異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜

九尾の猫

文字の大きさ
上 下
33 / 243

32.銀ダンでもいいじゃないか(5月8日)

しおりを挟む
翌朝、崖に穿たれたシェルターの中で目を覚ます。
俺の上に跨がっていたのは、アリシアだった。

彼女達の中では俺の上に跨がって寝るのは1つのプライズ的な扱いになったらしい。
まったく……そう軽くはないのだが。

アイダとイザベルは俺の隣で眠っている。

野営であるにも関わらず4人とも眠りこけていたのは、シェルターの入り口にさえ多重防壁を張っていれば大丈夫とイザベルとアリシアが主張したからだ。

その主張を受け入れる形で、シェルターの入り口に風魔法による結界防壁を張り、その内側に土壁を築く事で多重化した。

もちろん索敵魔法によるスキャンを行い、更には寝ている間でもエリアに侵入した魔物がいればアラームが鳴るようにはしていた。

それでも、しっかりした屋根と壁がある環境という事に気が緩んでいたのは否めない。
今回は何事もなく夜が明けたが、次もそうとは限らない。気を引き締めよう。

アリシアがゆっくりと目を開いた。

「おはようアリシア」

「おはようございますカズヤさ…んッッ!」

アリシアが悩ましげな声を上げる。

「ナニか…何か硬いモノが当たってッッ!」

はいはい。さっさと降りようね。


朝食を終えた俺達は、シェルターの周りの痕跡を片付け、旅を続ける。


「カズヤ殿。相談があるのだが」

アイダがそう切り出したのは、午前中の小休憩も終わり、山道も少し開けてきた頃だった。

「どうした?道に迷ったとか言わないでくれよ?」

「そんなはずはない!ちゃんとイザベルが道案内をしてくれている。そうではなくてだな。昨日練習させてもらったエアガンなのだが、私にも合った使い方を思いついたのだ」

ほほう?拝聴しよう。

「要するにだ。近距離で使えば問題ないのだと思う。私は火魔法が得意ではあるのだが、火魔法の射程距離はせいぜい5メートルぐらいだ。lanza de fuegoの射程距離がだいたいそれぐらいだからな。その距離での魔法操作なら自信がある。だから、アリシアのようにエアガンに頼った中長距離からの攻撃ではなく、もっと至近距離で使いやすい小さなエアガンはないだろうか?それならば剣と組み合わせることで戦い方の幅が広がると思うのだが」

なるほど。剣士ならではの発想かもしれない。
つまり、より小さく信頼性が高ければ射程距離は犠牲にしてもよい……ん?もしかして……

俺はリュックを弄り、エアガンを取り出す。

ポリスピストルSSとグロッグ26。
両方ともリアルブラック仕上げの、手の平にすっぽりと収まる大きさのエアガンだ。
装弾数空重量18発。重量130gちょっと。
バッテリーもガスも使わず、ただ引き金を引くことでエアチャンバーが後退し、引き金を引ききったところでチャンバーが解放され、BB弾が1発ずつ発射される。
最大飛距離はカタログスペックでは15メートルほどと書かれているが、実際に狙って当たる距離は5メートルほどだろう。
俗に言う10禁の銀ダンってやつだ。

いい歳した大人が何故に10禁のエアガンなんぞ持っていたかと言えば、インドアフィールドの超接近戦や、裏取りに成功して全く無警戒の相手に至近距離から撃ち込んでも痛くないからだ。
それに誤作動もほぼ無く信頼性が高い。

攻撃力を魔法で補えるのであれば、そして連射する必要がないのであれば、打って付けの武器になる。

とりあえず2丁ともアイダに渡してみる。

と、ポリスピストルSSの方をイザベルが横から掻っさらっていった。

「なにこれ!軽い!ちっちゃい!これもエアガンなの?」

軽いだろうな。
昨日アイダやイザベルが撃っていたM93R電動ハンドガンは総重量800gを超えている。アリシアが持っているMP5Kで約1.5kg。俺のG36Cが約3kgあるから、それらと比べれば圧倒的に軽く小さい。

「とりあえず撃ってみるか?」

そう言ってリュックから“10禁御用達”0.12gのBB弾を取り出し、それぞれに装填して渡す。

「このまま引き金を引けばいいのか?」

アイダがグロッグ26を、イザベルがポリスピストルSSを構える。

カチッ ポスン
カチッ ポスン

軽い音で発射されたBB弾は、見事3メートル先の木の幹に命中した。

「おお!これは素晴らしい!カズヤ殿!これを私が持っていてもいいだろうか?」

「お兄ちゃん!私もこれ欲しい!主武器は弓矢だし、短剣も装備するけど、お守りとして!」

どうやら2人ともいたく気に入ったらしい。

「わかった。だが1つだけ約束だ。撃たない時は引き金に指を掛けるな。これだけは約束してくれ」

撃つ時以外は引き金に指を掛けない。セーフティを掛ける。この2つは最低限のルールだ。この2つはアリシアにも徹底させている。

サバゲではセーフティエリアではマガジンを装着しないというものもあるが、ここはセーフティなエリアではないから、マガジンだけは装着したままだ。

銀ダンはマガジンを装着するとセーフティが解除される仕組みになっているから、そもそもセーフティレバーのようなものはない。その代わり、引き金を引かない限りエアチャンバーが後退しないから、落下による暴発などは構造上ありえない。
だからこそ、約束は1つだけにする。

「わかった!大丈夫!」

「私も了解だ。ありがとうカズヤ殿。一生大事にする!」

ん?一生??貸しただけだぞ?アルカンダラに着いて別れる時には返して貰うからな?

喜ぶ2人を羨ましそうに見ている1人の視線に気付く。
時折こちらをチラ見している。

はいはい。アリシアもね。
幸い、ポリスピストルSSもグロッグ26も、あと1丁づつはある。ちょっとカスタムでもしてみるかと購入しておいたものだ。こちらのカラーリングはリアルシルバー。銃把以外は銀色だ。

「アリシアはどっちがいい?」

両方とも手の平に乗せ、アリシアに見せる。

「私もいいんですか?じゃあ……こっちで!」

アリシアが選んだのは、ポリスピストルの方だった。
グロッグ26よりもやや銃身が短く、全体的に細身だ。

「あ!じゃあ、私が入れ物を作りますね!鞣し革でいいでしょうか?」

まさか銀ダンがレザーホルスターに入れられる日が来ようとは……まったく異世界万歳だ。

この日から、アイダとの戦闘訓練に銀ダンによる攻撃が加わったのが言うまでもない。
しかし、少し離れて間合いを取ると、アイダは遠慮なくBB弾を撃ち込んでくる。

頼むからちょっとは自重してくれ!


この日は特に魔物の襲撃もなく、突然眼下に広がった平野の先に、幽かに町が見えてきた。

次の町アステドーラだ。
しおりを挟む
感想 230

あなたにおすすめの小説

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...