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32.銀ダンでもいいじゃないか(5月8日)

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翌朝、崖に穿たれたシェルターの中で目を覚ます。
俺の上に跨がっていたのは、アリシアだった。

彼女達の中では俺の上に跨がって寝るのは1つのプライズ的な扱いになったらしい。
まったく……そう軽くはないのだが。

アイダとイザベルは俺の隣で眠っている。

野営であるにも関わらず4人とも眠りこけていたのは、シェルターの入り口にさえ多重防壁を張っていれば大丈夫とイザベルとアリシアが主張したからだ。

その主張を受け入れる形で、シェルターの入り口に風魔法による結界防壁を張り、その内側に土壁を築く事で多重化した。

もちろん索敵魔法によるスキャンを行い、更には寝ている間でもエリアに侵入した魔物がいればアラームが鳴るようにはしていた。

それでも、しっかりした屋根と壁がある環境という事に気が緩んでいたのは否めない。
今回は何事もなく夜が明けたが、次もそうとは限らない。気を引き締めよう。

アリシアがゆっくりと目を開いた。

「おはようアリシア」

「おはようございますカズヤさ…んッッ!」

アリシアが悩ましげな声を上げる。

「ナニか…何か硬いモノが当たってッッ!」

はいはい。さっさと降りようね。


朝食を終えた俺達は、シェルターの周りの痕跡を片付け、旅を続ける。


「カズヤ殿。相談があるのだが」

アイダがそう切り出したのは、午前中の小休憩も終わり、山道も少し開けてきた頃だった。

「どうした?道に迷ったとか言わないでくれよ?」

「そんなはずはない!ちゃんとイザベルが道案内をしてくれている。そうではなくてだな。昨日練習させてもらったエアガンなのだが、私にも合った使い方を思いついたのだ」

ほほう?拝聴しよう。

「要するにだ。近距離で使えば問題ないのだと思う。私は火魔法が得意ではあるのだが、火魔法の射程距離はせいぜい5メートルぐらいだ。lanza de fuegoの射程距離がだいたいそれぐらいだからな。その距離での魔法操作なら自信がある。だから、アリシアのようにエアガンに頼った中長距離からの攻撃ではなく、もっと至近距離で使いやすい小さなエアガンはないだろうか?それならば剣と組み合わせることで戦い方の幅が広がると思うのだが」

なるほど。剣士ならではの発想かもしれない。
つまり、より小さく信頼性が高ければ射程距離は犠牲にしてもよい……ん?もしかして……

俺はリュックを弄り、エアガンを取り出す。

ポリスピストルSSとグロッグ26。
両方ともリアルブラック仕上げの、手の平にすっぽりと収まる大きさのエアガンだ。
装弾数空重量18発。重量130gちょっと。
バッテリーもガスも使わず、ただ引き金を引くことでエアチャンバーが後退し、引き金を引ききったところでチャンバーが解放され、BB弾が1発ずつ発射される。
最大飛距離はカタログスペックでは15メートルほどと書かれているが、実際に狙って当たる距離は5メートルほどだろう。
俗に言う10禁の銀ダンってやつだ。

いい歳した大人が何故に10禁のエアガンなんぞ持っていたかと言えば、インドアフィールドの超接近戦や、裏取りに成功して全く無警戒の相手に至近距離から撃ち込んでも痛くないからだ。
それに誤作動もほぼ無く信頼性が高い。

攻撃力を魔法で補えるのであれば、そして連射する必要がないのであれば、打って付けの武器になる。

とりあえず2丁ともアイダに渡してみる。

と、ポリスピストルSSの方をイザベルが横から掻っさらっていった。

「なにこれ!軽い!ちっちゃい!これもエアガンなの?」

軽いだろうな。
昨日アイダやイザベルが撃っていたM93R電動ハンドガンは総重量800gを超えている。アリシアが持っているMP5Kで約1.5kg。俺のG36Cが約3kgあるから、それらと比べれば圧倒的に軽く小さい。

「とりあえず撃ってみるか?」

そう言ってリュックから“10禁御用達”0.12gのBB弾を取り出し、それぞれに装填して渡す。

「このまま引き金を引けばいいのか?」

アイダがグロッグ26を、イザベルがポリスピストルSSを構える。

カチッ ポスン
カチッ ポスン

軽い音で発射されたBB弾は、見事3メートル先の木の幹に命中した。

「おお!これは素晴らしい!カズヤ殿!これを私が持っていてもいいだろうか?」

「お兄ちゃん!私もこれ欲しい!主武器は弓矢だし、短剣も装備するけど、お守りとして!」

どうやら2人ともいたく気に入ったらしい。

「わかった。だが1つだけ約束だ。撃たない時は引き金に指を掛けるな。これだけは約束してくれ」

撃つ時以外は引き金に指を掛けない。セーフティを掛ける。この2つは最低限のルールだ。この2つはアリシアにも徹底させている。

サバゲではセーフティエリアではマガジンを装着しないというものもあるが、ここはセーフティなエリアではないから、マガジンだけは装着したままだ。

銀ダンはマガジンを装着するとセーフティが解除される仕組みになっているから、そもそもセーフティレバーのようなものはない。その代わり、引き金を引かない限りエアチャンバーが後退しないから、落下による暴発などは構造上ありえない。
だからこそ、約束は1つだけにする。

「わかった!大丈夫!」

「私も了解だ。ありがとうカズヤ殿。一生大事にする!」

ん?一生??貸しただけだぞ?アルカンダラに着いて別れる時には返して貰うからな?

喜ぶ2人を羨ましそうに見ている1人の視線に気付く。
時折こちらをチラ見している。

はいはい。アリシアもね。
幸い、ポリスピストルSSもグロッグ26も、あと1丁づつはある。ちょっとカスタムでもしてみるかと購入しておいたものだ。こちらのカラーリングはリアルシルバー。銃把以外は銀色だ。

「アリシアはどっちがいい?」

両方とも手の平に乗せ、アリシアに見せる。

「私もいいんですか?じゃあ……こっちで!」

アリシアが選んだのは、ポリスピストルの方だった。
グロッグ26よりもやや銃身が短く、全体的に細身だ。

「あ!じゃあ、私が入れ物を作りますね!鞣し革でいいでしょうか?」

まさか銀ダンがレザーホルスターに入れられる日が来ようとは……まったく異世界万歳だ。

この日から、アイダとの戦闘訓練に銀ダンによる攻撃が加わったのが言うまでもない。
しかし、少し離れて間合いを取ると、アイダは遠慮なくBB弾を撃ち込んでくる。

頼むからちょっとは自重してくれ!


この日は特に魔物の襲撃もなく、突然眼下に広がった平野の先に、幽かに町が見えてきた。

次の町アステドーラだ。
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