が苦手らしい。
「それよりもカズヤ殿!こっちのケイソウド?で作ったBB弾でなら、小鬼だけでなく大鬼でも一撃で倒せそうだ。ぜひこの弾を使わせてほしい!」
アイダが迫ってくる。
「そうだな。珪藻土弾はアイダのエアガンで使ってみよう」
そう言った頃にはもう夜が更け始めていた。
アイダがアリシア達を起こしに行っている間に、再度レーダーを放ち周囲を確認する。
3キロメートル先で発見した5人の位置は変わっていない。特に心配する必要もないだろう。
山裾からアステドーラまでは平坦ではあるが、濃淡のある森が広がり、進める道は限られている。
このまま進めば日没過ぎにはアステドーラに辿り着くだろうが、日が落ちてから開門させるには、何やら面倒な手続きが必要らしい。
身分証明書など持たない(アリシア達は失くした)俺達は、開門されている日中にしか入れないのだ。
仕方ないので、早めに野営地を探す。
街道を少し離れた場所に平らな草地を見つけ、その場所を野営地とする。川などは流れていないが、まあそこは水魔法で何とでもなる。
さすがに何もない草地にぽつんとテントを張るのは、何か不安な気持ちになるものだ。
テントの周囲を半径5メートルほどにぐるりと囲む土塁を築き、一方向だけを間口2mほど開けてアリシアに結界を張ってもらう。
マンティコレのような重量級の魔物にはほぼ効果が無かった結界だが、ゴブリンのような小型の魔物であれば寄せつけないらしい。
そもそもマンティコレやオーガほど魔力を放っていれば、俺かイザベルが気付くだろう。
今夜の見張り番は前半が俺とアイダ、後半がアリシアとイザベルになった。
「ってか、今朝からずっとお兄ちゃんとアイダちゃん一緒じゃない?」
「っいや、そんな事はないぞ?ほら、剣術の修練をしているからな!」
「アイダちゃんのエアガンの練習のような気もするけど。カズヤさん、よくあの距離からのBB弾を避けますよね?」
「そりゃ避けないと命が危ない」
初速が遅い銀ダンなら銃口の向きと引き金を引くタイミングを見計らえば、狙いが正確なお陰でギリギリで回避できるものだ。
これが銀ダンではなく、アリシアが持っているMP5Kなどの初速85m/sを超えるようなBB弾になると、至近距離で躱すのはほぼ無理だろう。
まあイザベルの不満は置いておいて、アリシアとイザベルをさっさとテントへ追いやる。
その夜は何事もなく過ぎてい……ってはくれなかった。
アリシア達が寝静まった頃、周囲4キロメートルを監視していたレーダーに感があった。
野営地から見て北東側3キロメートルの地点に複数の魔力反応がある。強弱があるが反応は5個。
マンティコレや一角オオカミのような強い反応ではない。ゴブリンか……?いや、これは人か。
「なあアイダ。ここから北東側って何かあるか?山の上から見た感じでは、何もない林か森だったと思うけど」
アイダがごそごそと地図を取り出す。
「今いるのが、この峠道を下って1時間ほど歩いた辺りですから……ここから北東に、距離は?」
「だいたい3キロメートルだな。アステドーラの方角から移動してきたようだ」
「地図には何もありませんね。新しい開拓村か、遺棄された村跡があるのかもしれませんが……アステドーラより北西は拓けた土地ですから、わざわざ森を切り開いて村を作ることはしないでしょう。もしかしたら地元の猟師小屋のようなものがあるかもしれません。それか……」
アイダが言いにくそうにしている。
「それか??」
「それか、盗賊の根城のようなものかも。こんな夜中に街を出てくるなんて、旅人や商人、ましてや農民では考えにくいです。カサドールや軍が夜間に移動することはありますが……」
「盗賊か……まあ近寄ってはこないみたいだし、こちらから近寄らなければ問題ないだろう」
「そうですね。イザベルやアリシアだったら調べに行くぐらい言ったかもしれません」
「まったく……人の気も知らないで……」
「でも、イザベルはともかくアリシアは性格が変わりました」
「好戦的に、か?」
「いえ、まあそれもそうなのですが、すっかり積極的になりました。引っ込み思案というか、一歩引いたところがあるというか……まあそんな感じだったので」
そうか?最初からガツガツ来てた……わけではないか。聞きたいことも聞けず、こちらの質問に答えていた夜もあったな。
「イザベルは甘え症に磨きが掛かったような気もしますけどね。カズヤ殿?あんまり甘やかすと後が大変ですよ?」
後か。確かに今は一緒に旅をしてはいるが、目的地のアルカンダラに着いてしまえばそれまでの関係だ。必ず別れは来る。それも近いうちにだ。
イザベルが泣いて引き止めるような性格にも思えないが、いざそういった状況になったら、俺はどうするのだろう。
「なあアイダ。イザベルって、前からあんなに甘えっ子なのか?その……前のパーティードの時とか」
あの調子で年頃の男子に接していたとしたら、さぞかしイタイ子か、さもなくば勘違いされていると思うが。
「いえ。元々イザベルは知らない人には愛想がいいのですが、同世代の男の子達にはもっと冷たく接していました。“それが良い”なんて言っている男の子もいたらしいのですが。なので、カズヤ殿への態度は正直言って驚いています。もしかしたら1番変わったのはイザベルかもしれません」
“それが良い”か。よもやツン萌えがいるのか。
「あの……失礼を承知で言うのならば、カズヤ殿は年の離れた兄というか、年の近いお父さんというか……親戚のおじさんといった感じなのでしょうか」
おじさんねえ。まあアラフォーだから名実共にオジサンなのだがな。
それでもイザベルは“お兄ちゃん”と呼んでくれる。ありがたい事だ。
アリシアやイザベルが変わったとアイダは言うが、変わったと言えばアイダもアリシア達と居る時と、俺と2人だけの時では相当態度が違う。まず話し方が違うのだ。何か背伸びしているような……
そんな事を考えながら、山で拾っておいた拳大の石をリュックから取り出す。白っぽい面や 茶色の面を持つ、割れやすい石だ。
「あれ?カズヤ殿。それは何です?」
「これか?珪藻岩といって、大昔の小さな藻類が死んで堆積して岩になったものだ」
「よかった。突然何かされ始めたので、お気を悪くされたかと。土壁に使う土の原料のようにも見えますが……」
「ああ。そうだな。ちょっと試してみたいことがあって拾っておいた」
珪藻岩あるいは珪藻土ともいう。最近は焼成したものをバスマットやコースターで見かけることが多いが、これで何をするかというと……
「よし。できた」
手の平の上の物をアイダに見せる。
「これは……BB弾ですか?」
「ああ。アイダにもイザベルにも渡したエアガン用のBB弾の在庫が少々心許ないのでな。作ってみた」
銀ダンで使用するBB弾は重量0.12g。大量にストックしていたBB弾は重量0.2gのもので、0.12gのBB弾の在庫は800発入り一袋のみだった。
BB弾の素材はプラスチック、特に野外フィールドで使用するBB弾は生分解性プラスチックから出来ている。
一方で、オリジナルの銀ダン鉄砲の弾は珪藻土で出来ていたはずだ。だから原料さえあれば土魔法で錬成できないかと考えたのだ。
「あの、土から錬成できるのなら、どうしてわざわざ、その脆い岩を使ったんです?土ぐらいどこにでもあるのに……」
アイダも同じように近くの土を使って、直径6mmほどの球を作る。
「じゃあ、ちょっと試してみよう。アイダのエアガンを貸してくれ」
アイダが腰のホルスターからグロッグ26を抜いて手渡してくれる。
マガジンに入っていたBB弾を全て抜き、代わりに珪藻土で作ったBB弾を詰める。
強度が心配だったが、特に割れたり欠けたりすることもなく、きっちりと18発入った。
テントを囲むように作った土塁に狙いを付け、引き金を引く。
軽い音と共に発射された珪藻土弾は、真っ直ぐに飛翔して土塁に当たった。
そのまま引き金を引き、マガジン内の全弾を発射する。
特に違和感はない。連続して発射すると給弾不良が起きて空撃ちされたり2発ポロッと出ることもあるが、これは連発すればBB弾でも起きることだ。
とりあえず発射には問題なさそうだ。
あとは魔力がきちんと乗るかだが……
「アイダ。ちょっと撃ってみてくれ。火系統の魔法は使うなよ?テントに燃え移ったらアリシアとイザベルが丸焼けになる」
「わかりました。あまり得意ではないですが貫通魔法を付与してみます」
アイダがマガジンを受け取り、珪藻土弾に魔力を込めながら装填していく。
慣れた手つきで本体にマガジンを差し、土塁に狙いを付ける。
ポスン
軽い音で発射された珪藻土弾は、土塁に着弾して音もなく指が入るほどの穴を開けた。
近寄って確認すると、穴の向こうが見える。
成功だ。
というか、生分解性プラスチックのBB弾より破壊力が上がっていないか?
もう一度BB弾を装填し直して、再度アイダに撃ってもらう。
同じように込めた魔法でも、BB弾の貫通痕は直径1センチもないほどだった。だいたいBB弾の大きさだ。
とすると、珪藻土弾による貫通のほうが1.5倍ほど威力が高くなっているようだ。
この違いが分からないが、元々魔素を含む珪藻土のほうがプラスチックよりも親和性が高いのかもしれない。
次にアイダが作った、普通の土製のBB弾を装填する。珪藻土弾よりも赤っぽいのは、赤土の色がそのまま出ているからだ。
こちらも装填に違和感はない。
同じように撃ってみる。
ポスンと発射された球は、土塁に届く事は届くのだが弾速が明らかに低下している。
「え?なんで?」
アイダがキョトンとしている。
「何か私の錬成が悪かったのでしょうか?」
「いや、たぶん違うな。試しに俺も作ってみよう」
俺が錬成した赤土弾も、結果は同じだった。
「錬成する原料となる土の違い…ですか?カズヤ殿が持ってきた石は、見かけより軽いから……」
アイダが気付く。
「たぶんそうだろうな。ここの土は赤土が多い。赤土の比重は1立方センチメートル辺りだいたい1.3g、俺が持ってきた珪藻岩の比重は1立方センチメートル辺り0.6gぐらい。同じように圧縮すれば、単純に重さが半分になる。ちゃんと計算するとだな……」
焚き木の枯れ枝で簡単に数式を書く。
球の体積の公式……書くのはいつ以来だろう。
計算で導かれた赤土弾の重さは0.22g、珪藻土弾の重さは0.13gだった。たった0.09gの違いではあるが、飛距離には顕著に表れるのだ。
ふむ……赤土弾は電動エアガンには使えるか?明日にでも試射してみよう。
地面に書かれた数式を見て、アイダが頭を抱え込んでいる。
「カズヤ殿……そういう難しいコトはアリシアかイザベルに頼みます……私にはちょっと……」
どうやらアイダは数学が苦手らしい。
「それよりもカズヤ殿!こっちのケイソウド?で作ったBB弾でなら、小鬼だけでなく大鬼でも一撃で倒せそうだ。ぜひこの弾を使わせてほしい!」
アイダが迫ってくる。
「そうだな。珪藻土弾はアイダのエアガンで使ってみよう」
そう言った頃にはもう夜が更け始めていた。
アイダがアリシア達を起こしに行っている間に、再度レーダーを放ち周囲を確認する。
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